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人質から始まった凡庸で優しい王子の英雄譚  作者: 咲良喜玖
最終章 アーリアの英雄の結末

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第402話 太陽の復活

 アーリア歴9年3月3日。


 新年を超えてもアーリア王国に太陽は昇らず。

 だから暗い雰囲気が、国中にあった。

 フュンがいないというだけで、家臣たちの表情も暗いし。

 そもそも彼は、化粧品の会社でも働いていたので、一般人たちにもその余波があった。

 すぐに会える王様として、接客業をしているフュンなのだ。

 その彼を今では見ることが出来ないなんて寂しい。

 まあ、そんな王様がいるのもおかしい話なのだが。

 皆にとっては、最も身近な王族だったから、余計に悲しいのだ。



 ◇


 そして、この日。


 「アイネ。今日もご苦労様です」


 シルヴィアが最初に挨拶をした。

 部屋で待機している彼女は、自分と共にフュンのお世話をしてくれるアイネに必ず最初に挨拶をする。

 

 「はい。でも、まだ始まったばかりですよ。これからですよ~」


 いつもと同じ彼女は、笑顔でフュンの世話をしていた。

 フュンが開発したスープ。

 これを毎日飲ませてあげるのが、彼女の役目。

 飲み物であれば、喉を通るみたいなので、栄養面から考えてこれが一番だった。


 「はい。フュン様。今日もアイネの料理ですよ~。はいはい。これ美味しいんですよ。知ってます。私とフュン様が作りましたからね。子供の時にね。でもその時はまずいスープでしたね!」


 アイネが明るくそう言うと、スープを一口フュンに飲ませた。

 ごくんと、彼の喉が動いたのを見て、もう一つスープを掬おうとして、目をお皿の方に持っていったその時。


 「ええ。そうですよね。僕とアイネさんが作り変えましたからね」


 穏やかな声が聞こえてきたが、アイネはそのまま普通に会話をした。


 「はい。そうですよ。忘れちゃいま・・・え!?」


 気付くと、分かる。

 何で返事が返って来たと!?


 「あれ? 僕、相当寝てました? アイネさんの顔からすると、そんな感じですね。それにアイネさんってことは・・・ん? ここはアーリアか。えぇ? アーリア???」

 

 彼は、ルヴァン大陸にいると思っていた。戦いの延長にいると思っていたのだ。


 「あああ。フュ・・・フュフュフュン様! あああ。シルヴィア様!!! ね、ねねねねえ。シルヴィア様」

 「な、なんですか?」


 部屋の外に出て、空気の入れ替えをしていたシルヴィアが戻ってきた。


 「起きましたよ。ねえ。夢じゃないですよね。シルヴィア様!」

 「え。起きた・・・いや、いまま・・・な!?」


 シルヴィアの顔も、アイネと同じだったので、フュンはまた同じ事を聞く。


 「おお。やっぱり長い間眠ってましたね。う~ん。先生ももう少し早く起こしてくれればよかったのに」


 あの世界は?

 果たして夢の世界なのか。現実の世界なのか。それとも自分が作りだした世界だったのか。

 それは分からない。

 けど、あそこにいたのは先生。

 絶対に先生だ。

 フュンは、あれだけは本物だと思っていた。


 「フュン!」


 シルヴィアが抱きついた。


 「おお。シルヴィ。ぐえ!? おおお。これはだいぶ体が・・・」


 弱っている。

 フュンは、自分のなくなった体力に気付いた。

 

 「ご。ごめんなさい。あなたの体・・・そうよね。無理ですよね」


 抱きしめた力が強すぎた。

 シルヴィアはフュンを労わっていなかったと反省した。


 「ええ。でも嬉しいですね。また会えましたよ。シルヴィ。アイネさん。あとは皆にも会えるでしょうね」


 フュンの笑顔に安心したアイネが言う。


 「はい。そうですよ。フュン様。知らせにいきます」

 「ええ。お願いします。アイネさん。フュンは生きていると言ってください」

 「それは間違いですよ」

 「え?」

 「起きたです! 皆、死んだと思ってません」

 「ああ。なるほどなるほど。それでいきましょう。起きたぞ。フュンが!! これで触れ回ってくださいね」

 「はい!」


 アイネが出ていった後。

 シルヴィアの顔はぐちゃぐちゃになっていた。

 涙も何もかもが漏れ出ている。


 「フュン・・・あなた・・・もう生きているなら早く起きなさい」

 「ええ。どうやら長い夢を見ていたんでしょうね・・・ミラ先生に会ってきましたよ。あの時間が、長かったみたいですね。僕としては短い印象があったんですがね」


 あそこで、思った以上の時間を過ごしたらしい。

 フュンの感覚だと、そのようになっている。


 「え? 先生???」

 「はい。やけにね。暗い場所に先生がいまして、そこでお話してきましたよ。シゲマサさんとかもいて。楽しかったですね。あと嬉しかったですね。皆さん、僕を怒ってないみたいでね」


 死なせてしまったという想いがどこかに少しでもあったから。

 彼らに怒られるものだと思っていた。

 でも彼らは満足して、仲間を守ったんだと言ってくれた。


 「ザンカたちもですか」

 「ええ。いましたよ。お嬢を頼むと言われました」

 「まだ言っているのですね。もうだいぶな歳になっているのに・・・私ってヒザルスとかよりも年上じゃありませんか?」

 「どうでしょう。それくらいかもしれませんね」


 彼らが亡くなった歳よりも、歳を取ったかも。

 久しぶりの心からの笑顔をシルヴィアは出せた。

 太陽がそばにいると自然と笑みがこぼれる。

 人生にフュンがいるといないとでは、大きな違いがあった。


 「ああ。そうだ。僕、結構長く寝ちゃったみたいなんで、情報を知りたいですね。ユーナかクリス辺りがいいかな」


 フュンは起きて早々。ここまでの情報を手に入れようとしていた。


 ◇


 ここからは、国中を挙げてのお祝い事。

 フュン・メイダルフィアの生還。

 太陽の帰還。

 と称して、特に王都アーリアはとんでもない事になっていた。

 道行く人たちが踊り、商店街の全部のお店の商品が、8割引きの大特価。

 在庫放出の投げ売り状態となって、爆売れが続くことになった。

 ここまでの大騒ぎは、建国の時でもない騒動とまで言われている。


 皆からのひっきりなしの挨拶に疲れたフュンは、最後にクリスとギルバーンとユーナリアをそばに置いた。


 「あの・・・フュン様。なぜそんなに資料を・・・」

 

 ベッドの脇に置いてある資料だけじゃなく、手に持ってまだまだ読んでいるフュンが難しい顔をしていたので、クリスが恐る恐る聞いた。


 「これ! ちょっとどういう事でしょうか? クリス。ギル。君たちがいて、この一年。何も進歩がありません。現状維持じゃないですか」

 「え・・・それは・・・」


 クリスが、何も言えずにいると、ギルバーンが前に出る。


 「当然です。フュン様がいないのに、俺たちで勝手には出来ませんよ。現状の維持が無難です」

 「それではいけません!」


 ギルバーンの意見をピシャリと否定した。

 

 「ですが、無理ですよ。生きていらっしゃるのに、眠っていらっしゃる。その加減の難しさは・・・」


 そうフュンが死ぬのか。生きるのか。

 不確定な状態で、勝手に二人で国を動かしては、大変な事になる。

 ギルバーンの判断も正しいものだ。


 「ああ・・・僕がいないと駄目ってことか・・・それはまずいな」


 自分がいないと国が回らない。

 それはよくない。

 フュンは、頭を抱えて悩んでいた。

 そこにユーナリアが話しかける。


 「あの王様」

 「ん? なんですか。ユーナ」

 「これをみてもらえますか。私と、他の子らの意見書で・・・王様が起きたら見てもらおうと・・・」


 ユーナリアが大事に持っていた資料を提出した。

 中身は面白いものだ。


 まず一つ目。

 海路運搬計画の作成。

 ルライア・ノルディーの意見書だった。

 アーリア王国の四つの湾岸都市の役割分担を変更するという大計画。


 北西ルコットは、イスカル。ルヴァン大陸とのやりとりをするための国際都市に。

 それに合わせて、北東のロベルトも、ワルベント大陸との交流を行う国際都市にする。

 南東にあるササラは、このまま工場都市に変えていき、アーリア王国の運輸運搬の肝になる製鉄の都市に変更する。

 南西のミコットは、漁業を盛んにして、養殖業をしようという話が持ち上がっていた。

 

 「おおお。ルライアさん。素晴らしいですね」

 「はい」

 

 ユーナリアが明るく返事をした顔を見てフュンは微笑む。


 「ほら。クリス。ギル。こういう事を考えないと! 君たちも負けていられませんよ」


 駄目ですよ。じゃなくて、負けていられませんよ。

 フュンらしい叱咤激励であった。


 「「申し訳ありません」」 

 「ええ。それでまだ紙がありますね」 

 

 資料はまだある。

 次の二つ目。

 キリ・ブライトによる化粧品輸出計画と、会社の業務提携のお話だった。

 メイフィアの化粧品をアーリアの特産物として、各大陸に売り込み。

 それとは別に、アスタリスク王国のジェシカ国王と連携して、シャッカルに共同保有の工場と、薬草農場を作る大計画が作られたので、この判断を一企業がしてはよくないとした彼女が、次期ブライト家の当主として、こちらにお伺いを立ててきたのだ。

 国家が絡む一大事業だろうという考えだ。


 「なるほど・・・彼女も働いていますね。さすが、キリさん」

 

 次世代のよく考えられた計画に、うんうんと頷くフュンだった。


 「王様。これが私です」

 

 ユーナリアが最後の資料を渡した。


 「え? あ、はい。これですね」


 フュンが読むと三つ目も面白いものだった。


 「これは・・・」


 三つ目の計画は、世界平和の新たな道筋。

 フュンが倒れた事で、計画が一旦休止となってしまったので、ユーナリアは修正案を考えていて、フュンがこのまま目覚めぬ場合の計画もあった。 

 それで、フュンが目覚めたので、彼女はその資料の五枚目から紹介した。


 「王様。今が一年目なので、あと二年で、停戦が終わります」

 「・・・なるほど。各国の停戦を提案したのですね。ジーク様とユーナで」

 「はい。王様がいない状態で、もし話し合いをしても、核となるものがないと思ったのです。だか核私とジーク様は、停戦で先のばしにする計画を立てました」

 「うんうん」


 悪くない。

 むしろ助かる部分だとフュンはユーナリアの話を聞いていた。


 「それで、王様が起きてくれたので、王様が無事な事と一緒に、話し合いの連絡を入れました。オスロ。レガイア。アスタリスク。これから、こちらの三国との話し合いを始めたいと思います。それで、王様の体力がないと思いますので、長旅での移動が出来ない。なのでこちらに呼びました」

 「は!?」


 小大陸アーリア。

 ここに、世界の大国の国家が集まる。

 フュンは思わぬ事態に、驚きの声を隠せなかった。


 「王様。あなたが一番の功労者ですよ。誰も文句は言わないです」

 「いやいやいや。ええ? いや。アーリアで? さすがに、オスロ帝国でしょう」


 超大国といえば、オスロ。

 領土も、オスロ。

 支配海域も、オスロ。

 今は、ワルベントが二か国に分裂したから、オスロがナンバーワンで間違いない。

 それを差し置いて、世界会議がアーリアで行なわれる。

 それが、まずいと思うフュンだった。


 「大丈夫ですよ。王様! アーリアの英雄は、世界の英雄ですから。きっと大丈夫! 皆さんに不満なんてありませんよ」


 ユーナリアの明るい声に、皆も明るくなる。

 がしかし、フュンだけは不満そうだった。


 まさかのアーリアでの世界会議。

 世界が集まる会議を初めて行うというのに、場所がアーリアだとはフュンは一ミリも思っていなかったのだ。



 こうして、世界大会議と呼ばれる。

 平和会議の記念すべき一回目は、アーリア大陸の王都アーリアにて、行われるのである。

 フュンが目覚めてすぐに行われる会議。

 彼が起きると世界は慌ただしくなってしまう。

 やはり、彼こそが世界の太陽。

 

 『最後の太陽の人』フュン・メイダルフィアなのだ。


 アーリア歴8年は、淀みまくった停滞を表す年で。

 アーリア歴9年は、澄み切った空気を得るために努力する年となる。


 

 

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