第408話 家臣団へ
アーリア歴9年12月1日。
この日集まったのは、フュンの世代の家臣団。
重要な発表と共に、大事な計画を話す。
「それでは皆さん集まりましたね」
全員が頷く。
「はい。ではね。まず、僕。来月に引退します」
いきなりの衝撃発言。
現場は一気に騒然となる。
「まあ、びっくりもするでしょう。でもね。これは僕が決めました。そこで、僕の引退で皆さんも引退する・・・ってことがないように、釘を刺します!」
自分に追従することを許さない。
フュンは皆に先手を打つつもりだった。
「ここで引退を許すのはゼファーのみ。他は許しません。ここは揺るぎません。僕と共にやめようなんてね。誰にも許可を出しませんよ」
自分と同時に引退をしても良いのはゼファーだけ。
フュンの言葉の裏には、ゼファーへの絶対の信頼があった。
そしてこの瞬間にシルヴィアが話しかけてきた。
「私は?」
「え?」
「私も王妃を引退なのでしょ?」
「それはそうですよ。僕が引退ですからね」
「じゃあ、なぜ私も許さない感じで?」
「いや、あなたは家臣ではないですよ。あなたは王妃。僕の奥さんですから、一緒にやめます。それを事前に教えた通りであって。ここでわざわざ説明なんていらないでしょ?」
「いや、なんだかなぁ・・・いいなぁ。ゼファーだけ」
ゼファーだけズルいな。私もこの場で直接言われたかったな。
と思うシルヴィアだった。
「まったく。この人はとりあえずおいてですね。このままの布陣を少しずらしていきます」
配置の調整を行う。
相変わらず、フュンの人事は巧みである。
「クリス!」
「はい」
「あなたの宰相のポスト。ここは絶対に外さない。ですが、ここにファルコ君を後に入れたい」
「ファルコをですか?」
「はい。アインの片腕はファルコ君です。ですが今の人事で、あなたと一緒にはしません。そこでビンジャー卿」
フュンは、話し相手をクリスからネアルに替える。
「はい。王」
「あなたに預けます。ファルコ君の指導をお願いします。あなたが担当しているリンドーア。ここの安定の補助をさせてあげてください。彼は、内政を深く知る必要がある。それも舵取りの難しい地域のです」
「なるほど。面白い配置ですね」
「ええ。そうでしょ」
フュンの意図が分かったネアルは、大賛成だった。
「それにファルコ君と、ダンテ君は知り合いになった方がいいはずだ。ダンテ君が学校に入る頃まで、ファルコ君をその地域に送ります。出来たら、ビンジャーのお屋敷で彼を預かってもらえますか?」
「わかりました。ファルコ殿をお預かりします」
「うん。クリス。それでよろしいですか」
「は、はい」
フュンに了承した後、クリスはネアルを見た。
「よろしくお願いします。ビンジャー卿。ファルコは生意気ですから、迷惑をかけたらその都度謝りますので・・・いえ、先に謝ります。ご迷惑をお掛けすると思います」
自分の息子の態度が悪いかもしれない。
先回りでクリスが謝っていた。
「いえいえ。私の息子も大変でして・・・そうなると。お気持ちはわかります」
ネアルとブルーの二人も申し訳なさそうな顔をした。
自分たちの子も似たようなものだと思っている。
「まあ。そこはね。いろいろ経験して大人になりますから、大丈夫ですよ」
フュンは、そこらへんを気にしていない。
能天気でもあるので、深くは考えないのだ。
◇
話の展開は続く。十三騎士の番になった。
「サティ様。アン様」
「はい。フュン様」「うん!」
「キリさん。ガイア君はどうです?」
先にサティである。
「当主にするつもりです。アインと同タイミングにしたいと思います。でも私もフュン様と同じく完全引退にはせずに、彼女の後見を務めようかと」
「なるほど。それは良いですね。そうしましょう」
「ありがとうございます。それでは、来年のブライト家はキリにします」
「はい」
キリ・ブライトの誕生は、アーリア歴10年である。
「ボクも。一緒にするよ。後ろで見守る」
「そうですか。アン様も?」
「うん。ガイア君も立派になってきたからね」
「そうですか。わかりました。アン様のご意向通りにしましょう」
ガイア・ビクトニーの誕生も、アーリア歴10年であった。
「では、他の十三騎士の中でも何かありますか」
ウィルベルが手を挙げた。
「それでは私もそうしたいです。アナベルに完全に託します」
「ウィルベル様もですか」
「はい。私もだいぶな歳。若い者に任せます」
「・・・わかりました。承諾します」
アナベル・ドルフィンがリナとウィルベルの承諾を得て当主となる。
「俺はまだやる」
「お! スクナロ様はやるんですね」
「ああ。娘だと少々怖い。出来たら、ロイに渡したいからな」
彼女が隣にいるのに、その意見を出せるのは・・・。
「そうですね。私も好き勝手に出来なくなる当主よりも、ウインド騎士団にいたいですから。ロイにあげます」
彼女自身が当主の座を欲していないからだ。
リエスタ・タークは、当主とはならない事が確定した。
「はぁ。まあそうなるでしょうね。あなたたちの関係じゃ・・・ロイが可哀想でもありますがね・・・それに」
ジーヴァも苦労しそうですと、フュンは最後に何も話していない彼の方を見た。
困った顔をしているので、より可哀想だと思う。
「フュン様」
「はい。何でしょう!」
ここで十三騎士で最も真面目な人間が満を持して声を上げた。
普段目立って意見をしないので、フュンが驚いていた。
「ビリーヴ家に迎えたい人がいます」
「ん? マルンさんにですか」
「はい。ララとも相談しました」
「ララも!?」
鬼の貴婦人は、優雅に頭を下げる。
戦場に出ていない彼女は大人しい。
「誰です」
「リンファーネルです」
名前を聞いてすぐにフュンは、その子の父親の顔を見た。
「リン・・・ファーネル・・・あ!? まさか、ヴァンの子ですか」
「はい。彼女をもらい。ビリーヴの後継者としたいです」
「・・・たしかに。ヴァンの子ならね。安心といえば安心ですが・・・ヴァン。君はいいのか?」
フュンは、夫婦の近くにいるヴァンに聞いた。
「そうですね。俺はいいですよ。あいつにも聞いたんですけど。あいつは、その家が海の家系になっていくならば。ビリーヴになってやってもいいと言ってました」
「ハハハ。なってやってもいい!? これまた大きく出ましたね。さすがだな・・・リン。あの子だったよな。たしか」
リンファーネル・ビリーヴ。
第二代国王下でのアーリア海軍大将。
船乗りとして超一流。戦闘員としても超一流。
ただし、性格が荒々しく、ララとほぼ同じである。
「わかりました。マルン。大切に育ててください。君が頼りだ」
「は、はい!」
君が猛獣使いとして、有名だから。
ララよりもマルンが指導して欲しい。
フュンの切なる願いだった。
「アーリア王。スターシャはまだだ」
「ええ。そうでしょう」
「まだ若い。もう少し時間が経ってから渡す」
「わかりました。クロム君はそのままでね」
クロム・スターシャはまだその段階ではない。
これはダンテと同じである。
「ビンジャー卿も当然そうですかね」
「ええ。子供過ぎます」
「でしょう。だからネアル・ビンジャーがまだビンジャーであってください」
「わかりました」
ネアルもそのままで、もう一つもそのままとなる。
「タイローさんは・・・まだですよね。アルマさんはまだまだ若い」
「ええ。そうですね。まだ子供です」
「うん。彼は学校をどうしています?」
「まだです」
「いくつでしたっけ」
「15ですかね・・・どうでしたっけ。あれ。ヒルダ?」
「あなたもう。ああ、でもそうか。外に行ってたら、忘れちゃいますか」
タイローもフュンと共に外に出ていたので、ずっと忙しかった。
帰ってこないのが二年ぐらい。
それでは歳を覚えるのも難しい。
「フュン様。あの子は15です。学校に入れようかと思った時期がありましたが・・・さすがに私たちの子だと。十三騎士の一族の子です。あなた様の承諾がないのに、彼を入れる判断は、こちらとしては取れませんでした」
「なるほど」
自分に遠慮した。
寂しいけど、それも致し方ない判断。
通常の貴族がいないとされるアーリアで、唯一の貴族。
十三家。
これの一家が職権乱用のようにして、学校に入るのも良くない。
判断的には政治的判断で素晴らしいもの。
でも友達としては、自分を気にせずに通わせてもいいのに。
フュンは複雑な気分で、話を聞いていた。
「そうですね。学校に入りましょうか。お友達も重要となりますからね。今後の成長の為にもです」
「わかりました。彼を王都の学校に入れます」
「はい。そうしてください」
アルマ・タイロー入学。
それがアーリア歴10年の出来事の一つだ。
のちのロベルトの戦士長で、大都市ロベルトの領主である。
「じゃあ、ダーレーとリューゲン。二つはそのままでいきましょう」
「「はっ」」
ダーレーはそもそも代替わりが発生している。
リューゲンはまだギルバーンが良い。
ジルバーンにはまだ別の任務をしてほしいからだ。
これで十三家の問題は終わった。
と思った時に最後の一人が意見を言った。
◇
「フュンぞ」
「ん? サブロウ??」
「おうぞ。おいらも代替わりをしてえぞ」
「え? サブロウも」
「でもぞ」
「でも? 何か不都合がありますか? シゲノリが駄目?」
「ううんぞ。あいつで良いのだぞ・・・でも」
「え? 良いのに。でも???」
何か不都合がある。
フュンはサブロウの歯切れの悪い言葉で気付いた。
「あいつ。自信が無くなってるぞ。結構弱ってるぞ」
「え? なぜ??? そうだ。シゲノリに会っていません。顔を見せてない」
これまで、色々な人が顔を見に来た。
フュンが無事であったか心配で、皆が遊びに来たのだが。
シゲノリはまだだった。
ライドウは来たのに・・・。
「わかりました。何かありますね。この場合は、先にライドウを呼びましょう。サブロウ。彼をお願いします」
「了解ぞ」
フュンはサブロウへの指示の後に、続けて指示を出す。
「・・・ああ、それとウィルベル様」
「はい。何でしょうか」
「アナベルをこちらへ。今の工場の任を一度休止にして、僕に会いに来てくださいと連絡をしてください」
「はい。わかりました。呼びます」
「お願いします」
フュンは、タイミングを間違えない。
そして、正しき道を人に歩ませるのに、その人選を間違えないのである。




