第41筆 武具との絆、心の再覚醒
──絆が無い。
この言葉に胸が詰まる。助け舟を求め、周囲を見渡した。
「武具との絆。データで見ても分かる結果なのです」
データ主義なウィズムは論理的、科学的見地からでも気付いていた。
「面白いのう。にゃあは確信したわい」
カキアは毎日、自分に預けられた物品全てをチェックする。その“対話”で薄々気付いていたらしい。
ミューリエは諭すように、俺の背中を撫でた。
「私もね、必ず一日一回は武具に話しかけるの。今日あったことを伝える。簡単でしょ?」
この場にいた宿泊客たちも一様に常識だと頷いた。
邪神の脅威に一万八〇〇年苦しむ世界だからこそ、武器にいつか心が生まれ、相棒と共に敵を倒す。
その刃、ゆくゆくは邪神にすら届けば、最上の誉れなのだろう。
その考え方、いや生き方じゃないと武器が必要な世界では、生き抜くことは難しい。
──俺は勝手ながら、ご亭主を『武具の心の先生』と定義することにした。
「ご亭主、貴方の名前は?」
「言ってなかったか? ワシはゴードルフ・マーキッドだ。カミさんはシャローズ・マーキッド」
「改めてよろしくお願い致します」
俺は深々と一礼した。彼は聞きたいことがありそうな顔をしている。おそらく己の過去だ。
「さて、質問する。答えられる範囲で構わん。この武器と出会って何年経った?」
「三年です」
「その間、何してた?」
「十人の師匠と修行してました。心意気とか、生き方とか、戦い方を学びました」
ゴードルフ先生は呆れて、ため息をついた。
「⋯⋯それ、『オメェの体験談』だろ。”武器の事“を一切考えてねェ。そこに武具の心を“覚醒”させ、己の心と“共鳴する余裕”はあったのかと聞いてんだ」
俺はハッとした。
十神との厳しい修行でそんな時間がなかった?
いや、他者のせいにするな。己の視野の狭さが招いて今がある。現実を見ろ。
だからこそ、最も近くで俺を見てきた妹に助言を求めた。
「ウィズム、どうしたら良いんだ。フォローしてくれ」
「お兄さま、修行中にこの相棒、即ち武具がないと死んでいた場面があったでしょう? あの時、あの子たちに感謝しましたか?」
──感謝。
ウィズムに言われ、俺は思い出す。
武具と概念を司る十柱の神々にとって、武具との絆や武具因子の存在は、天地がひっくり返っても常識だ。
あえて自分の相棒──名前があり、武具の手入れの仕方を見せる刀神の姿。
死にそうな時、様々な武器種と代表的な相棒と言えるこの刀、霹臨天胤丸がこの手にあった。
師匠たちは、自然と気付くように試行錯誤していることを⋯⋯俺は悔しさと自分の愚かさに涙した。
「あぁ⋯⋯俺はなんてことをッ! あの時、自分を守ったのは誰だった? 刀だ。……じゃあ、なぜ俺は、それに一言の礼すら伝えてなかったんだ?」
「泣くな、雅坊。漢らしくねぇ。わしの魔眼の反作用で過去も視た。オメェは皆に愛されてる。気付けて良かったな」
彼は快活に笑いながら、俺の肩を叩く。
新しくなった義手は──その絆の影響か、すでに馴染んでいた。
「ありがとうございます!」
「おうとも。きっと、その師匠たちも、武器は己の命と同等にしてらぁ。そこに固い絆、あったハズだ。これ、渡しとくから毎日読み込んで、実践しな。元A級冒険者からのアドバイスだ」
そうか、冒険者だったのか。未だ残る強者の風格は、そこから来ていたようだ。
「オメェは『刀の気まぐれ』に遭遇しただけ。後は自分で考えな」
ゴードルフさんは、紙にまとめて教えてくれた。
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◇武具との絆◇
第一段階:武具契約の発生
ある条件を満たすと武具契約が起こる。
・契約条件は個別に異なり、「命を懸けた戦い」「強い想い」「共鳴の儀式」などが触媒となる。
・契約時、短時間だけ“武具の記憶”がフラッシュバックのように流れる。古戦場の情景など。
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第二段階:武具因子の最適化
武具因子が使用者の性質と最適化していく。
・使用者の魔力や思考に応じて、形状や性質(切れ味、属性、重さなど)も徐々に適応。
・相性が良ければ「副機能(例:投擲、変形、伸縮)」が解放される。
・戦闘中、武具が自動的に最適な形に“微調整”される。
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第三段階:思考察知
武具の考えていることが分かる。思考察知。
・戦闘中、「危険回避」「急所指示」「連携補助」など、視線や声を使わずに情報が共有される。
・夢や幻の中で、武具が“かつての使い手”や“鍛冶師の記憶”を語りかけてくる。
・必要に応じて、使用者を“諫めたり、鼓舞”することもある。
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第四段階:操作一体化
思い通りに動かせる。意思の汲み取り。
・武具を握っていない時でも、空中から呼び戻したり、霊的なリンクで操れる「遠隔操縦」が可能になる。
・戦闘中、意識を武具に“半分預ける”ことで複数戦闘スタイル(剣+魔法など)が成立。
・完全同調時、武具と“融合”して新形態になる(鎧・翼・獣化など)。
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第五段階:意思の成長
武具意思の形成と成長。使用者の守護。“ひとりで”に動く。伝説級。
・武具が独自の「直感」「戦闘判断」で使用者を守る。背後の奇襲を自動で防ぐなど。
・戦闘だけでなく、使用者の精神的危機にも反応。精神世界に現れ、助けてくれる。
・使用者が気絶中でも「自動迎撃」「回収要請」などが可能。
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第六段階:武具の人格形成
・武器の人格形成化の発生と育成。神話級。
・人格は「父性/母性/相棒/友達/先生/動物的」など、多様で、成長に伴って変化もある。
・人格は“使用者の心の欠片”から構成されている場合もある。失われた記憶、愛情など。
・最終的には「生きた存在」として扱われ、転生・死・宿命なども背負う。
・極めれば「神器」「神具」として、世界に干渉する力を持つ。
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俺は感謝を込めて鞘を握る。
「いつもありがとう、霹臨天胤丸」
そう言うと、嬉しそうに刀身が少し震えた気がした。
「あらあら、ちょっと良いかしら? その武具との絆──ついでに情報源の話も聞いていって欲しいわぁ」
濃いラズベリーピンク色のおさげ髪を、緩やかな三つ編みにした女性。
“おかみさん”こと、シャローズ・マーキッドからの興味深い話が始まった。
【次回予告】
第42筆 亭主夫妻のお礼と助言
《9月11日(月)19時10分》更新致します




