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人質から始まった凡庸で優しい王子の英雄譚  作者: 咲良喜玖
最終章 最終決戦 オスロ平原の戦い 帝都決戦

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第376話 帝都決戦 敵のど真ん中で、占領地を得る

 アーリア歴8年1月1日午前4時。

 帝都民が寝静まっている頃。

 帝都城の地下では、静かな攻防が始まる。

 

 最初、秘密の通路と地下水路の間は、平穏そのものだった。

 見張りの兵が時間通りの交代をして、その交代したばかりの人間が巡回をしていた所で事件が起きた。


 西側から戦いの音が響く。


 「なんだ。音が・・・」


 交代したばかりの兵士が騒ぎに気付くと、そのまま休憩所にしていた間の部屋に連絡を入れた。

 この時間が僅か五分。


 「敵襲かもしれない。上に連絡を! 俺は一応戻って、調査しにいきます」

 「わかった。部隊を分けて連絡をしておく」


 この部屋の中に、三つの小部隊が存在していた。

 三交代制での巡回の起点場所だった。

 

 先程の兵士の指示で、この中の一部隊が上に連絡を出す。

 これで、この部屋には部隊が二つとなる。 

 合計で16名であった。


 ◇


 午前4時10分。

 先鋒隊が連絡に出た後。

 秘密の部屋の場所に居る兵士がおかしなことに気付いた。

 

 「連絡は? 城の一階にはすぐに行けるはずなのに。遅いな・・・」


 当然の疑問だった。

 なぜなら、五分もあれば、帝都城全体に情報が行き渡る予定だった。

 たとえ寝静まった時間帯だとしてもだ。

 なのに、静かだった。

 もしかして連絡がいってないのかと思い。

 一部隊の半分。4名を更に上に送り出した。


 これにて、この部屋にいる人間は計12名となる。

 この瞬間に、事件が起きた。


 ◇


 兵士には二人の声が聞こえた。


 「向こうの出入り口を閉じてください。私はここから通路を封鎖します」

 「了解」


 姿は見えず声だけが聞こえた。

 この後すぐに城への出入り口に近い人間たちが次々と倒れる。

 その恐怖は、計り知れない。


 「なに!? な、なんだ。今度は、なんだぁ」


 次にこの部屋の出入り口にいた人間が倒れた。

 どこから敵がと、探しても、どこにも敵がいない。

 分からぬ間にやられる恐怖は、兵士たちの足をすくませた。


 「遅い。全てが遅いぞ」


 この声を最後に、この場にいた兵士たちの意識は消えていった。


 ◇


 同時刻。

 地下水路の西の入り口にて。

 レオナ姫と思われる人間が、千の人間と共に現れた。

 相手を制圧する戦いを見せて、進軍していく。


 水路は東西南北に広がっていて、秘密の通路はその水路のほぼ中央に位置している。

 なので、かなりの距離を移動しなくてはいけない。

 この距離の間にはおよそ三百の兵がいる。

 

 四方で計千二百の兵。

 この数からいって、帝都にいるロビンは、相当な警戒をしていた。

 進入路を全て塞いで、相手の出鼻を挫こうと企んでいたわけだ。


 「散りが甘い・・・」


 ユーナリアは、敵の逃げ方に不満を覚えていた。


 「レックス将軍。そこの角を左にお願いします」

 「なぜです。ここが例の道への最短では?」


 前後で指揮を取っている二人は意見が食い違う。


 「そうです! しかし、ここでは最短とは言えない。相手が慌てすぎて、全体に強襲が伝わらないかもしれない。なので、追い込みながら移動して、相手全体に圧をかけます」

 「なるほど」


 二人とも考えには合理性があった。

 レックスの考えたものは、戦場での習わしのようなもの。

 最短で拠点に移動できるのなら、それが一番良い。

 これも間違いじゃない。

 しかし、ユーナリアが考えたのは、相手の慌てる様子と共に襲撃が伝わった方が、後になってこちらの有利となるはずとしたのだ。


 効率に目を向けるか。

 人の心に着目するか。


 どちらの考えも良い。でもユーナリアの方が優位となるのは間違いない。

 レックスは即座に決断した。

 彼もまたレオナのように、自分のプライドなどよりも、良き戦術に着目する。


 「わかりました。左にいきます」

 「はい。進行方向の指示を出します」

 「お願いします」


 流石は破軍星。

 歴代屈指の大将軍を操ったユーナリアは、人の心を巧みに操るフュンの戦術を継承したのである。


 ◇


 進軍はスムーズだった。千の兵が所々にいる兵士たちを蹴散らしながら、中央の秘密の部屋に行こうとすると途中で、レオナになりすましているライドウが気付く。


 「姉御」

 「ん? どうしました」

 「この先の音がないっす」

 「え? 音ですか」

 「はい。ここら辺に、気配があっても、人の音がない」

 「それはどういう事ですか?」

 「影です。その左右にいると思うっす」

 「影ですか。なるほど」


 目の前の水路の十字路。

 そこの左右に影が隠れている。


 「今の影たちは、ここには配置していない・・・他は全部、シゲノリ君の所に置いたから、敵で確定ですね」


 味方ではない事を判断してから、ユーナリアは指示を出す。


 「みたいっす!」

 「了解です。レックス将軍。来ました!」


 合図を出したら、敵が来たとの証。

 それも、影との戦闘の時だけ、ユーナリアからの指示が飛ぶことになっていた。


 「わかりました。では、お願いします」


 レックスがお願いしたのは・・・。



 ◇


 「ヘンリー。俺と両輪だ」

 「おっけ。まかせろ」


 ジルバーンと並走するのはヘンリー。

 二人で影を斬る。


 「デル。俺とヘンリーが一気に表に出す。姿が見えたら斬れ!」

 「了解」


 その二人の後方を走るのがデルトア。

 彼は影の適性があるがまだ完璧ではない。

 なので、二人が表に引きずり出した敵を狙う。


 「右行け。ヘンリー」

 「おう」


 左右から向かってくる敵を二人が確認。

 姿のない敵を見定める。


 数は・・・。


 「こっちは六だ! ヘンリーは!」

 「こっちは三だな」

 「俺の方がメインだったか」


 敵の顔が見えている二人は、敵の焦りの表情が見えた。

 しっかり見つめられていることに、驚いていたのだ。


 「竜爪」「銀閃」


 瞬間的に二人の一閃が敵に入って、二人は同時に叫んだ。


 「「デル!!」」

 「了解」

 

 二人の攻撃で、敵が姿を現した。

 そこにデルトアの力強い一撃が入る。


 三人の中で、一番地味なのがデルトア。

 しかし、一番堅実で、力が強いのもデルトアだ。

 二人の実力に及ばない男じゃない。


 「ふん! は!!」


 師であるサナリアの将たち。

 シュガ、シガー。フィアーナとは違う力押しの愚直な刃。

 それが、次世代のサナリアの大将軍兼守護者。

 デルトア・スールコールである。


 「これがアーリアの若い力・・・私とジュードだけしかいないオスロ帝国・・・んん。この差はいずれ大きなものになってしまうぞ。アーリア国は、盤石となるわけか・・・」


 レックスは前方の道に障害がなくなった事で、進軍速度を上げた。

 そして、その道中、アーリアの若い力を見て、フュンの顔を思い出す。

 彼の細やかな指導により、様々な人種の人間が成長したのだろう。

 人を育む。

 その精神がいかに重要であるかを、レックスは思い知ったのだ。

 だから自分も次なる世代を育てなければ、アーリアに負けてしまうだろうと、我が身を振り返ったのだった。


 ◇


 「入りますよ。ユーナリア殿」

 「はい」


 千の部隊が目的地に到着。

 中はかなり広い部屋の形をしている。


 ここを作ったのが皇帝で、迷い込んだ人間たちや、ここを管理している人間たちに、だだっ広いだけの部屋だと思わせる為にわざわざ大きい部屋のように作った。


 秘密の道への入り口がある場所は、部屋の北東の壁沿いにある松明。

 火を灯している部分の裏に隠しレバーがあって、そこを引くと扉が開く仕組みだ。

 だから、手の込んだことを二重に行っているので、今までここが秘密の道と繋がっていると分かった者はいない。

 ライドウのミスがなければ、今でも皇帝以外は、知らないでいただろう。


 到着早々。ユーナリアが指示を出す。


 「その秘密の扉前に人を配置」


 レックスが準備していた人材を置いていく。


 「そして、南北のこちらの扉前も封鎖で。ここで籠城します」


 この部屋に入るための入り口は二か所。

 部屋の北と南に、扉が一つずつある。

 三方から敵が来る可能性があるが、一度に来られる人数は少ない。

 守る箇所を重点的に守れば、少ない兵でも相手に勝つことが出来る。


 「下手をしたら万。上手くいけば、その半分です。みなさん。ここが正念場になります。戦いますよ」

 「「「おおおおおお」」」


 帝都中の兵士の攻撃が来るとしたら万。

 それが出来なくても、およそ8千くらいはこちらに雪崩れ込む恐れがある。

 しかし。三カ所を適切に守れば、それらが一度に来ても戦えるのは、所詮は百くらい。


 それならば持久戦を乗り越えられるはずだと、ユーナリアは気を引き締めていた。

 指示を出して、場所を封鎖した後。

 レックスと共に部屋の構造を確認して、敵を待ち構えたのである。

 

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