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人質から始まった凡庸で優しい王子の英雄譚  作者: 咲良喜玖
最終章 アーリアの英雄の結末

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第409話 指導力

 アーリア歴9年12月上旬。

 緊急でフュンの元に来たのがライドウ。

 フュンは、直接シゲノリに話すのではなく、親友のライドウから話を聞いた。


 「ライドウ」

 「はい。王様」

 「シゲノリの様子がおかしいと?」

 「・・・はい。なんかちょっと。たしかに微妙に変で・・・なんとなくです」

 「どんな感じで?」

 「普段ぽい感じに見せてるような感じがします」


 やけに曖昧な表現だけど、大親友の彼が感じるのだ。

 これをないがしろにしてはいけない。


 「なるほどね。僕が眠っている間・・・それよりもですね。そうだな。最後の決戦からの話をお願いします。ライドウ。君が見聞きした事。経験したことを余すことなく僕に話してください。流れを整理してなくてもいいです。とにかく何でも話してください。感じた事でもいいです」


 シゲノリの状態を分析するのに、情報が足りない。

 フュンは、ライドウが感じた事から推察しようとしていた。


 彼の話はかなり長く、ライドウの頭だから、説明下手であった。

 でもフュンは一切怒らない。

 彼が一生懸命に話す姿を見て、うんうんと、笑顔で頷いて話を聞いた。


 それで得た結論がこれだった。


 ◇


 「わかりました。これはあれですよ。僕に後ろめたいんです」

 「え? 後ろめたい?」

 「そうです。自分が完璧に影の仕事が出来なかったと思いこんでいるんです」

 「あれ? 王様、そいつは贅沢ですよね」

 「まったくね」


 フュンの予測は具体的なものになる。


 「僕はね。あの戦いで、誰も死なせないと決めていました。ライドウも知っているでしょう」

 「はい」

 「しかし死者は出た。それも、そちら側の戦い。次世代の決戦で・・・」


 フュンも、その情報は後からでも聞いていた。

 クロと、ギャロルの相打ち。

 これを知らされた時には、ジャックスに申し訳ないと思っていた。

 死なせないようにしていたのに、死なせてしまった。

 それだけがあの戦いの心残りだった。

 でも、この間の会議で会った時のジャックスは、フュンに感謝をしていて、ギャロルたちの死も受け入れていた。

 彼はもっと多くの子たちが死んでいくと思っていたのだ。

 二人の子が死んだのは悲しいが、それに比べたら衝撃的な結果だ。

 でももちろん。悲しくないわけじゃない。しっかり悲しんだうえで、それ以上の死が待っていると思っていたから、覚悟があった。


 そこに、シゲノリの感情がある。

 フュンからの命令で動いてたシゲノリは、こちら側も死なせるつもりがなかった。

 あの地下決戦で、自分がクロを捕まえていれば、双方が死ななかったかもしれない。

 この考えに至ったのだろう。

 フュンは的確に彼を理解している。


 「てなわけで、彼は勝手に責任を背負いこんでいます。その責任は本来。僕です。影の責任ではない! まったく、影の当主としては立派ですがね・・・まさかの真面目過ぎますね」


 フュンは、この真面目さが逆に、シゲノリの唯一の弱点だと思った。

 サブロウのようにあっけらかんとする部分も必要だ。

 当主は常に気を張らないといけない。

 そんな事はない。

 時にはゆったりと、時には厳しく。

 それでいいのに、一つに対して、厳しく当たるのは良くない。

 フュンはここで、シゲノリに指導をしようと思ったのである。


 「いいでしょう。これは良い感じに作戦を変えますね。ライドウ。彼をここに連れてきてください。このまま僕に会わない場合。シゲノリとは絶交ですと伝えてください。僕は君とは一生会わないようにしますからと脅してください」

 「え? そんな事言うんですか。俺が? なんか言いずらい」


 尊敬する人からそんな事言われたら・・・。

 ライドウはシゲノリの事を思っていた。


 「はい。でも言ってください。これくらい言わないと、慌てて会いに来ないでしょうからね」


 独特の言い回しで、フュンは脅しにかける。

 実際にその気持ちがなくても、これを言われたらきっとシゲノリは来るはず。

 彼がそれで、どのような態度になろうとも、会いには来るはずだ。

 フュンは、シゲノリの性格を掴んでいる。


 「甘えを取り払います。彼の心を鍛え上げて、自信もつけましょうか。よし、ライドウ。君も協力してください」

 「わかりました」


 ライドウの方が強い。

 フュンはそう思っている。

 それは実力の話じゃなくて、心持ちの話だ。

 ライドウの方が実力がない。

 でも彼は常に前を向いている。 

 出来なくても、出来ても、常に前を向く性格は、土壇場だとかなり強い。

 一度落ち込むことがあってもそこから立ち上がる強さがあるからだ。

 

 しかし、シゲノリは初の失敗に、気持ちが押しつぶされそうになっている。

 これは彼が悪いというよりも、彼が育った環境において、常にトップだったことから来る弊害だ。

 若い頃から皆よりも何でも出来たので、何かで失敗して躓いたことがない。

 転んだことがないから、起き上がり方がわからないだけ。

 フュンは、そう思って、シゲノリの背中を支えて、立ち上がらせるつもりなのだ。

 転びまくった人生を歩んだ彼は、立ち上がる大切さについて気付いている。


 「さてさて。シゲノリも子供らしい部分があって、素敵ですね」


 シゲノリにも可愛らしい一面がある。

 ある意味で一安心しているフュンであった。


 ◇


 その後。

 フュンは玉座の間に二人を呼んだ。

 シゲノリとアナベルである。


 「はいはい。アナベル。お久しぶりですね。君も一瞬だけ会ってくれましたが、お仕事の方に注力していたのかな」

 「はい。そうです。工場の稼働を見ています。鉄製品の加工。ここが課題です」

 「うんうん。いいでしょう。でもお仕事だらけではいけませんよ。たまには会いに来てください」

 「はい!」


 シゲノリとアナベルを同時に並べた理由は、フュンの中にあるわけだが。

 この理由を知らないライドウは、なぜ二人を並べたのだろうと思って、部屋の隅の隠し扉からこの光景を見ていた。

 

 「シゲ」

 「は、はい」

 「なんで君は、僕の顔を見に来なかったのかな」


 理由は分かっている。

 でもそれを自分からは言わない。シゲノリから聞きたいのだ。


 「それは・・・」

 

 言えない理由はフュンに関連する。

 だからうつむいたままだった。


 そこに隣にいるアナベルが、小声でシゲノリに聞いた。


 「言えない事ですか」

 「え。いや。それは・・・」

 「大丈夫ですよ。フュン様は正直に言った時は、どんな事も許してくれます。嘘をついたらそれこそ怒られちゃいますよ」


 アナベルは、そう助言した。


 「・・・はい・・・でも」

 「うん。言いにくい。そんな事はたくさんあります。私にもありました。でもフュン様ならばどんな事でも聞いてくれます。どんな話でも、フュン様は真剣に考えてくれます」

 

 自分の立場が非常に悪い事を知りながら、フュンは出来る限り自分を救おうとした。

 大人になった今ならばわかる。

 フュンがやってくれたことは、非常に難しい事だった。

 裏切り者の子供。

 これは本来殺すべき対象リストの上位だ。

 待遇が今よりも悪くなるのは確実で、普通はそこから自分を追い込んだ相手を恨んでいく可能性が出てくるので、裏切り者の子を始末するのが、解決手段として当然となる。

 それが国家運営だ。

 それなのにフュンは、初めから殺すことを想定しておらず。

 アナベルどころか、ウィルベルすらも救ってみせた。


 だからこそ、アナベルは生涯フュン様の為に生きると誓っている。

 そして何でも相談できる相手の一人として、アナベルはフュンの事を叔父さんだとしている。

 実際にも叔父さんなので、この考えは良いものであった。


 それで、相談しにくそうな彼が気になり、アナベルは助言をしていた。

 ここで強引な言い回しじゃないのが、アナベルの良い所。

 ゆっくり急かさない彼の言葉は、シゲノリに届いてく。


 「シゲ。どうです。なぜこちらに来てくれなかったのかな」


 フュンも急かさないようなタイミングで話しかけていた。

 アナベルが助言するだろうとして、タイミングを見計らっている。


 「それは、私が納得しておらず・・・自分を許せず・・・王に申し訳なく・・・はい」


 泣きそうなシゲノリに、フュンは微笑む。


 「ええ。あなたは失敗したと。そう思い込んでいるんですね」

 「え?!」

 

 驚いて顔を上げた。 


 「ギャロル皇子の死が、あなたの任務の失敗だと勘違いしているんですね」

 「・・・勘違い? いや、私の失敗です」

 「それは違います。彼の死は失敗ではない。もちろん悲しい事です。辛い事です。ですが、彼の死が失敗だとしたら、実際に死んだ彼は無駄死にだったということですか?」

 「い。いえ」


 そうフュンが言いたい事は、彼の死を失敗だとしたらいけないのだという事だ。

 命をかけて、誰かを守った人を愚弄する事になる。

 これは失敗じゃない。

 その人が満足していたらそれは成功である。

 それはシゲマサにも言える事。ヒザルスにもザンカにもザイオンにも。

 そして愛する師ミランダや、ゼクスにもだ。


 彼らが誇りを持って死んだのに、自分たちがそれを否定してはいけない。

 犠牲となって死ぬことが、崇高なものじゃない事は百も承知。

 でも彼らの意思を踏みにじるのは、それよりも良くないとフュンは考えを直した。

 彼らに一度会えた事で、フュンは自分の後悔を捨てた。

 彼らの想いを真正面から受け入れることを決めたのだ。


 「それに。シゲ」

 「はい」

 「あなたがもし、地下の決戦でクロを捕まえていたら・・・」

 「・・・はい」

 「それはまた別の事象が訪れたのかもしれません。ギャロル皇子じゃなくて、別の誰かが死んだかもしれない。それに、レオナ姫が死んだかもしれません。そうだとしたら、その時が任務の失敗です。あの時の最優先事項。それを分かっていますか。シゲ」

 「・・・レオナ姫が帝都に辿り着く事・・・正統後継者として、帝都の民に周知させる事・・・ですか?」

 「その通り。最悪彼女が生きていれば何とかなります。そういう任務だったのです」


 影ならば、最優先事項を決めてそこを重点的に達成するべし。

 フュンは、影の在り方を教えた。

 あの時のシゲマサの命令はフュンを守る事。

 それを徹底的に守ったのが、当時のカゲロイだ。

 彼は、あの若さでも出来た。

 ならば、シゲマサにも年齢を理由に出来ないとは言えない。

 カゲロイはあの時涙を飲んで、シゲマサを邪魔しなかった。

 フュンを生かす任務の為にだ。

 むしろ、カゲロイは、とっとと逝ってこいよと、シゲマサが未練を残さないような形で送り出していた。

 そこにカゲロイの強さがある。

 彼が素晴らしい影であった証拠でもある。


 だから、影とは、それほどに任務に忠実であるのだ。

 私情があっても、貫き通す強い意志も必要だ。

 それと諦めない心もだ。


 「ええ。だからシゲノリ。作戦は成功しています。ですが、あなたの心が失敗だと決めつけた。そういうことです」

 「・・・はい」


 シゲノリの顔がまだ曇っている。

 だからフュンは指導を続ける。


 「なので、シゲノリ。ここはひとつ新たな作戦の任を与えます」

 「はい」 

 「と、その前に、アナベル」

 「はい!」


 フュンの言葉に即座に反応したアナベルは、元気よく返事をした。


 「あなたには極秘事項を託したい」

 「なんと、ここで極秘ですか!?」

 「はい。極秘です。これは密約の内部の話なので、国とは関係なくいきます」

 「わ、わかりました」

 「それでは、この任務を知らせるのは、あなたとシゲノリだけにします。なので、シゲノリ」

 「は、はい」

 

 フュンの指示がこちらに飛んでくると思っておらずに、反応に遅れた。


 「あなたの任務は、誰にも知られずにいくことです。アナベルを護衛し、情報を漏らさないように努める。特殊任務を与えます。三年。それくらいの間は、誰にも知られたくないので、お願いします」

 「三年も・・・ですか」

 「いいですか。ササラの近辺に、特殊な学校を作ります」

 「はい」

 「オスロ帝国の造船技術を学ぶ学校です」

 「な!? そんなものを・・・アーリアでですか」

 「はい。シュルツ皇子の全面協力により、アーリア王国はこの事業をします。造船業の始まりをここで極秘で始めます。それの最初の人たちの保護をあなたとアナベルにお任せしたい。これは、アインとユーナリアだけには伝えますので、この四人以外には漏らさないようにしてください」

 

 特殊任務。

 極秘事項を最後まで極秘にする事。

 それがシゲノリの新たな任務だった。


 「いいですか。シゲノリ。これをクリアしたら、影の当主です。中々厳しい任務ですからね。頑張りましょう」

 「・・・は、はい。王のご意向通りに・・・私は仕事を完遂します」

 「・・・いや、うん。まあいいでしょう!」


 まだ堅い。

 でもやる気に満ちた表情をしたのでよしである!

 フュンは、シゲノリの気持ちの変化に満足して、この命令を下した。


 極秘任務。造船業。

 これがアーリアを変える。一大事業でもある。

 フュン・メイダルフィアは、世界に追いつくためには何が必要か。

 それを深く理解していたから、この事業を推し進めた。

 これで、世界の遅れを取り戻すどころか、フュンはそれ以上の発展を目指したのである。

 自分たちの次の世代でそれが完成するようにと・・・。




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