file.09 婚前調査
「婚活中に婚前調査って珍しいよね。まだ婚約前ってことでしょ」
珠莉が疑問を呈する。
「昔に比べると色々なリスクも増えてるってことかな。いいんじゃない?俺みたいにしちゃってから失敗するよりは」
「所長はバツイチだもんね」
と諒介のプライベートを曝しつつ
「これによるとモラハラかもしれないってあるけどそこまでわかってるならお断りすればいいんじゃないの?」
「おつき合いを続行したいだけある好物件なのかもね」
秋人は手元のノートパソコンいじりながら
「ちょっと調べただけですけどコイツまだ婚活パーティに参加しまくってますよ」
「それは調査終了かもね」
と話していた調査だったが数日後
「前の婚前調査続行だって。それも試しに交際してみてほしいとの依頼だ。うちはこれができる女子はお前さんだけだからな。嫌なら断るけど」
「大丈夫、受けるよ。正体見破ってやろう」
*
初手として婚活パーティに参加し無事にターゲットの指名を勝ち得た珠莉。その後2人で会う約束を取り付ける。
「今日は秋人が実家の日だから俺がバックアップに入るけどくれぐれも無茶するな。男と2人きりで会うんだから」
「この位で、あんたはお父さんか?」
と笑ってみせた珠莉だったが。
デートは男の希望で夜になった。魂胆は明らかだが乗るしかない。連絡のやり取りで指定されたレストランに向かう。食事中の男の態度は予想外に普通だった。店員への態度も申し分なく注文したメニューがないというハプニングにもがっかりはしても不機嫌にはならない。モラハラの兆候は今時点では特には見られなかった。
「今日は楽しかったです。良かったら2軒目どうですか?」
確かに今のところは感じの良い人だった。飲んだら変わる可能性も見極めるためにもと予定になかったが珠莉は独断で誘いに乗った。
「行きつけのバーがあるんです」
「いいですね」
*
男の案内について行くと飲み屋街を通ってホテル街に入っていく。
「あの…お店は?」
「せっかくだから個室で2人でゆっくり飲むのもいいかと思って」
(あぁ、これはヤバいやつだ)
「帰ります」
と踵を返しかけたところを腕を掴まれ路地に押しやられた。路地の入口を男の身体で塞がれる。奥に逃げようとするとすぐに行き止まりだった。
ジリジリと近づいてくる男の股間を蹴り上げるが硬い感触に一瞬怯んだ。
(ファールカップ!?)
そこを蹴りの足を掴まれて引き倒される。咄嗟に頭を抱えて庇ったが背中を強打して呻く。すかさず顔面にきた蹴りをどうにか手でブロックする
「瞬きもしない。暴力には慣れてるタイプか。面倒だな。じゃあ、こっちでおとなしくなってもらおうか」
のしかかられ首をしゃぶられる。
(気持ち悪い!)
手の自由を取られまいと抵抗していたが右腕を掴まれ頭の上で押さえられる。気を取られた瞬間力任せにワンピースを引き裂かられブラをずり上げられる。そのまま男は胸にむしゃぶりつく。
「ほら、抵抗すると乳首を噛み切るぞ」
「いっつ」
怯んだ隙に両手をまとめて拘束される。空いた手で胸を思う存分に蹂躙された。
「こっちも」
下に手を伸ばす。
*
「すみませーん、それうちの子なんですよね」
と飄々と諒介が姿を現す。
「なに、美人局登場?」
「人の可愛い子に何してくれてるのかなーって」
「何をー」
と珠莉を放し立ち上がろうとしたした男の顎に蹴り一閃。男はふらりと揺らめいて横倒しに倒れ沈黙した。
「ごめん、油断してた」
ホッとしながらもバツが悪そうに珠莉は言う。
「独断専行、気をつけてくれよ。ほら、手震えてるじゃないか。立て…ないよな」
軽く震えながら頷き珠莉は
「自分で自分が情けない」
と落ち込む。それに対して諒介が労わって
「気持ち悪かった?」
「うん」
「俺が消毒してやる、どこ?」
「ふふ、消毒?」
と珠莉は笑いつつも
小さな声で
「ここ」
と首すじを指す。諒介は躊躇なく首筋に口付けながら珠莉についた汚れを拭い去る。
「ここも」
と胸を指すがさっき噛まれた所に少量の出血があった。
「痛かった?」
黙って頷く珠莉。
「じゃあ、優しく舐めて治そ」
舌で乳首を包み込むようにして吸う。蕾なその頂点をぺろぺろ舐める。
「ん、はぁー」
と思わず珠莉から声が漏れる。勢いづいて諒介は口付けたのと反対の胸を手で撫でて指で乳首に刺激を与える。
「あ、そこは……、あん、あぁ」
身を捩らせて珠莉は喘ぐ。
それを見ながら
「ここは?」
下にやろうとした諒介の手を押さえて
「そこは触ってなーい」
と珠莉がツンとして答える。
「なんだよお前さんも賢者タイムとかあんの?」
「ないし、まずイッてないし」
と顔を見合わせて2人は笑う。震えも取れて立ち上がる珠莉に手を貸しながら
「はー、とりあえず依頼者はうちに来てもらって正解だったな」
「だねー。正体わかって百年の恋も冷めるってやつだよ」
「ただ報告書どう書くかなー?」
「今の詳しく要らないからね!ヤラれそうになっただけでいいから!」
「そう思うなら自分で書きなさいよ、報告書」
*
2人が任務を終えた頃、実家の自分の部屋で秋人は座っていた。前髪は一つに結んで顔は晒している。ノックがされた。秋人の部屋に父親が入ってくる。後ろ手で鍵をかけた。
「準備はできてるか?」
「はい」
「じゃあ脱ぎなさい」
静かに服を脱いで全裸になる。その間に父親は部屋の奥のベッドに腰掛けた。
「来なさい」
近づき父親の足元に跪く。父親が頷くとその股間に手を差し延べてべルトの金具を外しジッパーを下ろして中のモノを取り出す。既に岐立しているソレに手を添えて待つ。
「何年経っても消えないなこの生意気な眼の光は」
と眉を顰めて父親が言う。
「それを屈服させるのが又楽しみなんだけどな。さあ、しゃぶれ。犬みたいに」
「はい」
身を屈め舐める秋人の頭をガシッと足で押さえつけ
「犬のように、だ」
黙って四つん這いになり秋人は父親の言うなりになった……
*
(終わった、終わった……)
ふと違和感を感じた。普段は事が終わったら黙って部屋を出ていく父親が秋人を横抱きしたまま離れないのだ。
「……父さん?」
「なんだ?」
(なんだ?ってなんだ?)
「お仕事やあちらのお家は……?」
「なんだそんなことか。今日は朝まで一緒にいられるぞ」
地獄の夜の始まりだった。
(珠莉様、助けて……)