第377話 帝都決戦 勝負の籠城戦
アーリア歴8年1月1日4時50分。
地下道侵入から数えると、およそ一時間が経過した。
流石に、この時間帯になると、大騒ぎ間違いなし!
と思いきや、敵は想定よりも静かだ。
レックスとユーナリアの二人は、敵の動きが鈍いと感じた。
こちらとしては,、行動が遅いのが悪いとは言わないが、どういった命令系統でロビンが帝都城に居座っているのだろうか。
兵士たちを掌握しきれていないのではないかと、疑いたくもなる。
「どういう事だ。せめて先遣隊が来てもいいはず。よく分からないな」
レックスが悩んでいたら、ここにシゲノリが上から帰って来た。
「レックス殿。ユーナさん。敵が来ます」
「ロビンは?」
ユーナリアが聞いた。
「はい。動いている気配があります。この上に兵を集めているようで、今続々と来ています」
「今? 兵を? え、まだ集まっていないのですか?」
レックスが聞いた。
「そうです。奴らに伝わったのは三十分前。そこから緊急の招集をしています。それと敵は、城壁の方にいる兵士にも連絡をしています」
「そうなんですね。なるほど。では、城の方にも兵は残す判断を取ったという事か」
サイレンを鳴らして、本当の緊急事態にしてしまえば、城壁にいる兵士の9割以上がこちらにやってくる手筈になっているはず。
それをしないという事は、敵は全体ではこちらにアタックを仕掛けてこない事が分かる。
「それなら都合がいいです。レックス将軍。守りを固めれば、レオナ姫が堂々と正面から行けるのでしょう」
「そうですね。ユーナリア殿の言う通りだ・・・これでいけるはず・・・何事も無ければ」
運命の持久戦が始まる。
◇
アーリア歴8年1月1日5時12分。
最初に攻撃が来たのは、秘密の通路からの攻撃。
城内から敵兵士が来た。
隊列を作って待つ兵士たちが、敵を発見してから、速攻で道を盾で塞ぐ。
「負けるな。押し込んで矢で対抗だ。銃は後でいい。この数なら押せる」
一度にこちらに来る兵に限りがある。
だから、盾と矢で対抗ができる。
物資をここに運び込んでいるレックスたちは、絶妙な調整をしながら、戦闘を繰り広げた。
そこから13分後、今度は地下水路の方からも来た。
「音がありますね・・・ライドウ」
ユーナリアは、小声で話しかけた。
「はい」
レオナの姿をしたままのライドウは、敵兵たちに姿を見せている。
レオナがまだ地下にいると思ってもらいたいからだ。
「人の音でいいのでしょうか」
「そうっす。姉御。この音の感じだと南っぽいですね」
「わかりました。レックス将軍。秘密の通路の指揮を任せます。私は南北の出入り口を見ます」
「了解です。お願いします」
レックスとユーナリアの連携指揮により、防御が完成しつつあった。
「ジル」
「ユーナちゃん、なんだい?」
「北を頼みます。私が南です。こちらが多いようですからね」
「わかったよ」
「ヘンリーさんをサポートに。ヘンリーさん。そちらをお願いします」
「ああ。任せてくれ」
ユーナリアは、自分の反対側をジルバーンに任せた。
指揮を取っても優秀なジルバーンは使い勝手が良い男である。
「デル。私と一緒に南を。ここで封鎖します」
「了解」
ユーナリアとデルトア。
ここが初の共闘である。
のちの、王妃とサナリアの大将軍。
面白い組み合わせが見られるのが、帝都決戦地下の戦いだ。
「デル。今来る兵士たち。それを一撃だけで退けて」
「ん?」
どういう指示だ?
デルトアは不思議そうな顔でユーナリアを見た。
「最初に恐怖を植え付ける。倒すんじゃなくて、退けて。お願い」
「・・・わかった。やってみる」
難しい注文だが、デルトアはチャレンジしてみようと、持っている武器を変えた。
斧から大剣に変えて一撃重視の獲物にしたのだ。
この部屋の中央には物資が積まれている。
長期戦を見込んでの物で、この準備の良さもユーナリアとレックスが考えていた事で、二人は細かい分野にも気を配っていた。
「あそこだ。入口を潰せば、こいつらはあっという間に倒せるぞ」
最初の兵士たちが突入。
しかし、出入り口は狭いので、一度に闘えるのは六人だった。
敵兵六人。
これを先頭にいるデルトアが一人で受け持つ。
「通さん。私はここを任された。師シュガ様に誇れる武勇を手に入れる為。ここで粉骨砕身。仕事を全うする!」
宣言早々に、攻撃態勢に入ったデルトアは、まず腰からの回転を決めた。
右の腰を起点に、左側に置いた大剣を回す。
すると加速していく大剣が、デルトアから見て、一番左の人間に当たる。
そこから更に回転を決めて、大剣を右へと流していけば・・・。
「はあああああああ」
「「「「ぐあああああああああ」」」」
四人の兵士が弾け飛んだ。右二人が残った形になったが、デルトアの攻撃を見て、一歩前へ足が進まなくなった。
「ば、化け物だ。さ、下がれ」
「一時退却だ」
一旦後ろに下がっていく。
「失敗だ」
「何言ってんの? 成功だよ」
「ユーナ。六人倒せなかった。すまない」
「いや、四人も倒したよ」
「でも二人足りないぞ」
「ねえデル。私が言ったのは、退けてだもん。出来てるじゃん」
「しかし・・・」
退けたのに成功しても、六人一気に刈り取りたかったデルトアであった。
「見てよ兵士たちの顔。あれは恐怖が植え付けられた顔だよ。ここが重要なんだよ。いい。戦いは質、量。それも重要だけど、人の心も重要だよ。これであの人たちは、デルを見たら体が鈍っていくはず」
敵がデルトアを見たら、体が硬直する。
とまではいかないかもしれないが。それでも見かけただけで、一瞬でも止まるようにはなるだろう。
アーリアの仲間たちは、このルヴァン大陸では無名だ。
名前を示しただけで、相手を恐怖させることなんて不可能だ。
レックスや、ジュードであれば、大将軍と言う肩書きがあるから出来るかもしれないが、こちらに来て浅いアーリア人たちには、そういった肩書きがない。
だからユーナリアは、最初に実力の印象付けを行った。
なんだかあっちには化け物がいるらしい。
これで十分。
この感情にしてしまえば、敵はこちら側に上手く踏み込めない。
「そういうものか」
「うん。そう。人の心を変えるのは一瞬だよ。優位だと思ってから不利だと思うと、なおさら人は判断に迷いが出てくる。失敗したら、あれにやられる。こう思ってもらえれば、こちらが動きやすい。あなたの姿をチラチラ見せるだけでいいんだから」
デルトアを囮にして、味方の援護をする。
ゲインがした作戦の真逆の作戦をユーナリアが実行したのだ。
強き者を囮にするのが、フュン・メイダルフィアの教えである。
◇
ここから二時間が経過。
こちらに来た兵士を数えると大体二千だった。
「少ない。想定よりも遥かに少ないぞ」
広間の中央、武器に囲まれながらレックスは唸っていた。
もう少し敵が来るはずだ。
二時間も経って、これだと数があまりにも少ない。
「こちらに意識が集中していないのか・・・」
「いいえ。それはないと思います。敵は城からじゃなく、地下から回って来ていました」
「ん? シゲノリ殿?」
レックスの隣に姿を現したシゲノリは地図に指を当てた。
「地下道の南側から、二つ先の十字路に影部隊が出現しましたので、遅れて敵がやってくるはずです」
「なるほど。ここですね」
レックスが地図を確認して。
「数はどれくらいですか」
シゲノリに規模を求める。
「七です。ただし、中にクロがいました」
「クロがですか!? 本命ですね。ここでか・・・なるほど、ここに集めて圧力をかける気か」
「はい。出入り口の戦い・・・ここからが正念場だと思います」
ようやく来た本命。
出てくるならばクロ。
そう睨んでいたレックスとユーナリアは頷き合った。
「やはり肝心な時は弟を頼る。自分で物事を進めようとしない。結果だけを得ようとする。これが王様のロビン評・・・さすがです」
フュンは自分なりの人物図鑑を持っている。
相手の顔。性格。性質。強さ。等々。
特徴的なものを頭の中に収納しているのだ。
その図鑑の中で、ロビンは他責型だとしている。
人の功績を吸い、自分の手柄にするタイプの人間だと判断しているので、彼の対策は、他の人間たちを調べ上げれば、簡単に撃破が可能だとしていた。
だからフュンは、クロ。レックス。その他の近しい人物を調べていたのだ。
ロビンを調べても何ら意味がない事を知っていたわけだ。
そこで、そのページの一ページを読ませてもらったユーナリアは、この後の展開を読む。
重要なのはシゲノリだった。
「シゲノリ君。君はここで待機で、クロが影となりこちらに来たら引きずり出してください。今後のために捕まえた方がいいです」
「はい。わかりました」
「それじゃあ、目と耳の役割は、ナナさんに変えますね」
「はい」
彼の行動を最小限にして、来るべき時に迎え撃つ形にした。
いよいよ本番である。
7時30分。
三カ所に一斉攻撃が始まる。
敵は前回の攻撃時よりも増えていた。
続々と援軍が集まっているらしい。
先程よりも大きな波で行動を起こしてきたことから、敵は各地で無線のやり取りをしていると、二人が気付く。
攻撃を防いでいるレックスは、目の前の敵の入れ替わりの上手さに驚いていた。
「なるほど。クロ。あなたは優秀か・・・ロビンとは違うようだ」
敵から来る攻撃を捌いて、奥を確認。
軍の将を担うような人物がいない。だがしかし、この兵たちの統率は取れている。
レックスでも見た事がない兵士たちなので、帝都軍とは違う。
クロが直々に鍛えた兵のようだ。
「この原因は影か・・・クロの指示を受けた影がどこかにいる?」
一波。二波と、交代制で攻撃を仕掛けてくるので、これは規律が無ければできない攻撃だ。
訓練もしているような動きで、こちらの連携と互角になってきた。
「・・・さすがに、行動を起こしてから三時間近い・・・十分休んでいたとしても。ここらで一回疲労のピークが来るか」
緊張状態の維持は、精神だけじゃなく肉体にもダメージを与える。
レックスたちは良いとしても、兵士たちに疲れが見え始めた。
8時8分。
敵の波を退けてから、三時間近く。
レックスたちはわずか千の兵で、その五倍の五千との戦闘に勝ってきた。
彼らは、ここで大きな動きをする。
それは、クロの動きに合わせた行為だった。
「南から来ました!」
シゲノリの目には、クロが映る。
狭い通路からすり抜けてくるのではなく、空中にクロがいた。
壁を蹴って、こちら側にやって来る。
「シゲノリ君。頼みます」
「了解です」
帝都決戦。
影対影の戦いは次世代のシゲノリと、クロ・ブライルドルの戦いだった。




