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人質から始まった凡庸で優しい王子の英雄譚  作者: 咲良喜玖
最終章 最終決戦 オスロ平原の戦い 帝都決戦

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第368話 帝都決戦 秘密の通路を巡る攻防

 その裏では、別の戦いが始まっていた。 

 レオナたちは帝都付近で作戦を組み立てる。


 「敵が地下水路にいる?」

 「みたいだな」


 レオナの驚きの声に、答えたのがジュード。

 

 「それではどうやって帝都に入りましょうか? その秘密の地下通路にも兵がいることになりますよね」


 地下通路に敵が配置されている。

 その連絡をしに、シゲノリが帰ってきた所だった。


 「だな。でもこのまま、ここにいるだけじゃあ、駄目だよな・・おい、レックス。どうしたらいい?」


 聞かれた返事はジュードに対してだけじゃなかった。

 レックスは、皆に対して答えた。


 「・・・・私が意見をしてもいいのでしょうか。皆さん。敵として戦ってしまった私の進言など、信用に値しないはずで・・・・」


 まだまだ自分の立場が悪いはず。

 レックスは意見を言うのを遠慮していた。

 しかし、彼女が気にしない。


 「いえ。いいです。レックス大将軍の意見は重要です。信用するかどうかはこちらの問題ですので、意見を言ってください」


 自分に信用がないと思うのは結構。

 でも信用とは曖昧な上に不安定なので、建設的な意見であれば何でも採用。

 というのが、レオナである。

 仕事上に、仲間内に、好き嫌いなどない。

 全ては発言に具体性や実現性があるかどうかだ。


 「レオナ姫。わかりました。私はここを強引に突破すると、敵が湧いて来る手筈になっていると思います」

 「ん? 地下通路をですか」

 「はい。斥候の兵士たちと、ここを守護する兵をですね。あのシゲノリ殿が間違えるとは思えない」


 敵の配置と敵の種類を見抜いたはず。

 だから、道が繋がっている。

 奥の城の中にも兵が待機しているはずなのだ。


 「進入路に兵士がいるという事は、こちらがそれを利用するという事を分かっているという事です」

 「それはそうでしょうね。中々の監視数ですものね」


 さすがにそこは分かる。

 レオナは頷いた。


 「ええ。ですから、あそこを通れるのは影が使える人物だけとなる。シゲノリ殿。ライドウ殿。ジルバーン殿。ヘンリー殿。この四名位があそこを突破できるのでしょう」


 影の適性がある人物がここにいても、実際に完璧な影になれるのは四人。

 他の人間たちがそこを通れないので、強引に突破しようとすると危険である。


 「ですから、私は別な道を通りたいと思っています」

 「え?」

 「帝都の南西。兵士宿舎の脇にですね。通り道があります。私とジュードがよく通った道です」

 

 懐かしい小道を思い出したジュードが笑いだした。


 「ああ。あれか! あのジジイの訓練を嫌がった時に使った」

 「それはお前だけだ。私はリカルド様の訓練を一度も嫌がったことがない。私は一人で外の訓練をしたい時に使っていた」

 「そうだったか?」


 意見の食い違いが出てもレックスは冷静に話を続ける。


 「あそこの道ならば、これくらいの団体は入れるはず。兵士の視線を誘導してもらい。アジトに待機が良いと思います」

 「なるほど。でもそれだと帝都城へは?」

 「正面からいきましょう」

 「ん?」


 レオナは予想外の意見に困惑した。


 「私は、姫には堂々と入城してもらいたいと思っています。そこで、向こうの兵士たちが、地下牢から秘密通路を警戒しているのであれば、あえて、そこに行ってやろうと思います」


 敵がいる所にあえていく。

 それがレックスの提案した作戦だった。


 「え? わざわざ帝都に入ったのに、わざわざ外に出て、入り直すのですか?」

 「そうです。私と、影の方たち。アーリアの方たちで、暴れます」

 「な?!」

 「わざと暴れて。下に注意をしてもらいます。そして、正面からレオナ姫がいく。ジュードたちとレベッカ姫が護衛をして、中に入りましょう」

 「・・・・」


 それだと囮役が潰れる恐れがある。

 一瞬で計算したレオナは答えなかった。


 「大丈夫です。シゲノリ殿はいますか?」

 「います」


 姿が現れた。普段からシゲノリは姿を現さない。

 自分の影の実力を高めるために普段から身を潜めている。


 「城の内部。兵の数は?」

 「三千くらいですかね。城壁の方に万がいます。あとは外にいって、大戦を戦っています」

 「一万三千か・・・でも大丈夫。私が育てた兵士。千くらいが中にいます」

 

 皆が驚いた。


 「私は、自分がこき使われる立場となると思いましてね。反撃が出来る体勢になった時の為にもありますが。どうせ使わせてもらえないのならと、大側近たちは休みにさせていました。部下の部下たちも、近衛兵として数えていいのなら、千はいるはずです」

 「おいレックス。でも千じゃ足りないぞ。数で踏みつぶされるわ」


 ジュードが会話に割って入った。


 「大丈夫だ。ここには影の方たちがいる。その方と連携すれば狭い通路内であれば、戦い方次第で十分に戦える。それに私なら出来る」


 大将軍レックス・バーナードであれば、十倍差くらいものともしない。

 狭い場所での戦いならば、効率を重視して地形を利用すれば、互角に戦えるはずだからだ。

 

 「うちは賛成です。レックス将軍が現れたとなれば、敵の視線は下に傾く。それにそこにレオナ姉さんの偽装もしませんか。あのアーリア王が変装した奴です」

 「なるほど。それは良い提案ですね」

 「ええ。ロビンたちならば引っ掛かると、うちは思います」


 クラリスの提案に、レックスは頷いた。


 「シゲノリ殿。出来ますか?」

 「出来ます。ライドウにやらせましょう」

 「え? 俺???」

 「背格好からして、レオナ姫くらいのサイズ感ですからね」

 「マジかよ。俺、あんまりな・・・女性の声はマネできなくて」

 「いや、ライドウ。お二人の話から察するに、お前が話さなくてもいいはずだぞ」

 「え。そうなの?」

 「ああ。姿がちらりと見えればそれだけでいいはずだ」

 「へ~。そうなんだ」


 話を聞いていても、ライドウは能天気なので、深くは理解していない。


 「そうです。私たちのそばにいてくれれば、それだけで上手くいくはず」


 レックスが答えてくれた。


 「わかりました。俺がやるっす」

 「お願いしたいです」


 二人の後にユーナが出てきた。

 小さな手を挙げて、ちょっとだけ前に進む。


 「レックス将軍。私がそちらに行ってもよろしいですか」

 「・・え? 私の所ですか」

 「はい」

 「戦いですよ? ユーナリア殿は戦えるのですか」

 「いいえ。無理です。ですが、指揮を取れる人間が必要だと思うんです。レックス将軍が前目で戦うのであれば、背後を任せてもらえませんか」

 「・・・なるほど。アーリア陣営が、後方部隊のようになると」

 「そうです」


 レックスもありがたい提案だと受け入れた。


 こちらの女性は、あの太陽王の弟子であると言われているらしい。

 その話が急遽出てきたのは、ここに来るまでの間での会話だった。

 どことなく似ていて、それに間違いなく軍略に長けている。

 レックスは、彼女の目に宿る力が、フュンと似たようなものだと感じている。


 「わかりました。お願いします」

 「はい。じゃあ。こちらの編成は、デルとジル。ヘンリー。そして影のシゲノリ君にライドウ。あとは帝都に潜んだ影にします。これらをあなたの軍の後方軍にして、厳しそうになったら随時投入する援軍とします。私がレックス将軍の背後を支えます」

 「はい」


 スラスラとこちらに物おじせずに指示を通せる。

 この人物。只物じゃないとレックスは若干たじろぐ。

 なにせ、軍会議でもレックスに意見を堂々と言える人物など、少ないからだ。

 ましてや初対面に近いのに、この堂々とした態度は、流石はアーリア王が育てたとされる人物だと、レックスは感心もしていた。

 

 「ではこちらはどのようにして・・・」


 レオナが聞いてきた。


 「私は、ロビンに直接会いに行った方が良いと思います」

 「ロビンにですか」

 「はい。皇子、皇女。皆をあそこに集結させて、最後の決戦を皆さんで・・・なぁ。ジュード。お前だって決着を着けたいだろ」

 

 レックスの言葉で、ジュードが深く頷く。


 「おう。当然だ。あの兄貴の顔面に一発お見舞いしたい! これだけは任せろ。それに兄弟で決着を着けねえとな」


 大事な部分を、他人まかせにしてはいけない。

 レオナが王となるべきなのだから、レオナが直接戦わないといけないのだ。

 それに自分も戦いたい。

 レックスを苦しめた兄貴に一発くらい殴っておかないと気が済まないのだ。

 

 「じゃあ、おれっちたちが、あの城の中に? 兵士がうじゃうじゃいるのに?」

 「いや、いないと思う」


 センシーノが答えた。


 「え? そうなの??」

 「ああ。レックス将軍が、その為にそこで戦うんだ・・・」

 「そうです。センシーノ皇子の言う通りです。私がそこで出来るだけ粘っていきます。そこを突破することも重要ですが、基本路線は足止めですね」


 レックスが答えると、レオナが全てを理解した。


 「なるほど。そういう意図でしたか。レックス将軍と別れる理由は、私の道の為・・・ですか?」

 「そうです。王道をお進みください。私たちの王は、あなたです。レオナ・ブライルドル様」


 あなたしかいないのです。

 レックスは跪いて、レオナに忠誠を誓った。


 「・・・レックス将軍・・・私で、いいのですか。こんな力のない人間でも」


 帝都を奪われて、次期皇帝の座も奪われて、皆に助けられているだけの存在の私。

 そんな人物に、あなたのような強くて立派な大将軍が頭を下げるなんて。

 あなたを得る資格がないと思っているレオナは、緊張しながら聞いた。

 

 「はい。皇帝があなたでなければ、この世界からオスロ帝国が消えます。それに、あなたじゃない人が皇帝になるのなら、私は仕えません・・・ジュードもあなたになら仕えるはずです」


 レオナは俺に任せろと胸を叩いているジュードを見た。

 自分には頼もしい兄。妹。弟がいる。

 一人一人に感謝して、彼女は先ヘ進む。


 「ああ。レオナ。自信持て。俺たちが支えてやる」

 「・・兄上・・・将軍・・・」


 二人が微笑んでくれたことで、レオナはほっと安心した。


 「さあ、ご命令を」

 「レオナ。ビシっと行け。ビシっと!」

 「・・・はい」


 支えてもらったレオナは、全員の顔を見た。

 

 「みなさん、ここを最後の戦いにしましょう。アーリア王とアーリアの方たち。それと私たちの兵が一生懸命外で戦ってくれています。それに合わせて、私たちも一生懸命ここで戦いましょう。共に、帝都城を目指しましょう!」

 「「「「おおおおおおお」」」」

 


 オスロ平原の戦いとは別のもう一つの戦い。 

 帝都決戦が始まろうとしていた。

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