第369話 帝都決戦 潜入隊
翌日。
ジュードとレックスが、昔に使用していた道から、次世代たちが帝都への潜入を開始。
そこからすぐに影のアジトへ。
帝都のスラム街のオンボロな家の地下に、影たちは勝手にそこを住処にして、活動をしていた。
帝都に潜入している影は十名。
目と耳を入れると、もう少しいるが、戦闘員は十名で、シゲノリとライドウを合わせても、たったの十二名である。
しかし、敵の影よりも強いのは間違いない。
年季の入った影が、アーリアの影たちだ。
「みなさん! おひさしぶりで」
「「おお。シゲだ」」
ここには壁のベテラン勢もいる。
なので、まだ子供っぽい見た目をしているシゲノリは、皆から可愛がられていた。
伝説の影も、良き先輩に恵まれていたのだ。
「元気そうね」
「はい。ナナさんも」
「うん。よかったわ。アーリア王の任務と聞かされた時はね・・・心配したわよ」
影部隊のナナは、周りの影たちの顔を見て、そうだよねと頷き合う。
太陽王の任務。
それは危険と隣り合わせに決まっている。
彼から与えられる仕事は、やる事にやりがいがあっても、実際はほとんどが高難度ミッションなために、シゲノリが無事でいる事がとても心配になる。
「今から、敵の配置を見に行ってきます」
「え? 危険よ。中はかなりの人がいるわよ」
「大丈夫です。私が調べに行って、どのルートで敵を引っ張るかを計算しなければなりません。そうでしたよね。ユーナさん」
「うん。シゲノリ君なら大丈夫ですよ。ナナさん。心配しないで」
「そう?・・・うん。じゃあ、頑張ってね」
「はい」
母親のように心配してくれるナナは、シゲノリの母と同級生だ。
彼女とシゲノリは、血が繋がらないのだけど、自分の叔母さんのように感じている。
「私の父がよくね。あなたを見るとシゲマサさんに似ているってね。言ってたものね・・・」
責任感が強く、皆の為ならば、身を粉にして働く。
とても立派な男性だったとシゲノリを見かけるたびに、ナナは毎回同じ話を聞かされていた。
「ナナさん。大丈夫です」
ナナの心配そうな顔を見て、シゲノリが答える。
「私はお爺様の遺志を継いでいるので、簡単には死にません。私は、アーリア王に仕える影。お爺様がやろうとしたことを、私が・・・必ず成してみせる。天国にいるだろうお爺様に、誓います。生きて任務を果たす影になると!」
「・・・そうね・・・そうよね」
生きて任務をやり遂げる。
でなければアーリア王にどやされるに決まっている。
とにかくフュンから怒られるのだけは嫌だなとも思っていた。
「はい。では、いってきます」
「うん。頑張って。シゲちゃん」
影たちから見ても、消える瞬間が分からない。
後を追えない影。
それがシゲノリの影の力だ。
◇
「ユーナリア殿」
「はい。レックス将軍」
「あの。敵の配置が分かり次第で、侵入の切り口を探しませんか」
「なるほど。わかりました。でも私はすでに・・・ああ、そうでした。まずはこれを見ていただけますか?」
「はい。何でしょう」
ユーナリアが地図を広げた。
「これは、地下水路と通路の地図!?」
「はい。影たちの地図です」
「なに!? これはじゃあ。自分たちで?」
「そうです。自前の地図です。アーリアでは測量部隊という目と耳の影部隊がいますので、この手の事は、ここに来てからすぐに取り掛かります」
情報が命。
フュンの時代になってから影たちの力は、こちらに注力を入れてきた。
地形。天候。人の配置。物資の量。
これらが最低限の情報だ。
これに合わせてフュンの注文は、相手の性格。
ここが珍しい指示である。
人の性格に着目して情報を集めろというのは、アーリア王の中でもフュンしかいない。
「この通路。おそらく私の予想ですが、高い確率でここに防衛ラインがあります。ここです。この秘密の通路へ繋がる部屋付近にも敵が多く配置されていると思います。つまり、敵はライドウとリュークさんが脱出した時の異変を見抜いたのだと思います」
「なるほど。それで、地下を警戒していると」
「はい。ですが、わかられてしまったのなら、逆をしましょう」
「逆?」
「はい。敵が、私たちの進軍を分かっているなら、だったら、こちらはそれを逆手に取って奇襲を仕掛けるんです」
「・・・」
レックスは面白い提案だと黙って聞いていた。
「ここ。ここが連携部分です。そしてライドウから聞いた話。逃げていく時に西を採用したといいましたので、敵は侵入経路は西からこの秘密の通路に来ると思い込んでいるでしょう」
「うぅん」
レックスが唸った。
敵の動きの予想が的確だと思ったのだ。
「なので、私たちはいきなりここの秘密の通路への入り口を持つ。この部屋に突撃を仕掛けます。それも北と南からです」
「二か所から?」
「はい。それで、この西からも攻撃を仕掛けます。それがレックス将軍です。わざと目立つように西の通路から号令をかけてください」
「・・・号令?」
「はい。号令で敵を呼び込みます。ここは向こう側にも兵士たちがいます。地下牢の辺りにも予備兵が潜んでいるはずです」
「なるほど。それらも誘き寄せて・・・北と南の強襲攻撃の成果を大きくする。そういうことですか」
「はい。最初に巨大な戦果を挙げて、敵の度肝を抜く。そして動揺している隙に大進軍をします。そして秘密の通路の出入り口をこちらが確保すれば、この部屋で籠城できます。出入り口となる三カ所が狭いので、地下水路や、地下牢で戦うよりも、楽に戦えるはずです」
地下通路から、秘密の通路に入るには、ワンクッションある。
それが大広間のような巨大空間が存在するのだ。
これは秘密の通路を隠すためのカモフラージュの部屋だった。
間違えて地下通路から入ってしまった人が、何もない場所だと思って引き返すだろうと考えて作った場所だ。
「なるほど。わかりました。それが良さそうですね」
「はい。ですから、今シゲノリ君がそこを調べに行きました。敵の数が多すぎる場合はこの作戦が難しいです。でもある程度の人数であれば、影たちが働けるはずです。ここは無理をしても最初の形を作りたいです」
人数が少ないこちらが、大人数と戦ってはいけない。
でも戦わなければいけない時が必ず来るので、タイミングを間違えないようにしないといけない。
「こちらのせいで無理をさせてしまうかもしれませんね・・・申し訳ないです」
「いえ。この程度の無理は無理じゃないですよ。レックス将軍」
「え、無理じゃない?」
「私たちの王様の課題の方が無茶ばかりですから。これくらいはへっちゃらです!」
「な!?」
これ以上の課題とは何だろう。
レックスは、アーリア人たちが普段。
どんな修練を積んでいるのかが気になった。
◇
「姫。君は俺たちの方でいいのかい?」
「はい。お守りします」
「それは心強いが・・・こっちもヤバいっちゃあ、ヤバいかもしれないぞ。下手をすれば、数の違いに押される可能性も・・・」
ジュードはしっかり作戦の事を考えていた。
レックスが引き付けてくれると言っても、全部が全部そちらに回るとは限らない。
兵士たちがロビンを守護する方向に命令なしで向かってしまえば、それだけで人数差はえげつない事になるだろう。
「大丈夫です。多少の有象無象。切り捨ててもよろしいのであれば、斬ります」
「あ・・・うん。そうかい」
淡々と宣言するレベッカを頼もしく思うと同時に、恐ろしさも感じる。
彼女から放たれる闘気は、他の人間とは別のような気がするのだ。
「それじゃあ、レオナたちを頼むよ。ダン君もいいかな」
「はい。私もお守りします」
「ありがとう。頼りにしているからさ」
「はい」
ジュードはダンの事も高く評価していた。
レベッカを常にフォローして動いて、戦場だとさらにわかりやすく彼女の動きに合わせて動いている。
実に優秀な副官だと思っていた。
「うん。あとはそうだな。シゲノリ君を待つ・・・だけになるか」
◇
地下通路は水路と同時に発展した場所。
そこにシゲノリが、一人で偵察に入る。
影になりながら、移動をする。
『敵・・・まあまあ、いるにはいるな。そこら中に気配ありだ』
十字路の左右にも人の気配あり。奥の道にも何人かいる。
それに影もいたりする。こちらを察知している気配がないが、それでもシゲノリは慎重に進んだ。
『影にしては甘い。足の動きが悪いから、音でも判断がつくぞ』
足音の消し方が緩い。もう少し消音しないと、音ですぐに位置を分かられてしまう。
それなら、影でいること自体が勿体ないだろう。
警戒時に無駄に能力を使う必要がないのだ。
敵の影が、まだまだ影として弱いなと思うシゲノリは、サブロウたちの特訓を受けた方が良いぞとも思っていた。
『それにしてもなぜこの動き方の影が・・・・、脱出経路かつ侵入経路にしようとした秘密の道を見つけることが出来たのだろうか。謎だ・・・ここまで影として弱いのに・・・』
これほど弱い影たちしかいないのに、やり口は優秀そのもの。
待ち伏せを目指した動きをしているので、敵が取ろうとしている作戦は、とても効率的である。
『ん?』
地下通路と秘密の道の巨大な部屋にて。
「おい。本当に来るのか。敵がこんな道からさ?」
兵士の会話を影になりながら聞く。
「知らねえよ。上からの命令だ」
「ロビン様か」
「いや、違う」
「ロビン様よりも上? じゃあ、陛下か?」
「お前馬鹿か。陛下は死んだって話だろ」
「知らねえ。国葬もしねえしさ。死んだとか言われてもさ。実感がねえわ」
「そうだな。俺もそれは思う所だ・・・」
ジャックスの葬儀は、この一年で行われなかった。
詳しい理由はよく分からないが、一つの理由としてあるのはリュークが死体処理をしてしまった事がある。
変装したシゲノリの抜け殻を処分した形である。
「あ。話が逸れた。ロビン様よりも上って、誰だよ」
「話を戻したのか。珍しいな。そんなに気になるのか」
「おう。戻したぞ。気になるからな」
「ロビン様のお爺様だそうだぞ」
「ロビン様にお爺様? いたっけ。そんな人??」
「いるだろ。それは・・・あの時に死んでなければ誰にでもさ・・・」
あの戦乱の時代を生き抜いた人物であれば、今も生きているだろう。
兵士の一人は頭を掻いて答えていた。
「そうか。お前の父さん。前ので死んでもんな」
「ああ。大変だな。兵士ってさ」
「そうだな」
二人の兵士の会話の終わり際。
シゲノリにとって、重要な話が出た。
「それでそのお爺様って人は、なんでまたこんな所を警戒しろって言ってんだ?」
「それが、リューク大臣が逃げ出す時にここを使ったって話だぞ」
「は? あの人は忽然と消えたって・・・」
一般人には、リューク・ジョンドは内通者だったから逃げ出したとだけ伝えてあった。
逃げ出した経緯や中身は詳しく説明されていない。
「なんかな。リューク大臣が消える時に、子供みたいな小さな足跡と大人の足跡が、ここにあったって話だ」
「なに!? ここに? それだけでここから逃げ出したって、言ってんのか。そのお爺様とかいう奴」
「ああ」
「ボケてんじゃねえのか」
「知らねえよ。それに失礼だろ」
「だって、それじゃ確たる証拠がないじゃんか。いわば、勘だろ」
「知らねえよ。そんなの上に聞け。俺に聞くな」
兵士二人の会話を聞いた後。
シゲノリは。
『ライドウ!!! あいつ、隠密術をし忘れたのか!!!!』
ライドウがドジである事を再確認したのであった。
こうして無事に偵察は完了したが、シゲノリの気持ちはちょっぴり怒りに支配されたのだった。




