第49筆 神力測定と乱闘騒ぎ
「さーて、アンタの覚悟も聞けたし、実力を簡単に測ろうじゃないの。冒険者登録の前に、ひとつ検査があるさね。リコ、頼んだよ」
「はいっ! それは魔力総量の検査です。目的は“限度の理解”。魔法装置や魔導具によっては、必要な魔力量が定められていることもあるので、検査をおすすめします」
「⋯⋯あの、俺、魔力総量ゼロなんですけど」
「すみませんが、たまにウソをつく人がいるんです。ご容赦ください。恨むなら、ウソついたバカ野郎どもを恨んでくれたまえっ!」
リコがシャドーボクシングを始め、思わず吹き出しそうになる。どうやら、場を和ませようとしてくれているらしい。
「怒り、収まって良かったです!」
彼女はカウンター裏の引き出しから、手のひらサイズの透明な球体を取り出した。水晶のような見た目だ。
「これは〈超・魔力水晶くん〉です! 送られた魔力を数値化する優れもの。これを握って、魔力を送り込んでください!」
俺は左手に魔力水晶を持ち、召喚時に吸われた謎のエネルギーの感覚を思い出しながら、それを逆流させるように、気のような力を送るイメージで試みた。
ピキッ、ピキピッキ──!!
水晶の色が、透明から白、黄色、緑へと変わり──
「まだ止まらないですって〜!?」
青、赤、銀、金、そして黒へ。ついには無数のヒビが入り……粉砕した。
リコの顔は真っ青である。
「……あ、また力込めすぎたか? 半分しか出してないんだけど」
砕けた水晶の残骸から、魔力構成された白い文字が宙に浮かび上がった。
〈魔力総量:ゼロ 異常反応アリ〉
「あああああ〜っ! やっぱり神力反応っ!! この水晶、世界最高の魔力を誇る〈総帥〉に作ってもらった品なんですよ!? ひえぇ、170万リブラが飛んでった〜っ!! その人の魔力量に合わせた強度なのに、ヒビが入るなんて……あり得ない!」
「アタシが思うに、〈総帥〉くんより上に並ぶ者といえば、やはり“神々”だろうね。アンタ、やるじゃないか」
「ひゅうぅぅ。“覇天”のシノ・ファルカオからのお墨付きとは、小僧、やるね〜! ……どうせハッタリだろ?」
口笛と共に現れたのは、白髪オールバックに碧眼の初老の男。
軽口とは裏腹に、その顔にある大きな傷跡は、シノと同じく死線を越えてきた者の気配を漂わせている。
「ダルカス、その名はもう出すんじゃないよ。年寄りに名誉なんざ不要さ。現役の実力を認めな」
「はいはい。カミさんがそう言うなら、本当なんだろ? ……で、神力はどうなんだ? 我が来孫よ、出してやりな」
夫婦だったのか、この二人。まったくそうは見えない。
「え、来孫!?」
「私、五代目ですから! それよりも、悔しいッ! むむむ〜、黙ってられません。こちら、〈ド神力メーターさん〉です! 前に測定不能な人が出てしまったので、ギルド本部に頼んで神力対応の特注品を導入したんです!」
ミューリエがくすっと笑った。
「その“普通じゃない人”の筆頭が、私ってわけね。──レバーを六つ動かせば良いみたい。雅臣くん、やってみて」
早速レバーに手をかける。……硬い。だが、これは“神力メーター”──つまり、神力を込めるってことか?
イメージを集中させると──四つはすんなり倒せた。五つ目は半分だけ。六つ目はビクともしない。
〈神力総量:300億以上 SSランク:六聖神相当〉
おぉ⋯⋯この世界を管轄する神々と同格だなんて、光栄の至りである。
「次はミューリエだね」
「うん、えいっ!」
──ガコン。
六つすべてのレバーが、音を立てて一瞬で倒れた。
〈神力総量:9999億以上 SSSランク:死の神相当〉
表示のあと、測定不能と出て、メーターごと粉々に砕け散った。
「ぎゃーーーっ! 七百四十九万リブラが壊・れ・たッ!! 神話の最高神夫妻レベルって……化け物か何かですかあぁ!?」
これはもう、常識外れだ。格が違う。
ミューリエは、あらゆる異世界を旅してきた“先輩の風格”を見せつけた。
「ちょっと待てや!」
──どこの世界にも野次馬はいるものだ。案の定、ギルド内の冒険者数名がケンカを売ってきた。
「はぁ? どうせ全部ぶっ壊すために、手に細工でもしてたんだろ!」
「そうだ、そうだッ! 」
「魔道具で不正したに違いない!」
まぁ、こうして俺たちの結果にケチをつけてくるヤツらもいる。
「俺は気に入らん。ギルドマスター・シノ、許可をッ!」
屈強な大男の冒険者が、不満を叫ぶ。
「あいよ。魔力・神力腕相撲、開☆始ッ!」
──そして、十分後。
「くうぅーー! 痛ぇよ⋯⋯痛ぇよ⋯⋯!」
リコ、シノ、ダルカスは見届人と審判。
寝ているドワーフのおっさん除く、二十一人を完封勝利した。
途中、俺が神力を込めすぎて、腕がもげたり骨が粉々になった人もいた。
「雅臣くん、やり過ぎだよ」
「モーニングルーティンで力が強くなっててさ、加減できてなかった」
今やみな、腕を押さえて苦しんでいる。しかし、まだ動ける者と乱闘になった。
「うぉぉらッ!」
拳神ダンジンの教え「一撃に魂を込めろ」が脳裏に蘇る。往なして隙を見て、腹を穿つ!
「か、はっ⋯⋯」
巨体が音を立てて地面に倒れ伏した。
力加減を間違えて風穴が空いている。ミューリエが治癒後、不機嫌そうに頬を膨らませた。
「──雅臣くん、もっと手加減しましょう!」
デコピンや手刀、張り手で次々と吹き飛ばす。修行の成果はちゃんと出ていた。
──五分後。
悪者みたいで申し訳ないが、全員、床のホコリを味わう羽目になった。
中には数名ドーピング剤を飲んでいる者もおり、さすがに骨へヒビが入った。
しかし、薬を飲んだ人達の様子がおかしい。理性を失い始めている?
「う、ガガ⋯⋯コロス、コロス⋯⋯!」
「おい、テメェら! アホかよ、流行り薬に頼るなんざ、自己管理がなってねぇなァ!」
先程まで床に倒れ伏していた少年が起きた直後、首元を蹴飛ばして空中に魔力を収束。
足場を作り跳躍する。
そして、縦横無尽に疾走。全員の背中を叩き、薬剤の成分を吐かせ、瞬く間に見事に伸した。
「シノ婆、コイツら連れとっとけ。やべえ違法薬かもしんねぇ」
「あいよ。雅臣は強い。気をつけなさんな」
「拳は強ぇな。でもなァ、赤髪──その剣は飾りか? 試してやんよ!」
ニヤリと悪戯心に満ちた笑みを見せつける。
──うん腰元が軽い。ないっ! 俺の刀が!?
「へヘっ、これかよ?」
気付いたら俺の刀をくすねており、床に転がした後、木剣を突き付けられた。
あの軽業、年の近さは関係ないと突き付けているようだ。
「次は剣術の決闘だぜ? ハッ、かかってこいや、赤髪ッ! “狂狼”ヴィセンテ様のお通りだぁ!!」
⋯⋯なんか、お約束すぎるクセ強ヤンキーに絡まれました。
【次回予告】
第50筆 “狂狼”ヴィセンテ乱入
《8月19日(火)19時10分》更新致します




