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人質から始まった凡庸で優しい王子の英雄譚  作者: 咲良喜玖
ウォーカー隊の新部隊編

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第70話 アージス平原

 戦争は両国の思惑から始まることが多い。

 此度の思惑はいかほどのものだろうか。


 敵の意図がよく分からない帝国は、とりあえず敵よりも先に現場について先手を取ろうとした。

 それにしてもの話だが。

 一万二千くらいの兵力なんて即座に集めることが出来る王国なのに、なぜ三週間も何もせずにルクセントで待機をしてたのだろう。

 ミランダは色々な事象に疑問を持っていた。


 「クソ。よく分からん。奴らが本格的に戦争をしたいのなら。絶対に十万くらいは出すはず。せめて六万くらいか。なんでこんな数なんだ」

 「ミラ先生。僕もそこが気になってました」

 「お? お前もか」

 「はい。そして一つ、気になる点があります」

 「ん? なんだ?」

 「これ、もし本格的にやるならば、あの時に仕掛けているはずですよね」

 「あの時?」 

 「ハスラ防衛戦争時です。あの瞬間がアージスを狙うチャンスだと思うのですよ。同時多発で攻撃を仕掛けるのが一番効果的なはずです。なのにバラバラで攻撃を仕掛ける。ということは今の王国は一枚岩ではないのでは? 命令系統が別だった可能性があると思います。だから帝国と同様で一つではないのかもしれませんよ」

 「そいつは、あたしも考えていた線だな。でも王国は、ここ数十年。内乱なんて聞いたことがねえな。兆しすらもな・・・」

 「おいらは、フュンの予測が正しいと思うぞ。それでもしだぞ。もし内乱があるとしたら一つの可能性があるぞ」


 二人の会話の間にサブロウがやってきた。

 いつもの袴姿に下駄をはくサブロウは、淡々と話しだす。


 「王国は今後継者が二人いるぞ」

 「ほほう。二人いるのか」

 「ああ。第一王子と第二王子だ。内乱をするとしたら、こいつらの可能性があるぞい」

 「サブロウさん。そんなことも知ってるのですか」

 「おいら自身も偵察しているが。まあ、フィックスからもナシュアからも情報交換をしているからぞ」

 「へ~。そうだったんですか。あ、それでナシュアさんって誰なんですか? 一度姿を見たことがあるんですけど。僕、詳しくはしらないんですが」

 「ああ。あいつは・・・あ・・」


 サブロウは思い出す。


 「おい。サブロウ」


 ミランダが指摘した。


 「すまんぞ。フュン今は忘れておいてくれぞ。いずれ、ジークが教えてくれるからぞ」

 「…わかりました」


 随分厳重に隠すんだなとフュンは思った。


 「それじゃあ、どうやって敵を迎え撃つか・・・・」

 「の前にぞ……敵がどのルートを通るかを考えねばならんぞ」

 「そうだったな。フュン。地形は頭に叩き込んだか」

 「はい。入れてきました」

 

 アージス平原の侵攻ルートは三つ。

 北ルート。中央ルート。南ルートである。

 北はフーラル湖に隣接していて、その隣接部分が小高い丘になっている。

 中央は両側を森ほどは密集していない林に囲まれていて、小部隊なら隠れることが出来る。

 南は、南側に海がある。海岸沿いのルートである


 この三面で敵地へと行くことが出来る。

 このうちで、敵がどこを選択するのかによって、守るべき場所を決めたいのだが。

 敵がまだここまで侵攻してきておらず、ウォーカー隊の方が先にアージス平原に着いた。


 ミランダは、どこにでも布陣できるようにアージス平原中央ルートを選択。

 何もない平原の上に、ウォーカー隊五千を並べた。


 「よし。サブロウ。どこを選択するか。見て来てくれないか。空に煙幕弾を放ってくれ。そうだな・・・えっと、赤は北。青は中央。黒は南にしよう。頼むわ。知らせを待つ!」

 「了解ぞ。おいらが指示を出すまでそれまで休憩しとけぞ」

 「わかった。ほんじゃ、皆休んでろ」

 

 指示を出した後。ウォーカー隊は堂々と平原で休み始めた。

 天幕を出すにも高速で、ここはさすがは野盗というべき面子だ。

 野宿するのも得意で手際が良い。


 「フュン。お前には、今回。側面を叩いてもらう」

 「側面?」

 「ああ。ここは野戦。奇襲を仕掛けずらいだろ。この開けた視界で、奇襲はマジでムズイ。よほどの罠がないと出来ないからな」

 「そうですね。何もない平原ですもんね。あの右と左にある林の先も平原ですよね」

 「そうなのさ。だから厄介でもある。でもあの林。あそこは少数の部隊なら隠れられる」

 「確かに・・・ああ、そう言う事ですか。側面を突く。僕らが五百の兵なのも、あそこに隠れられるギリギリの兵数ってことですね。そこで先生が本体のような囮で、ザイオンさんたちが囮のように見せた本攻撃。それを助けるための僕らの奇襲ですね」

 「お前は理解が速くて助かる。それじゃあ、サブロウの合図の後は、分かってんな」

 「はい。僕らは隠れて敵を待つ。そしてタイミングがいい場面での攻撃……ですね」

 「そうだ。頼んだぞ。今回は別に相手を殲滅させなくてもいいんだ。撃退がメインだ」

 「はい。わかってます。僕らの持ち場が勝ったとしても深追いもしませんよ」

 「よし。それじゃあ待つぞ。サブロウの指示をな」


 ミランダとフュンはサブロウの指示を待った。


 ◇


 王国軍は兵を揃えてから一カ月の時を擁して、ルクセントから軍を出した。

 この移動は、王都ウルタスからの指示通りなのだが、実は兵の準備をしろと言われたのは今よりも二か月も前だった。

 ラグのある指令に悩んでいたのは、イーナミア王国の上級大将カサブランカである。

 貴族から出世した優秀な・・・は嘘で、親の地位を継いだだけの男だ。

 

 「はぁ。なぜに今のタイミングで戦争を・・・ありえないだろ」

 「戦争ではありませんぞ閣下。これは紛争のような規模です」


 カサブランカの部下。大将サバシアは冷静に意見を出した。まだこれは規模的には戦争ではない。だから何かがおかしい。わざわざ敵にも周知するようにルクセントに指令が来て、そこからこちらのカサブランカ軍のタイミングでの出陣が出来ない状態が続く。

 これは何か王国に裏がある。

 そのモヤモヤを抱えたままにサバシアは、カサブランカの元で軍を編成していたのだった。


 「閣下。どのルートを選択しますか。敵が来る可能性はありますぞ。斥候は出しましたが、こちらから選んでもよろしいかと思います」

 「そうだな。湖でも見ておくか。あそこならば、いざ何かがあっても逃げ出しやすいだろう」

 「わかりました。北ルートですね。では、もう少しで林が見えてきますので、そこからは左へ行きますよ。北ルートへ進軍します」

 「うむ。まかせた」


 大将サバシアは、カサブランカの命令通りに北ルートを選択した。

 自分としても一番戦いやすいのは北ルートだと思っている。

 林が左右にある状態は視野が狭くなる感覚があるらしいのだ。

 サバシアは少しホッとしながら進軍調整をしていた。


 ◇


 帝国歴517年5月4日正午頃。

 王国側の関所付近から突如、赤い煙が上がる。

 関所にいた王国の兵は、誰かの煙幕弾の残り物かと思った。

 暴発して勝手に煙が出てきたと思ったのだ。

 なぜなら、その場には誰もおらず、勝手に煙だけが空に打ちあがっていったからだ。


 平原のど真ん中で待ち続けたミランダは右方向から上がる煙を確認。

 『赤い』と呟く。

 視認後すぐに行動を移す。


 「北か。わかった。そんじゃあ移動すっぞ。指示を出しながら移動する。ザイオン。フュン。あたしのそばにいろ」

 「了解です」「了解」


 ミランダを先頭に、ウォーカー隊は移動を開始。

 先程までのゆったりした休憩時間とはうって変わって、全体がきびきびとした動きを見せる。

 各々を各地に配置させていく。

 北へと向かう際の林の部分にフュンたちを置き、自分は北ルート中央に配置。そしてザイオンは丘の上に置く。

 それがこの戦いの初手である。


 フュンと別れる前の隊長三人。


 「ザイオン。北ルートなら、お前は小高い丘にいてくれ。上から睨みを利かせてくれ」

 「は? おまえ、それじゃあお前の兵二千五百で一万二千と戦うのかよ」

 「ああ。そうだ。だが、あたしらは引く」

 「ん?」

 「あたしらは結構前に出て、相手を待ちかまえるのよ。そこから上手く引きながらこちら側に引き寄せてお前の隊と連動する。この時に一時だけでもいいから混乱を生み出せば」

 「俺たちの勝ちか・・・出来るか。お前の動きにかかってんな」

 「そうなのさ。でも、これにはもう一つ混乱を生み出すものがある。な。フュン! わかってんな」

 「はい。わかっています。僕らがタイミングを合わせて、敵をさらに混乱させるのですね。やりましょう」

 「ふっ。頼もしくなったな王子様よ。頼んだぞフュン」

 「はい。任せてくださいザイオンさん」

  

 三隊長による話し合いは終わり、各自はミランダの作戦の通りに移動した。

 各隊長は、各々の持ち場に行き、敵の出現を待ったのだった。


 戦いはミランダから始まるのである。

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