第374話 オスロ平原の戦い 最高の援軍たち
アーリア歴7年12月5日。
船と馬の移動を駆使して、ルコットに到着したジークらは、港に待機している少女を見て驚いた。
「な!? お前・・・」
エリナだけじゃなく。
「・・・なんで・・・どうしてですぜ?」
マールも驚く。
そしてそれはあのジークも。
「君がマリア君か・・・噂に聞いていた通り・・・・ミラにそっくりだ」
「はい。私がマリア・ブライルドルです」
外交だと思っているマリアは、丁寧な挨拶を心掛けていた。
「なんともまあ・・なあ。ミラだな。本当に」
懐かしさでジークも感動するほどに、マリアとの出会いに感謝していた。
「それで、なぜ君が救援要請を? 君が直接ここに来たのか」
部下の兵士たちにでもやらせればいいのに、イスカルの権限を持つ人物がわざわざこちらに。
ジークは当然の疑問を聞いた。
「はい。それは、あのあく・・・」
マリアは、ユーナリアの事を悪魔と呼ぼうとした。
修練が厳しくて、半べそをかいても指導してくるから、そう呼びたいらしい。
「じゃないや。姉弟子のユーナリアさんと、私が計算した結果で。こちらに来たのです。それと、こちらが頭を下げてお願いするんです。礼儀のためにも、私がこちらに来た方がいいだろうと思います」
「そうか。ユーナがね。彼女はなんて?」
「はい。それが・・・」
ここより少し前。
◇
アーリア歴7年11月上旬。
ハイローグ海戦前、ユーナリアが全体の状況を把握して、フュンとも連携を取れた頃。
彼女は、マリアとの連携を図っていた。
「マリア」
「な。何ですか」
また鬼のような課題が来るのかと思い、マリアの返事には恐れが混じっていた。
「お願いがあります」
「お願い・・え。ユーナさんが、あたしに?」
「はい。このまま行くと、戦況は厳しいものになる可能性があります」
「え。勝てないんですか」
「いいえ。ギーロン。ルスバニア。この二つの勝利は確実。そして、アルストラでの勝利もおそらくは出来るでしょう」
「じゃあ、勝てるのにお願いですか?」
三つの戦場が勝利になれば、あとは帝都を目指すだけで終わりじゃないか。
マリアも戦場の流れを読めていた。
「はい。しかし、敵の数が問題となります。アーリアからの援軍。ワルベントからの多少の援軍。これらとイスカルの支援が入った現在。これでもまだ少しだけ足りないかと思います。最終決戦地。帝都スティブール。ここでの戦いの際、数は相手が上です」
この時点で、ユーナリアは既にフュンと同じように帝都決戦を視野に入れていた。
数が足りない。
質も重要だが、戦争は量も重要だ。
「そこで、アーリア大陸に救援要請を出します。手の空いた軍。最低でも二万。これくらいが来れば、王様が助かるかと思います」
最終局面で、フュンが助かる援軍になれば・・・。
ユーナリアは最後の図を頭の中に描いていた。
「その軍がもしできるのであれば・・あの軍ならいいのですがね」
「あの軍?」
「はい。王様の大切な軍です。王様が英雄となれたのは、彼らがいつもそばにいてくれたからです・・・」
◇
「つまり。ユーナは、ウォーカー隊に来てほしいと思っていたのか」
「はい。そうです。ユーナさんは、そのウォーカー隊という方たちのお力が欲しいと。必殺の一撃を出来るのは彼らしかいないと言っていました」
「必殺の一撃?」
「はい。混沌という戦術は、アーリア王とミランダさんの二人。そしてシルヴィア王妃とクリス宰相も扱えると言っていました。でも、それでは完成しないと」
マリアは、ユーナリアの考えを述べていた。
「混沌を完璧に理解している兵士が、中にいないと、機能することはないでしょうとも言ってました。だからウォーカー隊が来てくれるのならその戦術は完成するはずだと」
混沌の完成形とは。
それは、ミランダとフュンのどちらか。
又はその両方が、ウォーカー隊を率いて初めて完成する。
ユーナリアは、フュンだけでは駄目で、兵士たちが彼らじゃないとうまく機能しないと思っていた。
ゼファーが率いていた軍は、半分がルヴァン人。
これでは彼らの混沌は、完璧とは言えないのだ。
「その通りだな。あの戦術は、あたいらがいねえとな。なぁ。マール」
「おう。あっしらが手足となってこそ、ミラの戦術は輝くですぜ」
二人が自信満々に言った。
「そうだな。そうか・・・ユーナも粋なことをする・・・よし。俺も行こう。俺がウォーカー隊を率いる。いいか。マール。エリナ」
「「え? お前がか」」
「なんだ不満か?」
ジークの口が尖がった。
「いいや。お前の戦いってよ。あたいらってあんまり見た事がねえな。直々に出るなんて、いつ以来だ。ガイナル以来か?」
「・・・そうだな。ガイナルか、フーラル川かな」
「あっしは不満はないですぜ。ジークもお嬢も。ミラの弟子だからな」
「ああ。そこは素直に頷いておこうか」
ミランダの弟子は、四人。
ジークハイド・ダーレー。シルヴィア・ダーレー。
フュン・メイダルフィア。レベッカ・ウインド。
この内、もれなく全員がこの世界での最高戦力である。
そして、フュン・メイダルフィア。
彼女にとっての最高傑作の弟子だった。
それに彼女がいたからこそ、フュンはここまで成長して、世界に影響を与える英雄となったのだ。
「よし。マリア君。君はどのくらいでここを立つ気だったかな」
「はい。皆さんの準備が出来次第で、ここから出発をしようかと」
「わかった。それじゃあ。三日欲しい。あいつらがここに来るのに、それくらいの時間が掛かる」
全土に呼び掛けて。
ルコットへ集まれの緊急招集。
ウォーカー隊は流れの者が多い。
一か所に集まっている方が珍しいので、指令が行き渡るまでに時間が掛かるし、こちらに向かって来るまでにも時間が掛かる。
それでも招集に応じられるのは、彼らが優秀である荒くれ者たちだからだ。
「にしてもお前・・・似てんな」
エリナがまじまじとマリアを見つめた。
どこもかしこも、幼い頃のミランダにそっくりだった。
「本当ですぜ。子供の頃のミラだ」
マールも若い頃のミラを知っている。
その時の彼女の顔と比べても、本当に似ていた。
「そ。そうなんですか?」
「ああ。その口調は全然似てねえけどな。こんなに丁寧な人間じゃねえ。あたいらの事をこき使ってきたあくどい女だ!」
「へ・・・へぇ」
この話し方が本来の話し方じゃないんですけど。
内心では、この話し方が堅苦しくて辛いと思っている。
でもマリアは仕方がないとも思っていた。
ここは外交の場と同じだ。
他国に足を踏み入れて、自分の素の部分で話すなんて出来ない。
マリアは、相手に失礼のないように努めていた。
「二人とも、それはしょうがないだろ。あいつは、親に捨てられたからな。荒々しく生きないといけなかったんだ。それでも母上の愛のおかげで、俺たちダーレーの家に忠義を示してくれただろ」
「まあな。シルクさん。あの人は、すげえ素敵な人だったからな」
エリナでもシルクは素敵な人だと思う。
優しくて、笑顔の多い女性。
思い返しても、彼女とする会話も楽しいものばかりだった。
「そういや、お嬢はどこに? ジーク。あっしら、お嬢を見かけてないですぜ」
「ああ。シルヴィアなら、お忍びでワルベントで交渉をしているぞ」
アーリアに王がいないのは、周知されているから、王妃がいない事も触れ回られると、またおかしなことになりそうだとして、ジークたち上層部はこの事実を皆には伏せていた。
それに、ここにはアインもいるので、安心して彼女を行かせることが出来た。
「よし。じゃあ三日後だな。出発しよう」
「はい」
◇
三日後。出立直前。
ジークとウォーカー隊。それにアスターネとドリュースが、船に乗り込もうとすると、全員が驚く事態に陥る。
それは・・・。
「俺を置いていくな! ジーク!!!」
大声に驚いたジークは肩をビクつかせて振り向いた。
「な!? 兄上??」
手を振るスクナロは、『お前たちまだ出航するな』と言い出した。
「おい。まだだぞ。こっちは最強の援軍がいくんだろ。だったら俺がいかねばならんよ!」
「いや、兄上はもう歳でしょ。軍務は引退のはず」
「そうだ。アーリアでは引退だ。でも、ルヴァン大陸では引退していないぞ」
「そ。それは屁理屈でしょ。兄上」
「ジーク。いいだろ。お願いだ。俺も戦いたいんだ」
「・・・はぁ。しょうがないな。いいですよ。乗ってください」
「おう!」
是が非でも参戦したいスクナロは、ジークを説得して船に乗り込んだ。
でもここでまだ謎の人物が、勝手に船に乗り込んでいた。
それにジークたちが気づいたのは、航海が始まってから数時間後だった。
その人物とは、はたして・・・




