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人質から始まった凡庸で優しい王子の英雄譚  作者: 咲良喜玖
最終章 最終決戦 オスロ平原の戦い 帝都決戦

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第366話 オスロ平原の戦い 混沌が成功した理由の大部分

 中央軍の大激突。

 入り乱れる戦場を目の前にしても、慌てない人物がいた。

 それがゲインだった。

 

 敵の唐突な攻撃から、自軍の右翼部隊の混乱を見ても、動かずにジッと待っていた。


 「ゲイン様。どのようにしますか」

 「あのままウォルフでいいだろう。あそこで負ける事はないと思う。しかし、負けるとしても時間が掛かる」


 ウォルフが負ける確率は10%以下と試算。

 ゲインは敵を倒す方法を思考していた。


 「ならば、少しでも奴の勝率を上げる。又は、こちら全体が勝つ方法は・・・・あれだな。よし。動く。指令を出す」

 「はっ」


 思いついた策は、実に手堅い良きものだった。



 ◇


 相手の動きが変わった。

 これをいち早く察知したのが、ネアルだ。

 フュンの補助を任されているので、全体を支える役割を担ってくれていた。

 全体の半分が敵陣に突っ込んでしまった現在。

 その半分は後方の位置となった。

 ネアルの指揮は、中央部隊の背後と、自分の右翼部隊を守る動きで、ここを重点的に守っていく事になり、もし突破されると、フュンが率いた軍が再び大包囲状態に入ってしまう。

 だから、そのケアをネアルがしてくれていたのだが、敵がそこに気付いた。

 敵兵たちの突進が始まり、圧力が上がって防御陣が押され始めた。


 「ん!? まずいか。私が直接指揮を・・・」


 ネアルは自分が左寄りに移動して、フュンの中央軍全体を見守る位置に行こうとしたが、一瞬で気付く。

 

 目の前の軍を止めるという役割もまた重要。

 自分がこの位置から抜けてしまうと、右寄りの人間たちはこのバランスを維持できるのかという問題だ。

 ここがネックだ。

 相手をいなしつつ、程よい反撃をする。

 このバランスでこちら側は戦わないといけないのだが、そんな指揮を取れる人間がこの中央軍ではもういない。

 デュランダル。アイス。シャーロットの方面も押し引きが始まっていて、こちらに戻る事が出来ない。


 だから、フュンか、ネアルか。

 

 この二人だけがその絶妙なバランスを保つことが出来ると、ネアル自身が思っていた。


 「くっ。悩むな。ここが負ければ、全体が負ける。ただ、あそこが負ければ、フュン殿とゼファー殿を失う・・・判断するにも重いな」


 しかしここで、その危険性をいち早く察知した人物が、本営から出てきた。


 「ネアル様!?」

 「なんだ?」

 

 ネアルは慌てている兵士の顔を見るために振り返る。


 「奥方様とご子息が・・・・・こちらに来ています」

 「は???」


 危険だから下がれと命令していたのに、なぜかここで前へと上がってきた。


 「父上」

 「な。ダンテ!?」


 本当に来ている。ありえん!

 自分の息子のせいで、立ち眩みが起こる。

 戦いでは頭が痛くなることがないのに、息子の行動のせいで頭が痛くなった。

 

 「私にあそこを任せてくれませんか」

 「ん? あそこ」

 「あの入り乱れる戦場。その蓋をしている部分です」

 「なに!? お前・・・あそこの役割を分かるのか?」

 「当然です」


 戦場には役割がある。

 防御。攻撃。

 これにはバランスもある。

 常に防御では勝てない。常に攻撃でも勝てない。

 大事なのはそのバランスなのだが、そのバランスの見極めが難しい。

 そこに気付ける人物は、アーリアでも指で数えられるくらいの人間しかいない。


 というのに、10歳にも満たない我が子は・・・。


 「まさか。お前は本当に、フュン殿が言ったように・・・天才なのか」


 我が子はあり得ないくらいの天才かもしれない。

 自分が子供の頃を思い返しても、これほどの戦術眼は持っていなかっただろう。

 幾度の戦いで得た力だと思っている。

 だから、まだ本格的な戦いをしていないダンテにその力が備わっていることが、恐ろしい。

 正直な話。

 驚きよりも恐ろしさが勝った。


 「私に任せてください。父上はここでバランスを取らないと指示を出せません」

 「ん?」

 「私では、この中央地で、バランスを維持するのが難しい。なぜなら、ここは各方面に指示を出さねばなりません。命令系統のトップは父上じゃなければ、上手く回らない」

 「・・・」

 「でもあそこの局所であれば、私が指揮をしても大丈夫。それにその為に母上も連れて参りましたので、母上の指揮であそこを動かします」

 「・・・お前、そこまで・・・」


 子供の言葉が通るとは思えないから、ブルーから指示を出すつもり。

 ネアルは息子の計算が正しい事を知る。


 「あそこはお任せを。私が必ず安定させます」

 「わかった。ただ危なくなったら、引け。軍の維持の方が大切になる。フュン殿ならば、危険になると分かれば脱出するだろうからな」

 「わかっています。王の知略の大部分は、頭の中に入れております」


 フュンの考えは知っている。

 戦いの記録や今までの動きを見ているし、しかも直接会って話もしているので、大体の計算は自分にも出来るとダンテは自信に溢れていた。


 「よし。行って来い。ブルーを臨時で、将に格上げ。今回の兵士の位から上げて、私の副官の立ち位置であそこを指揮しろ。こちらのネアル部隊にも通達だ」


 ブルーの役職的には、後方支援の長の役割でこちらに来たわけだが、ここで格上げ。

 ネアルの副官に戻ったことで、混沌入り口の防衛の将となる。

 歴史の記録では、ブルーが戦ったとされる。

 でも事実は、とある方の証言で残っているのだ。

 


 ◇


 入り乱れる戦場が近い。

 ゼファー・フュン部隊とネアル部隊の繋ぎ目にダンテが到着した。


 「母上」

 「何でしょう」

 「今から話すことを伝えてください」

 「わ、わかりました」

 

 自分の息子がこちらを一切見ないで、戦場だけを見つめる。

 恐怖心や意気込みがないのが、これまた恐ろしい。

 この若さで、淡々と冷静に、ただただ戦場を見ているのだ。


 「左。あそこの裏に部隊を一つ。それで厚みを出します。それと、こちら側の右の部隊を入れ替えます。あの人の小部隊。動きが防御だ。これではいけない。こちらは押し込まねば、あちらがただ押されるだけとなります」


 引いているだけでは守り一辺倒になる。

 攻撃もして、初めて全体のバランスが取れる。

 時折甘くて、ピリリと辛い。絶妙なさじ加減での戦闘が必要だ。


 「母上。お願いします。それで次を見たい」

 「わ。わかりました」


 ブルーが慌てて、指示を出した。

 兵士たちが移動し始めて、戦いが行われると、安定化し始める。


 「お・・おお。これは」


 ブルーもその動きが分かり始めると、益々自分の息子の才が恐ろしく感じる。


 「まだです。これではただ安定しただけ。それだけではこの戦は勝てない」

 「え?」

 

 ダンテの目には次が見えている。

 彼は、現状維持が目的じゃなかった。 

 

 「こちらの予備の二つを左の裏に回して、アーリア王の混沌の為に入り込んだ部隊のすぐ後ろを掠るように円を描ぐ。それで相手を抉ってください」

 「え? ダンテ。あなた。あの戦場にも手を出すと言うのですか?」

 「はい。そうです。今の手で、脱出路とこちら。双方の戦況を有利に持っていきます」

 「こちらとそちらもですか?」


 二つの戦場のバランスを取る事をしてほしくて、フュンはネアルに背後を任せた。

 それをネアルが了承して、現状の維持は出来た。

 しかし、ここで想定外が起きる。

 それが、ダンテ・ビンジャーの存在だった。

 彼がこの混沌の強化を行ったのだ。

 中央から左の戦場にフュンが飛び出た事で生まれた歪な形での戦い。

 下手をすれば、反対側の中央から右のネアルの戦場は厳しいものになるはずで、兵士たち一人一人の負担は多大なものとなるはずだった。

 だが、今ここにダンテが入ったことで、二つの戦場が安定していく。


 『驚異の子』ダンテ・ビンジャー。


 大賢者ファルコと共に、二代国王を支える双璧。

 アーリアの大将軍となる男は、初陣であるはずの戦場で、大活躍したのだ。

 フュンとネアル。

 二人の英雄をこの時点で支える事が出来た。

 次世代屈指の最強将軍である。

 

 「戦いはこれからです。ここで、勝機を作る。勝ちにいくための道を作るんです」


 敗北ルートとなったはずのゼファーの突撃の失敗。

 それをひっくり返すために一か八かの賭けに出たのがフュンだ。

 運が絡んだ行動に見えているのは周りの人間だけであって、この男ダンテにとっては、最大の勝機だと、フュンと同じように思っている。

 最大の危機にこそ、最大の勝機が生まれやすい。

 肌感覚で、その戦場の勘の部分を理解していた。

 この時からすでにダンテは、知勇兼備の将だった。

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