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第21筆 七彩の扉を越えて〈創志の試練・前編〉

 トン、トンッ──


 光の階段を一段登るたび、音が変わった。


 耳鳴りのような低音が、やがて鐘の音に変わり、やがて無音へと還る。


 重力も時間も存在を忘れたかのように──七色の星々が空でも地でもなく、宇宙の胎内のような空間に、上下の概念すらなく浮かび、瞬いては消えていた。


 辿り着いた先にあったのは、荘厳な造りの一枚の大扉。


 その見透かされる威圧感から、瞬時に察した。


 伝えろ。己が何を学び、何を得てきたのかを。


「“剣”は闘い方と精神の礎を作り、“刀”が慈悲の刃を形作る。貫く意志を“槍”で証明し、“斧”によって、いのちを循環。“鎚”の律動こそ、世界の均衡へ繋がっていく」


 俺は右手で握り拳を作って、天に掲げる。


「“拳”は魂を燃焼させ、“盾”はまっさらな未来を守る。“弓”は未来の道筋を確定し、“銃”は矛盾を改変──そして“描画”によって真理の一端に触れた!」


 左手で、ウィズムの手をぎゅっと繋ぐ。


「“書”で万象の輝きを、万民の魂へ記し続けよう。残るは“宇宙”へ──己の生き様を魅せるのみ」


 大きく息を吸って宣言する。


「イカイビト史上初の試み、準備期間はとうに終えた。俺こそ、世界と魂、想いを救済するイカイビトなり──!」


 それぞれの武具の形をした十の鍵をかざすと、呼応するように柔らかな光が溢れ出し、ゆっくりと開いていく。


 その向こうに在ったのは、唯一世界の中心──ゼオラント。

 この場所に許可され、来るのは初めてだ。


「キミの歩んできた道が、この一画に集束するわ。異世界エリュトリオンに通用する実力か、存分に見せてちょうだいっ!」


 中央に佇むその存在──アステリュア=コスモ。  その姿は、見る者の心象によって形を変えるという。


 剣神からすれば、あどけない幼女に見えるらしい。


 俺には、大人びた優しさと悪戯っぽさを兼ね備えた女性の姿に見えた。

 コスモは、どんな声も表情も思うままに操る──超越的な存在。


 だが、その声音に甘さはない。これから行う試練の過酷さを、まるで「当然」のように語っていた。


 頭の中へ直接、思考を送り込む。最終試練は全部で四段階あるという。


 「ふふ、さぁ⋯⋯第一段階よ」





【第一段階:心象風景の反転】


 舞台は、どこか懐かしい場所だった。

  幼い頃、初めて仲間と笑いあった新東京下町の広場、共に戦った友や師、導き手。


 ──けれど、その光景はすぐに変質する。


「どうして、お前が生きてる?」


「お前のせいで⋯⋯皆、壊れたんだ」


「やめろ⋯⋯そんなわけがない。君たちは、そんなことを言わない」


 旧友の春親(はるちか)が目を伏せる。

 幼い頃、泣き虫だった彼が、涙を流しながらこちらを睨んだ。


「信じてたよ、雅臣くん。ずっと、ずっと……でも、お前が壊した」


 声が震えていた。幻影だとわかっていても、胸が裂かれるようだった。


 真っ赤な怒り、真っ青な悲しみ、どす黒い絶望。それらは僕を形作ってきた面影のまま、鋭く僕の心を抉った。


「お前がいるだけで、人生が狂う」


「僕を強制的に蘇生させたじゃないか。命の冒涜者め」


春親(はるちか)、それは気のせいだ。やったこと無いよ」


 けれど、言葉は容赦なく投げつけられる。疑念と不信が鋭利な刃になって、心に突き刺さる。


「幻影、だろ。こんなに都合よく現れるはずがない」  


 何度も心が折れそうになる。 でも、僕は前世含め、多くの神と人に支えられてきた。


「誰が何を言おうと、俺は俺を信じる。太陽のように、万民を照らしてみせようっ!」


 その一言を吐いた瞬間、世界が砕けるように、白光に満ちた。


「あら、精神攻撃は通じなくなったのね」


 コスモの声が聞こえる。


「まさか、人嫌いのカキアくんを手懐けるなんて⋯⋯キミって、人たらしの才能あるんじゃない?」


「めっちゃ失礼な神様だなぁ⋯⋯」


 彼女は感心しながら、補給役として活躍したカキアへ目を向ける。


「しばらく彼にはお休みをあげるわ。⋯⋯あたくし以外は未観測な一度目の宇宙、そちらで充電してきてもらいましょ」


「うにゃあぁぁぁぁ!!?」


「カキアッ!」


 彼が光とともに呑まれて消える。少し不安がよぎったけれど、コスモの表情が柔らかいから、きっと大丈夫だろう。



【第二段階:連続死の迷宮】


 次の瞬間、僕は死んでいた。


「あれ、なんだか心地良い⋯⋯って、違う!」


 炎に焼かれる時は、肺が先に焼け焦げ、声が出せなかった。雷を受けた瞬間、意識が弾けて“自分の名前”すら思い出せない。

 平らに潰された時は、自分の身体が“紙”になったのだと思った。


 あらゆる意味で、死は一瞬だった。無力でちっぽけな存在だと、叩きつけられる。


(痛い、と言わせる暇もくれないとは⋯⋯)


 あまりにも超高速に、理不尽に。


「──いやいや、ちょっと待って!? 俺さ、十神の修行で死んだ回数、通算二万回って言ってたよね!!? もう一瞬で三万越えてない?! ねぇコスモ様ッ!?」


 その笑みの奥には、創世を統べる神の審美眼があった。


「ふふふ⋯⋯心地よく死ぬことに、慣れちゃいけないわよ?」


 ツッコミを入れる余裕もなかったけど、それでも──十柱の神々と過ごした記憶が蘇る。


 斧神グレンにしごかれた膂力(りょりょく)、鎚神ララたんに鍛えられた耐久力、拳神ダンジンとの手数勝負。


 その全てが、死のループを潜り抜ける糸口になった。


 「やれる、やれる⋯⋯!」


 意思が伴っているなら──段々と予兆を察知できるまで成長した。

 何千、何万回目かの死を乗り越えたとき、カキアが帰還したのだ。


「⋯⋯あっ、お帰りカキア!」


「ふんっ。にゃあは凄いものを視たぞい。霊体ですべてを凌駕する法則を」


「どんな感じだった?」


「霊は主人であり、肉体は召使い──理解すれば、常識を超越する。他の法則は、魂が自ずと結果を出すわい」


 そう語るカキアの声は、どこか深海のように静かで、けれど底知れぬ力を含んでいた。


 いつもの仏頂面で見つめられ、俺は失笑してしまう。でも、それだけで、己の中に不思議な安心が生まれた。

 自分の霊体と魂を、守ってくれているような感覚がするのだ。


「さて、次はいよいよ第三段階よ」


 コスモが、手のひらをかざすと、空間が歪む。けれど、僕はまだ知らなかった。


 これから訪れる"真なる現実"の意味を──

毎日投稿・21日目。ご愛読いただき、ありがとうございます。


コスモの最終試練は、前後編にわたって公開予定。今回はその前編となります。


【21筆までのあらすじ】

ザフィリオンの教えで絵を見直し、猫の喚意庫カキアと絆を結び、隠された者こと──ウィズムの本体を救った雅臣。

十神がひとまとめになっても、撃退できるほどには強くなった。


鍛えた成果をコスモに見せ、転生許可を得よ。


【次回予告】

第22筆 宙より来たりて、終焉を試す

〈創志の試練・後編〉

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