第405話 フュンが主導の平和会議
フュンの片腕。
英雄の頭脳から会議が始まる。
「皆様。我らの主君であるアーリア王の体がまだ本調子じゃない為に、わざわざこちらのアーリアまで、ご足労いただきありがとうございます」
クリスが頭を下げると、各国の首脳陣も軽く会釈をした。
「それでは、世界会議を行います。今回の議題は、フュン様が提案します。平和条約と、平和会議の今後についてです。皆様からの質問はありますでしょうか。事前にお渡しした資料に疑問点などありますでしょうか?」
会議をスムーズに進めるためにフュンは、皆に資料を先に出していた。
疑問点がない皆が頷く中で、ただ一人手を挙げる。
「ん? シュルツ皇子。何かありますか」
「ええ。少しお時間を宜しいでしょうか」
クリスは、フュンを見た。
彼は、笑顔で頷く。
「はい。どうぞ。皇子。ご自由に発言してください」
「わかりました。ではアーリア王。こちらの意図をお聞きしたい」
シュルツの疑問点。
それが。
「この停戦は三年が限度。こちらの意図は何でしょうか。平和条約が七年となっているのに。これに対してだと、変ですよ。計算が合いません」
フュンが提案した停戦の最大期間が三年。
それに対して、平和友好条約の最大期間が七年。
これだと、平和条約があっても停戦が三年ではズレが生じている。
四年目以降に戦争が出来てしまう計算だ。
「ええ。シュルツ皇子の疑問は正しい。僕もそう思っています」
「ならばなぜ、そのような」
条件を提示するのか。
フュンの考えの中でも特殊であるとシュルツは感じた。
彼の大体の意図が分かって来たシュルツでも、この考えはよく分からない。
「はい。これはですね。七年の平和条約の間に話し合いをする機会を設ける事が目的です。停戦条約。平和条約は重いです。国を左右する条約だと思います。そうなると、相手と実際に会わないと延長なんて出来ません」
片手間に文書のやり取りだけで延長する判断は取れないはず。
フュンはだから三年の期間と七年の期間に分けた。
「しかし、そうなると。三年と六年の方がいいのでは?」
「そこもそうです。ズレていきますからね」
「はい。わかっていて、アーリア王はこのような提案を?」
「でもですね。そのズレがちょうどいい。三と七。重なる部分は二十一年後。ここで大きな転換期を迎えます。平和の道を進むのか。はたまた戦争の道を歩むのか。各国は頭を悩ませるべきです」
重なるまでに二十一年。
それまでは何も考えずに延長をするはず。
どちらかの条約が継続となれば、どちらも継続したいと各国が思う。
でもそのままいって二十一年後には両方の見直しが必要となる。
ここが重要。
代が替わる。もしくは、代が替わる者と共にこの問題に取り組める。
つまり、その時の王と、次世代の王が平和について深く考える時がやって来るのだ。
フュンは、未来を繋げる話し合いが欲しかった。
それは戦争の抑制にもつながるが、必ずしも戦争をするなとは言っていない事。
これが、フュンの大切な部分だった。
「僕は、その都度の人々に忘れないで考えて欲しいのです。他国を尊重して戦わず、平和を選ぶのか。それは各個人。民や大臣。そして為政者の。それぞれの考えが、そこに存在しなければならないと思います。だから選んでほしい。自分たちの手で、平和を・・・まあここは別に戦いでもいいです。それで、僕らが決めた平和じゃなくて、その都度、未来の人々が平和について考えて欲しいのです」
勝手に決める平和じゃなくて、話し合いによる継続した平和を目指して欲しい。
フュンたちの世代が勝手に物事を決めて、戦争をするなとしたら。
約五十年後くらいには、この平和条約について、何も考えない世代が生まれるだろう。
それが嫌なのだ。
フュンは、未来の人にも、最初に話し合いをしてほしいのである。
イスカルやアーリアのように、いきなり攻撃されるのではなく、話し合いの末のもつれであったのならば、まだ戦う事に納得ができる。
実の所、フュンは、あのワルベント大陸との戦いに納得がいっていなかった。
戦争主導者のミルスの考えを心底憎んでいる。
今となったらそんな事は起きないだろう。
ウーゴが王となっているので、レガイア王国には一切悪感情がない。
彼が素晴らしき王になる事を信じているからだ。
だから、フュンは、勝手にのさばるな。
大国に対して、釘を刺す意味を持って、この条約期限にした。
「なるほど・・・効率的じゃないことが、逆に効果的だと言う事ですか」
シュルツは頷いた。
「そうです。遠回りのように見えて、これが最善だと。僕は思っています。僕らの次の・・・例えば君のような若い力も考えてくれるようになります。人は常に想いが必要。この想いを作るのに、二十一年はちょうどいいはずです」
成人してまもないか。それとも、もう少しで成人といった頃にこの問題が来る。
そして、これを過ぎても、三十代と五十代が共に考える事になるはず。
そうなったら、常に人は、平和について考えるだろう。
根付いてほしい。
人々の心に。
平和が大切なのだと。
感じて欲しい。
親の世代が頑張って交渉している姿も。
分かって欲しい。
人は人の為に頑張るのだと。
人は自分だけじゃなく、次の為にも頑張っているのだと。
この条約期間設定に、繋がりという部分を大切にしていたのだ。
「なるほど・・・たしかに。二十一年後・・レオナが五十代となり。もし子供を生めば、二十代付近。たしかに、繋がるか。それに」
ジャックスは、ウーゴを見た。
彼も二十代。
ここから子供が出来れば、四十代と十代で、この話し合いをする。
「うむ。たしかに。次なる世代に問題を渡せる」
「そうです。陛下。僕は、次世代に常に問題を投げかけたい。しかもこれは、答えのない問題です。だから常に考えて欲しいんですよ」
世界には、自分たちの国以外にも国がある。
その中で、自分たちがどうやって生きていくのか。
それを常に各国が考えて欲しい。
もちろん。協力していくのが一番だ。
でもそれだけでは終わらないだろう。
未来は不確定だ。
人質だった王子が、大陸の王になるくらいに。
何が起きるか分からないのがこの世の中。
だから考えて、悩んで、進んでほしい。
未来の人たちには、希望ある未来を描いてほしい。
自分たちの手で・・・。
「私は賛成です」
ウーゴが手を挙げた。
「ええ。ありがとう。ウーゴ王」
フュンは笑顔で答えた。
「はい。私も次へ渡す気持ちを持って、王をやり遂げます」
「ええ。お願いしますよ。立派な王から、立派な方が出て欲しいですもんね」
「い。いえ。私は立派では・・・」
「すでに立派な王なはず。グロッソ。あなたはそう思うでしょ。あなたならね」
フュンはウーゴの右後ろに立っている人に聞いた。
「もちろんです。ウーゴ王は、既に風格をお持ちです。儂を拾うなど・・・他の王ならばありえない」
グロッソは、フュンと話す時よりも丁寧に返事を返した。
この場にいるのが各国の王だからである。
「はい。そうですよね。だから、ウーゴ君には未来を託しましょう。僕は、アインと同じように託しますよ」
息子に託すように。
ウーゴにも思いを託す。
フュンは想いについては、人を区別しなかった。
「はい。頑張ります」
「ええ。頑張りましょう」
二人の間に、ライブックが入る。
「アーリア王」
「はい。ライブックさん、なんでしょう?」
「こちらの三年の停戦は各国でとなっていますが。平和条約の方はどのように? それがこちらには書いていません」
ライブックは資料を読み込んでいた。
この点をしっかり見極めていたのだ。
「ええ。そこをここで話し合いにしようかと思っていました。各国がいいのか。全体がいいのか。これは皆で考えるべき事柄でしょう」
「そうですか。なるほど」
フュンの提案部分で、詳細がない箇所がいくつかあったのは、勝手に一人で決める事をしなかったからだ。
皆で考えて、皆で結論を出そうとする部分には、詳細がない。
「僕は、各国が良いと思っています。全体では胡散臭くなる可能性があります」
「ん? どういうことだ。アーリア王?」
ジャックスが聞いた。
「はい。全体でここまでは戦争をしませんよ。と決めるのは、なんだかね。口だけの嘘を言えそうですし、圧力もかかりそうです」
「フュン様・・・あ、アーリア王。どういう事でしょうか」
ジェシカが発言の訂正をしながら聞いた。
ついつい自分が王だという事を忘れていた。
「ええ。例えば、レガイアとオスロ間では平和でいきたいとなったとします。そこにアーリアやアスタリスクが反対をしようとした時に、意見を封じる事が可能になります。こちらは二つの国家に比べても小国ですからね。強引に意見を捻じ曲げる事は可能だ。でも二か国間の協議なら、そういう事が出来ません。国の意思表示に介入できません」
「余らはせんぞ。例え、力があってもな」
「ええ。ジャックス陛下は、絶対にしません。レオナ姫もです。ですが、後の人は? 大国の中で育った人間で、そういう風な人間が出て来ないとは限らない」
傲慢な王が生まれる可能性は大いにある。
それは各国にもあるが、超大国であればあるほど可能性は高い。
フュンは懸念すべき部分はとことん考えていた。
「なるほど・・・たしかに余らが一生懸命育てても、いずれはそうなる可能性はあるか・・・」
自分たちの国が超大国だから、相手の国を見くびる可能性は捨てがたい。
それに今はそのような事は起きない。
だって、フュン・メイダルフィアがアーリアに君臨しているからだ。
彼がいる国には、誰だって戦争を仕掛けたいとは思わない。
あれほどの計略を世界に仕掛けた手腕を持つ男と、知恵比べをして、しかもその家臣団の勇猛さを知る。
今の王陣営は、決してアーリアにだけは手を出さないだろう。
それは、オスロも。レガイアも。アスタリスクも思う所だ。
皆が小大陸の王を恐れる。
この時代の構図は、少々不可思議な構図であるが、しかし気持ちは分かる。
あのフュン・メイダルフィアが存在している場所を攻めるなんて考えられない。
それだけは、今の時代の人間でも理解できる。
眠れる獅子は、出来れば眠っていて欲しい。
それが各国の本音だ。
特にワルベント大陸は痛い目を見た。
彼らを叩き起こしてしまったことが、国が二つに割れた結果となったのだから、ここは慎重になるだろう。
「はい。ですから、僕の意見としては、各国で平和条約を結び。それを各国に連絡をすることを義務付ける。これはたとえば、アーリアとオスロ間で結ぶとすると、その結んだよという情報だけを他の国に知らせます。条約の中身は要りません。条約を結んだという情報だけでいい。そしてこの場合は、レガイアとアスタリスクにします」
中身は要らないが、結んだという情報は世界に知らせないといけない。
この意図は。
「なるほど。わかりました。その意図は、平和条約を反故にしたような国ですぞ・・・ですね」
シュルツだけが唯一隠された意図を理解した。
平和条約という、平和を重んじるものを反故にする。これには重いペナルティがなければならない。
「そうです。よくお分かりに」
「ええ。あなた様の思考は面白い。観察するに最高の人ですよ」
「ははは。それは・・・まあ。そうですかね」
苦笑いでフュンが答えた。
「シュルツ。どういう事だ」
「はい陛下。アーリア王が、平和条約を結ぶのを各国にして、しかも全体に周知させる意図は、こうです。平和条約を結んだあとに、条約破りをして、戦争を仕掛ける。こうなった場合。各国の非難を必ず受けろ。という制裁のような形にしたいのですよ」
「ん?・・・ああ、そうか。連合を作りやすくするのか」
「そうです」
いち早く理解したシュルツの言葉で、フュンの狙いを各国の王たちが理解した。
「例えばだと、私たちがいいかな。ここでオスロが、アーリアとの条約を破棄して攻める。こうなれば、レガイアとアスタリスクが黙っちゃいないとなります。平和条約を無視しながら攻撃をすることは、つまり、他の平和条約にも影響を与えるという事になりますから」
「うむ。よく考えられている。それで、お仕置きとして、連合が組めるという仕組みか」
フュンが答える。
「そうです。それぞれで結ぶ方が、手間が掛かりますが。全体で守ろうとする平和条約の曖昧さよりも良いはずです。厳しい目があちらこちらにある事になります」
温い方を選択しないフュン。
面倒でも各国で結んでいく方が、世界の安定に繋がるだろう。
フュンの思い付きであるが、この考えが世界のスタンダードになっていく。
新たな人の考えの基礎となるフュンは、世界の父と呼んでも過言じゃない。
「わかりました。私はアーリア王に賛成します」
ここでジェシカが意見を表に出すと。
「私もです」
続いてウーゴも了承し、そして当然ジャックスも。
「うむ。それでいこう。我らの次にも、平和を考えてもらおうとしよう」
皆がこれにて賛成となり。
世界初の平和会議でフュンの考えの全てが通る事になった。
「ええ。そうしましょう。皆さんと、そして次の子たちへ・・・思いを繋げましょう」
「うむ」「「はい」」
王たちは、世界を平和にしただけでなく、世界の平和の維持を願ったのだった。
初会議は、穏やかに終了した。
この後は各国が細かく条約を結ぶフェーズに入っていく・・・。




