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第46筆 観光記念品と初の冒険者ギルド

 シャルトゥワ村の観光を終えた帰り際、ニコラが嬉しそうに笑って、(かご)を差し出した。


「観光記念品ってことで、みんなにお土産! 全部、村の職人さんたちの手作りなんだよ」


 まず俺に手渡されたのは、小さな勾玉型のチャームだった。見えない糸のような魔力が淡く流れている。


「この勾玉ね、壊れるまでずっと武器の耐久力を上げてくれるんだ。それとね、簡易結界の魔法も込めてあって、三十秒に一回リセットされるの」


「⋯⋯すごいな。村の技術って、こんなに優秀だったのか」


 チャームを手に、俺はじっと見つめる。これは装飾品じゃない。ただの飾りなら、こんなにも手に馴染んで、心まで落ち着くはずがない。


 早速、愛刀の霹臨天胤丸(へきりんてんいんまる)に着けてみると、喜んでいる気がした。



「ミューリエお姉さんには、こっち!」


 ニコラが渡したのは、手彫りの木製ペンダント。小さな花と蔓草(ツルくさ)が細かく彫られていて、そこから微かな魔力の波が漏れていた。


「これ、魔力の保存と、少しだけ補給もできるんだ。長時間の旅にもぴったり!」


「まあ⋯⋯ありがとう。大切にするね」


 ミューリエは目を細め、胸元にそっと当てた。表情が柔らかくなり、彼女の優しさがいっそうにじむ。


「で、ウィズムには⋯⋯じゃじゃーん! 魔法札! 光線を出せるやつ!」


「こ、光線!? い、いいのですか、こんな高度な術具を!?」


 今のウィズムはカラーホログラム状態。


 更には邪神の呪いの影響か、唯一世界(オリジン・ヴァース)で使っていた魔法らしき技術も、本体(キューブ)から出せなくなっているのだ。


 ぷるぷる震えながら魔法札を受け取る。札の表には、銀のインクで古代文字が描かれており、光を帯びては消え、脈打つように魔力が循環している。


「二十秒に一回、再使用可能になるよ。魔力少なくても撃てるから安心!」


「これは⋯⋯想像以上に実用的な武装です⋯⋯!」


 すると、ニコラが首を傾げた。


「ウィズムって、やっぱり特殊な魔導具だよね? 意思あるっていうか⋯⋯ちゃんと“話してる”んだもん」


 クラインもバズも、興味深げにウィズムを見ていた。隠していたわけじゃないけど、もうすっかり“仲間の一人”として認識されていたらしい。


「⋯⋯バレてしまいました、ね」


 ウィズムがちょっと照れくさそうに言った。



 ◇ ◇ ◇



 それから一行は、村の中心部にある大きな建物──冒険者ギルドへと案内された。俺たちがこれから関わっていく、大きな節目の場所か。


 分厚い木の扉を押し開けた瞬間、温かな木の香りと人いきれが混じった空気が一気に押し寄せる。


 中は広く、右手には依頼掲示板、奥には受付カウンター。そして左手奥には、酒場が併設されていた。


 昼間から酔客たちが賑やかに騒いでおり、肉の焼ける香ばしい匂いと、粗野な笑い声が空間に充満している。


「ウーィヒック⋯⋯酒じゃ、酒じゃ~酒を持ってこーい! バンバン飲むぞぃ~!」


 奥のテーブルで騒ぐ、髭むくじゃらの小柄な男がひときわ目を引いた。

 体格はがっしりしているのに、身長はせいぜい百二十センチほど。二股に分かれた耳と、少し尖った輪郭の顔立ちが印象的だ。


 ──ドワーフだ。


「“酔いどれ帝”よ、水飲みな。ほら」


 隣に座る義足の男が、水を飲ませてやりながら背中をさすっていた。だが、水はほとんどこぼれて床を濡らしている。


 テーブルには空いた酒瓶が転がり、足元にも割れ物が散乱している。まるでそこだけが修羅場の戦跡のようだ。


 そしてその周囲のテーブルにいる連中もまた、顔や体に深い傷を持ち、片腕がない者もいる。


(彼らはただの酔っ払いではない──命を張る日々を潜り抜けてきた本物の猛者たちだ)


 俺たちがその場の空気に呑まれていると、カウンターの向こうで高めの足音が聞こえた。


 振り返ると、ひとりの女性が静かに歩いてくるのが見えた。


 白髪をきちんとまとめ、焦げ茶色の瞳に鋭くも落ち着いた光を湛えたその人物。

 六十代ほどに見えるが、ただの老女ではない。貴婦人のような風格と威圧感を漂わせていた。


 ──シノ・ファルカオ。


 ギルドの空気が一瞬で緊張に包まれる。俺の隣にいたニコラ、バズ、クラインの三人が、すっと背筋を正した。


 そうだ。移動中に話していたが、彼女は──三人の師匠か。


 シノは左手に昼食らしい包みを提げたまま、俺たちの前で立ち止まった。俺を真っ直ぐに見据え、静かに問いかける。




「⋯⋯アンタ、イカイビトかい?」




 ──心臓が跳ねた。


 その言葉は、まるで俺の奥底を直接掴みに来たかのように、重く、鋭かった。


 そして次の瞬間、彼女の視線がウィズムへと滑る。


 目を細め、眉をほんの僅かに動かす。


「⋯⋯ふうん。そっちの子は、意思持ち(コンシャス)型の導具か。ずいぶんと長い眠りから目を覚ましたみたいじゃの」



 ウィズムの輪郭が波打った。

 ギクリと肩を震わせたのは、ニコラたち三人。ウィズムの正体に気づいたのか、目を見開いていた。


「っ、あ⋯⋯その、はい。わたし、ウィズムです⋯⋯です、けど⋯⋯っ」


 ウィズムの声が震える。それでも、言葉を継いだことが立派だったと思う。


 シノは小さく頷き、それ以上何も言わずに受付へと昼食を預け、再び歩き出す。


 すれ違いざま、最後に一言だけ残した。


「⋯⋯ココは“そういう場所”だ。まぁ、歓迎するよ。深く、気をつけるさね」


 その背中が消えていくのを見送りながら、俺は身震いした。


「おい、なんだよ、今の⋯⋯!」


 隣でバズが息を飲む。


「お兄さま。あれがギルドマスターって⋯⋯冒険者の業界の“普通”なんですか?」


「⋯⋯ああ。本当にな。分からないけど」


 ウィズムの呟きに激しく同意する。俺は、鳥肌の立った腕をさすりながら、思った。


 ──とんでもないギルドに足を踏み入れちまったな、俺たち。

【次回予告】

第47筆 砕けた石板、視えた真実

《8月16日(土)19時10分》更新致します


【お知らせ】

読者質問コーナーですが、今回は質問がゼロだったので、回答を休止します。

次回の月初めにまた質問募集を致します。もし、毎月より三ヶ月に一度が良い場合は感想でお申し付け下さいませ。


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