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人質から始まった凡庸で優しい王子の英雄譚  作者: 咲良喜玖
最終章 最終決戦 オスロ平原の戦い 帝都決戦

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第362話 オスロ平原の戦い 囚われの半身

 三日目の途中。

 戦場を見て、ゲインが勝利を確信した。

 敵の行動が待ちに待った行為だった。

 彼は、どこかで反撃の機会を作りたいと思っていたので、ゼファー部隊の前進する事態を待っていた。

 ゲインの策は、積極的待ち姿勢であった。

 

 「あの男・・・フュンだったか。奴は引っ掛からないと思ったが。結局は単純だったというわけか・・・それとも、あのネアルとかいう将だけが、単独で優秀だっただけか」


 相対するフュンの陣形が左肩上がりになっていくにつれて、ゲインの心に余裕が生まれ始める。


 「俺様がやるか」


 隣にいたウォルフが立ち上がる。

 肩や首を鳴らして準備運動をして、敵を待つ。


 「お前がわざわざ?・・・まあ、それもいいか。肩慣らしにちょうどいいだろう。行って来い」

 「よし。この俺様自らが出よう。ウォルフ・バーベンが出る」


 ついに本陣最終兵器ウォルフ・バーベンが出撃した。



 ◇


 ゼファー部隊の突撃中。

 先頭のゼファーが、やや後方を走るリョウに話しかける。


 「リョウ。ついて来てるか」

 「はい。全体で前進をしています」

 「皆は?」

 「カゲロイ殿たちも横を補佐してくれて、前進を助けてくれてます」

 「わかった」


 全軍出撃。

 その行為に対してフュンの無線が繋がる。

 受け取るのは、後方部隊のミシェル。


 「下がりなさい! ミシェル。どういうことですか」

 「それが、私たちにも知らせが来ずで・・・とにかく勝機を見つけたので前進をしろとの事です」

 「馬鹿な。どこに勝機が?」

 「とりあえず弱い人物を見つけたから、そこを倒したら、抉り込めるはずだと」

 「あなたも? 進んでいますか」

 「もう少ししたら、本部隊ごと行こうかと」


 ミシェルは後方部隊を担当しているので、前が進んでいけたら、進める。


 「・・・・」


 フュンの言葉が無くなった。

 主が言葉を出さないので、ミシェルは彼が深く悩んでいる事が手に取るようにわかった。

 直接見ずとも彼のその姿を脳裏に浮かばせることが出来る。


 フュンとしては。

 前へ出るなとの自分の指令の維持か。

 ゼファーの判断を尊重するか。

 この二択での悩みだ。


 「・・・・ミシェル。あなたもいきたいですか」

 「はい。許可を出して頂けるのなら・・・」

 「わかりました。では、あなただけは、完全に突っ込まないで、後方で道を開ける状態にしてください。もしかしたら、敵の罠の可能性もあるので、気をつけて」

 「了解です」


 最終的にフュンは、二人の突撃を許可した。


 ◇


 二人を見送った後。

 フュンはサブロウを呼ぶ。


 「サブロウ」

 「ん? なんぞ」


 フュンの影から現れた。


 「怪しくないですか」

 「敵がかぞ?・・・んんん。この戦場じゃ、わかりにくいぞ」

 「・・・ですが、僕が考える手の中で、一番考えない手を相手が打ってきた。と仮定すると、嫌な予感がします」

 「どういうことかぞ」

 「僕は、作戦を立てる際。無数の作戦を作っています。皆さんに、お伝えする時には、一個に思うかもしれませんが、僕はたくさん悩んでから、指示を出しています」


 最低でも5個以上の選択を作る。

 フュンの作戦が途中でよく枝分かれになる理由は多くの作戦を打ちたてていたからだ。


 「その中で、自分は絶対に取らないですけど。とても嫌な作戦を考える事があります」

 「嫌な作戦かぞ?」

 「はい。相手がその作戦を取るかもしれないと考えて、僕も考える時があります。ただ、ネアル王。彼だけはその作戦を取らないと思っていたので、作戦からいつも除外していました。僕が戦ってきた人物は、実に素晴らしい人です。正々堂々と戦ってくれる。ネアル王は、本当に素晴らしい人なんですよ」


 正々堂々。

 真正面から崩す。

 それがイーナミアの英雄ネアル・ビンジャーだ。

 だから、ネアルだけは、自分が常に予想している嫌な作戦を取らない。


 「そう。僕がいつも除外している作戦。それは、皆さんを囮にすることです。この世に弱い人間なんていない。力は使いどころによって大活躍する。と言うのが僕の信条ですからね。あえて敵の前に晒して油断を誘うなんて作戦。僕には出来ない」


 つまり、目の前の相手の性格を掴んでいないフュンは、最悪を想定して作戦を考えていた。

 敵の部隊の前線に、わざと弱い将を置いているのではないか。

 あそこが穴場だと見せているのではないか。

 と言う事だ。


 「もしかしたら・・・・罠。その取っ掛かりがあるとされる人物・・・それの消滅を視野に入れた・・・味方小部隊全滅からの、敵部隊全滅作戦かもしれません」


 フュンの隣で黙って話を聞いていたシルヴィアが出てきた。


 「なるほど。その部隊の全滅が確実なのが、わざだという事ですか」

 「はい。そうです。ゼファーの勘を信じますが・・・ここが怖い所だ。この戦争を左右する戦いでしょうね」


 ゼファーと彼の軍が全滅したら、この戦争の敗北は濃厚。

 だから彼の戦いを注視していた。


 ◇


 「やはり。スノルだ!」


 部隊に一撃を入れた瞬間に手ごたえなく。

 楽に敵が倒していける。

 その弱さから言っても、敵将がスマルだとの証明がされていた。

 ゼファーの一撃から、敵将の位置までいくのに、五分と掛からずだった。

 そこからいっても、一気に五千の兵を撃破している。

 抉り込みはゼファー部隊二万が圧力で押し込んで切り開いた。


 状況は完全優位。

 敵をそこから圧迫させることが出来ると、ゼファーやリョウ。

 その二人のそばで突撃の補助をしていたカゲロイやリアリスも思っていた。

 

 だが、ここで部隊の中央にいる人物と後方にいる人物は気付く。

 簡易無線で、音声の悪い中で、タイムはミシェルを呼んだ。


 「何かがおかしい・・・ミシェル! 聞こえますか」

 「はい。タイム。なんでしょうか」

 「後ろは閉じてますか?」

 「いいえ。道は確保しています」

 「これは・・・包囲が始まるのかもしれない」

 「なんですって? ここから包囲ですか?」

 「はい。変です。この軍の周り。これの様子が変わっているんです!?」


 タイムは戦場に出た際に重要視していることがある。

 それが、人の顔を見ている事だ。

 表情も見ているが、主に見ているのは視線。

 相手が本来戦いたい場所。相手が狙っている場所。

 色々な要因で視線は動く。

 だからタイムは、敵の顔をよく見ている。


 スマルの兵士たちの視線は別にどうでもよかった。

 慌てふためいているだけで、右往左往している目を見ても参考にならず、だが、そのスマルの部隊の周りの兵士たちの落ち着きようが異常だった。


 「これは・・・まさか。ミシェル。引きましょう。準備をします」

 「なぜ。やはり危ないと」

 「これは包囲だ。この部隊の消滅を視野に入れた。大包囲を仕掛ける気・・」

 「ぐああああああ」


 ミシェルの無線から、誰かの声が聞こえた。


 「え!? ミシェル! どうしましたか」

 「・・・た・・・タイム・・・・ひけ・・・な」


 ザーザー音でミシェルの声が聞こえない。

 振り返ったタイムは、敵部隊が背後に回っているのに気付く。

 

 「これはまずい。やはり包囲。前線に指示を。しかし余裕のない前は・・・」


 無線を持っていない。

 迅速な連絡を取る手段が、信号弾か光信号だけとなる。

 文字を出す暇がないので、今回は信号弾。

 緊急の色は青。

 タイムは信号弾を出した。


 「気付いてほしい。せめてリョウだけでもいいので・・」


 後ろを気にしないゼファーが気付くことはないだろう。

 でもその隣にいるリョウだったら・・・。

 タイムは願いを込めて信号弾を放っていたのだ。



 ◇


 タイムの予想通り。

 戦場を駆けるゼファーは、前しか見ておらずに、あっという間にスマルの元に行き、あっという間に倒していた。

 槍に刺さるスマルを見て、敵将を討ち取ったとしたが、以前のリグルスの時とは違い。

 亡くなったスマルを放置して、もう一度戦場を駆けようとすると、異変に気付く。


 「蓋か!?」


 スマル部隊じゃない軍が周りに迫っていた。


 「隊長」

 「リョウ?」

 「後ろから信号弾が・・・」

 「ん?」


 ゼファーが振り返ると青い煙が空に向かって伸びていた。


 「退却・・・しかしな。無理だな」


 後ろも蓋がある。

 と言う事はこれは包囲だ。

 これほどの包囲は、ネアル王との戦い以来だと、ゼファーは微笑んだ。


 「そうか。この男が囮・・・こんな策に引っ掛かるとは・・・」


 今までの相手が正々堂々過ぎた。

 だから、今回もそういう戦場だろうと思ってしまったのが、この包囲のあり様となる。

 ゼファーは戒めを胸に刻み、勇ましい指示を出す。


 「裏抜けする」

 「え?」

 「ここから、一気に前に進み。裏を抜けるぞ。リョウ。我らで穴を開けるために、カゲロイ。リアリスをこちらに。全力で前進だ!」

 「わ。わかりました」


 包囲が完成しつつあるので、本来なら左右に置いたリアリスとカゲロイは、そのままの配置がいい。

 円陣形に変化して、防御をした方がいいからだ。

 でもゼファーは、包囲戦を円陣形で守る気がなかった。

 多少の犠牲を考慮した。

 縦への推進力で、相手の包囲をぶち破る方に戦術の重きを置いたのだ。


 「やる! 我はここで、逆に勝つ!」


 負けの戦場をひっくり返すための戦いが始まった。


 

 

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