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人質から始まった凡庸で優しい王子の英雄譚  作者: 咲良喜玖
両雄の激突 第六次アージス大戦 

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第91話 戦いの分かれ道となる四日目

 アージス大戦初日。

 右翼ウォーカー隊のみが戦いに勝利して、中央フラム軍は待機の形となり、左翼スクナロ軍は互角の戦場となった。

 戦いは三者三様。

 この結果は、二日、三日と日付が経っても変わらない。

 ウォーカー隊は睨み合いをして待機となり、フラム軍は陣形だけを整えて膠着状態のままで、スクナロ軍は互角の死闘を続けていた。

 フラム軍もウォーカー隊と似たような状況ではあるのだが、一度も戦ってもいない彼らの方が、疲労度が凄まじく、それはおそらく目の前にいるネアル軍の圧力が強いからであることと、ウォーカー隊はそもそも戦えるチャンスを窺っているので、今か今かと戦闘をしたい気持ちがあったからこそ、同じように待機している状態でも気苦労のような部分が無かったのである。


 戦いが動かない三日間が終わり、四日目の早朝。

 王国中央ネアル軍の本陣にて。


 「はぁ。ビビりだな。あいつ。誰だったか。敵の大将は」


 テーブルに肘をかけ、頬杖ではなく額杖をしたネアルが吐き捨てるように言った。

 こめかみ辺りを親指と小指で揉みながら、嫌々そうにも言っていた。


 その姿からは相手の力量が自分の実力まで来ていない。

 お前は私の相手ではない、ただただ不満であると。

 目の前ではっきり言いたくてたまらなく、今ここで大声で叫びたいくらいでもあった。

 自分のこのどうしようもないモヤモヤした心を、満たしてくれない敵に不満は募る一方であった。


 「戦うことを恐れているようですね。王子。大将はフラムという男らしいですよ」


 ブルーが優雅に紅茶を運んできた。

 王子はそれを額杖をしていない左手で取る。


 「つまらん……とにかくつまらんな。これだったら去年の弟の方がまだマシだ。あれの方がまだ面白かったな」

 「確かに、そのようで」

 

 王子は一口飲む。


 「うむ。よい。ブルー。お前のが一番だな」

 「お褒めに預かり光栄です」


 少し機嫌が戻った。

 退屈から解放されたがっていた心が少しだけ癒される。


 「そうか…で、どうしたらいいかな」

 「王子のお好きなようにすればよろしいかと」

 「んんん。私はお前に指揮を任せてもあいつを倒せそうだなと思ってるのだがな。どう思う」

 「私がですか。そうですね。あの陣、左翼が弱いです。あそこを起点に崩壊させることが出来ましょう。おそらく、少し小突いた程度でよいはずです」

 「はははは。流石だブルー。良く気付いているな。よし、仕掛けようぞ。では、今までと同じように陣形を整えていると見せかけて、途中で右翼だけを反転させろ。バールマンにそう伝えよ。蹴散らして来い。暴れていいぞとな」

 「はっ。伝えにいって参ります」

 「うむ。頼んだ」


 王子はまた一口、紅茶を飲んだ。

 余裕な王子はこの日の開戦を待つ。



 ◇


 正午。

 開戦の合図とともにフラムは、ネアルの前で陣を敷くだけにして何もせずにいた。

 恐ろしいほどの美しいネアル軍の陣に、恐れを抱きすぎていたのだ。

 だがそれでも今まではよかった。

 何もせずともあちらも数の不利で何もせずにいてくれたのだ。

 このままでいれば、自分は負けないであろう。

 そうなれば、我が軍ではなく、左右軍どちらかの戦場が勝てばいいのだからと消極的思考をしていた。

 だが、それはいけない思考だった。

 相手が普通の人物であればそれでもよい。

 だが、相手は天才。

 ならば相手が思いもしない策で攻撃せねばならなかったのだ。



 両軍の動きは開戦時からの動きと全く一緒。

 王国軍は前日、前々日と全く同じ陣を敷く動きを見せていた。

 フラムもまた同様に、相手を抑え込む振りのための包囲をすぐにでも出来るような陣を敷く。

 流れるようにいつもと同じ陣形にしていく両者。

 だがここで一部におかしな動きが出た。

 それはネアル軍全体も知らぬ動きのようだった。

 ネアル軍の中央と左翼側に少し動揺が走っていたのが分かる。

 こちらから見ても、変化する陣への移動が少しだけ遅れているのだ。

 そう仲間が虚を突かれているならば、当然。敵はもっと虚を突かれている。


  

 フラム軍はその動きを見て、完全に動きを止めてしまった。

 ネアル軍のその瞬間的な動きにだ。

 フラム軍の中で、敵軍の意図を組んだのはただ一人である。


 「まずい! 急げ、おそらく左翼。こちらの陣形変更も遅いぞ。くっ。厚めに陣を。予備兵も中央から移動させろ」


 指示が遅くなってはまずいとフラムは叫んだ。

 彼のみがこの敵の攻撃場所に気付いたのである。

 だから彼は、決して愚かな将ではない。

 優秀な指揮官なのだ。だが遅れた。判断に遅れてしまったのだ。


 「な!? 何たる一撃。一瞬であれほどの突撃を・・・・」


 敵の突撃は、フラムの予想以上の破壊力だった。

 自軍の左翼に穴が開くと、もうそこを塞ぐことが出来なくなった。

 穴は広がり、もはや穴じゃない。

 左翼の上層の部隊が壊滅状態へとなった。

 敵はまだ深部に入り込む。中層にまで到達しかけている。

 

 「壊滅するわけには……左翼を切り離して一時退却する。中央、右翼をともに後退させよ!」

 「はっ」


 戦争を継続させるために、壊滅しかけているフラム軍左翼を捨てたのだった。



 ◇


 帝国左翼スクナロ軍。

 

 「はぁはぁ、どれくらい失った」


 激闘に継ぐ激闘で、スクナロは疲弊していた。

 エクリプス軍の圧力に決壊せずにいるのが不思議なくらいに押されていたのだ。

 敵は本陣の喉元まで迫っている。


 「スクナロ様。計2万以上は失ったかと」

 「そうか・・・敵は」

 「敵軍は1万2千ほどです」

 「むむ。向こうが強いか。しかし・・・・これ以上は負けるわけにはいかないな」


 スクナロ軍は立て直しのための指示を出す。


 「これは、引けばやられる。押せ、押して陣形を整えるぞ。いいな!」

 「はっ」


 スクナロ軍は前に出てこそ勝機があると陣形を動かし始めたのだった。

 だが、敵の進軍は止まることはない。

 進み続ける敵軍は、スクナロの目の前にまで迫る。


 崩壊しかける帝国左翼軍は戦争開始四日目にして壊滅へと向かっていた。



 だから、帝国は軍全体が壊滅の危機に陥っていた。

 ウォーカー隊だけが待機だとしても、他の局面がピンチになっていれば、いずれどこかの戦場の戦況が傾けば、残りも危険であるのだ。

 連動する戦場では、容易に万単位の挟撃を仕掛けられる。

 だからフュン自体がピンチじゃなくても、ここは大変に危険な場面であったのだ。


 アージス大戦四日目。

 帝国は壊滅寸前まで追い込まれ、敗北は濃厚となっていた・・・。




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