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人質から始まった凡庸で優しい王子の英雄譚  作者: 咲良喜玖
最終章 最終決戦 オスロ平原の戦い 帝都決戦

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第393話 閉じた先

 「シャーロット。見えたぞ」

 「ん?」


 シャーロットが飛び跳ねてゼファーの肩越しから奥を見た。

 敵本陣だ。

 総大将ゲインと、その側近ウォルフを発見した。


 「いくだよ?」

 「無論だ。それに横を見ろ」

 「ん? おお! 皆だよ」

 「ああ。最後だ。決着の時が近づいている」

 「うん。いくだよ」

 

 二人の突撃と同時期に左右部隊からの突撃もあった。

 戦いは、最終局面へと移行となる。


 ◇


 戦いが佳境を迎える。

 中央軍を指揮していたのがフュン。

 それに対して戦ったのが、ロビン中央軍を指揮したゲインとウォルフだ。

 敵方の二人が管理していた軍は、当時のルヴァン大陸で最強軍だった。

 個々と全体を比較してみると、圧倒的に実力が上だった。


 それは一兵士たちの実力が高いのだ。

 これが、フュンたちがもっとアーリア人を連れ込んでいたら、その話は浮上もしなかっただろうが。

 そこは仕方ない。

 彼らは別大陸の人間だから、大量にこちらに連れてくるわけにもいかない。

 でもこの量と質問題に終止符を打ったのが、ウォーカー隊の出現だった。

 裏に到着してくれたウォーカー隊は、フュンの発煙筒を目印に、攻撃すべき位置をピンポイントで攻撃するという昔ながらの戦法を使用した。


 これは、ルヴァン大陸で考えると、数世代分遡った技術だった。

 ほぼ失われた連携と呼んでもいい。

 しかしこれが効く。

 シンプルだが相手に一番効く効果的な攻撃だった。

 単純な目印による行動の方が良い効果を生む。

 人の集中力を一点のみにして、一兵卒にとっても分かりやすい目印が、結局一番良かった。


 そして、レオナ中央軍は、ここで最大火力を以てして、敵本陣に全体で圧力をかけた。

 左はまだ敵が生きているが、ミシェルがリアリスとカゲロイと共に突撃をしてきて。

 右は敵が全滅になっていて、ネアルとアスターネ、そしてドリュースとブルーも敵本陣を目指していた。


 そこに、ど真ん中の王道を走る男も向かう。

 それが、英雄の半身ゼファー・ヒューゼンだった。



 「殿下! 必ずや。あの男の首を取ります。我が勝つ!」

 「拙者も勝つだよ」

 「ふっ。ああ。そうだった。我らで勝つ! いくぞ。シャーロット!」

 「うんだよ!」

 

 敵と戦うために、二人が加速していった。


  

 ◇


 敵陣到達が、ほぼ同時だった。

 左。右。そして中央。

 彼らは、敵の分厚い陣を突き破り、ウォルフが待つ本陣に入っていった。


 まずは左のミシェルの指示。


 「穴を維持。そのまま固定です。リアリス。カゲロイ。維持の指示を出して」

 「「了解」」

 「私は奴に向かいます!」


 ミシェルは勢いを持って、ウォルフに突っ込む。



 次に右のネアル。


 「ドリュース。アスターネ。ついて来い。ブルー。お前はここを固定してくれ。入ったはいいが。囲まれては意味がない」

 「「「了解です」」」


 華麗な指示の中で、自身最速の動きで、ネアルもウォルフに向かっていった。


 

 最後に中央のゼファー。


 「シャーロット。我と共にだ。最初の一撃で、奴を倒す・・・つもりでいく。気を引き締めろ」

 「了解だよ」


 二人は連携でウォルフを討つつもりだった。



 ◇


 全ての敵がここに向かって来る直前。

 ウォルフは、ゲインの指示を聞いていた。


 「お前の負けか?」

 「そのようだな。ほぼ負けだ」

 「その言い方、まだ奥の手があるのか」

 「ある」

 「ほう。こんなに荒れた戦場でか」


 ウォルフは目の前の軍を見て、陣形なんてありゃしないと、それくらいに酷い有様で戦っていると思った。


 「ある。だが諸刃だ。それに貴様が役に立たないとなると終わりになる戦術だ」

 「ほう。俺様が役に立たないだと」

 「ああ。そうだ。この作戦の全てが貴様に掛かっていることになる」

 「ん?」

 

 ウォルフはゲインの言葉の意味が分からずだった。

 素直に首を傾げる。


 「敵は私と貴様の首が欲しいのだろう。ここに一直線に向かう形を取っている。だから、それをあえてさせる」

 「ここに誘き寄せるのか」

 「ああ。あのアーリア王。フュンとかいう小僧。あの男が強い理由は、家臣だ。奴の家臣が、我々よりも強すぎる。だから、奴の側近共を消す。その策だ」

 「俺様が全滅させる。そういう作戦か・・・」

 「そうだ。貴様の武による作戦。失敗も成功も、ウォルフ・バーベン次第になる。だから諸刃だ」

 「いいだろう。面白い。やってやる。お前はどうするんだ」

 

 自分の武力によって、この大きな戦いの勝敗が決する。

 その面白さは、他にはない。

 と勇ましいウォルフは、不敵に笑った。


 「私が罠にかける。負けているから耐えているように見せる。ここを徹底して守る形に見せるのだ。なのでここで円陣形を組む」


 ゲインは、ウォルフに説明するために、持っている杖で地面に絵を描いた。


 「我が軍は、屈強だ。多少の攻撃ならば跳ね返すのだ・・・でもわざと、ここに穴を開けて、各将を呼び込む。左。右。そして正面。我々のちょうど真裏には将がいないようだから、そこは閉じる。これで、三方を開けて、全部を狩るぞ。将の数は恐らくは、10くらいになるか。倒せるか?」

 「ああ。雑魚ばかりだからな。俺様が蹴散らそう」

 「それでは私が指揮を取って、誘導するぞ」

 「頼んだ」


 最後の賭けに近い作戦が発動した。

 ゲインの誘導作戦は強力な罠となる。


 ◇


 「フハハハ。貴様ら、俺様の前に来たな! 馬鹿め」


 ウォルフが集結してきた英雄の家臣団に向かって言った。

 楽し気な彼は、これから起こる戦いに勝つ気である。


 「あなたの負けです。潔く・・・」

 

 ミシェルの言葉を遮った。 

 

 「貴様らの負けだ」

 「え?」

 「気付け。バカ女」


 この男の自信満々の様子が気になった。

 ネアルが、周りを確認するために首を振る。


 「なるほど。逆に我々を閉じ込めたと思い込んでいるのか」


 フュンが作った混乱の戦場。

 ここに、唯一最後まで自分たちを見失わない兵士たちが、小さな檻を作った。

 ゲインとウォルフの罠。

 これにいち早く気付いたのがネアルだ。


 「ゼファー殿。これは思い込んでいるんじゃない。そもそも我々狙いらしい」


 ゼファーに向かって言ったのに、ウォルフが自信満々に答える。


 「ああ。ゲインの野郎が、貴様らが邪魔だとよ。いなくなれば、フュンとかいう奴の力は、無くなるとさ」

 「ハハハハ。馬鹿だな。ゲインという男は!!!」


 ここは戦場であるが、冗談も休み休みに言えと、ネアルがお腹を抱えて大笑いした。

 


 「聞いたか、ゼファー殿」

 「うむ」

 「ありえん!」


 真顔になったネアルが宣言する。


 「我らのアーリア王を侮辱するな。彼は、我らなしでも、強い将だ。我らの大陸が誇る最凶の詐欺師だぞ。この先、未来永劫。右に出るものなしと言われるのは、フュン・メイダルフィア。この名に、続く者は現れない。それ程に彼は異才である」


 私が幾度も戦ってきた男を馬鹿にするな。

 ネアル渾身の言葉に頷いたゼファーも続く。


 「その通りだ。殿下の名は、アーリアで永遠に輝く名となるのだ。我らなしでも、貴様には負けん。そして、貴様は我らを狩れると思っているのか。逆だ。我らが、殿下の為にここで貴様を討つ」

 「ほう。その自信があるのか」

 「そちらこそ、この人数に勝てるとでも?」

 「ああ。有象無象の弱者共が、どれだけ束になろうと、俺様には勝てんぞ」


 右にいるミシェルから順に、ウォルフは、敵となる者たちを見た。

 あらためて確認すると、負けるはずがないと思うばかりだ。


 「かかって来い。アーリアの家臣団!」


 世界最強対英雄の家臣団。

 これがオスロ平原の戦いで起きた事だ。

 

 英雄の半身『ゼファー』

 英雄の宿敵『ネアル』

 英雄の快刀『シャーロット』


 猛将の魂を継いだ将『ミシェル』

 フュンの影『カゲロイ』

 伝説のガンマン『リアリス』

 

 名将の子『ドリュース』

 万武の曲線『アスターネ』 


 計八名が、世界最強であるウォルフ・バーベンと戦う。

 ここからが死闘の始まりであった。



 ◇


 ゼファーたちが吸い込まれるように、敵陣に入っていくのが見えたフュンは叫んだ。


 「まずい。閉じる!」


 上手い具合にこちらが分断されているのを見て、この動きがゲインの仕業だと悟る。


 「これは罠だ。間違いない。僕ならやる・・・ゼファーが敵を倒してくれると思えば、最後の手段としてこれをするだろうな・・・」


 フュンが、自分の持ち場の左右を確認。

 左はまだ戦いが続いているが、右はない。

 ネアルが全滅させていたので、敵兵が消えていた。

 そこで、右を呼ぶ。


 「デュラを! 急いでここに。右の兵士たちには待機命令です。あれは、外に弾き出されたのか・・・ブルー。彼女にも命令を出して」


 数の有利があるのに、あえて動かさず。

 フュンには狙いがあった。


 「シルヴィア」

 「はい」

 「左のタイムに。リョウを隊長に据えろと伝えてください。アイスと連携してこのままの攻防を続けろと。そして、そのままタイムをこちらに寄越してください」

 「わかりました」


 皆が危険となった時、フュンは打開策を考え続けていた。


 ◇


 呼んだ人間たちが集まってフュンが指示を出す


 「罠に嵌りました。あちらの皆が中に閉じ込められた」


 フュンの言葉に続いたのが、デュランダル。

 

 「大将。罠とは? ネアル殿があちらに行っても、罠だと?」

 「ええ。罠です。あれは、ウォルフを前面に押し出した罠だ。いわば狩場だ」

 「馬鹿な。この状況で起死回生ですか?」

 「ありえます。彼の武力ならね」


 ゼファーが一対一でも仕留められない相手。

 フュンはウォルフの武力を警戒していた。


 「フュンさん。それで、僕らを呼んだという事は、何かする気ですね」


 タイムが聞いた。


 「ええ。デュラ。タイム。二人は穴を開けるのに、協力をしてほしいです」

 「「穴?」」


 二人が同時に聞いた。


 「あそこは強固な壁となっているのですが、僕があそこに突っ込みます」

 「罠に飛び込むと?」


 タイムが驚いた。


 「ええ。入って僕も戦います。閉じ込められてからだと大体十分が経った。今から僕が開けるのに、十分は必要。だから計二十分で、彼らが無事かどうかは・・・祈るしかないです。無事であって欲しい」


 残された時間が少ない。 

 フュンは焦っていた。


 「わかりました。やりましょう。デュラは?」 

 「当然。俺もやります・・・それで何をすれば」


 二人の承諾を得た事で、フュンが作戦を伝える。


 「まず、タイム。君に全体指揮権を委譲します。この本体をコントロールして、あそこの敵以外を殲滅。そして敵円陣形を抑え込んで、更に他戦場との連携をしてください」


 やるべきことが多い。

 指示を出すフュンも、タイムに無茶をさせていると思っていた。


 「僕が総大将代理ですか?」

 「そうです。一時総大将をタイムに!」

 「・・・わかりました。でも僕はその器じゃないので、すぐ帰ってきてくださいよ」

 「ええ。もちろん」


 タイムの冗談に、フュンが笑った。

 やはりここで単純な応援じゃなくて、冗談交じりに言ってくれるのが嬉しい。

 フュンは、心がホッとして、リラックスできた。


 「次に、デュラ。君は、あそこからぐるりと背後に回って、時計で言う二時の方向から猛攻を仕掛けてください。穴を開けなくていい。とにかく、圧力をかけ続けてください」

 「え? 俺が攻撃ですか」

 「そうです。囮を買ってください。二時の方向に攻撃が強まっていると、少しでも思ってくれれば、僕の突撃が上手くいきます」

 「わかりました。今すぐいきます」

 「頼みます。お願いします」


 フュンの指示後、タイムが聞く。


 「それで、フュンさんは?」

 「僕は七時の方向で、シルヴィアと共に突撃します。そうだ。シルヴィアいいですか」

 

 斜め後ろにいるシルヴィアに聞いた。


 「今頃ですか。なぜ最初に聞いてくれないんですか」

 「どうせ来るものだと信じていましたから、言いませんよ」

 「ええ。当然です。あなたを守りましょう」

 「う~ん」

 「あれ、不満ですか」

 「いえ。僕はいつも君と共に、歩むつもりでいたんですよ。だからね。今回も互いを守りましょう。いいですか。背中合わせがいいです」

 「ええ。そうですね。私が間違ってましたね。私も守ってください」

 「はい」


 守られてばかりじゃない。守るんだ。

 夫婦は常に共にある。並んで歩いている。

 フュンの思いに、シルヴィアも応えた。


 「では。いきます。罠に突っ込みます」


 敵が構えている罠に、あえて捕まりに行く。

 フュンが奇策に踊り出たのが、戦争最終盤の出来事だった。



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