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人質から始まった凡庸で優しい王子の英雄譚  作者: 咲良喜玖
最終章 最終決戦 オスロ平原の戦い 帝都決戦

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第357話 オスロ平原の戦い 始まり

 「陛下」

 「どうした。シュルツ」

 「そろそろ始まるそうです」

 「そうか。ようやく来たのか・・・フュン殿が言っていた日が」


 馬車で移動中の二人は、向かい合って会話をする。


 「それにしても、彼は何を考えているのか・・・あの録音機での会話くらいで戦いが決するのか? 彼は切り札になるとか言っていたが。よくわからんな。フュン殿は、余の子供たちにでもあの話を聞かさせるつもりなのか?」

 「ええ、それはですね・・・・」

 「わかるのか」


 シュルツの考えは、フュンとほぼ同じ考えである。


 「はい。あれはたぶん兵士たちに聞かせるのですよ。敵対してくる軍に向かって、大音量で流すんです。そうされることが、一番嫌ですからね。ゲインも驚くでしょう」


 ゲイン・フーラーとはいくつも年が離れているのに、シュルツは、まるで格下のような言い方をした。


 「軍・・・ああ、なるほどな。ゲインやロビン。その側近に聞かせるのではなく、軍にか・・・なるほどな。それは嫌だな。それはな・・・」


 皇帝も理解した。

 兵士の心を折りに行くやり方は、えげつない作戦と言える。

 フュンの事前の予定では、帝都内の武器破壊は行うとしていたので、ゲインたちが銃に限りがある中で戦うという事だ。

 そこに士気の低下は厳しいものだ。

 銃があれば多少士気が悪くとも、遠距離からじっくり敵の様子を窺えるから、まだ戦えるはずだ。

 でもそれが、封じられれば、フュンの作戦が刺さりに刺さりまくるだろう。

 全体を近接状態にしてしまえば、立つ土俵として有利なのは間違いなくフュンたちだ。

 ジャックスは、フュンの優しい笑顔に隠れた裏の部分に恐ろしさを感じている。


 「うむ・・・恐ろしい考えだな。フュン殿はな。彼は一体、何処まで見えているのやら」

 「未来まで。遠くまで。そんな感じに思えますね。彼の動き方は、人を越えているかもしれません」

 「うむ」

 

 シュルツが窓を見る。この日は晴れ。

 青天であった。


 「今日は太陽が見える日か・・・」


 シュルツは思い出したかのように話す。


 「陛下。太陽暦について、知っている事はありますか」

 「ん? 暦についてか。あれは、我らの祖がルヴァンに降り立った時に作ったと」

 「ええ。そうなんですが、ここに話が一つ加わります」


 ジャックスも知らない話を、何故かシュルツが知っていた。


 「我々は、母なる太陽。エーテルの意思を受け取った。命を繋げ。この大地で生きていこう。そして、生き抜いた先で、いずれはかの地を目指すのだ・・・と、一般の書物にも書かれていますよね」


 シュルツは陛下じゃなく太陽を見ていた。


 「しかし、私の家にある宝物庫。あそこの書物にはこうも書かれています。太陽暦は、希望の始まりから、変化を意味していると。神からのお告げがあった時に、暦が出来上がったと言われています」

 「ほう。ミューズスター家にそんなものが」

 「はい。しかしその話は大昔の話です。その時はエーテルロー家と呼ばれていました」

 「なるほど。ミューズスターは別名だったのか」

 「はい。そこで、私の仮説です。この世界、太陽が関係しているようです」

 「太陽?」


 人知れずシュルツは世界の謎に迫っていた。

 誰も気にしない部分の究明をしたかったのが、シュルツと言う異端児である。


 「ワルベント大陸に現れた太陽の人。人と人を繋ぐ不思議な力を持つ人。太陽の技を会得した人でもある。これは特殊な力です。才能がある者が、その人を信じると使えるようになる力なんて不思議にも程があります」

 「まあな。フュン殿とその家臣団たちの事だな」

 「そうです。ですので、私は、ここでまず最初の仮説があります」

 「うむ。それはなんだ?」


 息子が珍しく話してくれるので、ジャックスは聞き役に徹していた。


 「私たちにも、その力が扱えるのですよ。ワルベント人に限らないはずです」

 「おお。なるほどな。たしかに。一部の地域だけとは限らないな。今はアーリア人が扱えているのだものな。元はワルベントであるからな」

 「ええ・・・だから私の仮説は、人類の始まり。この世界の出発点に、何らかの力が組み込まれている。そう思っています」

 「ほう。その予想から言うと、人類誕生の時か・・・」

 「そうです。その謎。そこを解明したいと、私は思っているのですが・・・これがまた」


 シュルツは、それが難しいと眉間にしわが寄った。


 「難しいか?」

 「はい」

 「そうか。書物にも無しか。見当もつかんか」

 「いいえ。そうではない」

 「なに。わかるのか」

 「はい。ここも予測ですが、私は、その最初を、調べる事が出来る場所を知っています。皆もそこを知っています」

 「皆も?」


 ジャックスが首を傾げた。


 「そうです。私は、世界の中心に謎が眠っていると思います」

 「な!!? あの到達できない場所か。大陸があるとされる?」

 「はい。あそこだったら、謎がわかるはず。でも、今の私たちの技術では、足を踏み入れられない。海からもいけませんし。空もでしょう・・・」


 艦隊でも難しい。おそらく潜水艦でも難しい。

 フュンが考えている空を飛ぶものでもだ。


 「そうか。だからお前が難しい顔をしたのか」

 「はい。しかし、世界の中心には何かがある。私はそこを調べたいので、世界の国々が協力することを願っています・・・だから私は、フュン殿に協力をしているというのが、この動きの本音の半分を占めています」


 自分たちの謎の部分を知りたい。

 そのためだけに、フュンに協力していると言っても過言じゃない。

 人の世に興味が無いシュルツは、自分たちの過去に興味があった。


 「そうか。お前もあの計画を知っているのか」

 「はい。世界に一時の平和を・・・この考えに私は大賛成です。余計な事をせずに、私たちは独自の技術力を上げ続け・・・いずれは、世界の中心に行く。これが実現可能なのが、フュン殿の計画ですからね」

 「そうか・・・ならば、なんとしてでも。この内戦を終わらせねばな」

 「はい。そうですね」


 二人は帝都がある方角を見て、未来を見据えた。


 

 ◇



 突撃してくる敵を見て、フュンは計画通りだと頷いた。

 隣にいるシルヴィアが話しかけてくる。


 「フュン。あなたの予定通りなのですね」

 「ええ。そうですよ」

 「操りましたね。いつもの通りですよね」

 「操った?」

 「あなた。あの人たちの気持ちを操ったのでしょ」

 「それは人聞きの悪い。僕は正直にお伝えしたのです。あなたたちが反乱軍ですよとね」


 その言い方はもう・・・人聞きが悪いどころか、人が悪いでしょ。

 シルヴィアは苦笑いをしていた。


 「いいですか。シルヴィア。人は、人の気持ちを大切にしないといけません。仲間とする人たちの事ならね。なおさら気をつけねば。共に戦う人は大切です。仲間の気持ちをスッキリさせて、自分の仕事をしてもらわないといけません。それが上に立つ人の一番の仕事です」


 自分の仕事は、人にスッキリした気持ちで働いてもらう事。

 それが一番やらねばならない事だと、フュンは王としても個人としても自覚している。

 

 「僕らの兵士の顔を見てください。こっちが、帝国軍だと、ハッキリしたので、顔色が良くなりましたよ」


 一人一人の表情が明るい。

 それは、こちらが帝国軍だという想いになったから。

 今まで、レオナを信じてはいたが、心のどこかでは、自分たちが帝都を本拠に置いてない軍だから、不安だった。

 しかし、今は皇帝の声とフュンの声で、自分たちに正当性が生まれた事で、迷いが消えたのだ。


 だから・・・。


 「ここが勝負です」


 フュンは、全軍に聞こえるように、声を拡大した。


 「帝国軍に告ぐ! 目の前の反乱軍を止めよ。正面から来るので、最初は銃弾の嵐だ!」


 全軍防御陣形になって、突撃をしてくる敵兵士に、銃撃をする。

 しかし、この銃弾。

 こちらにも限りがある。

 フュンが、無理をして帝都にある銃弾を爆破したのは、こちら側も弾数が保持できなかったからだ。

 でもここでほぼ使い切る勢いで使用する。

 フュンは、一番最初に敵の勢いを削ぐ気だった。


 

 敵に目掛けて、全軍が攻撃を仕掛ける。

 乱れ撃ちで、敵の前進と気勢を挫くのだ。


 ◇


 「あの銃弾数。ありすぎだ・・・これは」

 

 ゲインが本陣で敵の流れを見極める。


 「指令を出せ。全軍、その場で耐えよだ。耐えたら銃撃は止むに決まっている。あれを一時間以上撃たれてたまるか。そんなには、弾数を用意できんはずだ!」


 フュンの考えを読み取り、防御に徹した。

 良い判断だが、これしか出来ない判断でもある。

 現に、士気の低下しているこちらは、兵をゴリゴリに削られているのだ。

 特に左右。

 これは帝国の各地にいた兵士たちで、寄せ集めなので、フュンの言葉で気持ちが揺らいでいた。

 真ん中の六万の軍は、ゲインとウォルフの軍なので、士気低下は見られない。

 兵士たちに信じられている二人だからだ。


 「まずいな。先程の言葉で、気持ちを折られたか・・・これでは数の有利がない戦場になってしまった。このままだと、完全に相手が有利になる」


 ゲインは、左右の数の違いが戦場の勝敗を分けると思っていた。

 こちらが多いので、圧力で押せば勝てるだろうとの予測をしていた。

 なのに、ここで大負けとなれば・・・。


 「このままだといけないな。仕方ない。出したくはなかったが、奴らを出すか。イハラム。カスターニャ。双方を前面に出す。ウォルフに伝えよ。二人を左右の表に出せと」

 「はい」


 ゲインの指示は、総大将としても的確だった。

 彼は全体も見る事が出来る将軍だった。

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