表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
人質から始まった凡庸で優しい王子の英雄譚  作者: 咲良喜玖
最終章 最終決戦 オスロ平原の戦い 帝都決戦

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

697/741

第372話 オスロ平原の戦い 戦術が変化しても成功する

 フュンがこのままでは上手くいかないと気付いた頃。

 左翼軍の左翼部隊を担当していたエレンラージは、自慢の搦め手を披露した。


 「全体。最後まで進もうとするな。途中までで良い。敵軍真ん中をぶった切る事にするぞ」


 中央軍じゃないエレンラージだが、フュンの考えに沿った動きをした。

 相手を完全消滅させる大規模挟撃を捨てて、目の前の軍を削る動きをしたのだ。

 その結果。

 ルカ。ルイルイの二人による波状攻撃で、敵の逃走を妨害。

 敵軍の約三分の一の切り離しに成功。


 「ここだ。これだけでいい。囲って滅する!」


 小規模包囲攻撃の展開により、敵軍約一万をもらい受けた。


 「ルカ殿に連絡を、敵を弾けで十分伝わる」

 「了解です」


 逃げる事に成功した部隊たちが、包囲陣に戻ろうとして来るだろう。

 だから、それすらも吸収して、狩ろうとする。

 搦め手のエレンラージは、ここに健在だった。


 ◇


 エレンラージが敵を捕まえ始めている頃。

 ギルバーンは奥にいる敵を見つめる。

 敵は、逃げる判断を取ったのがとても早かった。

 こちら側の端を狙い撃ちする斜線陣と、自分たちの今の鶴翼では相性が悪い。

 だからすかさず撤退を決める。

 深い戦術理解と予測であるとギルバーンは敵を褒めていた。


 そして、相手の陣形と自身の立ち位置を見ると、一番距離的に離れている。

 だから普通に追いかけても無意味だと悟った彼は、これまた良き判断をする。

 フュンの部下もまた優秀なのだ。


 「エレンラージ殿の方に半分。もう半分は俺に続け。相手の左翼を狩るぞ。あそこならまだ突出している。右翼部隊。ライス殿に指示を。俺たちが線引きするから、そのラインまで突撃をしてくれとの指示を出せ。これで小規模な包囲が可能だ」


 ギルバーンの中央部隊の戦略は倒すじゃなく、ライン引きだった。

 鶴翼の陣の左翼にいる兵士たちを囲い、遅れて突撃になる右翼の援護をする。

 それで、前回押し込まれた借りを返して、兵を減らす目的に変えたのだ。


 「いけるな。作戦変更だ」


 ギルバーンはここから声を拡張して、直接言葉で指示を出した。


 「メイファ。この後、どこ行きゃいいかは分かんだろ」


 敵に指示を聞かれようが、ここは構いはしない。

 相手も逃げているから聞いていないだろう。

 でも聞いていたとしたら、通常これは強襲攻撃にならないだろう。

 相手にバレている強襲など、対策されるに決まっているからだ。

 しかし、その強襲をするのが、月の戦士最強の女性メイファだ。

 相手に作戦がバレていようが、あの猛獣を止められる人間が、この世にいてたまるか!


 という風に、半分文句を言いたいギルバーンは、かなり無茶な指示を出していた。


 「わかってるわよ。あなたこそ、追いついて来なさいよ」


 少々怒り気味で声が返って来た。

 前にいる彼女の声が、後ろにいる自分にまで聞こえる。

 ということは・・・


 「おいおい・・・爆音で返事したな・・・あいつ、あとが怖え・・・俺、戦争終わった後の方が死ぬかもしれないわ・・・」


 ギルバーンは指示を出さない方が良かったと、震えあがりながら、敵に向かって走ったのであった。

 敵には恐怖していないのに・・・。



 ◇


 斜線陣の最後方右翼部隊を操るライス。

 彼は、この状態だと敵に逃げられると分かっているが走っていた。

 作戦が不安定な状態だと気付いた時に、声が響いたのだ。

 

 「わかってるわよ。あなたこそ、追いついて来なさいよ」


 夫婦喧嘩か?

 と思ったライスもすぐに気を取り直して、彼女の追いついて来なさいの言葉を考えた。


 「追いついて来なさい?・・・つまりまだ追いかけるという事だな」


 敵が逃げているため。

 ここは追うか。追わないかの判断をする場面だと思っていた。

 そしてライスとしては、このまま待機なのかと判断していた。


 大まかな作戦を告げられて、それが失敗して、次へ。

 通常ならば、足並みをそろえるのだって難しいのに、どうやらここは作戦を変更しても、相手を追いかけるらしいのだ。

 それだと、メイファ殿はどこへ行くんだろう。

 左翼部隊は敵とぶつかっている。

 中央は敵を追いかけても、敵の中央は鶴翼の為に引っ込んでいるので、あそこまで狙うのが難しい。

 すでに本陣くらいにまで敵の撤退が進んでいる。

 では敵の左翼の突出した部分か?

 あのほんの僅かに前に出てしまった部分を・・・


 「まさか。あれに追いついて、彼女は・・・そうか。線を引いて、小規模な包囲で相手を倒すのか」


 リューゲン夫婦の阿吽の呼吸のような作戦にライスも気付いた。

 ギルバーンからの連絡を受けずとも気付けたので、やはりライスもイスカルの誇る名将だったのだ。


 「イルミネス殿。マイマイ殿を更に突出させて、敵の背面を取ろう。逃げている敵の背に辿り着けば、こちらの包囲のきっかけになるはずだ。指示をお願いします」

 「了解です」


 光信号が出来ないライスは、影に頼んだ。

 今回ライスとエレンラージには、影部隊の影が、護衛を担当している。

 もしもだが、彼らに影の奇襲があると命令系統の問題で面倒となるためだ。

 それと、彼らは光信号が出来ないので、秘匿性の高い情報のやり取りの為にも必須だった。


 ◇

 

 「ん?」

 

 イルミネスは後ろから来る光の点滅を見た。

 

 「おお。なるほど。相手の背を・・・それで慌てさせるのですね。了解です」


 イルミネスはライスの意図を把握。

 その瞬間には、マイマイに指示を出した。


 「マイマイ。好きに暴れていいです。とにかく敵の背後を捕まえてください」

 「わかりました。いっきま~す」


 返事の明るいマイマイは、前方に全力ダッシュ。

 相手の背を捉えるために、距離を詰める。

 竜爪の射程範囲内に入ると同時に仕掛ける。


 「青波竜撃(せいはりゅうげき)


 彼女の先制攻撃を起点に、ロビン右翼軍の左翼部隊を捕まえた。

 後ろを確認しながら走る敵兵たちは、彼女の勢いに恐れ戦く。


 しかし。ここで、さらにその兵士たちにとって、想定外が起こる。

 それが、逃げ出すはずの前方が止まったのだ。


 「逃げろ。何止まって・・・後ろから敵が来て・・・あ!?」


 兵士たちは分断されていた。

 魔女の軍によって・・・。


 そして兵士は気付く。

 

 この人は、あのギーロンでの戦いで活躍した。

 アーリアの魔女だ。

 報告書に載っていた特徴と同じ女性である。

 やたら強くて、やたら美しい。

 でも、その強さにも、美しさにも、何故か恐ろしさがついて回る。

 微笑んでくれる笑顔にもだ。


 「さあさあ。大人しくしてくれるんだったら、捕虜にでもするんですけどね・・・無理かしら?」

 「で。出来るか」

 「あらそう。じゃあ、殲滅ですわね。いきますよ」


 逃げる兵士を捕まえた。

 アーリアの魔女と、イスカルの名将ライスの小規模包囲戦が開始となった。

 これにて、敵兵を一万葬る事に成功する。


 フュンの騙しから始まった作戦は、各人の臨機応変な作戦変更により大成功となっていく。

 だから、失敗は成功のもとだった。

 そもそも彼の作戦が上手くいかなかったことを、失敗と捉えていないのが、アーリア人の強みである。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ