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人質から始まった凡庸で優しい王子の英雄譚  作者: 咲良喜玖
最終章 最終決戦 オスロ平原の戦い 帝都決戦

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第359話 オスロ平原の戦い 初戦最大の山場へ

 フュンが率いるレオナ軍。

 ゲインが率いるロビン軍。

 戦記での名称は、革命軍と帝国軍となっているが、実際は帝国軍と反帝国軍である。

 ここの文献が多いために、名称が様々となっているのが現状だ。

 だから、ここではアーリア戦記最新版に則って、レオナ軍とロビン軍で話を続ける事にしよう。




 レオナ軍総大将フュン・メイダルフィア。

 ロビン軍総大将ゲイン・フーラー。


 両軍の本当の総大将はこの戦いにおらず。

 代理戦争の形を取っているのがこの戦争だ。

 経験豊富な二人の戦いは、初戦から大きく動くと思われたが、静かな立ち上がりへと変わる。


 レオナ軍中央は、無に近い凪。

 レオナ軍左翼は、水の波紋程度の静けさ。

 

 二つの立ち位置は、そういう激しさのない戦場になっていく。



 ◇


 しかし、レオナ軍右翼は、大混戦へ向かっていた。

 敵が猛烈な勢いで突進してきていた。


 「これは・・・三軍共に猛将か」


 本陣クリスは敵の動きを止めつつ、左右も確認した。

 勢いがあちらにある。

 慌てているという状態を脱して、完全に指揮された軍となり行動を起こしている。


 「強い。でもタイローさん、止められますかね?」

 「はい。中央は、私が出ましょう。クリス殿! よろしいかな」

 「タイローさんをここで前に出すのも、もったいない気がしますが・・・背に腹は代えられない。お願いします」


 中央で敵の動きを止める将は、副将のタイローのみ。

 クリスは戦えないし、そばにいるソロンも猛将と呼ばれるような将でもない。

 ここはタイローの武に頼るしかなかった。


 「ええ。おまかせを。いってきます」

 「はい。ご武運を」


 タイローが前線へと向かっている頃。



 ◇


 レオナ右翼軍の左翼将ランディの元にはすでに敵が来ていた。


 「バケモンか。お前!」


 ランディが見上げるくらいに敵の顔の位置が高い。

 敵は、2mを優に超える身長だった。


 「ふん。五月蠅い」

 

 返事の声が高い。

 身長の大きさと比較しても、高い声だった。


 「俺が戦うしかないか!」


 ウインド騎士団三番隊隊長のランディ。

 戦力として数えればアーリアの中でも上位の存在。

 しかし、そんな彼でも敵の一撃を止められない。

 巨大なこん棒はランディの攻撃を無効化にしながら、襲い掛かってくる。


 「ふざけ・・・なに!?」


 体が持ち上げられてから、遠くにまで吹き飛ぶ。


 「ランディさん」


 部下たちの心配そうな声に答える。


 「だ、大丈夫だ。皆も集中しろ」


 片手で剣を持っているから、敵の攻撃を捌けないと、ランディは思う。

 以前の負傷がいらない負傷であると感じた。


 「手・・・怪我してるのか」

 「ん? お前、会話が出来るタイプか」


 人間とは思えない体の大きさであるけど、相手を気遣ってきた。


 「じゃあ、つまらん・・・帰る」

 「ん!? 何を言って」


 どこにだ?

 ランディが思った瞬間。敵の話には続きがあった。


 「怪我した奴・・・倒してもつまらん」

 「な! なめんなよ。大男野郎! 俺と戦え」


 ランディが叫んだあと、隣にリエスタが現れた。

 面白そうな敵を発見したから部隊を離れて移動してきた。


 「ランディ」

 「ん? おお。リティか」

 「こいつは女だぞ。失礼だ。謝っておけ」

 「なに!? 女!?」


 こんなデカい女がいるのか。

 ランディは唖然としていた。


 「ランディ。私の部隊も頼む。指揮の方に行ってくれ。その手じゃ、これに勝てんだろ」


 敵とリエスタとの身長差は、ランディよりも当然ある。

 見上げているリエスタは敵の強さを認識した。


 「お前・・・名は」

 「私はリエスタ・ターク。ウインド騎士団二番隊隊長だ」

 「オレ・・・ミオリコ・シニエスだ。カスターニャ隊の副長だ」

 「カスターニャ?」


 誰だそいつは。

 リエスタは首を傾げた。


 「この軍の隊長だ」

 「そうか。教えてくれるとは、正々堂々としているな。貴様!」

 「当然・・・真正面から戦いたい」

 「いいだろう。私との一騎打ちでいいか!」

 「・・・うん」


 リエスタと見つめ合うミオリコは、相手の動きをまだ見ていないのに彼女の強さを見抜いた。

 彼女の中で轟音が鳴っているように感じている。

 円雷のリティだと言う事を肌で感じているらしい。


 「ランディ。私と奴の戦い。周りの兵士に邪魔をさせるな。指揮を頼む。いいか!」

 「了解。暴れ姫」

 「もう姫じゃないわ!」

 「まだまだ姫だろ。その暴れぶりじゃあさ」


 リエスタに落ち着きが多少出てきたとはいえ、まだまだ暴れ足りないのだ。


 「よし。勝負だ。ミオ!」

 「うん・・・やる!」


 二人の女性。大小サイズの違う一騎打ちは、激戦となる。



 ◇


 ここで初戦であるのに、最大の山場を迎えていた戦場があった。

 それが、レオナ右翼軍の右翼部隊サナの場所であった。

 中央突破を許してしまい、抉り込まれたしまった場所で、サナが膝をつき、援護に入ったシュガも押しに押されていた。


 「サナ殿。下がってほしいです」

 「シュガ! 駄目だ。ここは二人で・・・マルクス。お前に指揮を・・・」

 

 二人の後ろに控えているのがマルクス。

 全体のカバーに入っていた。


 「その判断は駄目だ。お前ら待て。兵で囲うから耐えてくれ」


 敵の強さが違う。

 マルクスでも肌で感じる強さの違いだった。


 『おかしい。フュンさんが睨んでいた士気低下。それが起きていたはずだが、あの男の周りの兵が強いぞ』


 兵を指揮している敵将の強さが尋常じゃない。

 それに、士気低下の軍とは思えない動きだった。


 「その程度か。何だ弱いな。正直期待外れだぞお前たち」

 

 敵の将が、シュガの二刀流を難なく捌いて、シュガの右肩を切った。

 

 「ぐあっ。何だこの男・・・まるで・・・」


 ゼファーのように強い武人がいる。

 シュガもサナも、敵将に強い男がいる事に困惑していた。

 銃がメインなはず、なのに獲物での攻撃を主体する男の名は・・。


 「誰だ。お前の情報を知らん」

 

 サナが言うと。


 「俺も、お前らの情報を知らん。敵の大将くらいだな。知ってんのはよ」

 「じゃあ、私と一緒だ」

 「そうか。おあいこか」


 知りたかったら、名乗れ。

 別に俺は知らんでもいい。

 相対する将が、そんな態度であった。


 「ああ、そういうことか。私はサナ・スターシャ! アーリア十三騎士の一人だ」

 

 敵の名を聞き出すために名乗りを上げる。

 堂々とした態度のサナは、立ち上がった。


 「俺は、カスターニャ将軍の配下のアルセロだ。サナ・スターシャ」

 「そうか。アルセロか」

 「しかし、弱いな・・・想像よりも遥かにな。この程度か」


 アルセロはシュガとサナを見て言った。


 「んだと。なめんなよ。アーリアの将をよ」

 「その精一杯の強がりで、今後も戦うのか・・・それじゃあ、勝てないぞ。こちらにはカスターニャ将軍がいるからな。お前ら程度では、彼女の攻撃を三分も耐えられんだろう」

 「余裕だ!」

 「ふん。甘いな。とりあえず死ぬか。お前」


 アルセロが消えたと錯覚するくらいに速い移動を披露した。

 正面にいた男が消えて、見失う。

 

 「なに!? ど、どこに・・・消え」

 「サナ殿。左です」

 「なに!?」


 シュガの声が聞こえて、左を向くと、アルセロのレイピアが自分に向かっていた。


 「ちくしょ。まにあわ」


 間に合わないから、あえて切らせる。

 サナは、敵のレイピアに左肩の肉を切らせた。

 差し出す度胸にアルセロが驚く。


 「ん!? お前・・・やるな」


 俺の剣技を見て、受け止める思考をした。

 アルセロは、サナのぶっとんだ考えに感心していた。

 

 「覚悟」

 「!?」


 驚きの中のほんの僅かな隙。

 そこを逃さないシュガは、アルセロの背後から攻撃を仕掛けた。


 「二人がかりか。賢いな」


 レイピアで斧の二刀流を受け流す。その剣技は華麗である。

 捌き方が上手くないと大事故間違いなしだからだ。


 「なに。私の一撃を受け止めるでもなく、流すだと?!」


 片手斧の微妙にずらした二連撃。

 身を翻しながらアルセロが、レイピアで軌道を変えて躱す。


 「惜しかったな。背後から斬ったつもりだったのにな」


 シュガの目的はもう一つあった。

 サナとの間に入って、彼女を守る態勢に入った。


 「サナ殿。ここは退却ですよ」

 「ああ。私らの王の指示だしな」

 「ええ」

 

 二人の会話直後、アルセロが挑発してきた。


 「挑発してきたくせにそんな簡単に逃げるのか」

 「挑発だと?」


 何のことかさっぱりわからん。サナは首を傾げた。


 「フュンとか言ったか。お前たちの大将。あれが言って来たじゃないか。自分たちが正当な軍だと。俺たちが反乱軍だとよ。そういう挑発をしてきただろうが」

 「「・・・ん?」」


 サナもシュガも疑問に思ったので、ふと考えた。


 それで、二人とも同じことを思った。

 あれは、フュンにしたらただの言い回しの違いが出ている普通の会話程度の事だ。

 あの程度が挑発になるのだとしたら、フュンのお喋りの全てが挑発になるぞ。

 本気で馬鹿にしている時の話し方を二人が知っているので、あれが挑発だと思っていない。

 もっと辛辣で、もっと小馬鹿にしたような言い回しをするんだ。


 まだあの程度だったら、誰でも口で勝てる機会がある。

 彼が、本気になったら、師であるミランダを連れてこないと勝てないのだから!


 「あの野郎。妄言ばかりの優男じゃないか。あんなので王様とは笑わてくれるよな。だから、俺たちに笑いを提供してくれたんだよな」


 小馬鹿にしてきているサナの血管が切れそうだった。


 「まあ、だから、お前らアーリア人もたかが知れているわ。そんな奴らに俺が負けるわけがない。カスターニャ将軍にもゲイン様にも・・・ウォルフ様の元にすらも辿りつか・・・」


 言葉の途中で、剣の煌めきが見えた。

 紙一重で躱した。


 「あぶな・・・なんだ急に速く?」

 「ぶっ潰す!」

 「は?」

 「シュガ!」

 「はい!」

 「殿はわたしがやる。シュガは退却時の指揮を頼む。こいつは私が斬る」


 サナ・スターシャ。

 彼女が、父と同じように輝く星となる戦いが始まった。

 

 

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