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人質から始まった凡庸で優しい王子の英雄譚  作者: 咲良喜玖
最終章 最終決戦 オスロ平原の戦い 帝都決戦

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第384話 将対決 タイローの戦い

 9時20分


 スクナロの戦いが終わったことで、ロビン軍の左翼軍右翼部隊が崩壊し始める。

 元々、レオナ軍の混沌の力で崩壊気味になっていた所に、将を失った事で、規律を失う羽目になり、兵士たち一人一人が戦場の展開に追いつかない状態になっていった。

 

 そして、そこからレオナ軍の攻撃が、思った以上に敵に入っていく。

 それを実現させているのは、レオナ軍の右翼部隊の奥で、敵を乱している人物だった。


 「あたいに続け。こっち。次はこっちだ」

 

 エリナの指揮のおかげで、混沌は完成形になっていた。

 兵士たちがぐちゃぐちゃにいるように見えているのは、見せかけで、実際は一対一からの、一対二、三になっていくのが、混沌の本来の戦い方だ。

 徐々に徐々に、数の優位を生み出すのがこの戦術の肝で、それを真に実現できるのは、やはり彼らウォーカー隊しかいなかった。


 将を撃破した左翼部隊よりも、彼女が現れた裏側は乱れに乱れて、崩壊となる。

 こうなれば後はもう、右翼の戦場は決まった。

 と思うが、まだ一人敵将がいる。

 だから、敵を乱しただけで満足せずに、ここで勝負に出たのがクリスだった。


 「タイローさん。ここです。本体を倒しましょう」

 「はい! いいでしょう。いきましょう!!」


 レオナ軍右翼の知の担当クリスが、勝負を決めに来た。

 ロベルトの戦士長タイローの投入をここで決めたのだ。

 彼を前面に出して、二人がいる本陣も前進して、敵を押し込んでいく。

 

 タイローは拳を駆使して前進を始めた。


 「な。なんだこいつは。化け物だ」


 予備の銃弾を持ってないロビン軍の兵士たちでも、一応護身用として銃を持っている者がいる。

 普通に考えると、その銃をちらつかせておけば、敵は躊躇して止まるだろうと思うもの。

 だから、ここでタイローとその周りにいるロベルトの戦士は異質だった。

 銃など見向きもせずに、前へと進んでいたのだ。

 しかも彼らの攻撃は拳のみ。

 攻撃が出来る範囲は、極端に短いのに、彼らは臆せずに前進していく・・・。

 異様な集団が、タイロー率いる龍舞部隊である。


 「道を開けますよ。あれです。あそこです。あれが将。カスターニャです」


 カスターニャが奥にいる。

 タイローと、その周りの龍舞部隊は、敵を殴り飛ばして、突き進んでいった。


 「そこを掴みます」


 ここらの兵は近衛兵だろう。

 強さが少し違う兵士たちが分厚い陣で待機している。

 しかし、そこを、龍舞部隊は拳で破壊した。

 敵本陣急襲に成功すると、そのままの形で、タイローは大将を狙う。


 「カスターニャですね。おひさしぶりです」

 「また来たか。この男!!」


 ちょこまかとうざったい男がやって来た。

 タイローもカスターニャに苦手意識があったのだが、カスターニャもタイローを苦手としていた。

 自分の攻撃が芯を食わない。

 感覚的な話だが、ここが戦いに対するズレとなっていて、戦闘を続けるたびに、的確な位置に攻撃が出来なくなる。

 その印象があって、カスターニャは対峙したくないと思っていた。


 「龍舞の本気をお見せしましょう。カスターニャ」


 前回は様子見。今回は本格戦闘。

 タイローの動きは、限界を越えたものとなる。

 先手を先手を取り続けるタイローに、カスターニャはたじろぐ。


 「は、速い。なんだ。この速さは」

 「私は元ラーゼの獅子。太陽の戦士の流れを汲む者です」

 「た、太陽の戦士だと。なんだそれ?」

 「はい。それは、心に大切な主がいれば、力を発揮する稀有な一族の末裔です」

 「なんだそれは? そんな奴らがいてたまるか」

 「ええ。でも実際にいるとされています。ソルヴァンス。ソフィア。そして我らのフュン・メイダルフィア。彼が私たちの太陽なんですよ。それに彼こそが最高の太陽の人。だから今の私たちは最強です」


 ラーゼの獅子たちが、国旗にしてまで、ずっと待ち望んでいた人物が、今はアーリアの王となり、自分たちの主になってくれた。

 ソルヴァンスが成しえなかった王の道。

 ソフィアがなれなかったドノバンの長。

 それら二人を越えた男がフュンだ。

 

 二人の太陽の人は、自分の運命に苦しんだ。

 そしてフュンも当然に自分の過酷な運命に苦しんだ。

 だが、彼はそれらを乗り越えて、アーリアを照らす偉大な王となってくれたのだ。

 しかも、彼は歴史史上最強の太陽の人。

 ここは歴代を見ずとも、知らずとも、そこだけは分かる。

 フュン・メイダルフィアは太陽の人としても、人間としても最高の人だからだ。

 

 そんな彼が自分の最大限の力を使って、自分の目的や皆からの期待から来る役割を成し遂げようとしてくれている。

 ならば、こちらも彼から与えられる役割を全うせねばならない。

 そうじゃないと気が済まない。


 タイローの動きの良さは、それらの想いに駆られているからだ。


 「さて。彼の為にも、ここの戦場を終わらせましょうか」

 「私を倒すつもりなのか。お前の動きは見切っているぞ」

 「そうなんですか・・・でも今回は本気でいきますよ。あれが私の本気だと思ってましたか? ああ、なるほど。じゃあ、あなたは前回、本気でした? 準備運動じゃなくて?」


 本人としては煽ったつもりがないが、煽りの文章となる。

  

 「おま・・ば、馬鹿にしやがって」

 「え? 馬鹿に?? 誰が???」


 したつもりがないから、余計に煽る事になった。

 しっかり者に見えるタイローは意外と天然なのだ。

 だからフュンと息が合う。

 

 「まあ、いいでしょう。別にここでグダグダ話している時間がありませんので、いきます」

 

 タイローの言葉全てが、ナチュラル煽りである。


 「龍舞。龍波掌」


 拳の速度が異常に速い。

 カスターニャは、拳を振るう際に、音が鳴るなど聞いた事も見た事もなかった。


 「うん。あなたの速度は中々いい」


 体の大きさに対してその速度。

 かなり厄介だ。


 「当り前だ。私はどこの馬の骨とも分からん奴に負けねえ」

 

 これが、強がりだった。今の一撃が危ないと思い、自分の巨大こん棒で防御をした。鉄製のこん棒にひびが入っている。


 「でもありえねえ。この威力。拳の技にしては異常だ」

 「さてさて。では次が本気です。走りますよ。ここから私の体と拳がね」

 「え?」


 今の速度が本気じゃない?

 やっと追いついたと思ったら、さらに上があるらしい。

 カスターニャの右足が若干後ろに下がった。


 「流転龍翔舞るてんりゅうしょうまい


 龍舞は技が少ない。

 龍波掌が基本軸で、それ以外は舞踊に近いために技が少ない。

 それで、流転龍翔舞るてんりゅうしょうまいは、動きの中に拳での連打が始まる。

 攻撃。攻撃。踊る。攻撃。踊る。踊る。

 のようにリズムがあって、これらの組み合わせを自由にカスタマイズして戦う。

 そして、その拳一つ一つが龍波掌となっているので、攻撃力の高い強烈な舞なのだ。

 相手にとっては厄介に程がある技だ。

 

 踊っている癖に強い。

 それが無性に腹立つ。

 カスターニャは防戦一方になるのが悔しかった。


 「うざい。死ね」


 防御の間ずっと耐えていた姿勢から、タイローの右の拳が見えた。

 だからそれに合わせて、こん棒を叩きつける。

 タイローの右腕を巻き込むようにして、差し向けた。


 「ええ。今は流転なんで。申し訳ない」


 敵の唯一の反撃機会。

 それを潰すのが申し訳ないとタイローが申告した。

 それをわざわざ言う必要がないだろうと、周りの人間は思う。

 この場面でも煽っている事になっている。



 敵のこん棒が腕ごと叩き潰す攻撃だと気付いているタイローは、自分の腕をあえてこん棒の方に向けた。

 腕を柔らかく動かして、こん棒の上を滑らせる。

 するとすり抜けて、こん棒が空振りに終わる。

 攻防同時の舞。

 それが流転龍翔舞るてんりゅうしょうまいだ。


 独特のリズムと、柔軟な攻防が、敵を惑わせる。

 そして、これにタイローは、もう一つの優秀な点がある。


 それが。


 「いきますよ。油断しましたね」


 今の攻防に驚いたカスターニャは、行動を止めてしまっていた。

 それが僅か一秒。されど一秒だ。

 

 タイローは、アーリア最速の男。

 直進最速。

 レベッカも追いつかない速度を披露したタイローは、あっという間にカスターニャの懐に潜り込む。


 「龍波大波掌」


 両の掌底を合わせて放つ。

 最大火力の攻撃を繰り出した。

 タイローの攻撃がカスターニャの腹にめり込んだ。

 分厚い筋肉の鎧がある彼女の腹に深い衝撃が加わった。

 普通の一撃じゃない。

 これは波打つ一撃でドクンとドクンと心臓が鳴るように攻撃が加わっていく。

 一撃なのに、十発以上の攻撃と思う程だった。


 「がはっ・・な、なんだ。この攻撃」


 体の芯に効いている。

 表面が傷つくよりも遥かに深いダメージだった。

 でも体が頑丈なカスターニャは倒れずに立っていた。


 「いやぁ。あなたが頑丈なんでね。内部からダメージをもらってもらおうとしたのでね。なんかすみません。この攻撃がまともに当たっているので、しばらくはダメージが抜けませんよ。気をつけてください」


 悪い男じゃない。

 ただ天然なだけなのだ。

 相手を煽る事に特化した男タイロー。

 意図せずに出すそのセリフは、再びカスターニャを奮い立たせる。 


 「貴様ぁあああ。ふざけ・・・」

 

 無理に体を動かしたから、話の途中で血が出る。

 内臓にダメージがあったらしい。

 

 「ほら。駄目ですよ。無理に動かしてはね。安静が一番です」

 「あああああああああ。おおおおおおおお」


 叫び声でごまかして、カスターニャは攻撃に出た。

 しかしこのこん棒の攻撃の振りが、さっきの半分程の速度になっていた。


 「ああ。やっぱり。無茶しましたね」

 「がああああああ」


 ド根性丸出しの攻撃に対して、タイローは冷静に殴る。

 先程の攻撃箇所と全く同じ場所に軽い龍波掌を当てた。

  

 「ほらね。無理をすると、これくらいの威力で終わりを迎えます」

 「あ・・・ああ・・・くそ・・・負けた・・・のか・・・」


 腹を押さえて倒れる彼女を見て、タイローが叫ぶ。


 「クリスさん。敵将取りました。今です」

 「了解です。始めます。大渦をここからだ。敵全体を逃すな」


 敵の左翼大将撃破。

 それで、指揮命令系統は大混乱していくのだ。


 更に、追い打ちをかけるようにして、ここにクリスが渦を作る。

 クリスとタイローの連携により、右翼軍の戦場は圧勝となる。

 

 全体の勝利を目指しているレオナ軍が、ここで一歩、勝利に近づいたのである。

 

 

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