第23筆 別れと贈り物、修行の果てに(前編)
──そして、打ち上げの時間。
「お兄さま、お兄さまっ♪」
「はいはい、君の本体を持ってる手が千切れるから、それくらいにしてくれ」
「義体があったら、もっとハグの感覚、あんな事やこんな事が味わえるのに⋯⋯」
(何を考えているんだ、この駄妹は)
俺とウィズムは、義兄妹になることを許可され、堂々と宣言された。
「これであたくしの可愛い“長男”と“長女”、両方誕生ね。他の子もいるかもよ⋯⋯?」
嬉しそうなコスモの顔に、俺は微妙な気分になる。彼女には、意思の奥底が見通せないからだ。
ウィズムの正式な名は、ウィズム・リアヌ・トウゴウ・アカシックレコード。
「ボクの名前は有力な方々から頂いたんです。ウィズムは“原初のお方”でしょ。リアヌは初代イカイビトに。トウゴウはお兄さまの名字。アカシックレコードは、コスモお母さまからです!」
どこまでが名前か分からないが、重厚さと美しさに満ちていた。
◇ ◇ ◇
転移門の中でも、宇宙で最初に出来上がった“元始の転移門”。
いざ旅立ち、潜らんとした時──
「さて、行こうかな⋯⋯あァーーっ!!!」
「お兄さま、どうしたのですか?」
少しだけ留まるべき理由を思い出した。
「何でみんなに、お礼と恩返ししてないんだ。俺のバッカヤローッ!」
「やっべ、ボクも失念していたのです」
ウィズムも目を丸くしていた。
皆さんへ感謝の印を贈る。
シンプルにして最大の理由じゃないかッ!
──だから、〘画竜点睛〙の描画召喚を筆頭に、いろんな手段で駆け回った。
◇ ◇ ◇
最初に思い浮かんだのは⋯⋯剣神。
俺に戦い方を教えた原点にして、二度目の人生の最初の恩神。
確か、古びた鞘はもう壊れそうで、困っていると言っていたっけ?
こんな時は、前世時代の伝手を使いまくる。地球の職人とタッグを組もう。彼の一振りは蛇行剣で、鞘作りも難航した。
「実物なしで一週間納期だぁ? 東郷さん、無理があんぞ」
彼は人間国宝に近いと呼ばれし刀匠。それでも短納期で仕上げる事に、難色を示した。
「なるべく急ぎで、シンプルに」
「バカ言うな。机上の空論で依頼すんじゃねぇ」
「ボクにお任せを。原寸大3Dスキャニングデータを表示。外寸から設計図を転送します──」
だが、ウィズムの解析もあり、ついに完成した。
「これ、修行のお礼としての贈り物です」
「⋯⋯感謝しよう。ふむ、茶漆塗りに銀細工の装飾。うん? 裏面に『剣は、我が心と共にある』か。良い銘を入れてくれたな。大事にしよう」
彼は鋭い目を細めて微笑み、握手しながら肩をたたく。旅の武運を祈るその手は、じんわりと暖かった。
◇ ◇ ◇
次は刀神、風音サクヤ。
彼女はもう故郷の世界、日陰雲原に帰ったらしいのだが、どうしたものか。
「──呼んだか?」
「にゃやゃーーッ!!?」
「いぃやーーッ!!?」
「うわぁっ!!? びっくりした!」
俺もウィズムも喚意庫のカキア=ウェッズも一様に驚いた。
彼女は世界を斬り、次元を移動して現れたのである。刀の扱いもここまで出来るとは恐れ入る。
「これ、地球の刀研ぎセットです。刀と心は共に磨くものでしょう?」
「⋯⋯⋯⋯う、うっ、泣かせるな。バカ弟子がッ〜〜!」
「痛ったァァ!!」
そう言って、彼女は俺にビンタをお見舞いして、切創の異次元へと帰っていった。桐箱入りで彼女が好きな桜のお香も同封してある。
ああ言う方だから、きっと照れ隠しだろう。
◇ ◇ ◇
次は芸術と魔法の神である念描神ザフィリオンの元を来訪。彼は自分が管轄する世界のアトリエで、新作を描いていた。
「地球の高級画材セットです。あなたの“描きたい”は、本物だと思ったから」
「⋯⋯⋯⋯」
彼は少し黙したまま、腕を生成。俺の頭を撫で、最後に嬉しい事を言った。
「"My dear son, I love you. Your paintings shine so brightly, illuminating people's hearts. Paint the world without hesitation.」
(意訳:我が息子よ、愛しているぞ。お前の絵はどこまでも眩しく人の心を照らす。迷いなく世界を描け)
彼はどこで覚えたのか、英語でこう返した。
息子──そう思っていたなんて、俺は涙が止まらない。
お返しに“不壊”の加護が込められた絵筆とペンタブを貰った。二人目の絵の師匠からの贈り物、大事にしよう。
◇ ◇ ◇
次は槍神ガラハッド&弓神・ 弦霞夫妻だが⋯⋯ウィズムの座標検索にもひっかからない。
仕方ない、あれを使うか。
「ガラハッドさーん!!! 贈り物でーす!」
──宇宙全土に響く大声で呼んだら、夫婦で転移門越しで訪れた。
「やめんか、ボケッ! 恥ずかしいだろう!」
「あははっ、規格外になった雅臣くんらしい」
夫は怒り、妻は微笑む。この距離感、夫婦の理想だ。
「ガラハッドさんは教え子がたくさんいましたよね?」
「あぁ、そうだな。今は百五十人いる」
「この折れない練習槍はジュラルミン製で、木目調仕上げが百五十本。あなた専用に作った指導用の槍は、金麗硬晶製です。訓練に使ってください」
「⋯⋯⋯⋯ッ!?」
大きな革袋いっぱいに入った槍を見て、驚きのあまり絶句するガラハッド。
段階に合わせて使用者を補助していく。特殊な神力をかなり込めてあるからだ。
「ありがとな」
「どういたしまして。弦霞さんには、伝統的な和弓の縮尺モデルと、お香付き弓袋を」
「⋯⋯あら。この弓、貴方に似てるわね」
彼女は和弓をつがえ、虚空に向けて矢を放つと、一本の星々の光をたたえた矢となり、帰ってきた。
「私からも手伝いの品。これは“約定の星矢”。邪神に向けて撃つのよ」
これは⋯⋯必中効果があるくらい、絶大な神力を感じた。カキアの背中ファスナーを開き、しまっておく。
「お前は一層、遠くに行くんだな。何かよぉ、息子が旅立つ感覚がする⋯⋯くっ、別に、泣いてねぇからな!」
「あなた⋯⋯」
ザフィリオンと同じ“息子”だと言いながら、彼は振り向いて泣き顔を隠していた。
恥ずかしがったり、悲しむ必要は無い。
貴方がた夫婦の関係は、一生の憧れなのだから。必ずまた、家族と共に会いに行く。
他の神々にもプレゼント、配らなきゃ。
毎日更新・23日目。ここまでお読みいただき、本当にありがとうございます。
【PVのお礼】
お陰様で、公開から23日で累計1000PVを突破いたしました。心より感謝申し上げます。
『彩筆の万象記』は、すぐにバズる作品ではないかもしれません。
けれど、読んでくれた方の心に長く残る物語を目指しています。
ジワジワと、確実に伸びていく──そんな作品に育てていけたら嬉しいです。
【雅臣の贈り物癖】
雅臣は、幼少期から“贈り物を贈り合う”ことを大切にしてきた家柄で育ちました。
政財界や芸能界など、幅広い交流のある環境の中で──絵の師匠から画材を贈られたことがきっかけで、
「贈り物は心を交わす行為」だと強く意識するようになったのです。
召喚術が使える現在の雅臣がお礼をする時、どんな手法で贈り物をするのか⋯⋯今後の見どころです。
【次回予告】
第24筆 別れと贈り物、修行の果てに〈後編〉
《7月24日(木)19時10分》更新致します。




