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人質から始まった凡庸で優しい王子の英雄譚  作者: 咲良喜玖
最終章 アーリアの英雄の結末

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第412話 心に太陽を 共に明日を目指す

 アーリア歴10年1月1日。


 王都アーリアのバルコニーから、フュンの挨拶が始まった。

 これが最後の表舞台。

 それが分かるのは、今日のこの日に、この時に彼の言葉を聞いた者たちだけだ。


 最後だけど、彼の雰囲気はいつもと変わりがない。

 優し気で、気さくな王様だ。


 「皆さん、フュンです。十年も王様をした。フュンですよ。これ実感がなくて困ってます。皆さんもですよね」


 王様らしい仕事をした!

 と胸を張って言えるのは、少しくらい。

 よく考えてみれば、即位してすぐにワルベント大陸との決戦でロベルト在住になり。

 その後も、世界との戦いをしたために、他大陸にいた。

 それでさらに帰って来ても、眠っていたので、ほぼ表に出ていない。


 だからフュンは全く王様らしいことはしていない。

 でも、民たちにとって、そんな事は些細な事。

 フュンという個人を信頼していたので、別に王様がいなくても不満がなかった。


 「ええ。でもですよ。皆さんの顔は良い! もうね。元気一杯で素敵です。これが良い。いいですか。皆さん、何があろうとも笑顔。そして前向きな気持ち。これが物事の成功の秘訣です。だから忘れないでください。前を向くこと。笑顔でいる事・・・皆がこれを忘れないでいれば、物事はきっといい方向に向かうはずです。僕みたいにね。なんとなく上手くいくんですよぉ」


 自虐を込めた本心。

 笑顔でいれば、明るくいれば、きっと上手くいく。

 フュンらしさ全開のお言葉だ。


 「王の自分じゃない。フュン・メイダルフィアとしての自分は、長きに渡る戦いをしていました。自分の運命。人質。辺境伯。太陽の人。大元帥。そして王。これらの変遷の中。僕は生死を彷徨うような戦いを幾度も繰り広げていましたね。結構大変でしたよ」


 口調は軽い。

 でも中身は決して軽くない。

 フュンの人生は重たい人生だ。


 「でもね。そんな中でも僕のそばには仲間がいました。それと皆さんがいました。皆さんの支えがあって、僕は強くなれましたよ。感謝します。民の皆さん。あなたたち一人一人が僕に力をくれました。だから今日まで生きてこられましたよ。これは運が良いでは片づけられない。これは応援を貰えた事が僕にとって、とっても良かったんですよ」


 皆の力のおかげで、自分は生き延びた。

 そして、この国も生き延びた。

 もし力を合わせずにいたら、この大陸の今は、恐らく奴隷だ。

 至る所で搾取が始まり、民が苦しい生活を強いられていただろう。

 それを回避したのが、何と言っても団結力だ。

 アーリアが一丸となったから、国難を乗り越えた。

 フュンが言いたい事はそういう事だった。

 それをこの国の民は理解している。


 「僕は今日・・・ここで王を引退します」


 明るい話の流れとは違う。

 この一言で、民たちがざわついた。


 「でも、僕は一つも心配していません。なぜなら、僕と共に歩んでくれた民たちが、とても強いからです。それと、僕の愛する子。アインも強く育ってくれました。そしてこれからですよ。君たちと共にアインも成長し、そして国を強くすると信じています。次なる世代も力強い。僕はそう思っていますよ」


 民と次世代に託す。

 フュンは優しい口調で話していた。


 「僕らは、渡します。国の未来を。人の思いを。そして平和をです。でもこの先は分かりません。戦う未来が来るのか。それとも、戦わずにしてよい未来が続くのか。これだけは僕にも分かりません。なので、僕らの思いを受け取ってくれた人たちが、次の未来を描いてほしい。君たちが考えた結果は、君たちの責任となります。そして、僕が考えた結果は今です」


 行動を起こした先の結果なんて、誰にも分からない。

 特に未来への結果は未来の人にしか分からない。

 でもフュンが描いたのは今だ。

 それを提示する。


 「今、アーリアに平和があるのは、僕らが結んだ条約が作用しているからです。オスロ。レガイア。アスタリスク。アーリア。それぞれが協力関係の世だから出来た事です。これは僕らが描いた理想の世界です。世界は近い。僕らと他国はかなり友好的な関係ですので、有益な結果を生みました。平和への想いはここで成りました。今は! 平和であります」


 自分たちの想いが完成となったのが、この時。

 停戦。平和条約。

 この双方が上手く機能する内は、安全な世界となっている。


 「ですが。この先は分からない。僕らの後。この平和を維持するのか。それとも、この想いを忘れてしまって、戦ってしまうのか。ここだけは僕にだって分かりません。あなたたちにだって分かりません。人の気持ちは変化しますからね」


 だからこそ、託す思いがここにある。フュンは、常に未来を見ている。


 「僕はしょっちゅう考えています。いいですか。この先の皆さんの人生。この国の行き着く先。それは僕が決めるんじゃない。あなたたち一人一人が決めるんです。王が君臨する国として、アーリアはこれからを生きます。ですが、思いは民の分だけ存在してもいい国になるのです。上から、君たちを押さえつけような真似はしません。だから、アーリアが気を付けるのは、あなたたちの意思を汲み取る王です。今回、僕の次を担う王は、アインです。彼はこの先のアーリアの為に、存在していきますので、皆さんもアインと共に成長しましょう。一人一人が平和を考える国。それが次のアーリア王国となって欲しい」


 次世代に全てを託す。

 フュンの思いがここにある。


 「共に考え。共に生きる。アーリアの理念をここに置きます。隣同士だった。ガルナズン。イーナミアは、ここではもう敵じゃないですよ。今や仲間です。融合は果たされたと僕の代で思います。なので、次なる世代はそんな事も考える必要もない。それくらいに柔軟な思考を持っていいはずだ。皆さんは、新たな考えで、この先を生きてください。アーリア王国ならば、それが出来るはず。だってね。二つの国家が全く別な国になって一つとなるなんてね。たぶん。世界でもないでしょう」


 明るい口調へと変わる。


 「ワルベント。ルヴァン。イスカル。これらの国の歴史にだって絶対にない。僕らは戦いの後に、完全に融合できた。そう信じています」


 反対側の勢力を皆殺しにしなかった。

 それがフュンの国家だ。人々の融合。意識の融合。

 だから、アーリア人としての自負を持たせることに成功している。


 「それじゃあ、皆さんならば大丈夫だと思いたいので、僕の声に答えてください」


 フュンは一呼吸を置いた。

 

 「いきますよ。皆さんならば、出来ますよね。僕がいなくても、次へ進むことが出来ますよね。どうですか!」

 「「「・・・・」」」

 「あれ?」


 今のだと返事がしにくいなと思ったフュンは、訂正する。


 「そうですね。わかりました。では、あらためていきます。アーリア王国を大切にする我らは、成長する。他国に負けぬ発展をして、そして追い抜くのだ。その気概をもって、ここから大発展を目指す。そのために目下の目標を設定しよう。それは、アーリアが世界一の技術を手に入れる事だ。よいかな。ここを正念場として、努力をする時。追いついて追い抜く。そして他国を突き放す。その気持ちを、皆さんで持ちますよ。いいですか。アーリア人たちよ」


 フュンが手をかざすと、その声は国中に響いた。


 「「「あああああああああああああああああ」」」


 目指すべきは、平和ともう一つ。

 技術である。

 技術差のあるアーリアが、ここでも負けなければ、人材豊富なアーリアがこの先を負けるはずがない。

 ここに差が生まれれば、他国も容易にこちらを攻めて来ることはないはず。

 アーリア第一のフュンらしい言葉だ。


 「世界に負けないように。僕らの数歩分の遅れは、必ず今に取り戻す。君たちならば、絶対にできる! 過去を知り、今を見て、未来を描け。アーリア王国よ」


 「「「おおおおおおおおおおおおおおおおお」」」 


 力強い歓声が湧いた。


 「これにて、フュン・ロベルト・アーリアは、王を引退する」


 湧きあがる歓声から、一転して静かになった。

 静寂な王都は、自分の鼓動が聞こえる程。


 「僕は、次なる世代に想いを託して、皆を見守ろう。いいですね。皆さん。僕は引退しても、必ず皆さんの心の隣にいますよ。僕もですけど。これからを頑張りますので、皆さんも共に頑張りましょう! 今のアーリア王国は、僕らが土台となったけど。今度のアーリア王国は君たちが土台となるんだ。そして君たちが未来の人の為に、思いと国を作り上げるんだ。君たちが君たち自身の為に、国や世界を良くしていってくださいね! 信じてます。アーリア王国初代王。フュン・ロベルト・アーリアとして国民の皆さんを。そして、一人の人間」


 フュンが最後の言葉に力を込めた。


 「フュン・メイダルフィアとして、僕の同胞。アーリア人の君たちを信じます! 僕はより良い未来が、この先にあると。君たちを信じてますよ~。それでいいですよね。それでいいはずなんです。だって信じてますから! あなたたちは、こんな能天気な僕と共に生きてきましたからね。いつも笑顔でいられる! アーリアの未来を明るいものにできます。素敵な未来を、共に歩めるはずです。だから、皆さん! 明日を楽しく生きましょうね」


 フュンらしい言葉と言い方。

 それは民たちにも伝わった。

 難しい言葉を並べるわけでもなく、フュンの素直な気持ちから来る演説は、民の心を打った。


 「「「「あああ!?&%!?!」」」」


 最後の方はもう声にもならない声が、王都中を駆け巡っていった。フュンの思いを受け止めた民たちは王が引退するというのに大熱狂したのである。

 太陽を心に置いて。

 共に明るい未来を描くために。

 今よりももっと良い時代を築くために。

 彼らは新たな世を築こうと努力する・・・。



 


 アーリアの英雄フュン・メイダルフィアの人生はこうして幕を閉じた。

 この後の彼は、アーリア戦記には出て来ない。

 彼が表立ってアーリア王国を動かした記録がないのだ。

 

 でも彼の意思のようなものは、この先のアーリアでは記録されることになる。

 この後のアーリアは、異常な発展を遂げる。

 産業革命。技術革新。

 このような文言が、この先のアーリアの歴史に刻まれていく。

 それは、二代、三代と続いて。

 歴代のアーリア王の系譜の中に、彼の意思が垣間見える事になるからだ。


 彼は、アーリアの基礎となった。


 彼がいたからアーリア大陸は救われたのである。

 もし彼がこの時代の大陸に存在しなかったら、このアーリア大陸ごと存在しないのだろう。

 世界全体もこんな歴史じゃなかったはずだ。


 だから、フュンがアーリアの英雄と言える。

 今の時代を築いたのは、間違いなく彼だから。

 過去が現代へと繋がっていったのだ。


 ちっぽけな人質の王子様は、大陸の英雄となり、平和への想いを未来に託した。

 このフュン・メイダルフィアという名は、アーリアが続く限り、人々の太陽として輝き続けるのである。


 英雄は歴史となり、伝説となった・・・。

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