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人質から始まった凡庸で優しい王子の英雄譚  作者: 咲良喜玖
最終章 アーリアの英雄の結末

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第403話 三大軍の去就

 「殿下。ご無理なさらずに」

 「いえいえ。こうしてはいられない」


 起きてから一カ月。

 取り戻すのは頭よりも体。

 フュンは最初の三週間くらいは、歩けずにいて、車いすの生活だった。

 一年と少し。まったく動かなかったために、彼は体力を失っていた。


 今は両腕で杖を突いて、歩行訓練をしている。

 それが心配でたまらないゼファーがそばにいた。


 「殿下」

 「ああ。もう。集中してますから。ゼファー話しかけないで!」


 バランスを崩す度にと、いちいちゼファーがこちらに来ようとするので、フュンが怒り出す。


 「しかし」

 「ゼファー。やめておけ」

 「ん。姫」


 レベッカがゼファーの後ろに来た。


 「父は頑固なんだぞ。そのままでいいんだ。したい事をさせろ」

 「しかし、姫。危なくて」

 「大丈夫だ。怪我をしたって擦り傷ぐらいだぞ」

 「・・・」


 過保護だな。

 レベッカは苦い顔をしていた。


 「父。遊びに来た!」


 と言って本来は呼ばれたので来たのである。

 彼女はこう言った方が父が喜ぶことを知っている。


 「おお。レベッカ。こっち来てください。どうです。だいぶ歩けたでしょ」

 「はい。もう少しで杖も取れますね」

 「どうでしょう。そうだといいですね」


 フュンは満足そうに答えて、近くのベンチに腰を下ろした。

 二人をそばに寄んで話をし始める。


 「それでね。ここで、決めておきます」

 「「はい」」

 「軍縮。これを行うかどうかを考えているんですが」


 平和となるのに兵士が必要か。

 フュンの悩みの一つはここにあった。

 彼は真の意味の平和が欲しいと思っているが、それが難しい事も百も承知だった。

 自分の次。これくらいまでは大丈夫だろう。

 しかし、その次。そのまた次と、代が変われば、記憶が薄れる。

 その時に、軍がいないので、戦えませんとなっては、国を維持できない。

 フュンはここを悩んでいた。


 「考えた結果。トータルでは行います」

 「「・・・?」」


 フュンの答えに二人とも首を傾げた。


 「まず。総軍・・・今は三十万くらいですか。いや、もっと少ないか。外の戦いに出てしまいましたからね。もう少し少ない位ですが、これを大体十五万にまで減らします」


 全体を減らしていく計画を作っていた。


 「兵士さんたちが減る分ですね。これからの未来は恐らく専門的な人間が動いていく軍となります。船などの大きなものを操る兵。大砲を扱う事に特化した兵などですね」


 未来を見据えるフュンは、未来の兵士たちの姿を予測していた。


 「・・・例えばね。動く大砲です。あちらの大陸には、台数に限りがありましたが、車がありましたでしょ。あれに大砲が積めれば、固定砲台を移動式にするでしょうね。そうなれば、兵士の武力は意味がない。専門分野の人間が必須となるはずだ」


 一人一人の武力の時代が終わり、機械の時代が来るはず。

 フュンは未来の予想から軍縮を始めようとしていた。


 「そこで、ゼファーとレベッカ。君たちはどうしますか。二人の考えは、専門的な時代に逆行する形でしょう」

 「我は・・・殿下のご意向通りに。どうぞ。軍を小さくするのなら、ゼファー軍は解散でいいです」

 「そうですか。いいんですか」

 「ええ。我の軍は、殿下を守る。それが目的の軍です。我は、この先の戦争がないと思っていますから、殿下の従者としておそばにいられれば、幸せです」

 「そうですか。わかりました。ならば、ゼファー軍は解散にしましょう」


 フュンの為だけの軍。

 だから未練がない。

 自分についてきてくれた兵士たちもそのために頑張って来たから、理解してくれるだろう。


 「レベッカは?」

 「私は・・・父。時代に逆行します」

 「ほう」

 「極限に体を鍛えて、技を磨きます。私は風陽流をアーリアに広めていきます。その為にウインド騎士団を精鋭化します。さらに選抜して、軍縮に近い形にします」

 「なるほど・・・兵を減らすけど、ウインド騎士団はそのままでいきたいと?」

 「はい」

 「わかりました。レベッカとダンに任せます」

 「ありがとうございます・・・父。あの」

 「ん?」


 レベッカが最後に聞いてきた。


 「ロベルトの戦士たちは? どうするつもりですか」 

 「ああ。彼らですね。彼らは、そのままです」

 「いいのですか。万はいますよ」

 「ええ。大丈夫。彼らは基本ロベルトの経済で賄いますので、独立軍のような形です。タイローさんのスカラ家が保有して、アーリアの守護者たちとなります」

 「守護ですか?・・・守護???」

 「はい。アーリアの玄関を守る感じですよ」


 ルヴァン・イスカルに近いミコットは、敵が来るとしても、敵大陸との距離があるので、分かりやすく対処がしやすい。

 それに対して、ワルベントとロベルトの距離の近さは、敵が来たときの対処がしにくい場所だ。

 シャッカルから連続して、敵が来れば、かなり厳しい状態となる。

 そこで、ロベルトの戦士たちで、その領域を守護するのだ。

 彼らの武力と、彼らの海の力は、ラーゼの船乗りたちもいるので強い。

 フュンは、平和を謳いながらも戦うことを想定していた。


 「なるほど。殿下。王都アーリアまでの時間稼ぎも出来るという事ですか」

 「そうです。そうです。ゼファー。君もいい感じに戦略を作れていますよ」

 「ありがとうございます」


 褒めてもらえて嬉しそうなゼファーだった。


 「こんな感じで、縮小はすれども、軍は消さない事にします。他国は完全な味方じゃないけど、敵でもない。でもね。王やお偉い人たちが変われば、国家も変わります。国が変われば、民が変わります。目の前の人間を敵だとすれば、戦わないといけない。それは悲しいです・・・でも、僕は準備だけはします。アーリアを守る。それが僕の目的です。世界の平和も願っているけど、アーリアを守るのが最優先です」


 目的がブレない。 

 それが、フュンの意志の強さから来ている。

 アーリアを守るために、彼はここまで命をかけてきたのだ。

 その為の準備は、出来るだけしっかりしたいフュンであった。


 「それじゃあ、レベッカ。ウインド騎士団の事は任せます。軍縮などの話し合いは、アインとしてください」

 「わかりました。父ではないんですね」

 「はい。軍関係も内政関係も、最初の決定にアインを指名します。今は彼が決定したものを上にあげて、僕が見る形にしたいと思っています」


 王子が色々を決めて、次に王がそれを承認する。

 フュンは次なる世代に責任を持たせるつもりだった。

 自分が生きている間に、権力を持ってもらい、その責任を感じてもらう作戦だった。


 「そうですか。殿下。それはまさか・・・」

 「はい。そうですよ」


 レベッカが首を傾げている中で、フュンとゼファーはそれ以上何も言わずにいた。

 彼がしたい事を理解したゼファーは、これからも付き従う事を誓う。


 「殿下。それでも我はそばにいますぞ」

 「ええ。そうですよね。あなたはそうだ・・・だからお願いしますよ。僕の護衛」

 「はい。おまかせを」


 英雄のしたい事をすぐに理解する。

 ゼファー・ヒューゼンは、絶対の従者である。

 

 



 

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