第373話 オスロ平原の戦い 破軍星の読み
右の戦場も、左と同じ事をしていた。
大将クリスの指揮の元。
右肩上がりの突進で、右翼部隊のマルクスとシュガが連携をして相手の背後を狙い。
中央も、ギルバーンがした事と同じく。
軍を半分に分けて左右の鶴翼の突出した部分を刈り取る動きをした。
それらと連動できている左翼部隊のランディも、ライス同様に素晴らしい判断をして、小規模包囲戦を戦い抜く。
こうして、最終的にフュンの作戦は成功となる。
劣勢状態を跳ね返した上に、相手を削りに削りきった。
フュンの指示が上手く通らない頃の兵数差は、7万の差だった。
しかし、この戦いが終わった頃にはその差がほぼなし。
ロビン軍17万
レオナ軍16万
6日目にしてようやくスタートラインに立った。
そう考えているフュンは、この戦闘後に、左右軍の大将を招集して会議を行う。
全体の勝利が決め手となり、本陣がやや帝都寄りとなった。
なので、前より大きく見える帝都を眺めてのフュンの本陣。
そこに大将たちが集まる。
ギルバーン。クリス。その副官のメイファ、タイローの四人がそばに来てくれた。
シルヴィア。ゼファー。ネアルと合わせて、八人での会議となる。
「勝ちましたね。フュン様」
クリスの意見に、フュンは首を振った。
「勝ったとは言えませんね。僕の計算では、これで決まるはずでしたからね・・・ゲイン。あれは、明らかに戦術に長けた人だ」
こちらがしようとする戦術の理解が早い。
しかも対処が完璧だ。
これほどの相手は他にいなかった。
「今回・・・ほとんど皆さんのおかげです。特にギル。クリス。あなたたちが臨機応変に僕の指示を変化させてくれたおかげで敵を削りに削りました。これは収穫です。次からは楽になる・・・」
という前向きな言葉を言った割には、フュンの顔は曇っていた。
「フュンさん」
「ん? どうしました。タイローさん」
「今後が心配ですか?」
「え・・・ええ。まあね」
友のタイローはフュンの変化を敏感に感じて、心配になった。
「珍しい。そんな表情をするフュンさんは、見た事がないですよ」
「いや、この戦場でね。決まり手がない気がしてましてね」
「決まり手・・・ですか。なるほど」
「ええ。必殺の戦術に、僕の騙し。これをやってもせいぜい同数にするまでしか出来なかった。これは厳しい。どちらかでこの戦いの決着が着く。それがいつもの戦場でしたが、今回は・・・難しいですね」
詐欺と戦術。
双方を駆使して、これまでを勝ってきた。
しかしこの戦場では通用せず、フュンの勝利とはならない。
ゲイン・フーラーの強さを認識するしかなかった。
「俺はこの結果。大戦果ではあると思いますよ。それにこれからじゃありませんか」
ギルバーンが、誇ってもいいはずの結果だと言った。
「そうですね。十分な成果だ。でもここらで決着を着けたいっていうのが本音ですよ。決まり手がなくなっていく感じがしますからね。あの混沌でも、相手に勝つことが出来なかったからね」
自分が指揮を取った混沌でも勝利を手に入れられなかった。
これは厳しいものだった。
新たな策を考えねば、ゲインに勝つことは不可能。
「やはり。要所の将が邪魔ですかね。将が強いから、兵が強くなっている。そんな感じがします」
減らすべきは兵よりも将。
フュンの狙いが質になった。
「はい、相手の将。たしかに強いですわ」
「そうでしょう。メイファがそう感じるなら、確実でしょう」
武人であり、戦術家でもあるメイファが言うなら間違いない。
フュンもこの戦争が人にありだと思っている。
「しかしその将を狙い撃つにも、混沌で乱すくらいの状況にせねばなりません。ここが難しい・・・相手の大将が良過ぎるな・・・」
でもその混沌が通用しなかったので、フュンは悩んだ。
相手に勝つための最高戦術でも、相手を完璧に崩せずにいた事。
これがフュンの悩みの種の部分だった。
しかしここで、その悩みが解決する事態が訪れる。
「フュン君。君の戦い方は間違ってないよ」
「え?」
フュンの背後には音がなかったのに、誰かがいた。
後ろを振り返る前に。
「に・・兄様!?」
シルヴィアが驚いた。
「いやいや、皆さん。お久しぶりでね。俺の出番がようやく来たかな。この風来の大商人! ジークハイド・ダーレーの出番がね」
「・・・えええ? なぜジーク様がここに!?」
フュンの驚いた声を聞いてジークはニヤニヤと笑って話し出す。
「ああ。君の窮地に駆けつけない人間は、アーリアにはいないからね。ほら、来たぞ」
ジークは天幕の入口を指差した。
「おう。義弟よ!」
「な!?」
スクナロの登場だった。
フュンは立ち上がって目を丸くする。
「あっしらも、協力しやすぜ」
「癪だけど、ジークの言う通りなんだわ。ムカつくぜ。あたいらが言おうとしたことを先に言いやがって」
「なに!? マールさんにエリナも!?」
スクナロの背後から、マールとエリナが登場した。
二人ともフュンを驚かせようと体の大きなスクナロに隠れていた。
「「ネアル様!」」
「おお! アスターネ。ドリュース。お前たちも来てくれたのか」
「「はい」」
ネアルの腹心アスターネ。ドリュースの参戦。
ネアルは自分を深く理解してくれる部下がこちらに来てくれたことを喜んだ。
「な、なぜ。皆さんが!?」
フュンの動揺が面白くて、この状況を楽しんでいるジークは、フュンの肩に腕をかけた。
「いやね。君の最愛の弟子という方がアーリアに来たんだよ」
ジークはつい最近の話を、昔話かのように話し出した。
◇
アーリア歴7年12月1日。
王都アーリアで仕事をしていたジークは、ウィルベル。スクナロ。バルナ。ヌロ。リナ。アン。サティの兄弟たちと協力をして、アーリア王国を支えていた。
そこに緊急の連絡が入る。
皆が会議中だったので、慌ててきた兵士が申し訳なさそうにして話す。
「ルコットからの緊急です・・・えっと」
誰に向かって話せばいいんだ。
兵士はこの兄弟の優劣が分からなかった。
「ウィルベル兄上でいいぞ」
見かねたスクナロが答えた。
「は、はい。イスカルからの使者が来たそうです。今回は、交易や援軍の話じゃなく、救援要請でありました」
「救援要請だと?」
「はい。今すぐに軍が来てほしいとの事。アーリア人のお力をお借りしたいと、丁寧な要請でした」
「なんだと。だ、誰からだ」
「それが、太陽王の弟子と名乗るマリアという女性でありまして・・・」
マリア・ミラー・イスカル。
その名はたしかと、ジークは、ウィルベルと兵士の会話中に思いだした。
「その子はフュン君が育てた子の名だな」
手紙にそう書いてあったのを思い出した。
ジークにも手紙を送るフュンは、筆まめだった。
「でも救援要請だと。おかしいな。ついこの間、ネアル殿を送ったはずだよな。スクナロ?」
「ああ、そうだ。兄上と俺で、彼を送り出したからな・・・変だな。また軍が欲しいのか」
ネアルを派兵する時に二人で送り出していた。
仲の良い兄弟となっていた。
「でも兄様方。救援という形ですよ。名目が援軍じゃありません。ということは、どこかが危険なのでは? もしかしたらフュン様が!?」
「そうだよそうだよ。武装も必要かな。あたしの準備も必要かな」
サティは至って冷静に話を進めて、明るいアンは武器を作らなきゃとやる気に満ちていた。
鋭い思考をしているサティは、救援要請という強い言葉が気になり、よほどの事が起きたのだと思った。
「「たしかにな」」
二人とも同時に返事をした。
その間にジークが立ち上がる。
「そうだな・・・まずは、会おうか。それにすぐにでもいける軍を容易か・・・しょうがない。あいつらを呼ぶか。それともう一つ、行くとなれば、あのネアルにでもプレゼントを用意しておくか」
彼から援軍準備が始まった。
「フィックス。ナシュア」
影から二人が出てくる。
「ウォーカー隊を招集だ。ルコットに集まれる奴だけ集まれと指示を出せ。全土へ光信号だ」
「「はい」」
「エリナ。マール。この二人を連れていく。それと、ドリュース。アスターネ。これらもだな。だから、スクナロ兄上」
「ん? どうしたジーク」
「学校の先生が足りなくなるでしょうが。そこはなんとかしてください」
「わかった。緊急事態だ。そこは気にするな」
「ええ。お願いしますよ」
「おう!」
ジークはあの戦い以来。
兄弟を兄弟だと思っている。
その前までは、妹に害をなそうとしている敵だとしていたが、フュンのおかげで、ジークは考えを変えた。
だから彼らの協力関係は強固であり、アーリア王国が安定しているのも、この結果が起こした出来事だ。
フュンの思いを汲んでくれた兄弟たちの力が素晴らしく、アーリアを輝かせる要因となっていた。
「じゃあ、俺が行こう。もし援軍となるのなら、俺が指揮した方が良い。スクナロ兄上は学校があるし、それにアインの支えだしな。それに今は、ダーレーの当主は、フィアだから。俺が自由だ! 参戦してこよう・・・ということで、軍事権を借りたいから、アインに相談してくる」
兄弟会議の終わりにジークはアインの許可をもらいに行ったのだ。




