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人質から始まった凡庸で優しい王子の英雄譚  作者: 咲良喜玖
最終章 最終決戦 オスロ平原の戦い 帝都決戦

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第380話 帝都決戦 二つの星

 レベッカのおかげもあり、兵士の壁を突破はした。

 だが、残った彼女らの戦いは異常な状況となっている。

 数が、三しかいないのに、相手が千に近い。

 量だけ見ると絶望的だった。


 「俺も焼きが回ったか」

 「そうみたいですね。ジュード皇子」

 「ダン君。君もじゃないのか。やけに冷静だな」

 「ええ、実は前からそうなんですよ。団長のそばにいれば、そうなってしまいます」

 「はは。そうか」


 二人が対応できるのは、一度に三名まで。

 しかし、レベッカが対応できるのは一度に八名。

 その数は倍以上で、三秒あればその半分を倒すことが出来る。

 つまり一人一秒以下で斬っている。

 だから、そちらにとっても異常な事態となっていた。

 量が違うというのに、質の差を見せつけられて、恐怖していた。


 「はあああああ」


 会話をする余裕がないのがレベッカった。

 無心で目の前の兵を斬る。

 その斬る事に特化した姿はまるで夜叉のようで、ジスターと同じく、斬っていくたびに集中が増していく。


 「下がれ。お前たち。死にたくなかったら、この人に近づくな」


 ジュードの言葉を受け止める者が少ない。

 それはこの状況のせいもあるが、ジュードが敵だと思っているからだった。


 「駄目か・・・死に急ぐなよ。お前ら」


 止まってくれたらこちらも助かる。

 三人しかいないから、無理をしているのは確実にこちらの方だ。


 時間にして一分と少し。

 凝縮された世界にいた感覚があったから、それ以上に感じていたジュードとダンは、短い時間である事を認識していなかった。


 階段に倒れる兵士が、二百を超えたあたりで、レベッカに異変が来た。


 「はぁはぁ」

 

 息切れ?!

 今までの彼女には起こりえなかったことで、二人が驚く。

 レベッカの明らかな疲労を感じ取れた。


 「あいつに疲れが出たぞ。やれる。あの女から殺せ。化け物からやれば、まだこちらにも勝機がある」


 突破に力を使い果たしているのに、防衛にも力を使った。

 レベッカに限界が来ていたのだ。

 無呼吸で三分ほど。

 それくらいの時間を全力で戦った代償だった。


 「まずい。姫の勢いが無くなれば」

 「団長!」


 ダンがレベッカの正面の敵の剣を受け止めて。

 

 「下がらせよう。これは俺たちで・・・しまった」

 

 ジュードも彼女の右脇の兵士を斬って守ったが、左側の敵に対処できない。

 レベッカも二人に遅れて左を向くと、敵の刃が迫っていた。


 「くっ。ここで・・・動け」


 かろうじて動かした剣で、敵の攻撃を受け止める。

 ほっと安心する二人はまだ気づいていない。

 その背後に回っていた兵士の存在をだ。

 

 「死ね。ここだ」

 「しまった。囲まれていたのか。裏には回らせないようにしてたが、クソ」


 動いていたのに、疲労でそんな事を考える余裕がなかった。

 ジュードが叫ぶ。


 「逃げてくれ。姫」

 「え? な」

 

 レベッカも背後の兵に気付いた。 

 でも今攻撃を防いでいる剣を引くことが出来ずに対応が出来ない。

 絶体絶命。

 死を予感するような攻撃の中で声が二つ聞こえる。


 「我ら」「呼ばれてないのに」

 「「参上」」

 

 二つの赤と青の星が出現した。


 「なに!? ニール。ルージュ」


 レベッカが二人を呼ぶと。


 「殿下の子」「我らが守る」

 「「当然、我らの子も同然」」


 殿下の子なら、自分の娘と言ってもいい。

 英雄の影ニールとルージュが登場した。


 「ぐあああ」


 二人の高速の刃で、レベッカの背後の敵、左右の敵。そして正面の敵が倒れる。

 動きが見えない影の動きと、彼ら自身の動きの速さで、敵は倒れていく。


 「どうして。二人が?」

 

 レベッカが聞くと。


 「殿下の命令だ」「今まで隠れていた」

 「父が?」

 「うん」「シゲノリを育てるって言うから」

 「我らの任務は」「殿下の子を守るになった」

 

 シゲノリの育成の為に、護衛と任務はシゲノリのものとなり、双子はここで別の任務に就いた。

 それがレベッカ護衛である。


 「危険になったら出る」「そういう約束だ!」

 「ギリギリまでは見守る」「そういう約束だ!」

 「私はまだ・・・」

 「「強がるな。殿下の子」」 


 ニールとルージュは、レベッカの活動限界を見極めた。

 だから、レベッカの前に立ち、兵士たちを見る。


 「よし。我らが少し手伝ってやろう。本当はな」

 「うん。いけないんだけど、これはピンチだから」

 「「殿下が許すはず」」


 フュンからの命令に一つ注文があった。

 それが出来る限り次世代の子らにやらせてあげて欲しい。

 彼らの成長を促すためにも、彼らは自分たちの力で困難に立ち向かってほしい。

 そういう不思議な命令があった。


 「よし。じゃあ、やるぞ。でもまずは、ここからだ」


 ニールが宣言した直後。

 二階に繋がる部分の階段が大爆発した。


 「ば、爆発だ」「な、なんだ」

 

 慌ただしくなるのはその付近にいた兵士たちだ。

 一階と三階に分断されたかのような階段となった。


 「ルー」「ん?」

 「時間を作る」「ああ。そろそろか」

 「そうだ。時間があれば、こちらに来るはず」

 「わかった。じゃあ、回ろう」

 「おお。やるぞ」


 英雄の影ニールとルージュは影となりこの場から消えた。

 若干適性があるダンだが、彼らの姿が見えない。

 かろうじて、レベッカにだけ二人の姿が見えていた。


 「ほいほい」「よいよいよよい」

 

 レベッカたちを円の中心にして、二人はグルグル回りながら敵を斬っていく。

 だんだん領地を得る形となり、三人の周りから敵が消えていった。


 「よし終わった」「出来たぞ」

 

 二人が姿を現す。

 

 「おいそこの」「ちょっと手を貸せ」

 「俺ですか」

 「そうだ」「早くしろ」

 「わかった」


 ジュードは二人に言われるがままに行動を起こす。

 そばに行くと、二人が持ち上げろと言って来た。

 体が小さいので楽に持ち上げられる。


 「聞け」「オスロの兵士」

 「我ら」「英雄の影」

 「ニールと」「ルージュである」

 「我らに勝つには」「真なる影でなければ勝てない」

 「悪いが」「お前たちでは勝てないぞ」


 闇に紛れて戦えない。

 そんなお前たちでは、我らに勝てない。

 二人は自信に溢れる宣言をした。


 「そして、この後の事を忠告する」「我らの仕掛けた計略」

 「発動してしまえば」「お前らは敗北」

 「だから」「投降しろ」

 「大人しくすれば」「怪我をせずに」

 「「死なずに済むぞ」」


 階段の分断された先から声が返ってくる。


 「黙れガキが」

 「ガキじゃない!」「四十は超えた!」


 もう立派な大人だ。

 強く反論するところが子供っぽい。


 「な。なんでもいい。とにかくそいつをやれ。そこの兵士たち。褒美は出るぞ」

 

 指揮官らしき人間の命令が聞こえてきたと同時に二人が移動。

 赤と青の二色が分断された階段を飛び越えて、その人物に飛び掛かった。

 兵士の体に纏わりついて、首を回させる。


 「ほれ見ろ」「小僧ども」


 下を見ろ。と指を指す。

 すると援軍の兵士たちが来ていた。


 「こ、これは城壁の兵士たち。私たちの兵士じゃないか。ハハハ。これで私たちの勝ちは決まったな」

 

 階段に集まっている兵士よりもさらに多い兵士たちが下から来ていたのだ。

 

 「お前」「目が悪いか?」

 「え??」


 ニールとルージュは、一階の開いている大扉の先を指差した。

 城の外を見ろと言っていたのだ。


 ◇


 帝都城前にて、彼女たちが言い争っていた。


 「いけザンス。ミイがロビンを捕まえるザンス」

 「こちらもルスバニアに負けてはいけない。先程の鬱憤を晴らすのでありんす。ギーロンの意地を見せるのでありんす!」


 ギーロンよりも、ルスバニアが目立ったのが、城壁の戦い。

 彼らがここに来る前に戦ったのが、城壁内の兵士たちだった。

 五千はいると思われた帝都の兵士たちが、城内にいなかった理由は、地下と城壁内で、手一杯になっていたからだった。


 「あたしの邪魔すんな。クソボケ! どけよ。お前ら」

 

 悪だくみ三人衆が援軍となりここにやってきた。

 それぞれが五百ずつの兵士を連れて上へ登る。


 「あ? 階段がぶっ壊れてる。ど真ん中が崩れてんぞ」


 マリアが気付いた。

 

 「ホントでザンス」

 「どうやって上に行けばいいでありんす?」

 「まだ端がある。あそこからいくぞ」

 「「ん?」」

 「あたしが半分に兵を割るから、二人は左右に」

 「了解ザンス」「わかったでありんす」


 マリアが戦場では一番冷静だった。

 これが、フュンとユーナリアの特訓の成果だ。

 今の階段の状況を読み切った。

 味方がたったの五人。

 それに対して、分断数も合わせると千以上の兵が彼らに襲い掛かろうとしている。

 

 「そうでありんすね。じゃあ、ここを倒すべきでありんすね」

 「あたしが行くわ。お先に~」

 「「あ、ズルい」」


 二人を置いて、マリアが突撃を開始した。


 「ほれ。どうする。小僧」「挟み撃ちだぞ」

 「戦うと決めたら」「我らも攻撃を開始する」

 「ま。まだ。負けていない」

  

 指揮官の男は勝負を諦めなかった。


 「しょうがない。じゃあ。見てろ」

 「我らの力で、この状態を挟撃にする」


 二人が男から降りる。


 「殿下の為」「我らは力を使う」

 「天国で見とけ」「ミラ」

 「我らはあの時とは」「違うぞ」


 二人が勢いよく飛び出していった後、二人とも思い直した。 


 「あ。もしかしたら地獄かも」「かもな」


 赤と青の閃光の二人によって、戦いは終盤に向かう。

 階段を駆け下りる二色は綺麗だった。

 

 彼らの走りが真っ直ぐじゃない。

 緩やかなカーブを描いている。

 ミランダからかつて指摘されたことが改善されていた。


 『お前らは、体が小さい。素直に真っ直ぐ戦っていたら負けるんだ』


 ミランダから口酸っぱく言われてきたことが、ようやくここに来て修正できていた。

 二つの閃光は、マリアたちと一緒になって挟み撃ちをしたのだ。


 「「殿下の弟子!」」

 「あ、あれは。ニールさんに、ルージュさん!?」


 敵兵の頭に乗っかった二人がこちらに向かって話しかけてきた。


 「「ここまで来い」」

 「わかりました」


 マリアが二人に指示を出す。

 

 「セブ。レイ。いこう」

 「うん」「ええ」


 大階段の戦い。

 それはレベッカ・ウインドの武勇から始まり。

 英雄の影の力と、悪だくみ三人衆のおかげで、レオナ側が勝利を収める事になる。


 兵数の差は最終的には二倍。

 敵が三千。レオナ側が千五百と五。

 戦いは劣勢から始まっても、終わって見れば圧勝である。

 レオナ側に倒れた兵士がいなかった。

 

 それはすべて、最初のレベッカの行動が影響を及ぼしたのだろう。

 あの時に、兵士たちを震え上がらせなければ、ここまでの差にはならなかった。

 レベッカ・ウインドの武勇が、この戦場の決まり手であった。

 


 「ここも終わりか・・・ついに、あとはもう、レオナの勝負だな・・・ここはそっちに急ぐか」


 ジュードは、自分がすべきことをしに、玉座の間へ急いだのである。



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