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人質から始まった凡庸で優しい王子の英雄譚  作者: 咲良喜玖
最終章 最終決戦 オスロ平原の戦い 帝都決戦

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第386話 英雄と共に 太陽の双璧

 全てが勝っている状況の中で、唯一互角だったのが中央軍。

 敵がやたらと強いために、隊列を乱しにくく、難敵であった。

 だがフュンは焦らない。

 じっくり敵を倒せばいいとも思っているが、それとは違う考えも持っていた。


 それは。


 「まだ来ていないですか?」


 伝令兵に確認。ウォーカー隊の出現を待っていた。


 「はい。もう少しだと思われます」

 「そうですか。ありがとう」


 そうフュンの中央軍にはまだウォーカー隊が来ていなかった。

 彼らが、中央に辿り着くまでには、あと少しだった。

 この時点で、左右の軍に到達しているのは、帝都の南と北から移動すれば近い位置にあるからだ。

 中央に行くまでに、多少の時間が必要である。


 「でも、そろそろでしょうね。彼らはなんだかんだ言って、時間を守りますから・・・あ!?」


 敵の向こう。

 自分たちとは、反対側から煙が上がった。

 

 「来ましたね。全軍乱します。タイム。ミシェル。それとビンジャー卿に連絡を」


 フュンの中央軍の編成が変わっていた。

 左翼タイム・ミシェル部隊に、リアリスとカゲロイがいる。

 右翼ネアル部隊には、ドリュースとアスターネだ。

 この二つで両翼を乱してもらう事にしていた。


 タイムとミシェルならば、敵背後のウォーカー隊と連携が出来て、ネアルならば、混沌と戦った経験を活かしてくれるはずだと、全てを任せていた。


 そしてフュンはというと、ここに至るまでは、ゆっくり敵に当たっていた。

 削る動きでもなく、武器で押し合いをする程度だった。

 だが、ここで、最速の行動に出る。

 

 「出ます。ゼファー! シャーロット! 全速前進。相手を切り裂いてください」

 「「了解」」

 

 二人の突進が始まった。

 その直後にも指示が飛ぶ。


 「アイス! デュラ!」

 「「はい」」

 「二人とも、難しいですが。彼ら二人の突進の援護と、左右部隊との連携をしてください。あなたたち二人にはまた地味な事をさせますが、一番重要な役割をお願いしたいです」

 「当然、いつもの通りにします」

 「大将。俺たちの事は気にすんな。ドンと暴れろよ」


 いつも損な役割を与えてしまい。申し訳ない。

 フュンから滲み出てくる言葉は、そういう意味だった。


 「ありがとう。あなたたちにはいつも苦労を・・・いや。ここは感謝です。僕の大切な人たちですから、難しい事をやれると信じてます。デュラ。アイス。あとは好きなようにやってください。細かい指示は出しません」


 二人に丸投げしても絶対にやってくれる。

 信頼感が他とは違うのだ。

 軍の規律性と機動性。そして、動きの柔軟さは、彼らの軍の特徴である。


 「「はい!」」

 「では、中央軍の三部隊を仕切る壁となり、進んでください。左右との連携は、入れ替えによって、行ってください。基本は、ゼファーとシャーロットの二人と、ウォーカー隊の侵入を手助けする事です。彼らの突撃の援護をお願いしますね」

 「了解です」


 フュンは最後の勝負で、役割をはっきりさせた。

 中央軍部隊の総指揮は、フュン。その副官はシルヴィア。


 そして、突撃兵として、ゼファーとシャーロットを起用した。

 二人には指揮を任せない事に決めた。

 その理由は、二人の最大限の力を発揮させることが目的だ。

 そもそも将としてよりも、彼らは何も考えずに戦った方が強い。

 一兵士として扱い。突撃の威力を生み出すことにした。

 ここはフュンの名案だった。

 現に、この戦場が荒れに荒れていく。

 強固な陣形を組んでいたロビン軍の中央が、徐々に削れていく。

 二人の突進の威力はとんでもないものだった。


 そして、この二人の威力を生み出しているのが、実際は太陽の双璧である。



 ◇


 「計画通りです。やれます」


 アイスは、左側の左翼と中央を繋ぐ壁を担当。

 敵の分断と、左側のミシェルたちとの連携すらも図る。

 難しい立ち位置に入っていた。


 「デュラ。あちらはどうです」


 彼女は右の戦場を見る。


 ◇


 デュランダルも同じような手ごたえを持っていた。


 「アイス・・・お前の言う通りみたいだ。いけるぞ」


 混沌の経験が少ない二人は、それでもフュンの手助けになる事をしたいと、前日に会議を開いていた。

 フュンからは、自分の部隊の指揮をお願いしますと言われてからすぐに考えていたのだ。

 

 ◇

 

 前日の二人の会議。


 「どうする。アイス。俺たちが、大将の力になるためには、このままじゃいけない。何とかしないといけないぜ・・・あのさ。俺たちってド派手な事は出来ないからな。何かで役に立たないと」

 「そうですね。堅実な動きしか出来ませんからね」

 「ああ。俺のノリの攻防もそんな感じだからな。皆に比べたら派手さはない」


 デュランダルは勘もいい。

 だけど基本の動きが堅実なのだ。

 彼らのような派手な動きはしにくい。

 教科書に近い形で、常に正解を出していくタイプの指揮官だ。


 「ええ。私もそんな感じです・・・・いつも彼らの事がいいなと思ったりしますよ」


 アイスもまた同タイプ。

 周りの人間たちが奇想天外な能力を持っているから、自分の実力が足りないと思い込んでいた 

 しかもそんな力しか持たなくても、フュンは変わらず二人を大将の地位から外さない。

 これが意外にも、二人には重荷だったりしていた。

 でも信じて欲しい。

 フュンは心から二人を必要としているのだ。


 一兵卒だったデュランダルに、貴族だったけど弱小のアイス。

 二人は、下から大将へと大出世をしてきた。

 フュンしか出来ない人事で出世したのだ。

 でもそれは実力があるからの出世だ。

 彼が作り出した国が、実力社会であることの証でもあった。


 「そうだな。俺もだよ・・・ああいう感じの強さ・・・欲しいと思ったもんだわ」


 ゼファーやネアル。ギルバーンやメイファ。

 彼らのような強さか。

 クリスかイルミネス。

 彼らのような思考だって欲しかった。

 こう思うと、二人は実力が足りない・・・と思い込んでいる。

 

 でも、フュンは決して人を比べたりしない。

 重要な部分のピースとして、二人を大切にしている。


 「はい。ですので、デュラ。ここでひとつ案があります」

 「案? どんなのだ?」

 「はい」


 だからアイスは、今回皆の役に立つ考えを思いついた。

 前回の混沌を見て、自分たちでは出来ないと感じてしまった事で考えたのだ。

 あんな複雑なやり方に、相手の隙間を縫って倒していく武力。

 この両方を一朝一夕では出来ない。

 なので、混沌を補助するやり方を発見した。


 「これを見てください。この小部隊編成です」


 一つを五人で編成。

 五人一組にした形を、戦場図の上に書いた。 

 

 「この五人を基礎として、一辺にします」

 「辺?」

 「はい。これで四つの小部隊が連携します」

 「連携ね。なるほど」

 「それで、敵を捕えるのが三小隊。残り一個は裏に待機です」

 「ほうほう」

 「そして、この三部隊が作った場所に、ウォーカー隊の方。もしくは混沌で動ける方が入って来た瞬間に、裏に待機させている一小隊が蓋をします。四方で小さく取り囲むんです」

 「極々小規模な包囲を作るってわけか」


 アイスの提案が面白いとデュランダルは鋭い考えに唸っていた。


 「はい。ですが、この小隊は、ほぼ攻撃をしません。中へ中へと押し込んでいくだけとします」

 「ん? どういうこった?」

 「私たちは完全に補助になりましょう。出来ない事をやろうとしないで、出来る事をしましょう。無理に動くよりも、これの方が皆さんの役に立つはず。地味ですけどね・・・」


 戦場に出て、敵を倒す。

 これが王道だ。

 でも二人がやろうとしたことは、敵を閉じ込めて、敵を倒せる味方に倒してもらおうである。

 かなり珍しい考えだった。


 「・・・そうだな。俺たちが主役じゃない戦いか・・・寂しいもんかもな」

 「はい。そうです。でも、何も出来ずに終わるのは嫌です。私は縁の下の力持ちでもいいです。皆さんの役に立って! フュン様が勝てるのなら、なんでもやります!」


 派手さがなくて、地味な事ばかりをやってきた。 

 それが今まで、彼の役に立っていたかは分からない。

 だから、何とかして役に立とうと、急に強くなって、主攻が出来るとも思わない。


 皆よりも弱いのは分かり切った事。

 だから直接役に立つような動きも出来ないのも分かる。

 でもそんな状態でも、自分が負けているとしても、ここで全体が負けたくない。

 自分が何も貢献せずに、フュンが負けるなんて、絶対に嫌だ。

 アイスは負けず嫌いだった。


 「そうだな。俺もやろう。俺とアイス。二人で左右を安定化させれば・・・俺たちの大将がなんとかしてくれるはずだな」

 「はい。フュン様がなんとかします。彼がたとえ・・・私たちを見てくれなくても、私はこれをデュラとやって。彼の役に立ちたいです。お願いします」

 「ふっ。そうだな。それこそ縁の下の力持ちだよな。誰かの役に立つのかもわからねえ。細かい戦術だもんな」


 その動きが地味過ぎて、誰も見てくれないかもしれない。

 それでもこちらが勝つためなら、皆の強さの土台になろう。

 混沌の土台になってみせる。

 二人は、皆の為に自我を押し殺して、動いていた。


 でも・・・。彼らは主を甘く見ていた。

 彼は一人一人を見逃さない。必ず平等に評価を下す男なのだ。



 ◇


 「素晴らしい。素晴らしすぎる!」

 「フュン? どうしましたか??」


 喜びのあまりに大声で言うフュンは、隣を走るシルヴィアを驚かせていた。


 「ええ。僕の大切な人たちは、なんてすばらしい人たちなんでしょう。あれのおかげで、混沌は更なる・・・まるで別のような動き方に・・・変わっていますね」


 フュンの目には見えていた。

 二人の地味だけど、強力な戦術を・・・。

 

 「あれだと、敵を確実に消します。今までの混沌では、少し難しい形になると止まってしまう場合がありますが、あの形で攻撃をすれば、あそこの中に入った兵士はひとたまりもない。逃げられない。脱出不可能の檻だ・・素晴らしい。素晴らしすぎる」


 地味とか、派手とか。

 メインだとか、サブだとか。

 そんな事はフュンには関係ない。

 皆で、一緒の事をやっていて、そこで誰かが脇役になるなんてありえない。

 全員が主人公。

 全員が自分が出来る事をやる。

 そういうことで、全体が強くなる。

 それがフュンの組織作りだった。

 ここがフュンの他の人間よりも圧倒的に上手い部分だ。

  

 後にも先にも、彼だけが作る事が出来た特別な集団。

 それが、アーリア王国の初代王様の家臣団だった。

 ありえないくらいに、集団としての完成度が高い。

 今も昔も、全てを比べても、彼の組織がナンバーワンだ。


 ◇


 「いける。押し込むにしろ。あとはウォーカー隊を導け! 目標地点を作っていくんだ」


 デュランダルの指示で、味方が動き出す。

 壁を三小隊で作って、捕獲。

 捕獲したらウォーカー隊を入れ込んで、残りの小隊で蓋を閉じる。

 この一連の動きが手慣れてくる頃には、数の違いが生まれていた。

 

 アイスとデュランダルの二人のおかげで、敵は確実に兵を減らしていたのだ。


 この結果は、ゲインとウォルフが二人を甘く見ていた事が要因だ。

 ゼファーやネアルなどの強力な個性を放つ者を注視していたから、この二人の事をよく見ていなかった。

 見ておけば、何とか対処が出来ただろうに。

 雑魚はどうでもいいなどの考えを持つ二人には、弱者の粘り強い戦いを予想も出来ないだろう。

 特に、ウォルフ。

 ゼファーにあれだけの事を言っておきながら、その弱者に手玉に取られているのだから。

 この戦争で、一番人の感情と思いの違いが出る。

 面白い部分であった。


 太陽の双璧は、決して地味じゃなかった。

 太陽を支えるためにはこの二人が絶対に必要で、しかもこの戦闘に置いては、基礎となる強固な土台となっていたのだ。


 この二人を自分のそばにおいて、一番重要な戦場で抜擢した事。

 それがいかにフュンが人をよく見ている証拠だろう。

 誰もが彼を慕う理由。

 それは、こういう地味で誰かに見てもらえるか分からない仕事をやっていても、必ず見てくれて、正しい評価をしてくれて、そして大切にしてくれるからだ。

 皆が気持ちよく働ける環境作り。

 これがフュンの最大の能力かもしれない。

 

 

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