第378話 帝都決戦 影対影
壁を蹴ってクロがこちらにやって来る。
だから同じ動きをして対抗したのが、シゲノリだ。
同じ行動を起こしているが、シゲノリの行動の方が数個分速い。
空中でバランスを整えて敵を迎え撃った。
ナイフでクロを斬る動きをしたのだ。
これに反応できるはずがないと思ったのだが、クロが防いだ。
「・・・私が見えているのか」
「一度見ましたから、見逃さない」
「なるほど。素質ありなのか」
影の強者の素質があるようだ。
シゲノリは、クロの潜在能力を見据えた。
あと数年、自分のようにサブロウたちから教われば、自分に匹敵する影になれる。
二人がぶつかり合って、一秒後。二人は空中から落ちる。しかし足場は兵士たちがいて、着地が出来ない。
だから、二人とも壁に移動した。
右の壁に、シゲノリ。左の壁にクロが張り付いた。
「しかし、本当に奴に私が見えているのか?・・・疑問だ」
シゲノリは、クロの目の焦点がこちらに合っていないように思う。
この現象は、以前のナシュアたちが、サブロウを見た時と同じだった。
クロの目には、靄のような状態で、シゲノリが見えていたのだ。
攻撃の瞬間に武器だけがハッキリ見えていたので、受け止めるのは成功していた。
だから、センスは抜群だった。
とある一人以外のブライルドル家に無能がいない証明だった。
「そうだな。時間が惜しい。頭をやれば、この動きも悪くなるはず」
シゲノリは、自分の戦いこそが、この戦いの防衛の決め手であると考えた。
「やるぞ。出る」
「来た!?」
靄が迫りくるのだけは分かる。
クロは、あえて敵の方に飛び込んで武器が出て来るのにカウンターを合わせた。
「な!?」
思った以上の動きのキレに、シゲノリは反応が出来ず、クロの刃が頬を掠めた。
少しだけ切れて、血が流れる。
「感触があった・・・僕の勝ちだ」
「何を誇っている?」
下で兵士たちが戦う中。
二人は入れ替わった先の壁で止まった。
「これには・・・いや。説明せずとも終わりだ」
「は? ん!?」
目が回って、天と地がひっくり返る。
吐き気も出てきた。
「・・毒か」
「そうだ。これで終わりだぞ。この毒なら、殺せる。一番厄介なあなたを殺せば・・・」
影の中で姿が見えないのはこの男だけ。
だから消えてもらえれば、あとはもう残りの影を自分が仕留めればいいだけだ。
クロの考えは武闘派だった。
「あとはもう楽勝ですとでも言いたいのか。クロ!」
「そうだ。だから死ね。あなたを殺せば僕らの勝ちだ」
影対影の戦いはクロが有利となった。
毒の影響下に入ってしまったシゲノリの姿が段々と見えてきた。
「これで終わりだ!!!」
クロが弾丸のように突進してきた。
壁から壁へ瞬間移動したかのような動きで、シゲノリの真横を取った。
距離詰めも完璧で、あとはもうこのナイフを刺すだけだった。
「三秒確認。解毒は完了だ」
シゲノリが自信満々に言うと、向かってくるナイフを防いだ。
「なに!? この毒を解毒?!」
猛毒のはずなのに。
クロは攻撃を防がれた事よりも驚いた。
「これはギーロンの毒だな。症状から言ってポネラの花の毒」
「な、なぜそれを・・知っているんだ!?」
「当然だ。この大陸の毒は、太陽王と共に調べ上げた。そして毒を中和させる実験もしたからな。対抗薬もある。だから毒の攻撃は私と王には、ほぼ効かんぞ」
「馬鹿な。この毒を・・・」
「それじゃ一つ。攻撃をもらってくれ。サブロウ丸『円縁園』」
取り出したのは、草花の冠のような茨のリング。
持ち手も危険な道具を慎重に取り出して、攻撃に使用した。
シゲノリの手から放りだされた円縁園は、クロのお腹に当たると、リングが変形してから、彼の体に纏わりついた。
「ぐああああ。な、なんだ。棘が食い込む」
「戦いにおいて。拘束が一番良いと考えたのがフュン様だ。これでお前を捕らえるぞ!」
クロを空中で拘束した。
シゲノリがそれを捕まえようとしたその時。
「シゲ! 上と横。敵が来てる」
「ん? あ」
クロをやらせはしないと、敵の影が三名動いた。
シゲノリに、上と下から同時攻撃を仕掛けて、わざと攻撃を防がせたことで、もう一人がクロを救出した。
「連携がいいな」
再び距離を取ったシゲノリが敵を見ると、三人の影がクロを守るようにして配置された。
壁に掴み掛かっている状態で守る。
至難の業だろうが出来ている。
「・・・んん。もしかして、この人は人を育てるのが上手いのか」
クロに、影育成の上手さがあるのか。
そんな雰囲気をシゲノリがほんのり感じとった。
「おい。横。よそ見すんな。シゲ!」
「ん? な」
奥から影が追加されて、いつの間にか、こちらにまで進出してきた。
ナイフが十本以上飛んできて、シゲノリは反応が遅れる。
「間に合え。烈風号」
咄嗟に烈風号を、ナイフと自分の間に差し込んだ。
爆風と共にシゲノリが吹き飛び、こちら側に来ていたナイフも爆風に巻き込まれてシゲノリに刺さる。
肩と腹に刺さって、痛みが出る。
「ぐっ」
「シゲ!」
ライドウが飛び出して、吹き飛んだシゲノリを捕まえる。
「す。すまない。ありがとう」
素直に感謝すると。
「ああ。でも、ごめん」
ライドウは謝った。
「え? なにが」
「俺の声、聞かれちゃった!」
「そ。そうか。しまった。私のせいだ」
シゲノリは瞬時に理解した。前方を見る。
壁にいたクロが言う。
「そうか。それがレオナじゃない! ということは。しまった。兄さんが危ないのか」
「まずい。逃がしちゃまずい。ぐっ。私が」
刺さったナイフのせいで、体が上手く動かない。
シゲノリは立ち上がろうとしたのだが、すぐに膝をついた。
「僕が上に戻る。ここに敵を封じ込めろと指示を各方面に。攻撃はいい。守れ。敵をここから動かすな」
その指示が、こちらにとって一番痛い。
あまりにも的確な指示だった。
「まずい。それだと、私たちの千が。ここに残るだけに・・・」
「シゲ。俺に任せ・・・」
「待て。無理だ。あの影たち、連携している。ここを突破できないように、壁に貼りついている」
敵の影が左右に配置されて、向こうの奥に移動することが出来ない。
それに敵兵士も、列を作って、出入り口を逆に封鎖してきた。
こちらが移動できない形を取られてしまった。
「これは。まずいですね。無意味な籠城の形に。されてしまった。上手いな。あのクロ・・・」
ユーナリアがぼそっと言った。
「ユーナリア殿。これは」
レックスが駆け寄る。
「敵兵が止まりましたね」
「はい。ここにいるのは約三千。各方面が千。倒した数は死傷者合わせて五千くらい。ですから、八千です。私たちが、戦えたのはまだ八千ですよ」
八千の兵を足止めすることに成功した。
これは大きな収穫。だが。
「そうですね。だからジュードたちが・・・まずい事に」
レックスの不安も、ユーナリアと同じ。
二人は瞬間的に上の心配をした。
「はい。兵はまだ・・・最高でも五千が上に集まるのかもしれない。まずいです。数が・・・急がないと、どんどん人が集まるのかも・・・」
二人は地下道から上を見て、皆の無事を願った。
帝都決戦は最後の局面へと移る。




