第50筆 “狂狼”ヴィセンテ、乱入!
──ヴィセンテ視点──
オレはヴィセンテ。シャルトュワ村近辺じゃ“狂狼”と呼ばれてる。
別に自称じゃねぇ。影狼の頭付き毛皮を羽織った日から、誰もがオレをそう呼ぶようになった。
けど、今日は気に入らねぇヤツがいる。
赤髪の異邦人。マサオミとか言ったか? 異界出身のクセに、シノ婆に認められてやがる。
魔力もないクセに? 冗談だろうが。
⋯⋯ハッ。イライラする。こんなにムカつくヤツは久しぶりだ。
「おい、赤髪。魔法しか使えねぇんだろ? あー、ちがった、魔力なかったんだったな。ハハッ、悪ぃ悪ぃ」
笑いながら木剣を放る。ヤツは何のためらいもなく、それを受け取って──軽々と振るって、納刀動作だと?
抜刀術の真似ごとで煽ってんのか、コラ。
「お手柔らかにお願いします」
ちっ、そのスカした顔──マジでムカつく!
「ウオオオァァァァ! 魔剣流・異端派〘劫魔唐竹割り〙──!」
世界四大流派・魔剣流の異端派にして、オレは第二格・“獄魔級”の認定者。
オレの最速の唐竹割りに耐えられるヤツなど──
「胴体ががら空きですよ?」
(なっ──!?)
赤髪は半身をずらしてかわし、脇腹に一撃。
痛みに耐えながら拳を構えるも──
「またがら空きですよ?」
次の瞬間、鳩尾を木剣で突かれ、空気が吸えなくなった。
「カッ、ハッ──!!」
息が、苦しい。
視界が、霞んでいく──
(クソ、オレが⋯⋯こんな⋯⋯)
気絶しかける意識の中、オレはまだ倒れてねぇと叫んだ。
◇◇◇
──雅臣視点──
ヴィセンテくんの木剣は、決して軽くない。動きにもセンスがある。
手加減しすぎると、かえって侮辱になるかもしれない。
俺は軽く呼吸を整えながら、構えを変えた。
刀神の“受け流し”ではなく、攻めに転じるための──剣神直伝の構えへ。
「君、案外強いな。なら、もう少し本気を出してみるよ」
「ハァッ⋯⋯ハハッ⋯⋯いいねぇ、いいじゃねぇか──! もっと見せてみろよ、“異端”の赤髪ィッ!」
その睨みと笑みは、まるで獲物を狩る猛獣の威嚇だ。
(⋯⋯来る)
「魔剣流・異端派──〘狼爪連斬〙ッ!!」
黒い残光を引く鋭い三撃。
一閃目、二閃目、三閃目──すべての軌道に闇の魔気が編み込まれている。
(これは、動きを鈍らせる魔気か)
俺はは瞬時に脳を切り替える。
第一脳を分析に、第二脳を反応速度に充て──重ねる。
「剣神相伝──〘重影斬・連撃の型〙──」
風が割れ、ギルド屋内の全ガラスにヒビが入った。
一撃に二撃を重ねる。
表の刃が斬り払ったあとに、影の斬撃が時間差で襲いかかる。
それを、連撃として重ね──
「がっ⋯⋯ぉぉ、ぁ──く、そ⋯⋯追いつけねぇ⋯⋯!」
ヴィセンテの動きがだんだん追いつかなくなっていく。それでも尚、喰らいつこうとする気迫は本物だった。
(だから、止めるしかない)
狙うは首筋。
ヴィセンテの背後に移動し、木剣を鋭く振り抜き、首筋を叩いた瞬間──
彼の身体はぐらつき、顔面から地面に前肢を強打。完全に気絶した。
⋯⋯しばらく静寂が続いた。
(彼は、粘り強くなっていくタイプだ。強さは刀神の弟子レベル。相手が俺じゃなきゃ、おそらく死者が出てるな⋯⋯)
俺は木剣をそっと地面に戻し、彼に敬意を表するため、一礼した。
なぜ、こうするのか?
『──忘れるな。決闘と稽古は礼に始まり、礼に終わる。場所と対戦者、よく動いた己の身体に──感謝するためだ』
剣神の教えを履行し、シノのほうへ振り向いた。
「ヴィセンテくんに『素質あるから仲間にしたい』──と、伝えておいてください」
「おや、ここで“スカウト”かい。伝えておくよ」
これには、理由がある。
以前、弓神・弦霞が俺へ助言をした。
『アナタまさか⋯⋯たった一人で、救済しようとしてないでしょうね? 仲間⋯⋯特にパーティーメンバーが複数人いたほうが良いわ』
⋯⋯我が一行はまだ、俺とウィズムとミューリエ、カキアの三人と一匹しかいない。あと五〜六人は欲しい。
出来れば、八人で国を動かすほどの力を持った精鋭を──。
でも、彼と切り結んで──分かった。
この“狂狼”となら、切磋琢磨できる。
(後輩か⋯⋯案外、悪くないかもな)
俺は鉛筆で書いた一枚のメモを取り出す。
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●百八代目・イカイビト邪神討伐パーティー
※パーティー名称未定。異界要素×分かりやすく
──メンバーリスト──
0.支援&補給&マスコット→カキア=ウェッズ
1.リーダー&召喚師:東郷雅臣 (自分)
2.サブリーダー&魔導師:ミューリエ・オーデルヴァイデ
3.参謀&砲撃手:ウィズム・リアヌ・トウゴウ・アカシック・レコード
4.剣士or切り込み役:ヴィセンテ・ガトニス(予定)
5.指導役orアドバイザー:
6.遊撃手:
7.偵察or遠距離射手:
8.盾役&しんがり:
9.交渉役:
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その四番目に、ヴィセンテの名を加えた。
彼なら、危機的状況に陥っても、破壊して突破する可能性を感じたからだ。
この猛獣は、強敵の喉笛を噛み千切り、瀕死に追いやるまで、絶対に倒れないだろう。
(いつか、我が背中を預けられる存在となれ)
気絶したヴィセンテの背を見ながら、俺はそう思った。彼のことだ。
諦めない貪欲さ──強くなるためなら、何だってするだろう。
未来の道は、ヴィセンテ・ガトニスという未来の英雄にも、今託されたのだから。
【次回予告】
第51筆 彩筆手帳 〜記録する者、雅臣〜
《8月20日(水)19時10分》更新致します




