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人質から始まった凡庸で優しい王子の英雄譚  作者: 咲良喜玖
最終章 アーリアの英雄の結末

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第410話 愛するウォーカー隊へ 再集合だ

 アーリア歴9年12月20日。


 フュンは、王都城の一室にウォーカー隊を集めた。


 「エリナ。マールさん。カゲロイ。ミシェル。タイム。リアリス。ゼファー。サブロウ。マサムネさん。ちょっとお話いいですか!」


 いつものテンションのフュンだから、皆も明るく返事をする。


 「「「おう」」」


 リラックスしているメンバーに対して、フュンもリラックスしていた。


 「それじゃあ、僕ね。王を引退するので、皆さんに聞いておきたい事があります」

 「何でしょう。フュンさんがそういう風に話を聞くのは珍しいですね」

 

 自分の近況に混ぜ込んでの質問は珍しい。

 だからタイムが最初に聞いた。


 「ええ。皆さんは、僕が引退したらどうします」

 「どうもこうもな。学校があるしな。マール」

 「ああ。教えるしかないですぜ」

 「だよなぁ」


 エリナとマールの二人は、先生という職業を楽しんでいた。

 

 「そうですか。でもですよ。お二人も、お休みをもらってですね」

 「休み? 急にだな」

 「はい。一緒に旅をしませんか?」

 「え? 旅??」

 「はい。マサムネさんとサブロウには、前にも誘っているんで、来てくれますよね」

 「おうぞ。おいらはいくぞ」

 「俺もだ。旅は楽しいぜ」


 二人は簡単に返事をする。

 意外と重要な事なのだが、すぐに返事を返した。


 「それって、私たちもって事ですか。フュン様」


 ミシェルが聞いた。


 「はい。僕の大切なウォーカー隊の皆と、一緒に旅に行こうかなって思いましてね。世界一周旅行をするんですが。これを三年後くらいに計画しています」

 「世界一周!?」


 リアリスが驚いた。


 「はい。ジャックス陛下が協力してくれて、オスロ・アーリアで旅行するんです。豪華客船って言うんですか。なんか旅用の船を作ったらしくて、それで世界を回るんですよ。面白そうじゃありませんか。楽しい思い出を皆で作りたくてですね。どうです」

 「・・・フュンさん。それって。リースレットも連れていっても良いんですか」

 「ええ。もちろん。奥さんですもん」

 

 妻同伴もありだ。 

 フュンは即答した。


 「じゃあ。僕行こうかな」

 「ええ。タイムは来ると。どうです皆さんは」


 他にも聞くと、悩むのはカゲロイだった。


 「俺は・・・そうだな。リアリス。いくか」

 「え。私」

 「ああ。お前に買ってやるって言ってた約束。守らねえとな」

 「は?」


 何の約束だ。

 リアリスは首を傾げた。


 「ネックレスとかさ。あの時金を持ってなくて、駄目だったろ」

 「ああ。あれか・・・ええ、今頃」

 「ちょうどいいじゃん。どうよ。フュンとの旅だぜ。楽しいんじゃねえのか」

 「殿下とね・・・たしかにね」


 若い頃から一緒の殿下と旅をする。

 良い思い出になるのは決まっていた。

 

 「そうね。あたしもいくわ」

 「よし。じゃあ俺もだ」


 リアリスとカゲロイが参加となった。


 「決まりだ。よし。ミシェルとゼファーは?」

 「我は殿下あるところに我ありです」

 「私も同じくです」

 「・・・似たもの夫婦で・・・まったく」


 自分の為に動くと、頑としてその意志だけは動かない夫婦だった。


 「じゃあ。マールさんとエリナは?」

 「そうですぜ。あっしは・・・エリナ。お前は?」

 「そうだな。ミラも連れていってやるか」

 「ミラ?」

 「ああ。あいつの遺影とかさ。ザイオンとかザンカ。あのヒザルスのもよ。一緒に持っていってよ。あいつらも、あたいらが全員で笑ってるところを見たいだろ」


 エリナの言葉に賛同したのはフュンだった。

 

 「おお。良い提案ですね。それ採用です」

 「そうか。じゃあ、マールどうする。あたいはいく」

 「そうですぜ。皆が行くなら。あっしも行こう・・・フュン。お嬢は?」

 「ああ、彼女はどうせ来ますから、最後にお知らせしようと思っていました。ジーク様と一緒に」


 フュンの言葉にエリナが驚く。


 「あ? ジークの野郎もか」

 「ええ。ジーク様とナシュアさん。フィックスさんも。皆さんで行くんです。僕らは楽しい思い出をまだ作っていない。たくさん思い出を作りましたが、ここは戦いのない良き思い出を作りにいきましょう!」


 戦いでの思い出はたくさんある。

 修行での思い出もある。

 でも、旅行の思い出がない。

 だからフュンは、皆で行きたかった。

 ゆっくり休んだことのないフュンと。

 そのフュンと共に人生を突き進んでいったウォーカー隊に休息なんてなかったのだ。


 「ふっ。お前らしいな・・」

 「ええ。マサムネさん。僕は変わらず僕です」

 「ああ。それでいいだろうな。この先もさ」


 マサムネが笑うと皆も笑う。

 変わらぬ主君が皆、大好きだった。



 最後にサブロウが、周りをキョロキョロ見てからフュンに聞く。


 「おい。フュンぞ。ニールとルージュは?」

 「ええ。二人も来ますよ。当然です」

 「でもここにいないぞ? どうしたぞ?」

 「はい。あの二人は今、別な任務をしています」

 「任務があったんかいぞ」

 「はい。二人は今、ライドウを鍛えています」 

 「ライドウぞ? あれをかぞ・・・」


 サブロウはライドウを思い出す。いつもヘラヘラと笑っている彼を。


 「・・・それってどっちも大丈夫かいぞ?」

 「どっちも?」

 「ああ。ニールとルージュにも不安がある上に、ライドウにも不安があるかいぞ。師弟になるような人間じゃないぞ。両方ともぞ」

 「そうですかね。僕としては、あの二人にも弟子がいた方がいいと思いますし、何よりライドウは強いですからね。ちょうどいいと思いますよ」

 「ライドウが強い?」

 「ええ。彼は良い心を持っています。鋼のメンタルですね。ちょっとやそっとじゃ崩れませんから、彼が弟子としてちょうどいいと思いますよ。言葉足らずの二人を理解しようと、必死に動いてくれると思います」


 英雄の影ニールとルージュの弟子は、次期影の当主の片腕ライドウであった。



 ◇


 この次の日。

 新年の集いの為に、お城に来ていたジークとナシュア、フィックスを呼んで、シルヴィアも混ぜてここに食事をしていた。


 フュンから進む。


 「ジーク様。ナシュアさん。フィックスさん。僕らと旅行しませんか」

 「旅行? 俺たちとか」


 三人で話すのではなく、ジークが主導で会話が進む。

 

 「ええ。シルヴィは当然来るので、どうです」

 

 え? その話聞いてませんが。

 と思っているシルヴィアの目はガン開きになっていた。

 ちょっと怖い目となっている。


 「どんな旅行なんだい?」

 「はい。ジャックス陛下と協力して行う。世界一周旅行です」

 「え?」


 想像を超えた意見。

 ジークは驚きで食事の手を止めた。


 「豪華客船というものを開発したみたいで、それで世界一周が出来るらしいです」

 「なんともまあ・・・」


 とんでもない計画ですね。

 ナシュアは、驚いているジークの代わりに笑いながら答えていた。


 「俺もいいんですか。フュンさん」

 「ええ。フィックスさんもどうぞ。ウォーカー隊ですしね」

 「・・・じゃあ、俺、いこっかな。休みてえっす」

 「はい。ぜひ。それでどうです。お二人は」

 「そうだな。行こうか。ナシュア」

 

 ジークは彼女にも丁寧に聞いた。


 「ええ。いきます。フュン様よろしくお願いします」

 「了解です。では一緒にいきましょう。三年後が予定です」


 ここでナシュアからジークに変わり、答えてくれる。


 「わかった。準備しておこう。フィアをそれまでに当主らしくするわ」

 「お願いしますね」


 計画を前倒しにして、あの子を育てようか。

 ジークは意外にもフィアの育成計画を立てていた。

 しっかりした土台を作ってから彼女を当主らしくしようとしていたのだ。


 破天荒な子だから、ゆっくり矯正していかないといけない。


 「それでぇ。なぜ私が最後の承諾なんでしょうか! フュン!!!」

 「え・・・なんでこんなに怒っているのでしょうか!」


 怒りのシルヴィアがフュンの前に来た。


 「フュン!!」


 名前を呼んだ瞬間には背後に回った。


 「うわあああああああ」


 ヘッドロックが炸裂する。


 「私が最初であるべきだああああああ」

 「うおおおおおおお。ごめんなさい。皆からの承諾を早く貰いたくて、後回しにしてごめんなさいいいいいいいいいい」


 この後、王宮に謎の悲鳴が響いたらしい。

 七不思議となった。


 ◇


 「よし。これで準備はいいはずだ」


 フュンはあらゆる準備を整えていた。

 今後の国の在り方。老後の計画。そして未来への希望。

 色々考えた結果、最後には全てを任せる事に決めていた。

 自分が育てた子たちに、間違いはない。

 それは彼らが、この先を間違えないという意味じゃなく。

 自分の大切な子たちだから、最後まで信じているという事だ。

 

 我が子。最愛の弟子。そして、重要な子供たち。

 

 皆それぞれが大切であると、フュンは寝る前に一人で楽しそうにしていた。


 「フュン。どうしました?」

 「ええ。シルヴィ・・・楽しいですね。皆の笑顔を見ていると、不思議と力が出てきます」

 「まあ。あなたはそういう人ですからね」


 誰かのそばにいれば、その分強くなる人。

 だから不思議な人だ。

 自分の為に強くなるのが基本なのに、他人がいると数段強くなるのはこの人だけ。

 長年一緒にいても、それだけが不思議な人だった。


 「シルヴィア」

 「はい。なんでしょう」

 「ありがとうございました。そしてこれからもお願いしますね。楽しい事に付き合ってくださいよ」

 「・・・んんん。大変じゃありませんか?」

 「・・・どうでしょう。君にとっては大変かもしれませんね」

 「ええ。そうでしょうね。あなたと一緒にいれば、何度か死を経験しなければなりませんからね」

 「そこまでですか!?」


 そんなに大変なのか!?

 フュンはのけ反って驚いていた。


 「でも、しょうがない。愛した人がそんな人ではね。諦めるしかありませんよ。それにそういう前を向いているあなただから。私が大好きなんです。この気持ちは誰にも負けませんよ。フュンよりもです」

 「いえいえ。こちらも負けません。僕も、大好きですよ。君がね」

 「んんん。負けません!」

 「いえいえ。こちらもだ!」

 「絶対負けません」

 「僕もです!!!」


 変な意地の張り合いで、この日の夫婦は眠りについたらしい。

 不思議な夫婦もいたものだと、後のアーリアの歴史書には載っている。

 この事件は、彼の日誌に載っている。

 どちらがより相手を大好きか事件であった。

 あまりにもフュンの性格を正確に書き記したものなので、歴史書にも残ったのである。


 

 

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