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人質から始まった凡庸で優しい王子の英雄譚  作者: 咲良喜玖
最終章 最終決戦 オスロ平原の戦い 帝都決戦

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第358話 オスロ平原の戦い 違和感

 別戦場を望遠鏡で確認したフュンは唸っていた。


 「んんん。動きが良いな。士気は悪くても指揮が良い。左右の動きが良くなった」


 遠くの左右の動きが良くなっている。

 クリスとギルバーンの指揮が安定しているから、こちらの軍が慌てていることはないが、それでも敵を削りきれなくなった。


 「一万が限界か・・・思った以上に削れない」


 フュンの考えとして、ここは、最初に両翼軍で敵兵数差を縮めようとしていた。

 三万以上の兵数差を、せめて一万未満にしたかった。

 そうすれば今後の戦いで、優位な状態を保てるからだ。


 「フュン。これはこれで、十分な成果では?」

 「ええ。初撃では十分。なんですけどね。これでは足りない気がしますね」

 「そうですか。あれで・・・」

 

 シルヴィアの考えだと、一万も削りきったので十分な戦果である。

 敵の足止めに加えて、こちら側の防御が完璧だったら、それでいいのではないかとの考えも間違いじゃない。


 「さて、左右に指示を出したい。シルヴィア。僕の代わりにクリスとギルに指示を。そのままの攻撃イメージで良いです。ただし無理をするな。深追いはするなと言っておいてください」

 「ん? 私でいいんですか」

 「はい。僕はあれを見ておかないと・・・これは、難しい戦場ですね。今までで、一番難しいかもしれません」


 中央軍同士はまだ激突していない。

 フュンの軍も、ゲインの軍も落ち着きを持って戦場にいたからだ。


 「鏡だ」

 「鏡??」

 「ゲイン。彼はもしや・・・」

 「なにかあると?」

 「・・・僕と同じタイプかもしれません」


 同系統の決戦。

 フュンは自分と似たような人物と戦ったことがない。


 「あの戦い方・・・これは僕が思う。僕と戦う時の布陣・・・無だ。何もしないのが一番良い手・・・」


 何も考えていないような配置。

 ただの普通の横陣であるが、要所の人材に光るものがある。

 連動して動かすことに長けた軍が目の前の軍だ。

 だから一つ疑問がある。


 「でもあそこ・・・あそこはなぜ動きが弱いんだ? 変ですね。この軍の規律性に合わない」

 

 一つの部隊に光るものじゃなくて弱い部分がある。

 そこが気になったがそれだけで思考を止めるのはいけない。

 

 この後、フュンはゆっくり前進をしろと指示を出した。



 ◇


 同時期にて。

 目の前の軍の左側の部隊が弱い事にネアルも気付く。

 フュン同様の考えに至る辺り、流石宿敵だった。


 「あれは・・・」

 「どうしましたか。ネアル様」

 「ブルー。お前はあそこに気付くか」 


 ネアルが敵の弱点と呼ぶべき場所を指差す。


 「・・なるほど。動きが弱いという事ですか」

 「ああ。行くべきか。行かざるべきかで悩むところだな」

 

 ネアルの判断は、フュンと同じ。

 敵の動きが極端に悪い場所だからこそ、罠の可能性を示唆している。

 

 「父上」

 「なんだ・・・ってなに!? なぜ、ダンテがここに? 裏に待機させていたではないか」

 「それはいいです。先程のお話の続きですが」

 

 父親の疑問に答えずに、ダンテが冷静に話す。

 ここにいる事の許可を得ずに、ここに来ていた。

 大胆不敵な彼は、目の前の戦局も勝手に見極めていた。


 「あれの動きがおかしいのは罠じゃないです。ですが、行くべきではないと思います」

 「ん? 罠じゃないのにか」

 「そうですよ」

 「なぜだ?」

 「それは敵だって、多少銃を使えるのです。なのに、ここではまだ使っていません」

 「ん?」


 自分の考えとは違う意見が息子から飛び出た。

 ダンテの言葉は貴重だとネアルが思った。


 「あの優秀なアーリア王が練った作戦がありましたよね。銃系統の武器破壊です」

 「うむ。やったな。爆発の煙もあった」


 前回の事を二人が思い出した。


 「はい。それで有利になったと言えるのです。しかしです。相手が所持している銃までは破壊出来ないはずです。破壊当時。兵士の半分以上が銃を携帯していたと思うので、武器として活用できるくらいの数は多少あります・・・なのに、ここまで一発も使用していない。ということは・・・」


 ダンテの計算に、ネアルが気付く。


 「そうか・・・要所で使うのだな」

 「はい。おそらく、圧倒的に立場が優位になった際のトドメの一撃。または勝機を生み出すための一撃に使ってくる手筈かと。敵の大将は、まるでアーリア王のような思考をしている。勝ちに急がず、負けない戦場を作り出すのが上手い。今ある状況で最善の手を打ってくるタイプです。ということは・・・」


 ダンテの考えが正しい気がする。

 ネアルも同じことを思っていた。


 「つまりダンテ。敵は、どこかで勝機を見いだせばいいだけだと考えているのか?」 

 「そうです。圧倒的な攻撃を以てして、相手を押し込むのでしょう。敵は博打も打てる人間なはずです」

 「・・・くっ。ハハハハ。たしかに彼と似たような戦術。堅実な運びのようにして攻勢に出る強さもある。これなら、再び彼と対戦できるようなものか・・・しかし、燃えんな。なぜだ。彼と似ている人間と戦っているのに、なぜか心が燃えんぞ」


 フュン・メイダルフィアと戦う時というのは、自分の中のモヤモヤした鬱憤が晴れていた印象がある。

 ネアルにとって、清々しい気分になれるのは、彼と相対している時だけだった。

 うざったい貴族間のやり取りの憂さ晴らしに戦場に出ているようなものだった。

 そんな自分が、再び同じような相手と相対しているのに、まだモヤモヤした感情が残っている。


 「つまり、本当の敵は、アーリア王に似ていても、どこかが違うということか」

 「その疑問は、私には分かりませんね」


 ダンテはアーリア王のライバルの頃の父じゃなく、家臣になった後の子であるから、ネアルの考えを理解出来なかった。

 この微妙な違いに唯一気付けた人物が、ネアル・ビンジャーだったのだ。

 彼は戦いの最中にその違いに気付いておくべきだった。



 ◇


 ギルバーンの左翼軍。

 二人は左翼全体を見た。


 「動きが止まったな」 

 「ええ」

 「メイファ。どう考える。お前なら・・・」

 「どうせ私と一緒でしょ。聞いても無駄になるわよ」

 「・・・いや、聞いておきたい。頭の中を整理するにも、お前の意見を聞こう」

 「わかったわ」


 夫婦そろって戦う時だけは意見が一致する。

 日常生活では喧嘩ばかりだが、ここだけは仲が良い。

 自分の頭を整理するために、ギルバーンは妻の意見を聞いた。


 「いるわね」

 「やはりか」


 第一声で何が言いたいのか分かる。

 二人はまったく同じことを考えていた。


 「ええ、要所に良い将がいるわ」

 「特に敵左翼だな」

 「そう。たぶん、中央軍との連携を図っている。あれが連動するための鍵になっていると思うわ」

 「やはりな・・・俺と同じ意見だ」

 「でしょ」


 メイファのしなやかな手が、ギルバーンの肩に乗る。


 「ああ。そうだ。つうことはだ。あれだけはフュン様の元に行かせてはならん。中央の邪魔はさせん!」

 「ええ、そういう事よ。私たちの役目は勝つことじゃない」

 「その通りだ。足止めだな」

 「ええ。おそらく、今のフュン様の策が上手くいっていない。あと少し削りたかったでしょうからね」

 「それも同じ意見だわ。あと一万。最低でも削りたいと思っていただろうな」


 主の作戦が失敗に終わったとは言えないが、それに近い状態であると二人は判断していた。


 「メイファ。次をどうする」

 「あなたと同じよ。聞いても無駄よ」

 「ふっ。イルとマイマイを上げるんだな」


 喧嘩もするが、戦の相性が良い。

 考えの全てが一致する夫婦だった。


 「そう。様子見で戦わせる。イルならば、マイマイを制御しながら無茶をしないはずだから」

 「わかった。指示を出そう」

 

 二人の指示が前線に入った。



 ◇


 「イルミネス殿!」

 「ん?」


 後ろから来た部下のために、イルミネスは体を向ける。


 「ライス閣下から指示が」

 「ライス殿が? なんでしょう」

 「敵の将を見て来てほしいと」

 「なるほど。わかりました。ギルの指示ですね」


 本部の指示だと即座に理解したイルミネスはマイマイを呼び出して、突撃部隊を編成した。


 「マイマイ」

 「なんです。イルさん」

 「私が抉り込みますので、あなたは雑兵の方を頼みます。敵の将の顔を見て、様子を探る時間を作ってください」

 「了解です!」


 お供にマイマイを連れて出撃した。


 ◇


 イルミネスの動きは、敵の左翼を斬りさく一撃。

 深い位置までは難しいが、敵将が前目にいたので、ばったりと出くわすことが出来た。


 「あなたが、こちらの将ですか?」


 見た目に反して、堅い攻防をする。

 ド派手な衣装を身に纏った男がいた。

 襟が頭を越えている。

 

 「なんだ? 俺の陣まで来るとは、中々な強さだ」


 格好に比べて口調は穏やか。

 不思議な印象の男性だ。


 「私はイルミネス・ルート。あなたは?」

 「俺は、サイード・トスナルだ。イルミネス。なぜこちらに来た。狩場になるぞ」

 「そのようで・・・しかし、こちらも簡単には終わりません」


 敵の動きが見事。

 こちらの強襲攻撃に対して、すぐさま反撃体勢を整えた。

 完璧な布陣で迎え撃つ態勢に変わっていた。


 「どうだかな。俺の陣形に勝てるとは思えんが・・・え、なに!?」


 囲い込みが完成する寸前で、一か所に穴が開く。

 イルミネスが不敵に笑い答えていく。

 

 「マイマイの武までは、計算できていないですね。こちらを甘く見てもらっては困りますよ」

 「使える将はお前だけじゃない・・・そういう事か」


 サイードは、目の前にいる男の余裕さに納得した。


 「しかし、お前も甘い。ここが勝負所なのさ」

 「ん?」


 サイードの後方にいた兵士たちが、銃を構えていた。

 

 「ここでですか。上手いですね」


 使いどころとして間違いじゃない。

 イルミネスは淡々とオランジュウォーカーを配備した部隊を展開した。

 自分と周りに数十の兵士で、相手の銃弾を受け止めるつもりだ。

 敵の声に。


 「放て!」


 イルミネスが対抗。


 「受け止めろ。ここで屈してはならない」


 敵の乱れ撃ちの中で、イルミネスは前にいる将を見る。


 『動きが良いのは分かる。ただ、この全体を左右するような天才的な将には思えない。あの動きは、別な場所からの指示か・・・ここの左翼大将の指示か?』


 敵中央を見るとバランスが更に整っている。

 しかもこちら側の左翼陣を崩した箇所も修復し始めていた。


 『なんと。やはり、この将の指示じゃない。意図的にこの将が強く見えるように指揮されているのか』


 イルミネスはサイードの力を認めてはいるものの、更に奥に強い将がいる事を感じた。

 なので。


 「マイマイ!」

 「はい!」

 「確認が取れたので下がります。見ました!」

 「イルさん、了解であります」


 二人の連携からの撤退。

 その瞬間、サイードの指示が出る。


 「逃がすな。外から射撃して、奴らの足を止めろ」

 「はい!」


 射撃と逃走。

 ギルバーン軍の右翼は、敵との相性最悪の戦場に入ったが、二人が器用な事もあり、上手く切り抜ける。

 兵の損傷少なく、安全圏まで撤退が完了した。


 「・・・これは、長引くでしょうね」

 「イルさん?」

 

 マイマイは、イルミネスの表情が曇っていることに気付いていた。

 戦いは激しさを増しながら、厳しさも増す。

 その雰囲気を彼が感じ取ったのだ。



 

 

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