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人質から始まった凡庸で優しい王子の英雄譚  作者: 咲良喜玖
最終章 最終決戦 オスロ平原の戦い 帝都決戦

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第363話 オスロ平原の戦い ゼファー対ウォルフ

 囲われたゼファーたちは、相手の包囲を破るために更なる前進を目指す。

 彼らの猛烈な勢いは先程スマルを破った時を超えていた。

 鬼が目覚めた。

 そんな印象を周りが持つ。


 「リョウ。我について来い。敵正面を突き破る」

 「はい」


 今の包囲状態では、相手の陣が分厚い。

 でも、最初の三列までを一気に叩けた。

 ここにはゼファーを止めるような敵がいない!

 のはここまでだった。

 四。五と進んでいく内に、十列目にとある男がやって来た。


 「ん!?」

 「勇ましいな。面白いぞ。貴様! 俺様に勝てる器か。ちょっくら見てやるか」


 肩慣らしにはちょうどいい。

 ウォルフが出撃していたのだ。


 「誰だ」


 会話の続きもなしにウォルフの攻撃が炸裂する。

 攻撃より先に大剣の風圧を感じる。

 ザイオンが持っていたような巨大な剣を振り回してきた。


 「む!? だから貴様は誰だ!」


 ゼファーも負けじと槍で対抗。重たい一撃を正面で受けずに、剣の軌道をずらすために槍の穂先を滑らせる。


 「ほう。器用だな。見かけによらず」


 ウォルフが敵を褒める。

 これは珍しい事だった。

 味方も褒めない男なので、なおさらだった。


 「誰だ貴様! 我の邪魔をするな」

 「ここは戦場。当然するだろうに。何を言っている・・・それに貴様のような奴をここで殺せば、戦場はこちらが支配するだろうからな」

 

 ゼファーのような猛将を潰せば、勢いは消えるだろう。

 スマルと引き換えならば、安いものだ。

 人の価値をそのように評価したのが、ウォルフとゲインだった。

 最初からスマルがいらないから、この戦術を取った。

 五千の兵と引き換えに、相手を誘寄せて消す。

 それも主力級をだ。


 「そこをどけ! 見知らぬ者よ」


 動き出したゼファーに、ウォルフが答える。


 「刻一刻と貴様らは消えるぞ。包囲は完成している。貴様の勢いが無くなれば、この軍は消えるだけだ」


 先頭を駆けるゼファーが立ち往生の形になったことで、前への推進力が消えて、敵の左右の攻撃に対応できなくなっていた。

 現に、ゼファーの部隊が徐々に消えていた。


 「我が貴様を斬れば問題なし! 我が倒せば問題なしだ」

 「そうか。ならやってみろ」

 「はぁあああああ」


 今度はゼファーからの攻撃が始まった。

 槍で乱れ突き。

 最速の振りの速さと最高点の力を持って相手を圧倒・・・。

 したかと思ったが、ウォルフがその大剣を巧みに操って防ぐ。


 「貴様・・・我の攻撃を」

 「この程度か。貴様は。俺様の足元にも及ばないか」


 余裕のウォルフは、攻撃に転じる。


 「これでどうだ」

 

 自分の左腰から、大剣を斜め上に切り上げる形。

 受け流すには難しい攻撃だったので、ゼファーは槍をぶつけた。

 鍔迫り合い。

 これが始まると思い、槍に力を更に込めたが、体が宙に浮いた。


 「なに!? 我を持ち・・・」

 「ぬるいわ。飛び散れ」

 

 槍を弾き飛ばして、大剣が右の脇腹が刺さる。

  

 『ビキっ』

 

 体を捻じっていたので、ゼファーのオランジュウォーカーがギリギリで刃を止めた。

 でも、体は吹き飛ぶ。


 「がはっ」

 

 吹き飛ばされた先で血を吐いた。


 「なんていう力だ・・・我ごと・・・このオランジュウォーカーが無ければ、死んでいたか」


 破壊された装備を見るに、今の攻撃が銃弾を越えている事が証明された。

 銃弾十発。それくらいは、余裕で弾き返せる防具が、たったの一撃で破壊される衝撃は、内心計り知れない。


 「ほう。その防具のおかげってことか」


 自分の攻撃を受け止める奴はいない。

 でもその防具が受け止めきったことに、驚いていた。

 防具如きに止められるとは微塵にも思っていなかった。


 「自分よりも強い者と戦ったことがないようだな。脆いな。戦い方が・・・・」

 「ん? 我が。強いと思っていだと!?」

 「ああ。そうだ。格上相手の戦い方を知らんようだからな。しかし残念だったな。俺様の方が上だ。お前がもう少し格下らしい戦い方をすれば、俺と少しの間はまともに戦えるぞ」

 「我が、一番強いと・・・我が思っていると?」

 「そうだろ。戦い方が傲慢で。散漫だ。もう少し集中しろ」


 評価が低い。

 こいつの戦い方がなっちゃいない。

 自分の戦い方に固執したやり方だと、ウォルフは思っている。

 もう少し相手が嫌がる戦い方をすれば、まだマシに戦えるだろうにと、ウォルフは優位な立場から説明していた。


 「我は一番じゃない。そんな事。我は分かりきっている! 我よりも上なのは・・・」


 ゼファーの言葉を遮ってきた。


 「俺様だ。この世に強者と呼べる人間。それは俺様しか・・」


 いないと言おうとしたが、今度はゼファーが遮る。


 「姫だ! 我よりも強くなる人間。この世の超越者となるのは、姫だけだ。貴様じゃない。貴様など雑魚だ。彼女は日に日に最強へと近づいている」

  

 神となりし、強さを手に入れるのは、レベッカ・ウインド。

 太陽王の長子。

 剣姫レベッカ・ウインド以外にいない。

 鬼神ゼファーがそう力強く断言した。


 「誰だ・・・そんな奴知らん」

 「無知は恥ずかしいぞ貴様・・・ん? そうだ。名前は? そう言えば聞いていなかった」

 「ウォルフだ。貴様は?」

 「我はゼファー。主フュン・ロベルト・アーリアの従者だ」

 「ほう。従者? 将軍じゃないのか」

 「将軍でもある。だが、それに誇りがない」

 「・・・なぜだ。いい役職を持ってんじゃないか」

 「そんなものよりも殿下の従者であることが重要で、我にとっての名誉だ。殿下の従者は我しかいないからな」


 従者ゼファー・ヒューゼン。

 アーリア戦記での記録上、太陽王フュンの従者は、彼一人だけとなっている。

 他に雇う事をしなかった理由は、皆もわかりきっている。

 彼以外が従者になるのは、ありえないからだ。

 フュンの伝説の始まりから、その終わりまで。

 最後の最後まで苦楽を共にした従者。

 それが忠臣中の忠臣と呼ばれたゼファー・ヒューゼン。

 絶対の主従関係は、彼らがまだ青年だった頃からだ。


 ゼファーを失えば、フュンは機能不全になる。

 失ってはいけないリストの最上位。

 シルヴィア。ゼファー。

 この二人だけは、フュンが失ってはいけない人物である。


 「俺様もさすがに、従者程度で満足するような奴には負けんな。がっかりだな。見込みは多少ありそうだったが・・」

 

 実力的にはまあまあ。

 しかし、志が低い。

 そんな男に負けるはずがないとウォルフは思う。

 せめて、将軍よりも上を目指すような男であれば、可能性があるのにと思っていた。

 

 「なめるな。我は貴様の評価が欲しくて、修練を積んできたわけじゃない。我は主。殿下の為に強くなりたいだけだ。殿下を守るためだけに、我は強くありたい・・・そのために、この世で最も強くあらねばならぬのなら、そうなってみせよう!」


 殿下の為。全部がその為だけの強さだ。

 ゼファーの闘志が、ふつふつと湧いてきた。

 馬鹿にされたくない部分を馬鹿にされたのだ。

 ここでは引けない。気持ちの問題となる。


 そこに仲間たちが加わった。


 「ゼファー。何で止まって。な!?」


 左からリアリス。


 「ゼファー、ん?」


 右からカゲロイが合流。

 足が止まっている要因に気付いた。

 目の前の敵の強さに言葉を飲んだ。


 「リアリス。カゲロイ。下がっていろ。我の戦いに巻き込まれたら、死ぬ」

 「でも」

 「ああ。やばいぞ。あれ」


 戦いをいくつも経験している二人だから分かる。

 相手の力が強い。

 もしかしたらゼファーよりもだ。


 「いいのだ。皆、任せろ。我が・・やるしかない」

 「みなさん! 耐えます。ここで戦います」


 タイムが、指示を出しながら、ここに入って来た。

 そばにはミシェルもいた。


 「ここを中心にします。リョウ。円陣形を作りますよ。私が前にいきます。あなたは後ろです。ですが、タイムもサポートしてくれます」

 「は、はい」

 「ゼファー」

 「なんだ。ミシェル」

 「勝ちなさい」

 「ふっ。当然だ。言われるまでもない」

 「じゃあ、勝ちなさい。私たちが舞台を作ります」


 包囲を受ける事を察知した二人は、閉じていく退路をあえて閉じさせた。

 無理に食い止めに入って、兵を損じるよりも、防御するために固まった方が良いと判断したのが指揮を担当する二人だった。


 「当然。我が勝つ。勝って、ここから脱出だ。いいな。みんな!」

 「「「おう」」」


 ウォーカー隊のメンバーが返事をすると、ゼファーが珍しくも笑った。

 仲間がいれば、強さは増す。

 思いの繋がった仲間がいれば、ここで負けるはずがない。

 

 「ふん。仲間か・・・要らん奴の手助けをもらって喜ぶようなガキだったか」

 

 正直がっかりだ。

 戦いは常に一人の責任。

 味方がそばにいても、戦いにおいては邪魔な存在。

 それがウォルフの考えだった。


 ゼファー対ウォルフの戦いは、包囲戦の中で続きが始まった。

 

 

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