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人質から始まった凡庸で優しい王子の英雄譚  作者: 咲良喜玖
最終章 帰って来た男の大戦略
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第352話 君たちは反帝国軍じゃない。真の帝国軍だ

 「父。これからの計画はどうなってるんですか?」

 「ええ。そうですね。まだロビン皇子たちがどのような形を取りたいのかがね。よく分からない所なのですが、ここはそちらの事情に合わせずに、こちらから一斉に襲いかかりたいと思います・・・そのためにまず皆と連携を取りますよ」

 「皆とですか?」

 「はい。ここに特殊無線を持っていましてね。これが、ユーナとシゲノリ。ライドウが繋げてくれたものですね。いきますよ」


 フュンは無線を使用した。


 「ではでは、皆さん。どうなりましたか」

 「「「太陽王!?」」」「殿下」

 

 繋がった瞬間に、皆が驚いた。

 信じてはいたけど、声が聞けて生きてくれていると分かると、流石に安心もする。


 メイファ。ユーナ。ライドウ。ゼファー。

 この四人の声が聞こえたが、もう一人も繋がっていて、ネアルは黙って喜んでいた。


 「殿下・・・・まあ、殿下は無事ですよね」

 「ええ当然。ゼファーは驚いていないですね」

 「我こそ当り前です。殿下が死ぬなど考えられない。我の魂が、殿下が生きていると確信していましたぞ。それにもし殿下が死んでいたら我もこの世にいない!」


 自分の魂が死んでいない。つまり、殿下が生きているという事。

 とんでもない理論を言っているゼファーに対して、フュンは気にしていない。

 自分も同じようなものだからだ。

 ゼファーが死ねば、フュンの魂も死ぬ。

 だからお互い生存確認が出来る一心同体の主従である。


 「あらま、そうですね。それくらいの絆が僕らにはありますからね。離れていても一緒ですよ」

 「当然です。常におそばにいます!」


 満足そうなゼファーの声が聞こえた。


 「ではね。皆さん、ユーナの指示を聞いていましたか」

 「「「はい」」」

 「よろしい。では、勝ちましたね。メイファ!」


 フュンはそれぞれの状況を聞く。


 「はい。ギーロンの勝利は揺るがない。南を倒して、東も倒しましたので、完了しています」

 「いいでしょう。よくやりました。あなたに総大将を任せて良かったですよ」

 「はい。ありがとうございます。任せてもらえて・・・光栄でありました」

 「いえいえ。あなたなら出来ると思ってましたよ」

 

 メイファが、ギーロン王国の勝利を報告した。


 「それで次に、ゼファー。ルスバニアは?」

 「勝ちました。ネアル殿が来てくれたので、楽勝となっています」

 「ビンジャー卿は? いますか?」

 「はい。今は隣に」

 「ちょっといいですか」


 フュンはネアルを呼び出した。


 「どうしましたか。アーリア王」

 「ご家族で、こちらに来ましたか?」

 「ええ。もちろん。ダンテにも世界を経験させていますよ」

 「そうですか。どうです。彼は、楽しそうにしてくれていますか」

 「はい」

 「やっぱりね」

 「ん?」


 フュンはダンテの顔を思い出していた。


 「彼は色んな経験をした方がいい。ビンジャー卿」

 「なんでしょうか」

 「ダンテ君は、あなたを超える。その器を持っていますよ」

 「息子がですか」

 「はい。ダンテ君は、アーリアでも指折りの天才です。あなたも若い頃から才が突出していましたがね。ダンテ君は百年に一人の天才でしょうね」

 「な、なんと。ダンテがですか!?」


 そこまで言い切るのか。

 ネアルの声が、無線越しでも驚いている。


 「はい。僕の息子のアインは秀才型ですからね。本物の天才はファルコとダンテ君でしょうね」


 レベッカは、神に近しいので、例外に置いて、次世代で天才と言える人物は二人だ。

 ファルコとダンテ。

 この二人を真っ直ぐに育てないと、アーリアは危険であると、フュンは思っていた。

 こちら側の大切な仲間とせねば、間違っても王国の敵にしてはいけない。

 アインの仲間にして、アーリアの基礎を作る。

 才気溢れる人材を手放さない。


 そのためには、子供の時の教育が必要だ。

 ネアルとブルーの親の愛情に合わせて、自分も王としての愛情を彼にあげたい。

 フュンは、ダンテやファルコの父にもなろうと思っていたのだ。

 二人が恩を仇で返すような子じゃない事を知っているので、ここでしっかり教育すれば、裏切る事のない人物に成長してくれるはずなのだ。


 「皆で成長させましょう。僕も協力しますので、丁寧に色んな経験をさせてあげましょう」

 「援助、ありがとうございます。助かります」

 「なに、僕とあなたの間にね。そんな遠慮なんていりませんよ。殺し合った仲です。あははは」

 「・・・え・・・ええまあ」


 冗談なのかどうなのか。

 フュンのブラックジョークなのか。

 ネアルは反応に困った。


 「それでは、ゼファーとビンジャー卿も指定位置にいきましょう。いいですか」

 「「了解です」」

 

 フュンは次の指示を出した。


 「ライドウ。いますか」

 「はい、太陽王。こちらライドウです」

 「ええ。リュークさんは?」

 「無事です」

 「よろしい」

 「あの。太陽王。シゲは?」

 「うん。いますよ!」

 「太陽王の役に立っています?」

 「もちろんです。ちょっと待ってください。ほら、シゲですよ」


 フュンがシゲノリに渡した。

 開始早々怪訝そうな顔で、嫌々答える。

 

 「お前に言われたくない」

 「お。シゲ! 生きてたか」

 「当然だ。私の心配をするな。お前こそ危ない」

 「いきなり辛口かよ」

 「お前は、ドジな奴なんだ。皆さんの邪魔をしてないのか。マヌケでもあるからな」

 「なんだよ。久しぶりに話してんのに、親友にその態度かよ」


 シゲノリのつっけんどんな態度に不満なライドウである。


 「誰が親友だ」

 「え? 俺たち、親友だろ」

 「私に友はいない」

 「なんだよ。照れてんな。じゃあ、家族だろ!」

 「・・・はぁ」


 幼い頃から共に育っているけれど、シゲノリの中では、纏わりつかれている印象があり、友達の感覚がない。

 でも、家族のような感覚はあった。

 この想いを本人には黙っているけど、大切に思ってはいる。

 

 「ほらほら、ライドウにも優しくしなさいね」

 「フュン様・・・」


 自分を見ている顔が困っている。

 フュンはシゲノリが照れていると思っていた。


 「シゲ。これをもらいますね」

 「はい」


 フュンが無線機をもらった。


 「ライドウ。心配しないで。シゲノリもちゃんとあなたを大切に思っていますよ」

 「そうですか。やっぱり!」

 「ええ。もちろん。君も家族ですからね。ではライドウ。脱出計画を発動してください。そうですね。リュークさんを連れ出す準備をして、他の影とも連携をしてください。そして残りの影は例の配置へ」

 「了解です」


 そして、フュンが最後の指示を出した。


 「ユーナ」

 「はい」

 「全体は?」

 「ワルベントは完全終了。安定化に向けての話し合いがすでに始まっています」

 「わかりました。次は」


 ワルベント大陸の内乱が終わり、ウーゴとジェシカの話し合いが始まっている。

 領土分割と、同盟関係の強化。

 これらにより明るい未来が待っている。


 「ギーロン王国方面の進撃は、ハザンから東へ進み。ジャンバルドまでを制圧して、連携。ハザン南からも出撃して、帝都スティブールの西までを制圧した方が効率がいいでしょう」

 「うん。僕と一緒です。それで?」


 フュンとユーナリアはこの直前で少しやりとりをしていて、彼女は全体把握に努めていた。


 「ルスバニアは、このまま北上していきます。ただ、ゼファー様とネアル様。この両者で、一気に帝都まで進軍しましょう。制圧して、治安維持をセブネス殿下とライス将軍の部下の方に任せます」

 「うん。わかりました」


 ユーナリアの報告は、電光石火の進軍計画である。


 「イスカルは、船での支援をしていますので、ピンポイントの輸送と、帝国側がもしも海を使用してくるのなら、ヴァン将軍とライス将軍が二手に分かれますので、ルヴァン西の海と東の海。これを、ライス艦隊と、ヴァン艦隊で完全制圧します」

 「いいですよ。いい感じです」

 

 フュンのこの会話は、ユーナリアを成長させる目的もあった。


 「それで、そちらの王様の進軍場所だけを決めておりません。どうしたらいいでしょうか」

 「はい。それはいいです。僕が指揮を取りますので、この軍は一気に帝都に向かいます。真の皇帝を誕生させる戦いをしていきます。なので、皆はですね。一カ月で帝都に来てください。皆さん、よろしいですか」


 フュンが全体に声を掛けた。


 「「「了解です」」」


 力強い返事が来るとフュンが笑顔になる。


 「よろしい。みなさん、また会いましょう。今度は帝都です」

 「「「はっ」」」


 無線を切ったフュンは、今いる仲間たちに顔を向ける。


 「では、兵士の皆さんに挨拶をしたい。ここから一気にいくので、士気が高くないといけないのでね。僕がやりましょう。レオナ姫よろしいでしょうか」

 「は、はい。わかりました。兵士に召集をかけます」


 フュンは展開を早めたのであった。


 ◇


 革命軍全兵士を集めて、フュンが前に立つ。


 「僕がですね。アーリア王です。みなさん、よろしくおねがいします」

 『ガヤガヤガヤ』


 今の状況を飲み込めない。

 兵士たちが信じられないと騒ぎだす。

 目の前にいる人物が、帝都の噂だと死んだとされる人物だからだ。

 もしかして『幽霊なのか?』と思う。

 勘違いする人も中にはいた。


 「では、皆さんにお伝えしたい事があります。あなたたちは、真の皇帝の軍。いわば、帝国軍です」


 兵士らがキョトンとした。何を言っているんだと・・・。


 「あなたたちは、今の国の事情を丁寧に説明されたとしても、あんまりよくわかっていないでしょう。仕方ないんですよ。ここにいる大半の人たちが、国を守るためにビクストン地域にいた兵士さんたちでしたから。一生懸命国の為に戦った人ですからね。事情を知らないのは仕方ない」


 内部の情報を詳しく知るはずがない。

 大陸末端の地域にいて、懸命に国を守るために戦っているのだから。

 何も恥じる事はない。

 話の始まりは、優しいものだった。


 「こちら側の事情がよく分からずに戦っていたと思いますよ。レオナ姫が選挙で勝ちを得た。これを信じてここまで進んできたでしょう」


 気持ち的に、曖昧な状態で戦っていたのが、レオナの兵士たち。

 そこがよろしくない。

 戦いに迷いが付き物でも、戦いをする理由に迷いがあってはいけない。

 だからフュンは、彼らに目的を与える気なのだ。


 「みなさん、いいですか。整理をします。今、帝都にいる皇帝代理を名乗るロビンは、あらぬ罪をレオナ姫に着せて、正統性を奪って、自分のものにしようとしています。それはご存じですよね。レオナ姫が皇帝暗殺の犯人だと言う事で、彼女の地位を落とし、自分の地位をあげる作戦を取ったのですね」


 フュンの言葉に兵士たちが首を縦に振る。

 その事情は知っていた。


 「それで、僕もレオナ姫に殺されたと聞かされていたでしょう?」

 

 これにも兵士らは頷いた。


 「しかし、僕は生きています。つまり、何が言いたいかと言うと、デマです。ロビンが言った事はデマ! 全てが嘘で、レオナ姫を陥れるための罠でした」


 フュンの声が大きくなった。


 「ということは、君たちは正しい判断をした! そういうことですよ。レオナ姫を支援する側に回った判断。そのすべてが正しいのです。だから、この先もレオナ姫と共に進む事。これが、帝国の未来となります。よろしいですか。みなさん。あなたたちが帝国軍です! あなたたちが未来を作るのです」


 わかりますか。

 あなたたちが真の帝国軍なのです。

 フュンは、正当な理由に基いて戦っているのは自分たちであると伝えたかった。

 相手の方に理由がなく、戦いを仕掛けてくる事自体が、そもそも不当であるのだとを説明した。


 それと、こちらの兵士たちの心を、中途半端にしてはいけない。

 ハッキリとした敵がロビンであり。

 その軍と戦っているのだから、大丈夫。

 あなたたちの方が帝国軍なのですと、兵士たちに思わせる気なのだ。

 そういう一人一人の気持ちの部分に寄り添うフュンの演説であった。


 「あなたたちが戦う理由は曖昧じゃない。レオナ姫を皇帝とするために戦う。これが最大の理由でいいんです。レオナ姫が、不当な処遇を受けたから戦う・・・違います。あちらが不当な理由で攻めてきたんです。レオナ姫が、我が身可愛さであなたたちを巻き込んだ・・・これも違います。彼女は、帝国の未来の為に立ち上がったのです」


 真の帝国軍は、フュンの言葉に吸い込まれていった。

 

 「つまり、あなたたちは、今まで!!! 帝国を取り戻すために戦っていたんですよ。今までも、そしてこれからも。あなたたちは正しい。お見事ですよ。みなさん! 素晴らしい判断だ!」

 

 フュンの応援のような言葉が、疲れた体に染みわたっていく。

 疲労が回復していくようだった。

 

 「よろしいですか。そこに気付いてくれますか」


 フュンは兵士一人一人の顔を、右から順に見ていく。

 彼らの表情が良くなっていく。

 戦う覚悟を持ってくれているようだった。

 今までの味方同士での戦いは何なんのか?

 この疑問を顔に出す人が、ここにはもういない。

 体中に決意が漲って、今からでも戦えると鼻息が荒くなった。


 「よろしい。ではこれからも、あなたたちが真の帝国軍だ! 正統な後継者、レオナ・ブライルドル。彼女を完全無欠の正式な後継者とするために。あなたたちは戦う。よろしいですね。みなさん! 君たちの目的は、真の後継者の支援! そして、元の由緒正しいオスロ帝国にする。その正当な理由に基いて行動をするのが、あなたたちだ!」


 フュンの言葉の意味を完全に理解した兵士たちの士気は爆発した。


 「さあ、真の帝国軍の君たち! ここからが本当の勝負です。ロビンとその裏にいる人物との真の対決をします。よろしいですね」


 兵士たちの声が重なり合おうとしていた。

 フュンの最後の言葉に合わせて、一つの声となる。


 「良いようですね。では、いくぞ。真の帝国軍! 反撃を開始する。帝都まで進軍だ!!」

 「「「「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおお」」」」


 関係のない国の。関係のない王が。

 他国の兵の気持ちを明るく照らす。

 彼らの士気が高まり続けるのは、何故か。


 それは分かりきった事だった。

 フュン・メイダルフィアが太陽であるからだ・・・。


 じゃなくて口があまりにも上手すぎるからだ。

 見知らぬ誰かの心を上向きにする。

 相手の気持ちを上昇させるのが上手いフュンであり、ここで兵士たちの横の繋がりが強固になるのだ。

 彼の演説により、兵士一人一人が、自分に自信を持って、周りと連携をしていく事になる。

 人の意識を集結させる達人。

 それがフュン・メイダルフィアである。

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