第392話 英雄と共に 快刀と呼ばれる所以
「む。無理かもだよ・・・どうしようだよ」
敵の抵抗が激しく、シャーロットの進軍が止まりかけた時、後ろから声が聞こえた。
「シャニ」
「ん? レヴィさんの声だよ?」
「そうです。今は影の状態になっています」
攻撃を一時中断して影となったレヴィは、シャーロットの影に入った。
「ゼファーと合流します。あなたは斜めに進んでください」
「斜め?」
「はい。左前方に走っていき、フュン様の正面のラインに、いきます。そして、そこからは真っ直ぐ走ってください」
「フュン様の正面・・・それは・・・あそこの位置だよ」
シャーロットは振り向いて、フュンの位置を確認した。
やや左後方の位置、あそこが正面ラインになるのなら、あと少し斜めに走ればよいと計算した。
「うん。やってみるだよ。斜めならいけるだよ」
「はい。私はあちらに行きますので、シャニ。行き方は任せます」
「うんだよ。走るだよ」
レヴィと別れた直後。
シャーロットは、得意戦法を披露した。
移動も行動も、斜めに切り裂くのが彼女の得意な攻撃で戦法。
なので、袈裟切りを中心として移動攻撃を繰り出す。
「ほい。ほい。ほほい。ほいのだよ」
真っ直ぐ走るよりも、リズムが出て来る。
独特の戦法とこのリズムが、シャーロットの本領だ。
「うん。やっぱり拙者。これがいいのだよ~」
◇
フュンと出会った頃の修行中。
シャーロットを鍛えてくれた先生方は、多くいた。
フィアーナやミランダ。レヴィも教えてくれていた。
しかし、色々な戦い方を教えても結局はこの戦い方が染み付いていて、他に器用に戦えなかった。
だから、そこを悩んだのが、教えていた人たちで、彼らがフュンに相談してたことで、二人きりの直接面談となった。
いつも笑顔のフュンは、深刻な問題に対しても笑顔で対応する。
「シャニ」
「うんだよ」
「ええ。君は君のままでいい。素直な気持ちのままでいきましょう」
「え? 拙者のまま?」
「悩んでますよね?」
「・・・うんだよ。無理だよ。色々言われたけど、他に出来ないだよ」
「ええ。わかっています。あなたを見た時からね。あなたは強さがあるけど、一点突破の才能だとね」
一芸の中の一芸を極めるタイプの人間。
一目見た時から、フュンは彼女の本質を見抜いていた。
「ですから、気にしない。言われたこともやろうとする。その努力はする。だけど、出来ない事をくよくよ考えても仕方ないんです。一応特訓はしましょう。全ての基礎だけでも体に叩き込んで、でも上手く成長しないと思うので、そこは諦めてもらってね」
出来ない事をいつまでも出来ないと嘆くよりも、出来る事を更に出来るようになろう。
フュンは最初からこの応援をしようとしていた。
「それにね。僕の計算ではね。君を通常スタイルに強制すると、恐らく三割くらいの力になると思います」
「三割だけだよ?」
「はい。三割なんです。普通の戦士にしようとして、強制したら三割です。ええ。ええ。だから勿体ない」
指を三本立てて、フュンが笑顔で宣言する。
「でもね。僕の考えでは、あなたはそのまま強制せずにいれば、能力を強化させることが出来ます」
「ん???」
「それこそ今の三割増しになれますよ」
「拙者の力が?」
「そう。君の力は面白い。他の子らとは全く違う。異質の力だ」
一点のみの才能。
斜めだけが生き甲斐。
こんな力は、他にはいないのだ。
「だから、君は僕の刀になりませんか」
「フュン様の?」
「はい。僕専用の必殺の武器です!」
「・・・おおおお!」
なんかカッコいいと、単純に思ったシャーロットは、両の拳をそれぞれ握って、上下に軽く揺らして興奮していた。
「あなたはね。使いどころが難しいだけの話なんですよ。だからね。僕があなたの才を最高に上手い形で扱えばいいだけの話なんですよ。ね、僕がね。君の力を最大限に使います。だから気にせずに、真っ直ぐ生きましょう! あ、斜めか。そうです。気にせずに斜めに生きましょう! 君の才を僕が余すことなく使えばいいだけなんですよぉ!」
「おおお!」
気にしないで良いのは楽だなと、シャーロットは単純なので納得した。
「それにまた君をね。城壁の見張りの職に戻すのも、勿体ないですしね。それに、嫌でしょ。つまらないって思っていましたもんね」
「うんだよ。イヤだよ。日頃から寝てばかりだったよ」
「ふふふ。ええ。そうでしょう。君はそういう人だ。だから、僕の快刀になってください。僕がその刃を振り下ろした時に、全力で斜めに進んでくれればいいですから」
「うんだよ!!」
こうして、斜撃のシャーロットが完成した。
本当は将として成長させようとしたのだが、皆の指導があっても良き成長とはならずで、実力を上げる事には繋がらなかった。
そこでフュンは、彼女はありのままで良しとした。
変わらぬあなたで進んでいき、変わらぬ力を維持してもらって、自分が上手く使えばいいだけの事だから、あなたは難しい事を考えなくていいですよと、伝えた事から始まったのだ。
だからシャーロットは、一生涯フュンを主だとしている。
というよりも、主がフュンでなくては、自分は死んでしまうとも思っていた。
他の誰かでは、きっと雇ってもらえない。
フュンだけが頼りであると。
半ば、すがる気持ちがあるのだ。
英雄の快刀
斜撃のシャーロット。
彼女の事を、のちの人々は、英雄の最高の武器と呼ぶのだろう。
だがしかし、彼女の実態はただの不器用な女性である。
一点のみの極限の才能を持っていただけで、フュン以外には扱いきれない名刀・・。
いや、迷刀だ
決して将として強いわけじゃない。
それを使いこなせるフュンがいたからこそ、彼女は後に有名な人物となる。
フュンがいなければ、ただの変人で終わる女性であった。
◇
「おお! やっぱいけるだよん!」
自分の斜めの攻撃ならば、この強い敵たちにも有効。
次から次へと切り裂いていけた。
斜めに進んで、チラチラと後ろを確認する。
フュンがいる位置から正面を進みたい。
だから、シャーロットは微調整をしていく。
「あと少しだよ・・・ここを切って。次を・・・あれで正面になる」
三番目の斜め先の兵士を切れば正面。
シャーロットはそこを難なく切り抜けて、フュンの正面に入った。
「ここからが難しいだよ・・・正面を真っ直ぐだよ・・・どうしよだよ」
言われた展開に入ったことで、難しさが出て来る。
真っ直ぐになると弱くなるのだ。
そこに救援が来てくれた。
「シャーロット。我の後ろで動け」
「ん? おお。ゼファーだよ」
「ここで合流だ。お前は斜めでいい。我の後ろで、ちょこまかと動き続けろ」
「わかっただよ」
ゼファーを先頭にして、その右後ろにシャーロットがついた。
彼が正面の兵たちを斬って、そこから漏れてくる敵を、シャーロットが斜めから斬っていく。
斜めに動いて、今度はシャーロットはゼファーの左後ろに入って、そこから更に斜めに斬る。
シャーロットがゼファーの後ろで暴れる形になった。
「上手くいってるだよ?」
「無論。お前のおかげで、進めている。前へ楽に行けるぞ」
「よし。じゃあ、このままだよね」
「ああ。そうだ。シャーロット。後ろを頼んだ」
「了解だよ」
英雄の快刀の強さが、フュンの最後の突撃を成功させるのであった。




