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人質から始まった凡庸で優しい王子の英雄譚  作者: 咲良喜玖
最終章 最終決戦 オスロ平原の戦い 帝都決戦

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第387話 英雄と共に 子供の時から支えてくれた仲間たち

 双璧の活躍が全体に好影響を与える。

 フュンがいち早く気付いたわけだが、彼らもまたすぐに気づいてくれた。


 中央軍左翼部隊のタイム。右翼部隊のネアル。

 二人とも彼らがしている事を理解して、壁を上手く利用する形で、相手を消滅させ始めた。

 今まで、屈強な兵士たちに苦戦していたのがレオナ軍。

 相手となるロビン軍の中央軍は、ゲインとウォルフが受け持っていた軍なので、他とは別格の強さを持っていた。

 しかしここで、最強の連携攻撃が炸裂したことによって、左右に有利が生まれた。


 「押します。ミシェル。ここがチャンスですよ。左から右へ押し込む形にして、右にいるアイスに捕獲殲滅してもらいます」

 「タイム、わかりました」

 

 混沌で乱れた戦場の中で、唯一の連動性がある捕獲戦術。

 あの連携が、この戦場での数の違いを更に生み出すきっかけになっている。

 あそこに掴まれば恐ろしい結果が待っていると、敵の表情の恐れがある。

 そう一瞬で判断をしたのがタイムだった。

 誰よりも戦場と、人の感情の機微を知る男タイム。

 特筆すべき能力は何もない。

 指揮が優れているわけでも、戦闘が優れているわけでもない。

 ただ彼は人をよく見ている。

 アーリア大陸で、フュンの次に、人の顔をよく見ている人物だろう。

 タイムがいることで、フュンやクリス、ギルバーンなどの戦略家は戦いやすいのだ。

 

 彼の補佐能力は、素晴らしい才能の一つだが。

 もしかしたら、フュンが主でなければ、彼は採用されないかもしれない。

 それは、普通の人が彼を評価しようとすると、その彼の価値をどのように評価するか苦しむからだ。

 彼は、目立つ能力がないから、よく見ていないと評価が厳しくなる。

 

 『彼がいると、なんとなくだけど、全体が上手くいくような気がする』

 

 こんな曖昧な感想みたいな評価では、上に出世することは難しい。

 でもフュンの評価軸の中では、タイムは最大評価に値している。

 これ以上ない満点評価をしているのだ。

 タイムほど重要な人物はいない。

 彼がいるといないとでは、戦場のコントロールは難しいとも思っているくらいだ。

 

 フュンは、始めから彼の事を理解している。

 子供の頃からずっと、彼への信頼は最大になっているのだ。



 そして。


 「いきます。私が左に膨らんで敵背後を削りながらいきます。ウォーカー隊! こちらですよ」


 ミシェル・ヒューゼン。

 彼女はゼファーの妻だ。

 彼女も武の高みを目指して、夫に追いつこうとする武力と努力を持っている。 

 しかし失った眼のせいで、その夢は経たれて、戦いの道は閉ざされたと思っていた。

 でもミシェルは諦めない。

 ゼファーの妻として、ダンの母として、戦う女性を諦めなかった。


 その思いで修行をし直して、距離感を克服した彼女は、再びフュンの為と夫の為に戦場に立つ。

 戦いの激しさは、ザイオン譲り。

 戦いの洗練さは、自分で編み出した事だ。

 だから、本来の彼女は大将級の女性だ。

 それが補佐に回る事で、フュンやゼファーの強さが更に増す。



 さらに二人の将の下には、大事な仲間がいる。


 「おい。リアリス」

 「ん?」

 「ミシェルの脇。あれ、閉じるぞ。ヤバい」

 「あ! そうだね」

 「俺が閃光弾で乱すから、お前が撃て。ここが勝負だと思う」

 「・・・勝負所なの?」

 「ああ。なんとなくわかるぞ」

 「ほんと?」

 「フュンが決めにいってる。俺たちに言ってなくても、あいつの考え。俺たちになら分かるだろ」


 フュンの指示が来ていないけど、フュンの考えは手に取るように分かる。

 いつも一緒に戦ってきたんだ。

 これくらいは朝飯前の楽勝だ。

 カゲロイは、笑顔でリアリスに宣言した。


 「・・・たしかに、殿下が今までね。これほどの圧力で攻撃しなかったもんね」


 リアリスもなんとなくわかる。

 殿下がしたい事をなんとなくだ。


 「わかった。一気に減らそう」

 「おう。でもよ。使えるのはあと何発だ?」

 「えっと、これと、この弾があと少しだね・・・えっと」


 リアリスは、自分の持っている銃弾を数えた。

 

 「40!」

 「了解。それを効果的に使うぞ。おそらくミシェルの突撃もどこかで止まり始める。敵も強いんだ。そこを利用しよう」

 「・・・?」

 「敵の中で、強い奴を狙い撃ちにする。無駄なく行くことで最後まであいつの突撃を強化すんぞ」

 「なるほどね」


 リアリスもカゲロイの考えを理解した。

 敵が強いのは、ここまで戦ってよく分かっている。 

 相対した瞬間に、圧力のある軍だと思っていた上に、実際に戦うと余計に強いと思った。

 この現象はワルベント大陸にはなかった。

 あそこの軍は一人一人の戦闘力はあまりなかったので、相手に銃があろうとも戦闘時に余裕があった。

 でもルヴァンはかなり鍛えてある。

 武があるので、中々の抵抗だと二人は思っていた。


 そこで、二人はミシェルの動きをフォローする形を取る。

 補佐の補佐に回った事で、突撃をしているミシェルの強さが輝きだした。

 彼女の軍の侵攻が加速した事で、敵背後から攻撃をしているウォーカー隊の動きも良くなったのだ。

 


 カゲロイ。

 サブロウたちの弟子で、フュン世代筆頭の影。

 カゲロイはフュンと出会わなければ影の頭領になったかもしれない影だ。

 彼は能力の全てを里の為と自分の為じゃなく、フュンの為に使ったから、里の長になろうとしなかった。

 出会いは初陣。

 最初の印象は良くない。

 弱々しいお坊ちゃまが戦場に出てきやがったと、心の中では馬鹿にしていた。

 でも戦えば戦う程、そばにいればそばにいる程。

 彼の人柄と笑顔に魅了されていった。

 だから最初にフュンを殴った時も、自分でも驚くくらいに感情的になったと思った。

 この人が、自分に負けて欲しくない。

 シゲマサの想いを受け止めて欲しいと思って、遠慮なく殴ったんだ。


 そして立ち上がった彼を見て、自分はこの人に仕えるんだと思ってしまった。

 これが原因だ。本来なら里の長になって、影の頭領になっても良かったのだ。

 それくらいの影の才があった。

 でもカゲロイが選んだのはフュンだった。

 それも子供の頃からの仲間たちと一緒にだ。

 自分の道をそこに決めた事に後悔がない。

 出会わなかった事にもだ。

 影の頭領になるよりも、たくさん貴重な経験をしてきた。

 フュンのそばにいるという事が、影の頭領よりも名誉である。

 それがカゲロイの出した人生の答えだった。


 「やんぞ。あのミシェルの右下。あそこの兵の突撃が強い。あれの頭・・・あの男だな。そこまで一気にいく」


 敵小部隊の隊長をやる。

 カゲロイはリアリスを先導していく。


 「了解」

 

 リアリス。

 この時点での歴史で、彼女はあまり目立つ存在じゃない。

 彼女の真の力は、この後に開花することになる。

 でもリアリスは、この時点でもフュンに誠心誠意仕えてきた人間の一人だ。

 『君たちは子供の頃からの大切な仲間だ』

 と彼は遠慮なく言ってくるだろう。

 でも、そんな事を考えているのはフュンだけだ。

 ミシェルも。タイムも。カゲロイも。自分も。

 あの頃の自分たち世代のウォーカー隊は皆、フュンが主君だと思っている。

 あの無法者の集団が、彼だけを主として認めていた。

 王になったからじゃない。元々が王子様だったからじゃない。

 フュンが大好きだから、自分たちの大切な主君であると思っている。

 

 優しい。

 たぶんそれだけだったら、ここまで一緒にいなかった。

 面白い。

 これが加味されているから、ここまで何も不満なく一緒にいた。

 

 フュンが思う事は、普通の事なのに、誰もそれをやれるとは思わなかった。

 特に衝撃だったのが、消滅するはずのサナリアを救ったことだ。

 自分の弟の反乱。

 これは、人質のフュンにとっては、致命的だ。

 おそらく自分の命すら危なかったはずなのに、彼はサナリアを守ったどころか、発展させたのだ。

 この衝撃を超える出来事は中々ない。


 そんな面白い事をし続けるから、飽きもせずにウォーカー隊のみんなも協力するのだろう。

 自分もなんとなくそこを理解できる。

 だって、何度も解散しているのに、フュンを手伝おうと思うと、何度でも復活するんだ。

 これはたぶん、里のみんなが里を忘れられないからじゃなくて、里のみんながフュンの為に動いてやるかと思うから、いつでもどこでも集まるのだろう。

 ミランダがいない今。

 ウォーカー隊が動くという事は、そういう事なのだ。

 いつでもフュンと共にありたいからだ。

 彼が困っているのなら助けてやりたいからだ。

 

 だから自分も、ウォーカーのみんなと同じように前に進む。

 

 「カゲロイ。裏のウォーカー隊も進ませるよ。あれ、あそこも撃つ」


 防御を担う。

 要となる敵を排除して、ウォーカー隊の進軍を一歩前へ進めていく。

 リアリスの早撃ちと、正確無比の射撃はここでは切り札だった。

 


 フュンには支えてくれる副将がたくさんいた。

 タイム。ミシェル。カゲロイ。リアリス。

 多くの仲間たちに恵まれたから、英雄となった。

 英雄になったのは仲間たちのおかげ。

 こう断言できるのは、彼らの存在が大きいからだ。


 英雄になるには、英雄だけじゃ足りない。

 英雄を支える人間がいなくては、全てが始まらない。

 彼らが、フュンを英雄にしようと動いてくれたから、フュンの英雄伝説は誕生したのである。

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