第24筆 別れと贈り物、修行の果てに〈後編〉
「ガラハッドさん、貫く生き方、止まりませんよ」
「その意気だ。あと、探すの大変そうだから──全員呼んだ」
気付くと周囲に十神とアステリュア=コスモら全員が来ていた。
彼らにも渡したいものがあるんだ。続いては、守ることの重要性を説いたムトトにしよう。
「プレゼントくれるって、聞いたよ?」
「ムトトちゃんには、これを。いつもみんなを守ってたから、たまには休んで下さい」
マッサージボールと癒し系アロマセットだ。彼女がよく纏う香りを選抜しておいた。
「ムトトが女の子なの、気付いてた?」
「まぁ、途中からですけど」
「やっぱ女と子ども、好きだよね。頑張って、雅臣」
そう言ってさりげなく帰ってしまった。あれは嬉しさと寂しさで、泣いてるかも。
次は⋯⋯拳神ダンジンだ。目が合ってすぐ、拳の打ち合いが始まる。
「アツく行こうぜ、兄弟ッ!」
「おうとも、ダンジンのアニキ! そういや、地球の武術も学びたいんだったよなぁ!」
「例の武術DVD全集かッ!」
「ついに届いたんですよっ、トレーニングチューブと共にッ! だから、学び直してこいや!」
「偉そうに、まだまだひよっ子のくせによぉ! ハァッ!!!」
俺が拳を手のひらで覆って止めた瞬間、生ぬるい風が吹き荒れた。彼は白い歯を見せてニカッと笑う。彼によって着火した燃え上がる魂は、もう止まらない。
続いて、斧神だ。
「グレン・ブラードさん、あなたは手をよく痛めていた。だから、滑り止め&衝撃吸収加工の、重厚なグリップ手袋。ハンドクリームもどうぞ」
「おぉ。おめぇさん、それは嬉しいったい。達者でな」
彼が管轄する世界は、極寒の森が多い世界と聞く。二つの品をありがたそうに受け取ると、そそくさと帰っていった。
間違いなく、寂しさを隠しているな。
「さて。鎚神のララたん、いますか?」
「ばぁっ!」
「もう、普通にして下さいって」
彼女は逆さまな状態で登場。キャップにヘソ出しTシャツとショートパンツ姿。相変わらず王道ギャルそのものの派手な格好をしている。
「ララたん、可愛かったから──地球のメイクセットとポーチ、化粧品、ポーチ、プリクラ帳、魔法インスタントカメラです」
「ずっきゅーん! テンアゲなんですけど〜! うち、死ぬかも? ま、死んだこと無いけど、気分最高っしょ! 早速、ウィズムっちと一緒にパシャるわ〜♪」
「え、え、ボクですか?」
困惑するウィズムをよそ目に、ララたんは満面の笑みで撮影。カメラはしっかりと二人の姿を捉えていた。
英語を喋ったザフィリオン同様、どこで覚えたのか解らない言い回しに、苦笑いしてしまう。
十神の最後は⋯⋯銃神 鉄砲夜叉だ。
「貴方にはこちらを」
「うむ」
銃の分解清掃用ツールセット、それを仕舞う手ぬぐい巾着。
召喚したのは、清掃ツールセットと青海波文様の手ぬぐい。縫製のみ、ウィズムと四苦八苦しながら作った思い出の品を手渡す。
「俺とウィズム、その義兄妹の絆を深めたのは、貴方のおかげです」
「鉄砲夜叉さま、本当に感謝致します」
「それがし、大したこ事しておらン。だが⋯⋯」
彼は巾着から出して、銃を分解。
目にも留まらぬ速さで手入れして、すぐに「気に入った」と呟いた。
残るは⋯⋯コスモだ。
「さぁ、この宇宙の創造主様にプレゼントないのかしら?」
「直感ですが、愛が欲しいって言う気がしましたから、なんにも準備してません」
「キミ、わかってるじゃない。皆もおいで」
彼女はみるみる大きくなって、この場にいる全員を抱きしめた。
「この世に生まれてきてくれて、ありがとう。あたくしは幸せよ。みんなで愛という祝福や、加護を送ってあげて。あたくしも送るから」
暖かくも、膨大な神力がめまいがするほど、ぐんぐんと送り込まれていく。
各々の得意分野における加護がたくさん送られてきた。それを余すことなく、受け取った。
コスモだけ、今の自分のレベルでは、何の加護か全く解らない。
後は、全員が集合した絵とか、それぞれの肖像画とか。お別れの挨拶まわりをした。
「あっ、そうだ。彼にも送らないと」
もちろん、[神悠淵界]にいるエフじぃ宛だ。
俺が描いた似顔絵・ウィズムの修行成果をまとめたビデオメッセージ、お礼の手紙の三種類を送る。
意外にも、すぐに返事の手紙が届いた。
「見事な修行じゃった。邪神討伐、期待しとる。おんしなら出来るじゃろう。似顔絵、“やはり”上手である」
神代文字で書かれていて、読めなかったのをウィズムに代読してもらった。“やはり”が気になるけど。
彼無くして、俺の命はない。宇宙の創造主コスモに次ぐ、命の恩人なのだから。
そして──
「ご褒美タイムよ、雅臣くん。キミに合いそうなもの、あたくしがピックアップしたのよ」
出発前夜。コスモに連れられて、俺たちは特別な衣装部屋へと案内される。
棚の上には、神々が愛したという装束が整然と並べられていた。その中で、俺の目を引いたのは、赤いコート。
鮮やかすぎず、深みを帯びた赤。小傷がところどころにあるが、それが歴史と味わいを物語っている。
「それは、太古の神が大切にしていたもの。キミにこそ似合うわ」
そう言われたとき、不思議と胸に何かが灯った。
次に目を移すと、銀色の鎧がこちらを見ているようだった。
意思に応じて二つの姿へ変わる鎧らしい。そのどちらも美しく、戦場で己を守り抜く気高き力を感じる。
「やはり運命って残酷ね。遠き“黎明”が導くんだわ⋯⋯」
ぽつりと呟くコスモ。その目に、涙がひとしずく、こぼれた。
理由は聞かない。だが、俺はこの贈り物に込められた想いを、きっと忘れない。
今、俺はここにいる。生きている。76万回の死を超えた。
そして──俺の本当の旅は、これからだ。
毎日更新・24日目。ここまでお読みいただき、誠にありがとうございます。
最敬礼にて、心より感謝申し上げます。
どうか、ほんの3分だけ、お時間をください。
この物語を“読んでよかった”と思っていただけるその理由──
今、言葉にしてお届けします。
【Q.なぜ三年の修行なんですか?】
A.修行編を“魅せる”のは難しい、と言われがちです。
けれど、雅臣があの三年を過ごさなければ、物語全体に嘘が混じると思いました。
再読するたび、「あの修行が、ここに繋がるのか」と思っていただけたら嬉しいです。
【今後の章立てについて】
次回、第25筆はミューリエの幕間を挟み──
いよいよ第26筆から本編が始まります。
その名も、反転せし女神と夢幻なる異界エリュトリオン
第一章『勇者先導のシャルトゥワ村』。
ここで、あらかじめお伝えさせてください。
この第一章──
おそらく史上初、ライトノベル二冊分に匹敵する長さを誇ります。
仮にアニメ化すれば、ニチアサ半年分のボリュームです。
(えぇ、そんなに!? 読めるかな⋯⋯)
──そう思われる方が、きっといらっしゃるでしょう。
ですが、これは決して「長いだけの物語」ではありません。
むしろ、既存の作品構成に真っ向から挑み、超えていくという、
密かなる裏テーマを掲げた章なのです。
【目指すは、歴史に名を刻む物語】
もちろん、私ひとりの力では到底かないません。
読者の皆さまのお力、
そしてこの物語に注がれた本気度とクオリティ──
それらが三位一体となって、はじめて完成する物語です。
第一章では、雅臣の三年の修行を踏まえ、
異世界の文化・歴史・社会・戦争──そして、人々の心まで。
世界を“描き尽くす”筆致で、丁寧に積み上げてまいります。
もし、この長い章を最後まで読み切っていただけたなら──
あなたは、この物語の“最初の証人”です。
この物語に賭けた全力が、
少しでもあなたの心に届くことを、切に願っております。
長く険しい旅路、
どうかこれからも、雅臣と共に一歩ずつ歩んでいただけますように。
※現在、第13回ネット小説大賞にも応募中です。
次回の幕間を経て、いよいよ物語が本格始動いたします。
今後の展開にもぜひご注目ください。
【次回予告】
第25筆 幕間:虹の記憶、再び 〜ミューリエの回想〜
《7月25日(金)19時10分》更新致します。




