表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
50/88

第50筆 “狂狼”ヴィセンテ、乱入!

──ヴィセンテ視点──


 オレはヴィセンテ。シャルトュワ村近辺じゃ“狂狼”と呼ばれてる。

 別に自称じゃねぇ。影狼(スカーフー)の頭付き毛皮を羽織った日から、誰もがオレをそう呼ぶようになった。


 けど、今日は気に入らねぇヤツがいる。

 赤髪の異邦人。マサオミとか言ったか? 異界出身のクセに、シノ(ばぁ)に認められてやがる。

 魔力もないクセに? 冗談だろうが。


 ⋯⋯ハッ。イライラする。こんなにムカつくヤツは久しぶりだ。


「おい、赤髪。魔法しか使えねぇんだろ? あー、ちがった、魔力なかったんだったな。ハハッ、悪ぃ悪ぃ」


 笑いながら木剣を放る。ヤツは何のためらいもなく、それを受け取って──軽々と振るって、納刀動作だと?

 抜刀術の真似ごとで(あお)ってんのか、コラ。


「お手柔らかにお願いします」


 ちっ、そのスカした顔──マジでムカつく!


「ウオオオァァァァ! 魔剣流・異端派〘劫魔唐竹割(きょうまからたけわ)り〙──!」


 世界四大流派・魔剣流の異端派にして、オレは第二格・“獄魔級(クラス・ジェオル)”の認定者。

 オレの最速の唐竹割りに耐えられるヤツなど──


「胴体ががら空きですよ?」


(なっ──!?)


 赤髪は半身をずらしてかわし、脇腹に一撃。

 痛みに耐えながら拳を構えるも──


「またがら空きですよ?」


 次の瞬間、鳩尾を木剣で突かれ、空気が吸えなくなった。


「カッ、ハッ──!!」


 息が、苦しい。

 視界が、霞んでいく──


(クソ、オレが⋯⋯こんな⋯⋯)


 気絶しかける意識の中、オレはまだ倒れてねぇと叫んだ。



◇◇◇


──雅臣視点──



 ヴィセンテくんの木剣は、決して軽くない。動きにもセンスがある。

 手加減しすぎると、かえって侮辱になるかもしれない。


 俺は軽く呼吸を整えながら、構えを変えた。

 刀神の“受け流し”ではなく、攻めに転じるための──剣神直伝の構えへ。


「君、案外強いな。なら、もう少し本気を出してみるよ」


「ハァッ⋯⋯ハハッ⋯⋯いいねぇ、いいじゃねぇか──! もっと見せてみろよ、“異端”の赤髪ィッ!」


 その睨みと笑みは、まるで獲物を狩る猛獣の威嚇だ。


(⋯⋯来る)


「魔剣流・異端派──〘狼爪連斬〙ッ!!」


 黒い残光を引く鋭い三撃。

 一閃目、二閃目、三閃目──すべての軌道に闇の魔気が編み込まれている。


(これは、動きを鈍らせる魔気か)


 俺はは瞬時に脳を切り替える。

 第一脳を分析に、第二脳を反応速度に充て──重ねる。


「剣神相伝──〘重影斬・連撃の型〙──」


 風が割れ、ギルド屋内の全ガラスにヒビが入った。


 一撃に二撃を重ねる。

 表の刃が斬り払ったあとに、影の斬撃が時間差で襲いかかる。

 それを、連撃として重ね──


「がっ⋯⋯ぉぉ、ぁ──く、そ⋯⋯追いつけねぇ⋯⋯!」


 ヴィセンテの動きがだんだん追いつかなくなっていく。それでも尚、喰らいつこうとする気迫は本物だった。


(だから、止めるしかない)


 狙うは首筋。


 ヴィセンテの背後に移動し、木剣を鋭く振り抜き、首筋を叩いた瞬間──

 彼の身体はぐらつき、顔面から地面に前肢を強打。完全に気絶した。



 ⋯⋯しばらく静寂が続いた。



(彼は、粘り強くなっていくタイプだ。強さは刀神の弟子レベル。相手が俺じゃなきゃ、おそらく死者が出てるな⋯⋯)


 俺は木剣をそっと地面に戻し、彼に敬意を表するため、一礼した。

 なぜ、こうするのか?


『──忘れるな。決闘と稽古は礼に始まり、礼に終わる。場所と対戦者、よく動いた己の身体に──感謝するためだ』


 剣神の教えを履行し、シノのほうへ振り向いた。


「ヴィセンテくんに『素質あるから仲間にしたい』──と、伝えておいてください」


「おや、ここで“スカウト”かい。伝えておくよ」


 これには、理由(わけ)がある。

 以前、弓神(ゆみがみ)弦霞(げんか)が俺へ助言をした。


『アナタまさか⋯⋯たった一人で、救済しようとしてないでしょうね? 仲間⋯⋯特にパーティーメンバーが複数人いたほうが良いわ』


 ⋯⋯我が一行はまだ、俺とウィズムとミューリエ、カキアの三人と一匹しかいない。あと五〜六人は欲しい。


 出来れば、八人で国を動かすほどの力を持った精鋭を──。


 でも、彼と切り結んで──分かった。

 この“狂狼”となら、切磋琢磨できる。


(後輩か⋯⋯案外、悪くないかもな)


 

 俺は鉛筆で書いた一枚のメモを取り出す。



───────────────────────

●百八代目・イカイビト邪神討伐パーティー 

※パーティー名称未定。異界要素×分かりやすく


 ──メンバーリスト──


0.支援&補給&マスコット→カキア=ウェッズ


1.リーダー&召喚師:東郷雅臣 (自分)


2.サブリーダー&魔導師:ミューリエ・オーデルヴァイデ


3.参謀&砲撃手:ウィズム・リアヌ・トウゴウ・アカシック・レコード


4.剣士or切り込み役:ヴィセンテ・ガトニス(予定)


5.指導役orアドバイザー:


6.遊撃手:


7.偵察or遠距離射手:


8.盾役&しんがり:


9.交渉役:


───────────────────────



 その四番目に、ヴィセンテの名を加えた。

 彼なら、危機的状況に陥っても、破壊して突破する可能性を感じたからだ。

 

 この猛獣は、強敵の喉笛を噛み千切り、瀕死に追いやるまで、絶対に倒れないだろう。


(いつか、我が背中を預けられる存在となれ)


 気絶したヴィセンテの背を見ながら、俺はそう思った。彼のことだ。


 諦めない貪欲さ──強くなるためなら、何だってするだろう。


 未来の道は、ヴィセンテ・ガトニスという未来の英雄にも、今託されたのだから。

【次回予告】

第51筆 彩筆手帳 〜記録する者、雅臣〜

《8月20日(水)19時10分》更新致します

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ