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人質から始まった凡庸で優しい王子の英雄譚  作者: 咲良喜玖
最終章 アーリアの英雄の結末

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第406話 信頼と計画

 会議が各国は平和条約と停戦についての話し合いをした。

 四か国が、三回に渡る会話で、各国と結ぶ。

 大体が同じ内容で、停戦三年の了承と平和条約の確定である。

 その中身も、ほぼ一緒だ。

 平和条約を無視して戦争をした場合。

 他国の介入があっても仕方なし。

 という文言が必ず入っている。

 条約を破ればリスクがある事を知れ。

 という意味があるのだ。


 彼らが話し合いを終えた後。

 フュンは、二人を誘った。

 一人ずつ会話しようかと思ったが、親子が一緒でもいいとの事になったので、三人での会談となる。


 これが有名な未来密談である。


 ◇


 「お二人とも一緒でもいいんですか」

 「はい」

 「うむ。シュルツには隠し事をしないと決めていてな。どうせだったら一緒でも良いかという話になった」 

 「そうですか。それなら一緒に話しましょう」


 フュンは、一対一の方が良いのかなと思っていたので、ここで安心した。


 「それで、僕に何の用です?」


 落ち着いた雰囲気のフュンに、ジャックスは気付いている。

 戦いが終わり、肩の力が抜けていて、彼本来の性質がここに見えていた。


 「うむ。余の用は大したことないから、シュルツからでいいぞ」

 「私からですか。わかりました・・・では、陛下には遠慮しません。アーリア王よろしいですか」

 「ええ。いいですよ」


 明るく返事をした事で、シュルツが話し出す。


 「協力して欲しい事があって、こちらでお話をしたかったのです」

 「僕にですか」

 「はい。アーリア王ならば、この意見に賛成してくれるかと思いましてね」

 「?」


 どんな意見だろう。フュンは気になった。


 「私と共に、第五の大陸を目指しませんか?」

 「第五の大陸?」

 「はい。私はこの許可を陛下から貰っていますので。それでアーリアの方たちと協力をしていきたいと思っています」

 「え? 僕らとですか。オスロではなく?」

 「はい。あなたたちと共に。これが良いのです。これは夢を追う。そんな形でありますので、あなたの国との協力が一番良いかと思います。オスロは変わります。レオナ姉上の一存で、激変します」


 オスロ帝国がジャックスからレオナになる時。

 その時、オスロは連合国となるだろう。

 これがシュルツのこの時の考えだった。

 オスロを基軸として、ギーロン。ルスバニア。そしてイスカル。

 これらが協力して一つのオスロを目指す。

 だから、連合国だ。

 そうなると今よりももっと現実的な政策をするはずなので、レオナ姫に協力を仰げない。

 シュルツは未来を考えて、手を組むべき人間をフュンにした。


 「なるほど。では見返りを用意している。ということですね。あなたならば、そうだ。大変なんでしょ。その計画?」

 「・・・さすがですね。その交渉は最後に回そうと思いましたが・・・」


 先回りで言い当てられた。

 シュルツはフュンの一番の能力を甘く見ていた。

 人をよく見ている。物事の本質を捉えるのが早い。

 この点において、世界でもトップクラスである事を再認識させられた。


 「はい。なんでしょうか。あなたが提示する。こちらのメリット。気になりますね」


 天才が考えるこちら側のメリット。

 どんなのでしょうと、フュンはワクワクして聞いていた。


 「こちらが出すメリットは、造船技術の提供です。それと未知の乗り物の共同開発の申し出もお願いしたい」

 「ん?」


 想像していた所じゃなかった。

 

 「造船技術!? まさか、戦艦ですか」

 「はい。全てです。今の我々の技術を、外に出す許可。これを陛下から貰いました。私が国家に対して、その額の分の金額は支払いしましたので、これを交渉材料にできるんです」

 「つまり、造船の権利は今。あなたにあると?」

 「そうです」

 

 ここでフュンは、悩ましい提案が来たと、唾を飲み込んだ。

 

 技術の格差問題。

 これが、アーリアが直面する難しい問題である。

 こちらの工場は、ワルベントを基準にした見様見真似に近いものだ。

 シュルツの提案を受ければ、これに手を加えることが出来る。

 そして、これが大きな前進となるのだ。

 船の格差を埋めれば、あとは戦争になっても単純に負ける事が無くなる。

 それに何より、ワルベントよりも船のレベルが高い国から技術提供をもらえるのは大きい。


 「なるほど・・・こちらの痛い所を知っていると」

 「はい。あなたたちが現代化をするためには船が必須。それもこちらと同等のものです。それが、アーリアの弱点でしょう」

 「正しい分析ですね・・・さすがだシュルツ皇子」


 この人間が一番厄介。

 フュンは、帝国内で危険視していたのは、ジャックスでも、レオナでも、ロビンでも、あのゲインでもなく。

 このシュルツ・ミューズスターであった。


 「ふぅ。どうしましょうかね。甘い罠にも見えますね」


 フュンは冗談半分で言って、シュルツの顔を見た。

 真剣な表情からはこちらを騙す意図を感じない。


 「んんん。第五の大陸というと。ど真ん中にあるとされる未知の場所ですよね」


 昔、タツロウがサラッと教えてくれた場所だ。

 フュンは細かい所も覚えていた。 


 「そうです。全てから拒絶されている場所です」

 「・・・そこに行くメリットは?」

 「未知を既知にする。それだけです」

 「・・・知的好奇心だけ?」

 「そうです。私は気になっています。世界の謎。人類の発祥の地は、そこにあるのではないかと・・・」

 「なるほど。それだけか・・・」


 それだけで、協力関係を結ぶ。

 そのメリットがフュンの立ち位置の中では判断がつかない。

 フュンとしては知りたい。

 でも王としては、船を得たいからと言って、よく分からない事に首を突っ込むのも良くない。

 私的と公的の狭間で悩んでいた。


 「太陽の人。この伝承は、こちらにもあります」

 「ん? 太陽の人がですか?」

 「はい。私たちは太陽と別れた。いずれ来る再会を目指して・・・太陽とは一時の別れをしたのだ。という感じのですね。要約すると、そういう文章が残っています」

 「んんん。太陽と別れた・・・どういう事でしょうか」

 「ですからそこを知りたい。太陽と別れたとはどういう意味なのか。これを知るのが、世界の中心地だと思っています」

 「なるほどね・・・僕の謎の部分にも繋がるわけか・・・」


 今残されている太陽の人についての記述が少ない。

 ワルベントに少々。

 アーリアにも多少あった。

 しかし本当は多く残されているはずのドノバンの里があったのだ。 

 貴重な資料はあそこにあったはず。

 だが、あのナボルの馬鹿どもが燃やし尽くしてしまったので、彼らのその後の詳細がない。

 だから、世界が知る新たな情報としてだと、フュンが生きているという情報だけが残った。


 それで、今回のシュルツの提案は、太陽の人を調べるのにも、新たな部分を見る事が出来るのが大きな点だ。

 でもそうだとしても個人の事で、国まで巻き込むのはどうなんだろう。

 フュンはすぐに返事を返せなかった。

 

 「はい。これを私とあなたの関係でやり切りたい。太陽に関連するあなたと、太陽を調べたい私が、共に協力するのが、一番良いと思いましてね」

 「・・・なるほど。僕が協力しない場合はどういう考えを持っていましたか? そこが気になりますね」

 「わかりました。説得に失敗した場合ですね」

 「はい」


 商談失敗の時のリカバリーは?

 試しにフュンは聞いてみた。

 

 「ないです」

 「え?」

 「私は私の目を信じています。あなたならば、この提案を受け入れる。私の父。ジャックス・ブライルドルが、皇帝になってから初の友人。そして信頼した唯一の人間だ。その人物が、私の有益な情報と、その利点をフルに生かすはずだと、計算していたので断られるとは思っていません」


 ここまで厳しい口調と表情だったシュルツ。

 しかしここからは穏やかな口調と表情になった。


 「私は代案をまったく考えておりませんでした。アーリア王ならば引き受けると、勝手に確信していました」

 「・・・・ふっ・・・そうですか。これが信頼されるという事ですね」


 いきなり他人に信頼されるという事は意外とビックリするんだなと。

 フュンは今までこうして説得してきたのだ。

 信頼をぶつけて、信頼を返してもらった。

 それが、自分のやり方だったなと、ここで思い返した。


 「わかりました。やりましょう。皆を説得してみますので、協力します。それでいいですか?」

 「はい。お願いします。ぜひ、ミューズスターとロベルト・アーリアでこの謎を解明しましょう」

 「はい。協力しましょう」

 

 フュンとの用件が済むと、静かにシュルツは下がる。

 皇帝が前に出た。


 「余の用件もいいか」

 「え。はい。いいですよ」

 「うむ。フュン殿。引退する気だな」

 「・・・あれ? 僕、陛下に言ってましたっけ?」

 「いいや。お主の顔を見れば分かる。友人だからな」

 「さすが。陛下」

 「うむ。それで、旅をするとか前に言っていたな」

 「ええ。世界一周旅行をしたいんですよね。僕の世代の仲間を連れて」

 「そうか」


 フュンらしい夢だ。

 ジャックスは微笑んだ。


 「では、それに余も加えてくれないか」

 「え?」

 「余は、戦艦じゃない。客船を作った。前からあった計画を前倒しにして作っておいたのだ。イスカルとルヴァンを行ったり来たり出来るものを作っておきたくてな」


 ジャックスは、物や人の運搬を込みで、客船を作っていた。

 経済の面からも、イスカルの復興を願っていたのだ。


 「客船?・・・え?」

 「それで、その船にアーリア王と仲間たち。それと余と、その側近たちで旅行をしないか。ここから回って、ワルベント。ルヴァン。イスカルと回ってな。最後にアーリアだ」

 「・・良いんですか。僕、船を乗り継いで移動しようとしていたので、その提案。助かりますね」


 専用の船で大移動をする。

 自分が計画していたものよりも有意義だった。


 「うむ。友人の卒業祝い。それと余もだ。余もレオナに渡そうと思う」

 「・・・そうでしたか。じゃあ、ちょうどいいですね。ご苦労様会です!」

 「うむ。それが良い! 余も最後に友人と思い出が欲しいのよ」

 「そうですか。僕もそうですね。思い出はいいですよね」

 「うむ。血みどろの人生じゃない。温かな思い出を一つ胸にだ」

 「はい。そうしましょう! 各国にも言って、港の許可をもらいましょうか」

 「それで今がちょうどいいと思ってな」

 「ええ。そうですね。今は皆が集まってくれてますもんね」

 「ああ。そうなのだ」


 共に旅行をしよう。

 フュンとジャックスは、新たな約束をして、この密談を終えた。

 平和会議から、未来密談。

 これからの世界では、明るい事をしよう。

 前向きな事をして、気持ちも前向きに。

 フュンとジャックスは新たな世界の形を見せる事になった。


 

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