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パパ違い?



___空から幼い少女が降ってきたところを助けたら、パパ!と叫ばれぎゅーっと抱きつかれた。


……もしかしてこれ、俗に言う事案かな?

なんて、そんな答えに辿り着くのも時間の問題で、美少女ならぬ美幼女に抱きつかれて困惑しながらも僕はだらだらと冷や汗を流しながら平常心を保っていた。


幼女趣味では決してない。ないったらない。


後ろからジトーッと視線が滅多刺しで突き刺さってるけど、本当に僕は無罪だ。

だからクラルスとサナはどうかそんな視線を向けないでほしい。


僕は、無罪だ。



「オイオイ勇者様このヤロー、これは一体どういう事ですか〜?ついに幼女趣味にお目覚めで?アハハ、それでも勇者様ですかこのヤロー!」


「誤解しないで。僕はなにもしてないんだ。ただ、この子が突然抱きついてきて……」


「むぅ……わたしは『この子』って名前じゃない!わたしの名前はフォルトゥーナ!パパったら、子供につけた名前も忘れちゃったの?ひっど〜い!」


「「………パパ?」」



……みんなで顔を揃えてこっちを向かないでほしい。

僕は何も知らないし、何も分からないし、第一この子の父親なんて、絶対なにかの間違いだ。


抱きついていた女の子……フォルトゥーナと名乗った少女を地面に下ろせば、残念そうに口を尖らせて不貞腐れる。



「にしても……まさか空から子供が降ってくるなんて、珍しいこともあるんですねぇ〜?し・か・も!落ちてくるのを見つけた途端、すぐにかっ飛んでいく勇者様には毎度本当にびっくりさせられているんですが。バカは加減というものを知らないんですか〜?」


「も〜!サナおばさんってば心配性だね!パパがそんなヘマするわけないじゃん!」


「だーれがおばさんですか誰が!一歩譲ってフィデスが父親役なのは置いておいて、次おばさんなんて呼んだらそのお綺麗な顔の皮ひん剥きますよっ!!」


「待って待って、サナさん待って。一歩譲って僕が父親役なのは置いておくとしても、子供の前でそんな怖い言葉使わないでほしいかな!?」



この人は本当に常軌を逸した言葉遣いをするもので、子供の耳に聞かせるには少々毒だ。

それも医者がそんな言葉を使うものだから、彼女の性格も相まって逆鱗に触れたら普通に顔の皮を剥いできそうだ、なんて仲間ながらに畏怖を感じる。


しかし、そんな彼女もちゃんと医者ではあるので、空から落ちてきたフォルトゥーナの容体をよく問診していた。



「ここを触っても痛くないですか〜?ならここは?普通に曲げられますか?」


「うん、心配しないで!わたし、普通の人より頑丈なんだから!」


「ふぅん……まあ確かに、そうみたいですねぇ?あの高さから落ちたら、例え頑丈なフィデスにキャッチされたとしても骨の一つや二つ折れても不思議じゃないんですけど。」


「ふふん、わたしってばパパの血を強く引いているからね!」


「……らしいですけど?」



そんな粘り気のあるジトリとした目で僕を見ないでほしい。

僕にそんなことをやらかす心当たりはないし、目の前の少女の年齢的にも普通に考えて有り得ない。


なんと言っても、顔立ちも髪色や目の色も、僕と似通ったところなんて一つもないのだから。


そんなことを考えていれば、後ろから荷物を持ってクラルス、グローリア、ニヒルが揃ってやって来た。



「はあ……全く、フィデスはいつ子供を授かったんだい?こんな重要なこと、どうして拙に教えてくれなかったんだ……拙は悲しいよ。」


「勇者を揶揄ってないでこの子供をどうにかする策を考えろ。」


「えっと、次の街に着いたら養母を探すのはどうでしょう…?」


「なるほど、養母か……」


「え、ヤダ。わたし、パパから離れたくないもん。」



そう言って僕の足にぎゅーーっと抱きつく女の子だったが、眉間に皺を寄せて何かを考えているその顔には、何か訳があるんじゃないかと疑うほかなかった。


女の子のその反応にみんなは目を見合わせて、困ったものだと首を捻ったりため息を吐いたりする。


僕はこの子を悪い子ではないとは思うが、今から行く旅にこの子を連れていくのはとても酷だ。

普通に足手纏いでもある。


というか大体、僕は君のパパじゃない。



「で、フィデスはどうするつもりだい?この子、離れる気はないみたいだけど。」


「ふふん、さっすがニヒル!わたしのことよく分かってる〜!」


「……そもそもこの子供は何者だ。どうして空から落ちてきた?魔王の手下か?」


「クラルスおじさんは頭が硬いね!わたしが空から遣わされた世界一かわいい天使様だっていう考えはないの?」


「それなら僕の子供じゃないね。」


「やっぱうそうそうそうそ!わたしパパの子供だよーっ!認知してよ〜!!なんでー!?うえええん!」



足元で泣き真似をするこの子は、僕の子供という意味のワードを酷使する。

何よりも、このぐらいの歳の子供にしては妙に語彙が多いというか、それと所作の節々から育ち良さを感じた。


それこそ王家の子供のような服を着ているし、ドレスの品質は僕でも分かるほど良質なものだ。



「きみは……どこかのお嬢様かな?」


「!」


「……俺たちの名前を知っているということは、宮殿で暮らすような貴族だろう。だが何故こんなところにいる?」


「まあ、そもそもそんな貴族のお嬢様が空から落ちてきたっていうのも謎だね。きみ、空から落ちる前のこと覚えているかい?」


「うーん、よく覚えてない!!」


「あははっ、そんな胸を張って言わなくても……」



なんとなく……裏があるな、と思ったけど、同時にそこに嫌悪感は抱かなかった。


それもそうだ、この子は空から降ってきただけのただの子供なのだから。…嫌悪感を抱くはずもない。

僕は少し考える素振りを見せて、フォルトゥーナを見やる。


容姿は一般的な町娘と比べたら頭一つ抜けている、御伽話の天使のような美しさを持ち、そこはかとなく神秘的なオーラが漂っているような気がしなくもない。

その上で高価なドレスを身にまとい、髪飾りや身につけている宝石などはきっとその一つ一つが百万ドーチェはくだらないだろう代物。


そんな少女がどうして空から降ってきたのかという疑問は、改めて考えてみると確かに空から遣わされた天使と考えられても不思議じゃない。

しかし現実的じゃないアイデアに、軽く首を振って思考を現実に戻す。


天使なんて、この世界ではあってないようなものだ。

そもそもこの世界には既に神がいないのだから、存在する理由もない。


僕が真剣な顔をして考え込んでいたからか、フォルトゥーナはぐいっと僕の服の裾を引っ張った。



「わたしっ、パパの役に立つよ!役に立てる!絶っっっ対!!誰よりも!だから……!お願い、わたしを勇者パーティに入れて!!」



うるうると桃色の宝石のような瞳を揺らし、僕に懇願するフォルトゥーナ。

そこに迷いはなく、まっすぐな心からの声だった。


思わずその美幼女に目を瞑って悶えそうになったが、決して幼女趣味ロリコンではない僕は一つ息を吐いて少女を見る。



「ダメだよ。これから僕たちは危険な旅に出るんだ、だから君はお留守番。」


「や〜だ〜ぁっ!お留守番って言って、パパまた帰ってこないつもりでしょ!そんなのやだ!やだやだやだぁ〜!!うわあああん!!」


「ウッ。よ、よしよ〜し!僕が悪かったから、泣き止んでくれると嬉しいなー?」



困った、本当に困った。

この子供、頭はいい癖に聞き分けはすごく悪いらしかった。


チラッとクラルスやニヒルを見てみれば、首を振ってはやれやれという動作をするばかり。

グローリアの方を見てみれば馬車の中の荷物を整理していて、サナはそんな馬車で呑気に寝ていた。


ちなみにそんな馬車を引いていたのはクラルスだ。

帝国の大騎士と呼ばれてるだけあって、すごく力持ち。


そんな彼がフォルトゥーナの前にやってくれば、威圧たっぷりにこう言い放った。



「ならば証明して見せろ。お前が役に立つという証明を。」



背負っていた大剣を地面に突き刺したクラルスの言葉で、ピリッと少し張り詰めた空気感が漂う。


クラルスは自他共に認める真面目で厳しい騎士だ。

一人で邪竜の群れに飛び込み、ものの数分で百体倒したという生きる伝説の話は、彼のその性格が一因でもある。


よく言えば真面目でストイック、悪く言えば過酷と厳しさが天元突破したような存在。

趣味が己の限界を知ることとあるように、いわゆる脳筋バカなのである。


こんなこと、本人を前にしたら決して口には出さないけど。



「………うん。いいよ、証明。わたし、パパの役に立つって証明をしてみせる!」


「そうか。なら戦え、武器を取れ。俺から一本取れたら合格だ。」


「オイオイ勇者様ども、ちょっと待ちやがれください〜?証明とやらは3日後にすればいいでしょう。空から落ちてきたんだから、あの野郎と戦うならアンタは少し安静にしていやがりませ。いくら頑丈でもあんな筋骨隆々な低知能野郎と戦うなら、一度考え直した方がいいですよ。」


「……女医、どういうつもりだ?3日もこの子供を連れて旅をするとでも言う気か?」


「はぁ……どうせ次の街までまだ時間はかかるんです。この子供をここに置いていく訳にはいかないでしょうよ。」


「………次の街までだ。」


「らしいですよ、フィデス。」



最終的に僕に話を振るのやめてくれないかなサナさん。

そう思いながらもあはは、と苦笑いをすれば、顔をくいっと上げて馬車に乗れと合図をするクラルス。


しかし話を聞く限り、証明をするにはこの子がクラルスと戦うことはもう決定事項なのかと内心頭を抱えた。


ここには常識人はいても、常識を持ったツッコミ役が僕以外いない。

みんながみんな自由奔放なのだ。


女医のサナはどこでも寝るし、魔法使いのニヒルは道ゆく雑草に水をぶちまけて魔法で花を咲かせて遊んでいるし、聖女のグローリアは見えない精霊とお喋りしているし。



「それで……改めて聞くけど、君は本当にクラルスと戦うつもりなのかな。」


「もっちろん!パパにいいとこ見せたいし!」


「いやだから僕は君の父親じゃなくてね……」


「うえええん!パパが認知してくれないいいー!!ハッ……まさかパパには、既にわたし以外の腹違いの子がいるってコト!?そうだよね……パパはイケメンだもんね……腹違いの子供の一人や二人、三人や四、五人いてもおかしくない……」


「いやいやいや、それこそ絶対ありえないからね!?一旦落ち着いて!」


「じゃあ認知してよー!!」



それもちょっと難しいというか、認知も何もないというか。

困ったように頬を掻けば、次に行く国へのルートを地図で確認する。


するとまっすぐじっと見つめる瞳が上から突き刺さっているような気がして、ふいに顔を上げた。



「知ってる?わたしの名前はフォルトゥーナ!『幸運』のフォルトゥーナ!パパがつけた名前なんだから、ちゃんと覚えてよね!」



馬車の座席の上に立ち上がった少女は僕を見つめる。


少女のその瞳に宿る眼力と、西陽を背にしたせいでふいに見えたオーラは力強く、全身を使って''わたしを見て''とでも言っているようだった。



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