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人質から始まった凡庸で優しい王子の英雄譚  作者: 咲良喜玖
最終章 帰って来た男の大戦略

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第354話 豪華な編成

 アーリア歴7年12月20日

 アルストラ戦役から。

 ここまでの展開は、怒涛の展開だった。

 フュンとその仲間たちは、ルヴァン大陸を次々と掌握していく。

 残すところは、帝都だけとなる。

 



 集まった幹部ら全員で、帝都の外から、帝都城を見ている。


 「殿下。よくご無事で」

 「ええ、ゼファーもね。結構難しい戦場だったと思いますが、よく耐えてくれました」

 「はい」 

 

 フュンがゼファーの肩を軽く叩いた。よくやったと褒めていた。


 「アーリア王」

 「おお。ビンジャー卿。お久しぶりですね」

 「ええ、よくぞ。無事でいてくれました。嬉しいですよ」

 「はい。当然。僕の敵があなたじゃないですもん」

 

 もし敵にイーナミアの英雄がいるのなら、これほど上手くいくとは思えない。

 この最大の賛辞に。


 「それはそうですぞ。そうでなくてはいけません。あなたを苦しめる敵とは、この私でなければね。ハハハ」


 ネアルは最高の笑顔で返事をした。 


 「はい。そうですよ。だから助かってますね。ビンジャー卿が仲間になってくれたおかげでね・・・あ。それに、おおそうだ。そうだ。ダンテ君!」


 フュンは、ネアルのそばにいたダンテを左腕だけで持ち上げて抱っこした。

 ダンテがまだ幼いから出来る事だった。


 「お久しぶりですね。大きくなりましたね」

 「はい。でもまだまだです」

 「いえいえ、良い顔になりましたね。何かきっかけがあったのかな。成長しましたね」

 「はい」

 「うんうん」


 少ない返事でもフュンは満足していた。

 ダンテが感情表現をするタイプではない事を知っているためである。


 「ん?」


 フュンの真下にはジュナンがいた。

 右足にピッタリくっついていた。


 「おお。ジュナンさん。お久しぶりですね」

 「はい!・・・はい・・・」


 一回目は明るい顔で強く、二回目は暗い顔で弱く返事をした。


 「あ。そう来ましたか。じゃあ、ほら。どうぞ」


 フュンはすぐに察して、右手を広げた。


 「はい!」


 明るい顔になったジュナンは、フュンの右腕にすっぽり包み込まれて、持ち上げられた。

 彼女は昔のようにフュンに抱っこされたかったのだ。


 「ジュナンさん。あなたも立派になりましたね。成長しましたか」

 「はい! フュン様」

 「ええ。明るくて良いですね。アイネさんそっくりだ。あはは」


 異国に来てもこの明るさ。

 フュンは頼もしいジュナンに微笑んだ。 

 若い頃のアイネのようで、彼女の逞しさも受け継がれていた。

 彼女の屈託のない笑顔を思い出して、ジュナンに重なっていく。


 二人を片手ずつで抱っこしながらフュンは、仲間たちとの会話を展開する。

 

 「ではね。ここから、帝都攻略戦争をしますよ。僕の作戦は・・・」

 「あの」

 「ん? なんでしょう」


 左に収まっているダンテが聞いてきた。

 フュンは顔を見るために左を向く。


 「王。城攻めだと、攻め手を欠くのではないでしょうか?」

 「おお。ダンテ君! なぜそう思いました?」

 「はい。敵の抵抗。これが帝都に近づくたびに減少していました」

 「ん? 南側の戦い。それを見ていたのですか?」

 「はい。父上の戦いを遠目で見ていました」

 「あらま」


 戦場を把握して分かった事。

 抵抗が緩い気がする。

 ダンテは鋭い観察眼を持っていて、しかも・・・。


 「ここから予測なのですが、敵は兵士よりも将の保持。これを目指したのかもしれません」


 的確な予測をするのである。


 「おお。なるほどね」

 

 軍才に優れている。百年に一人は大袈裟じゃない。

 フュンは自分の目が正しいと思った。


 「はい。敵の油断も誘える上に、強い兵を保持できるでしょう。将たちの近衛兵。それはとても強いはずですから、確保優先なんでしょう」

 「いいですね。君の考えは鋭い。うんうん」

 「そうですか?」

 「意見を持つことも大切ですが、発言することも大切です。好きな事をもっと言っていいですよ。発言すると更に頭が回転します。新たな発想を得るかもしれません。これを覚えておいてください。一人で考えるよりも、皆で考える。これを忘れないで。いいですね。ダンテ君」

 「はい。承知しました。アーリア王」


 人の子でも褒める。人の子でも指導する。

 それがフュンなのだ。王になろうとも変わらない部分である。


 「そうなんです。ダンテ君の予測が正しい。僕もそう思います。ここには、最大の敵がいますからね。こちらをここで倒すための駆け引きをしているのだと思います」

 

 フュンもダンテと同じ予測をしていた。


 「僕らは合計するとどのくらいの規模になりましたかね」

 

 フュンは、レオナに聞いた。

 

 「はい。合計すると20万です」

 「うん。そのくらいか・・・じゃあ、相手は8万くらいは多いかな」

 「「「え!?」」」


 オスロ帝国が保有する兵数と、数が合わない。

 相手の軍量が想像以上に多いのだ。


 「多すぎでは?」


 レオナが聞いた。


 「いえ。おそらく、フーラー家とボリス家が集めた私兵がいます。それも強い。ウォルフが鍛えた兵ですね。それがやたらと強いはずだ」


 予備兵のように、今まで使って来なかった兵がいるはず。

 でもそれが主力部隊になっているのだ。


 「それが6万いると思います」

 「6万もか。難しいですね」


 ジュードが言った。


 「はい。なので、これを僕とゼファーとネアル王で抑え込みますね」


 フュンの中に眠る戦いの血が騒いでいた。

 ビンジャー卿じゃなくて、昔のようについついネアル王と呼んでいる。


 「我とネアル殿が?」

 「私もですか」

 

 二人が驚いて聞いた。


 「はい。ここは僕とゼファーとネアル王が中央軍に入って、敵の主力と戦います。僕の予想では、左翼11万。右翼11万。中央6万。これで敵が布陣します。おそらく自分が鍛え上げた兵士らを中心に置くでしょうね。彼の性格上・・・」

 「ほう。自信があるのですな。そいつは」

 「アーリア王との戦いか・・・ズルいな。そいつは許せんな」


 ネアルの考えは別にあった。

 彼と戦える相手がズルい。その思考はネアルにしかない。


 「いいですか。布陣はこうします。左翼7万ギルバーン。右翼7万クリス。中央6万僕とビンジャー卿。これで最終決戦を戦います」

 「父上、その二人。今はここにいませんよ?」

 

 レベッカが疑問形で聞いた。


 「はい。でももうすぐきます。すでに呼んでもらってましたからね。あちらも落ち着いているのでね。全員きます」


 フュンの指示の元に、仲間たちが集まる。

 最終決戦なのだ。

 出し惜しみはしないつもりでいる。


 「待ってください。アーリア王。私たちは? 私たちの戦いをあなた様にお任せするのは・・・」


 忍びない。

 レオナは最後の言葉が出なかった。

 でもそれを察しているフュンが言葉を返す。


 「レオナ姫。あなたたちは、別な場所で戦ってほしい」

 「え? ど、どこででしょうか・・・」

 「あれです!」


 フュンが指差したのは、遠くに見える帝都スティブールにある城だ。

 あそこへの潜入を決めろと言う事だった。


 「あそこに行ってもらい、ロビン皇子と決着をお願いします。あそこは次世代の決戦場。こちらが、僕らの世代の決戦場だ」


 過去との決着は自分が。

 未来を築くのは君たちが。

 フュンは場所を分けた。


 「しかしですよ。アーリア王。敵って出てくるのでしょうか? 帝都に籠るのでは?」

 「いいえ。こちらの帝都西側の平原で勝負でしょう。籠れないように僕が仕向けます」

 「え?」

 「僕は水攻めをします。それと銃を破壊します。保管庫を爆破しますね。ライドウたちはその仕掛けをしたはずです。ねえ、シゲ」

 「はい。その通りです」


 シゲノリが、出現して返事をすると。


 「シゲ。いたのかぞ」

 「サブロウさん。お久しぶりです」

 「ほらな。俺の言った通り仕事してるだろ。サブロウ」

 「マサムネさん。お久しぶりです」


 二人に丁寧にあいさつをするのがシゲノリと言う律儀な男なのだ。


 「おいら。シゲの影が見えんのぞ・・・凄いぞな」

 「ああそうだな。俺にも見えん。ははは」


 サブロウとマサムネでも、シゲノリの影が見えないのだ。

 今はフュンだけが見えている。

 それはフュンと共にここまで行動をしてきたから、フュンがシゲノリに慣れたのだ。


 「その会話のついでじゃないですけど」


 フュンが話に入った。


 「サブロウ。あなたは僕とゼファーとビンジャー卿の中央の影になってください」

 「わかったぞ」

 「ギルには、ショーン。ショーンはいますか」

 「おら、いるよ」

 「ショーン、ギルに入ってください」

 「了解」

 「マサムネさんはクリスにお願いします」

 「おう。まかせろ」

 「はい。おまかせします」


 フュンは、編成指示を出し続けた。


 「最後の戦い。布陣はこうします。図にもしますので、この地図を見てくださいね」


 皆に見せるために、帝都西の平原。

 オスロ平原の拡大図を出した。


 「こうです」


 フュンは、ダンテとジュナンの二人を降ろした後、書き記す。


 

 オスロ平原の戦いの軍編成。


 『左翼』

 左翼軍の大将ギルバーン。

 その補佐となる副将メイファ

 二人が中央を担当。


 左翼の将エレンラージ。副将ルカ。ルイルイ。

 右翼の将ライス。副将イルミネス。マイマイ。

 


 『右翼』

 右翼軍の大将クリス。

 その補佐となる副将タイロー。

 二人が中央を担当。


 左翼の将ランディ。副将リエスタ。ジーヴァ。

 右翼の将サナ。副将マルクス。シュガ



 『中央』

 総大将フュン。


 中央は、左右の二軍編成。

 左が、大将ゼファー。

 そこに、タイム。リアリス。カゲロイ。ミシェル。

 フュン世代のウォーカー隊たち。


 右に、大将ネアル。

 そこに、シャーロット。デュランダル。アイス。

 英雄のとっておきの人物たちを配置することで、ネアルの指揮を補強する。


 

 「この布陣でいきますよ。いいですね」

 「「「はい」」」 


 フュンの周りにいた幹部たちは全員了承したのに。


 「駄目です」


 声が後ろから聞こえた。


 「え? な!?」


 フュンの想定外が起きていた。



 ◇


 「母!?」


 レベッカが最初に驚いて、立ち上がる。


 「まったく、面白そうな事を私抜きで! いけませんよフュン」

 「どうして、ここにシルヴィアが?」

 「それはもちろん。この二人について来ました」


 シルヴィアの後ろから二人がついて来る。

 

 「フュン様。申し訳ない。俺たちがいながら・・」

 「無理でありました。私とギルがいながら、シルヴィア様を止められませんでした」


 ギルバーンとクリスが、すみませんと謝ってきた。


 シルヴィアがこちらに来る事が出来た理由は、至ってシンプル。

 それは、本格的な停戦交渉に入るため、ワルベント大陸を訪問していたからだった。

 疑似的というか。口約束のような形で、アーリア大陸との協力関係していたのがフュンとジェシカとウーゴだったので、ここはちゃんとした停戦を結んだ方が良いはずだと、シルヴィアが直々にワルベントで交渉をしていた所に、フュンの連絡が来たので、ギルバーンたちについて来たのだ。


 「あちゃあ・・・失敗ですね」

 「なにが失敗です。こら」

 「いててて」


 フュンはほっぺたをつねられた。


 「あなたばかりね。外にいてズルいので、私も出てきましたよ。それにこれから戦うのでしょ。それなら私が重要ですよね。これは、うんうん。そうだ。そうだ」


 とにかく御託を並べているが、シルヴィアはただ戦いだけである。


 「いいえ。あなたはいい加減戦うのをやめなさい。まったく、片腕になったのです。戦場の華も引退しなさい」


 フュンとの口論となる。

 夫婦喧嘩が始まる。


 「あら、私に指図が出来るの? あなたが自由に戦っているのに」

 「自由じゃありません。強制的に戦わされているだけだ。僕の立場もよく考えてくださいよ」


 正直、戦いたくないのに戦っている。

 気持ちがそれでもフュンは戦う。

 理由はただ一つ。みんなを守りたいからだ。


 「ええ、ですからそばにいますよ。総大将の隣にいてあげますから」


 シルヴィアが久々にフュンの隣に立つ。

 幸せそうな笑顔をされたら、フュンとしてもそこを咎める事は出来なかった。


 「しょうがない人ですね。あなたはまったくね・・・凝りませんからね」


 二大国英雄戦争以来の共闘。

 シルヴィア・ウインドの参戦であった。

 戦力としても最高戦力の彼女が、中央のフュンが率いる軍の副将となる。



 「では、編成しましたので、次に帝都に潜入する部隊は・・・」


 フュンはもう一つの戦場の編成もした。


 頂点にレオナ。

 ジュード。クラリス。センシーノ。ギャロルの皇族メンバーに加えて、レックスを置く。

 さらに、レベッカ。ダン。シゲノリ。ライドウ。ユーナリア。ジルバーン。デルトア。ヘンリーのアーリア組を組み込んだ。

 

 これにて、次世代の力を集結させたのだ。

 帝都を治めるべきなのは、未来ある若者たち。

 フュンは全てを託す意味で、そちらには若い者を送り出す。


 「ではね。あとはもう。準備することがないです・・・なので、いつでも行けるようにしましょう。いいですね」

 「「「はい」」」


 フュンは帝都での事件後が、始まりだと思っていた。

 

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