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人質から始まった凡庸で優しい王子の英雄譚  作者: 咲良喜玖
最終章 アーリアの英雄の結末

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第404話 王集合

 アーリア歴9年10月20日。


 フュン・メイダルフィアが起きたというニュースが世界を駆け巡って、数カ月後。

 今ここに、アーリアの地に世界の重要人物たちが集まる。

 日程を調整してきた大国たちは、同じ日に王都アーリアに集まった。


 最初にフュンの元に来たのが。


 「ジェシカさん!」


 アスタリスク国王ジェシカ・イバンクである。


 「アーリア王。本当にご無事で・・・ええ。嬉しいですね。本当によかったです」

 「ご心配おかけましたね。僕は、ちょっと寝てただけですよ」

 「ふっ、そうでしたか」


 あれほどの大事だったのに、ただの居眠りみたいな言い方をしたフュンに思わず笑ってしまった。


 現在、フュンの杖は、片方だけになった。

 彼の歩行訓練も順調に進んで、だいぶ筋肉が戻ってきていたようで、もう少ししたら、杖も取れるだろう。

 

 「王になって、どうです? 国の方は?」

 「それは大変で・・・私では・・・王の器じゃありませんから」

 「僕もですよ。うんうん。ジェシカさんとは話が合いますね」

 「はい。成り行きで王になったので、経緯が似ていますからね」


 周りからの支持で王になった二人。

 意気投合もしやすいのである。

 でも思い返せば、フュンのせいで王となっているので、フュンがいなければ王ではないのだ。

 それをジェシカは忘れている。


 「それでは挨拶はこの辺にしますね。私の他にも王たちは来ていますからね」

 「ええ。でもまたお話ししましょうね。ほら、こっちの会社の事とか。そちらの事業の事とかで」

 「はい! お願いします」


 二か国と、個人的な事で、色々決めたい事がある。

 ジェシカはその約束が出来ただけでも収穫だと思って、帝都城の待合室に入っていった。


 ◇


 次に現れたのが、ウーゴ。

 

 「アーリア王。本当に良かった。またお会いできて・・・・本当に嬉しいです」


 握手している手に力がある。

 また会えた喜びで、涙も出るウーゴだった。


 「ええ。僕もですよ。いや、ずいぶん見ない内に立派な王になられてね。うんうん。良い男っぷりですよ」

 「いえいえ。全然です。まだまだ皆に支えられて何とかやっています」

 「それでいいんですよ。そうか。なるほど。こちらの二人をね」


 フュンはウーゴのお連れの人間を見て、この人たちの力を借りたかと。

 ウーゴの器の大きさを再認識した。


 「アーリア王。私は感謝していました。あなたのおかげで、私はやり直せる」

 「おお。そうですか。よかったですよ。マキシマム閣下!」


 マキシマムは、あの時の忠告に感謝していた。

 迫られた選択。

 ウーゴを選ぶのか。ミルスを選ぶのか。

 悩んだ末のウーゴ。この結果が今の自分。

 今は誠心誠意。

 王に仕える事が出来る事に感謝するしかない。


 「それと、やはりあなたもですね」

 「そうだ。よくもやってくれたな」

 「え? 何のことです」

 「とぼけおって!」


 グロッソ・サイリンの口元は笑いながらも、目は睨んでいた。


 「あの時、黙ったあの瞬間から、儂はアーリア王の手の中にいたという事か」

 「いえいえ。そんな事はない」

 「じゃあ。あの時、儂が声を上げていたら、どうするつもりだった」

 「あなたが、僕との約束を反故にしてですか?」

 「そうだ」

 「それじゃあ。その時は、あなたもミルスと同じ結果です」


 フュンの鋭くなった目に、三人がビクつく。

 覇気のようなものを普段から出さないフュン。

 こういう力を持っていないのではない。出さないのだ。

 本当はこのような力強さを内面に持っている。


 だけど彼は相手を威圧するような態度を一切見せない。

 だから、油断してしまう。

 怒る事のない男が怒りだすと怖いように、普段から力を見せない男が、急に見せる力強さ。

 これにはどんな人間も圧倒される。


 「ふっ。黙っていても、話していても。結局は王の言う通りか」

 「言う通りではないですよ。それにあなたは約束を守る人だと僕は思っていましたからね」

 「ん?」

 「あなたは、自尊心が高いだけで、傲慢とかじゃない。あと面子にもこだわりがあります。男として約束したのに、それを反故にするような人じゃないですよ。それにウーゴ君とも約束したから、ここに来たのでしょ」

 「・・・そうだ。儂は、ウーゴ王に救われた」

 「ええ。だから律儀にも、あなたはここに来た。人生をめちゃくちゃにした男を前にするのだとしても、それでも来たのですよ。だから約束を守る男だ」


 憎き敵とは言えないかもしれないが。

 それに近いフュンがアーリアにいるのに、それでもグロッソはここにウーゴと共に来た。

 これが、グロッソの男気だ。

 フュンは彼の性質を見抜いていた。


 「そうだな・・・いや。感謝の方が強い。今の方が生き甲斐があるからな。ミルスのせいで苦しくなった国を立て直すという一大事業だ」

 「ええ。そうですよ。だから頑張りましょう。僕らも負けません」


 フュンも頑張る。

 それは、アーリア大陸の技術問題だ。

 三つの大陸よりも技術で圧倒的に負けているこの大陸はいますぐにでも、ここで追いつかねば、いずれは敗北が決定してしまう。

 未来を常に見ているフュンには、意外にもここで焦りがあるのだ。


 「それでは、まだ王がいらっしゃるので、私たちはここで失礼しますよ。アーリア王」

 「ええ。ウーゴ君また会いましょう」

 「はい!」


 ウーゴと別れた。


 ◇


 「アーリア王」

 「ジャックス陛下。わざわざこちらに!?」


 遠い所であるから、代理が来るものだと思っていた。

 レオナ辺りがこちらに来る予定だとフュンは勘違いしていた。

 

 「それに皆さんも・・・」

 「ああ。連れて来たぞ」

 「でもレオナ姫は?」

 「あれはお留守番だ。あれが次期皇帝。余がこちらに来てしまえば、皇帝不在となるので、後継者が残らんとな」


 レオナはお留守番。

 それに合わせて、センシーノも護衛として残った。

 ここに来たのは、レックス。ジュード。シュルツ。クラリスの四人だった。


 「おお。そうですか。なるほどね」


 それぞれと挨拶をして、目的を聞いたフュン。

 納得して、流石はジャックス陛下だと感心する。


 レックス。ジュード。

 この二人の訪問の目的は、アーリアの武人たちを見る事。

 兵力も見る事が基本ではあるが、それよりも強き者が多いアーリアの隠れた将たちを見たいという気持ちがあった。

 そう彼らには見せていない将たちがたくさんいる。

 例えばリースレットなどの将だ。

 アーリアは人材の宝庫なので、いくらでも優秀な人間がいる。


 クラリスの目的は、アーリアの動きの良さを見る事。

 フュンが作った家臣団とその彼を支える政権を見てみたいとの事。

 政治的にレオナの役に立とうとしていた。


 そして、ここで天才にはある目的があった。


 「シュルツ皇子。あなたもこちらに?」

 「はい。アーリア王。後でお話よろしいでしょうか?」

 「え? 二人で?」

 「出来ればで良いのですが・・・どうでしょう」

 「いいですよ。会議が終わったら招待しますよ」

 「ありがとうございます。心待ちにしますので、連絡を待っています」

 「はい」


 彼は、フュン自体に目的があった。

 奥底にあるとある計画を、フュンと共に進めようとしていた。


 「よし。挨拶はこの程度でいいだろう。ジュードとレックスは自由にしたいと思うので、預けてもよろしいかな。アーリア王?」


 ジャックスの言葉に。


 「ええ。いいですよ。こっちはゼファーとレベッカを出しますので、二人に案内させます」

 

 フュンは、二人の見学会だと思ったので、こちらも大将軍格を当てた。


 「うむ。よかったな。ジュード。レックス」

 「「はい。ありがとうございます。アーリア王」」


 二人が丁寧に頭を下げた。

 あのジュードでも敬意を示したのである。


 「そうだ。陛下。クラリス姫が付き添いになります?」

 「いいや、シュルツにする。だから、クラリスも見学させたいんだが・・・」

 「そういうことですね」


 今回の会議は、代表者とお付きの者一名が参加することになっている。


 アーリアは、フュンとクリス。

 アスタリスクは、ジェシカとライブック。

 レガイアは、ウーゴとグロッソ。

 そして、オスロは、ジャックスとシュルツとなった。


 これが世界初の平和会議のメンバーである。


 「待て待て。あたしは!」

 「お前は・・・はぁ」


 声を聴いて、頭を抱えるジャックスは、ため息をついた。


 「あれ? マリアさんだ。おお。お久しぶりですね」

 「先生!!! よかった。起きてる。本当に起きてる!! あの時寝てたもん。起きないのかと思ったよ」


 フュンに抱き着いて、彼女は、心配を体いっぱいで表現した。


 「ええ。無事に起きましたよ。また会えましたね」

 「うん! 嬉しいよ。先生」

 「そうですね・・・でもなんでマリアさんが?」

 

 フュンはマリアの頭を撫でながらジャックスに聞いた。


 「こやつ。会議の噂を聞きつけてな。出航間際で、余らが乗る船に乗っていたらしくな。夜逃げするみたいに、船内に隠れておった」

 「あれま。だからセブネス殿下たちがいないのか」

 「いや、セブネスとレイは、国の立て直しに入っている。ルスバニア。ギーロン。両国に無理をさせたから。余の一存で、二人を王として格上げにして、対処してもらっておる」

 「なるほど」


 局所の地域として、独立に近い運営にして、立て直しを図っている。

 フュンは国の在り方に柔軟なジャックスを理解した。


 「まあ。こちらもまた新たな帝国となろう。レオナの代ではな」

 「なるほど・・レオナ姫の代でね・・・あなたも僕と同じか」

 「うむ。そういうことだな」

 「ええ。じゃあ、後で会えますか? 相談したい事もありますし」

 「うむ。やはり気が合うな。余もそう思っていた」

 「はい。じゃあ会いましょう。連絡します」

 「うむ」


 二人が会う約束をして、この場は解散となる。

 運命の会議は、今日の午後。

 

 平和へ向けた初の会議が始まる。

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