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人質から始まった凡庸で優しい王子の英雄譚  作者: 咲良喜玖
ウォーカー隊の新部隊編

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第71話 口

 「おお。来た来た。サブロウの偵察は完璧で助かるのさ」

 

 ウォーカー隊の先頭でミランダは敵軍を確認。

 相手の事をまじまじと見つめて、一万二千はやっぱり結構人がいるなぁと、単純に思っていた。

 この余裕の心持ちがミランダの戦争時の心理状態である。


 「よし。いっちょやるか」


 ミランダは腹から声を出した。



 ◇


 「なんだあのオレンジの女は?」

 「閣下。あれが噂の」

 「噂?」


 イーナミア王国のカサブランカ軍は進軍を停止。

 オレンジの女が率いている部隊数は少数。

 自分たちの半分以下なのは一目見て分かった。


 「混沌の奇術師(カオスマジシャン)ではないかと思います。特徴が資料にある通りです」

 「混沌の奇術師(カオスマジシャン)か・・・大層な名だな」

 「閣下。油断は禁物ですぞ。奴は帝国の内戦で名を挙げた人物です」

 「そうか。しかし、あの数では何もできないのでは」

 「閣下。あの丘に兵がちらほらと見えます。さらにその後ろにでも伏兵を用意していると思います。なのであらかじめ斥候を出しておきました。結果は今わかります」

 「そうか。ならば、その後に慎重に倒してもいいだろう」

 「ええ。そうしましょう。あちらの林にも念のために送っていますから。確認をしてから攻撃しましょう」

 「そうだな。わかった」


 王国は数に慢心することなく、慎重に進軍することを選択した。


 ◇


 ミランダたちから見て左。敵軍から見て右の林。


 「殿下。あれは偵察兵ですぞ。やりますか」

 「駄目です! ここは隠れるのですよ。皆さんにその指示を出しているでしょう。タイム殿。待機の指示を徹底してください」

 「わかりました王子」


 タイムに全体指示を任せる。

 現在のフュンたちは、ばらけて隠れることで敵の偵察兵を逆に監視していた。

 林の中に五百人が隠れる。

 これは非常に難しい事だろう。

 あまり密集している木々ではないので、視界もなかなかに取れてしまう。

 でも、フュン部隊は見つからない。

 さすがは元犯罪者集団や野生児たち。紛れるのだけは上手いのだ。


 「中々行きませんね。もしかして私たちに気付いているのでしょうか」


 地面に伏せているミシェルが言った。


 「いえ。それはあり得ないですね。僕らの擬態はそう易々と見破られないはずです」


 フュンたちの偽装工作は、フュンとサブロウ。そしてカゲロイが開発した粉により、服や顔に色を付けているのだ。

 今は背丈のある雑草の色に似せて、濃い緑に身を包んで、フュンたちは草の中に隠れている。

 

 「へ・・・クション!!!」

 

 『え!?』


 フュン部隊の全員が突然のくしゃみに驚く。

 全員がゼファーを見た。

 伏せている態勢の自分の鼻にちょうど草がゆらゆらと当たったらしい。


 「何やってんのよ。あんた馬鹿なの・・・こんな時に」

 「す、すまない」


 ゼファーの隣にいるリアリスが小声で叱るが、事態はまずい状況へ。

 敵もこの音に気付いたのだ。


 「なんだ。何の音だ・・・おい。今の聞こえたか」

 「・・・ええ。私にも何かの音が聞こえた」

 

 遠くにいる偵察兵四人の内、今のくしゃみが二人に聞こえたらしい。

 徐々にゼファーの方に近づいていく。

  

 「やるしかないか・・・ここで」

 

 ゼファーは自分の槍に手をかける。


 「待って。馬鹿。あんたここで殿下の作戦の邪魔しても良いの。敵は生かさないとここに伏兵がいるってバレるのよ」

 「・・む・・そうか・・でもどうすれば」


 敵まであと50メートル。

 二人はどうするのか。

 全員が悩んで時が止まっていると、フュンの背後から人が出てきた。


 ◇


 「殿下」「ここは」

 「我らが」「やろう」

 「え? ニールとルージュが?」

 「「まかせろ」」

 

 ニールとルージュが低い姿勢で雑草を駆け抜けて敵に近づく。

 身長の低い彼らが四足歩行の動物のように移動すると、もはや小動物が移動したかのように見える。

 小さな二人の移動は、動物によって草が揺らいで見えるのだ。


 「にゃあ」

 

 そこからのルージュの行動は、猫の鳴き真似。

 その上手さは本物と聞き間違えるほど。


 「猫?」

 「平原にか?」

 「まあありえないわけじゃないが」

 「変だよな」

 

 兵士らは突然の猫の声に驚き怪しむ。

 大平原に猫などなかなか出現することもないからだ。


 「にゃ!?」「ぐえ・・ぼぼ~・・ばっ」


 ルージュの声の後。ニールは猪の鳴き声をした。

 ルージュが草木を高速で動き、それをニールが追う。

 彼が猪の声を鳴きながら再現したことで、更に信憑性は増して敵は先程の声は動物の声だと納得した。


 「なんだイノシシかよ。ああ、ヤバいかも逃げよう。あいつら強いからな。怪我したくねえ。さっきの音は猫を追いかけまわしてたんだよ」

 「そうね。わかったわ。警戒しつつ逃げましょう。これ以上探してもどうせ伏兵なんていないだろうし」


 と撤退を決め込んでくれた。


 ◇


 問題児の隣にいるリアリス。


 「あんた。ニールとルージュに感謝しなさいよ。あんたのミスであたしたちピンチだったんだからね」

 「かたじけない」


 ゼファーは叱られた。


 「あたしに謝ってどうすんのよ。あっちの双子に謝りなさいよ」

 「それもそうだな・・・謝ってくる」


 ゼファーは敵がいなくなったことを確認してから、双子に頭を下げに行った。

 その様子を見たリアリスは笑った。


 「ふん。素直ね。あんたもさ・・・殿下と一緒なのね」


 なんだかんだ言ってゼファーを一番認めているのがリアリスであった。


 ◇


 フュンの元に戻ってきた双子。

 そこでゼファーが双子に謝り、「やーい阿保」と言われても我慢した。

 何故なら自分のミスで隊全体を危険にさらしたからだ。

 

 そしてフュンは。


 「いやぁ。危なかったですね。気を付けてくださいよ。ゼファー殿」


 暢気に指摘した。

 フュンはミスは仕方ないとする人間であるのだ。

 失敗しても、フュンならば、別の何かの策を立てていただろう。


 「申し訳ありません。殿下」

 「そうだ」「そうだ」

 「気をつけろ」「ゼファー」


 双子にも言い返せずゼファーはしょぼくれた。

 

 「まあ結果オーライですよ。あちらにも気づかれてもいませんから。ゼファー殿も気にせずいきましょう。では、カゲロイさん!」


 フュンは、ゼファーや敵が戻っていった方向とは別な方角に顔を向けた。


 「なんだ。フュン」

 

 影からカゲロイが出てきた。


 「念のため、あの人たちを追いかけてください。もし戻ってきたら緊急で知らせを」

 「わかった」

 「お願いします」


 再び影に消えていくカゲロイに偵察兵を監視する役割が与えられた。

 敵の偵察は終わったはずだが念のための指示である。


 「ここからはタイミングを見て戦います。皆さんはこのまま身を隠していてください」

 

 ◇


 戦いは真正面へ。


 「何の用でこちらに来たのかな。そちらの御仁!」


 防御布陣の先頭にいるミランダは、陣から飛び出て聞いた。

 それに対して、王国のカサブランカも同様に前に出て聞く。

 大声での探り合いの開始である。


 「少々この先に用があるのだ。どいてはもらえないだろうか・・・」

 「いや、それは出来ませんね。こちらも仕事なんでね。あなたも軍の人間。わかるでしょう。仕方がない事はあるのですよね。全く軍人も大変だ」


 ミランダにしては静かな入りだった。


 「確かに気持ちはわかるが・・・戦うにしてもその数。それではどうしようもないだろう。邪魔をしなければ生かしておいてやるから、そこをどきなさい。何だったら一筆書いて命は救うと誓おう」

 「いえいえ。そんなにご心配頂かなくても結構です。この数でも十分だから、私らはここにやって来たのです」

 「ほぉう。その数で十分だと・・・」

 「ええ。十分ですよ。あなたの軍はここで全滅となるでしょう」

 「むっ」


 ミランダの挑発。

 簡単に乗ってはならないとぐっと堪えたカサブランカだったが、そう簡単にはいかないのがミランダである。


 「逆にお聞きしますが。そちらから攻撃をしないとただ待つだけで全滅しますよ。こちらの軍は攻撃特化の軍ですからね。あなたの軍で攻撃を受け続けるのは辛いですよ。あっという間に壊滅します。それでもよろしいのでしたら、戦争の開始を合図して頂けないでしょうかね。どうぞ。挑戦者はそちらですからね。こちらは余裕でお待ちしておりますよ」


 だんだん荒々しさが出てくるミランダは語気が強くなっていく。

 不敵に笑い続ける彼女の顔が気に入らないカサブランカも声が荒々しくなる。


 「貴様。この上級大将である私を愚弄する気か」

 「上級大将? はて、何の役職でしたっけ? 知りませんね」

 「…き、貴様。し、知らないとは言わせないぞ。王国の最高の役職だ」

 「最高ですか…へ~。王国でも最高なお方がそんな少量の軍しか引き連れないのですね。最高なお方なのに」

 「・・・き、貴様ぁ・・・貴様こそ帝国の司令官にしたら数が少ないだろ」

 「ええ。そうですよ。私は軍の将じゃありませんからね」


 ミランダはここでミランダとなる。


 「あたしは、あんたと違って、独立友軍の総隊長なだけなんでね・・・そんでこのままだとあんたはさ。その格が何枚も落ちる人間に負けちまうってことだ。いいのか。あんたこそ王国に帰らなくてもさ。全滅しちまうのは忍びないだろ。恥ずかしいぞ。どこの誰とも知らねえ奴に、そんな上級なお方が負けてしまうのはさ」

 「だ…誰が負けるものか。貴様、王都で引きずり回してやる。覚悟しろ」

 「ええ。ええ。どうぞ。どうぞ。あたしを引きずり回すってことは捕えるんだろ。そいつは出来ねえよ。あんた程度の人間には無理なのさ」


 口でミランダを負かす。

 これは骨が折れることである。

 ジークでも出来ない事なのだ。


 「と・・・突撃だ。いけ! 王国兵よ」


 ミランダの挑発によって、カサブランカの怒りが頂点に達して、戦闘は開始された。

 

 「この程度で怒るか。小物だなあいつ・・・ああ、もうちょいやりたかったなぁ」


 もうちょっと馬鹿にするような言葉を出したかったミランダであった。




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