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人質から始まった凡庸で優しい王子の英雄譚  作者: 咲良喜玖
最終章 帰って来た男の大戦略

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第351話 敵の奥にいる敵

 「すみません。アーリア王、よろしいでしょうか」

 「ええ。なんでしょう?」

 「うちは、聞きたい事があります」

 「はい。どうぞ」

 「なぜそのような回り道を? そんな事をしなくても、あなたなら、ここにいる皆を簡単に救えたのでは?」

 

 強引なやり口で全てを解決できたはず。

 ロビンを始末して、クロも同時に倒す。

 そんな事をフュンならばできたはずだとクラリスは考えた。

 その思考も間違いじゃない。

 

 「ええ。出来ます。一人で頑張ろうと思えばね」


 自分一人で背負って、闇からオスロ帝国を救う。

 それは可能な事だ。

 しかし、それを選択しないのがフュンである。


 「では、なぜ。このような形で?」

 「それは、ですね。クラリス姫。僕が勝手に君たちの問題を解決したら、その先は? 誰が解決してくれますか」


 フュンは先生のように答える。


 「僕がこの問題を一人で解決してしまったら、次に同じような事が起きた時に、あなたたちは解決できますか?  その時に、僕と陛下がいなかったら、どうします?」


 皆の顔が曇った。

 フュンの言う通りだと・・・。


 「自分たちで解決して来なかったツケがいずれ回って来ますよね。誰かに頼って、問題を解決していたら、頼れない時には解決ができない事になります。それでは未来が見えなくなる。だから僕は裏に回りました。あなたたちを見守る選択を取りました」


 苦労をせずに解決してしまえば、次の苦労が来た時にあなたたちは解決できるのか。

 フュンは、次世代にそう問いかけた。


 「・・・しかし、被害は最小限に抑えられたはず。これほどの内戦にはならなかったはずでは」


 クラリスも食い下がった。


 「いいえ。違います。ここで、これほどの内戦を起こさない場合。次に起きる戦いは、この比じゃない。もっと悲惨な戦いになるはずです。各家々が出来上がり、大分裂の大決闘大会ですよ。各地で戦争が起こります。そうなれば、三つの分裂よりも、ルヴァン大陸が激しい戦場になるでしょう」


 今、この時に戦争をしなければ、次の戦いはもっと悲惨。

 ロビン。レオナ。クラリス。ジュード。セブネス。レイ。マリア。

 少なくともこれくらいの人たちが、それぞれ立ち上がり、戦う事になるだろう。

 その中で、レックスも一般人の地位で立ち上がらないといけないかもしれない。

 そうなれば今の状況どころじゃない戦いが待っているのだ。


 「ですから、僕は今だと思っています」

 「フュン様」

 「ん? 様???」


 レオナに呼ばれて、フュンは彼女に顔を向ける。


 「でも、解決してくれたのは、あなた様ですよ。結局・・・」

 「ええ。でも、これを成功に導いたのは君たちですよ。君たちが、大いに頑張ったから。僕が裏で動けた。僕の事なんて気にもしませんからね。敵さんたちがね」


 フュンは帝都の方角を見た。

 見事に隠れる事に成功したのは、レオナとマリアの戦いが長引いたからだ。


 「僕がね。生きてこの戦乱に参加すると少々厄介な事になっていました。僕が生きていると大事な情報を得られない所で・・これが痛い所でありましてね。だから僕が死ぬ必要がありました。ええ。やっぱり勝つにはね。情報が重要ですからね」

 「情報? ロビン兄上とクロ以外のですか?」

 「はい。平たく言えば、そうです」


 フュンが闇に隠れた理由。

 それは、情報収集であった。

 そして、その中で掴んだ情報が、今後を左右する。


 ◇


 「僕は、ロビン皇子とクロ皇子の関係について調べました。彼らの関係は、兄弟です」

 「それは・・・当然で・・・うちたちもですよ」


 何を言っているんだこの人と、クラリスは思っていた。


 「はい。それが、フーラー家とボリス家が同じなんです。ロビン皇子の母リンコさんと、クロ皇子の母ラルアさんは、姉妹ですね。本当の姉妹です。文字通りに血が繋がっています」

 「「「な!?」」」

 

 知らない事実である。

 それも皇帝も知らない事実であった。


 「どうやら、フーラーの家はですね。ロビン皇子だけなのが気に入らなかったみたいでね。リンコさんにもっと子を産めとしていたらしく。頑張らせていたらしいです。だからなのか。彼女。その心労で早死にしています。彼女を失ったフーラーの家は、ロビン皇子に英才教育をしました。しかし、彼は至って普通です。でも努力して秀才まではいきましたが、特別ではありません」


 優秀ではあるけど、才が突出していない。

 それは、普通の家庭であればいいのだけれど、ここが皇族だから良くない。

 皆を引っ張りあげるくらいの力が必要だ。

 この巨大な国家をである。


 「そこで、もう少し皇族が欲しいフーラーの家が、もう一度娘を皇帝に嫁がせようとしたが、ジャックス陛下に却下されまして断念・・・かと思いきや、そこを諦められないフーラーが作戦を立てた。それが、弱小だったボリス家に目を付けたんですね」


 弱小だけどボリス家は優秀であった。

 軍事関係の銃生産の要所を一つ持っていて、そこの価値を高めつつあったので、弱小からの卒業をする所だった。

 その銃弾の最終調整をする所で資金難になっている所で、フーラーの家がお金を出資して、ボリス家を発展させました。

 だから恩義のある繋がりになり、そこに自分の娘を送り込んだ。

 

 「ラルアさんを陛下に献上した形ですね。要はボリス家は、皇族の一員じゃない。結局はフーラー家の一員です」

 「なんだと・・・まさかそんな事が裏で?」


 ジュードが焦っていた。


 「陛下も知らなかったんですか?」


 クラリスが聞いた。


 「ええ。元々この作戦は、どうやらリンコさんが嫁ぐ前からあったらしくてね。だからラルアさんの出生届け出をしていないんですよ。フーラー家がね」

 「なんと。そこまでして、隠していたのですか・・・そこまで権力がほしいのですか・・・まさか」


 驚いたレオナが、悩みながら聞いた。


 「はい。ですから、兄さんと呼んでいた理由。あれは最も近しいお兄さんですからね。クロ皇子はそう呼んでいたのでしょうね」


 フュンの予想は調べると正解だった。

 血の繋がりが濃いから、クロ皇子はロビンにだけ兄さんと呼んでいたのだ。


 「フーラーの家。ここは過去にある。とある家の家です」

 「フーラーが?」


 センシーノが聞いた。


 「はい。これはビルドスタン家の流れです」

 「「「なに!?」」」


 オスロ帝国が出来上がる前の歴史にビルドスタン家がある。

 ミューズスター家。ブライルドル家。ビルドスタン家。

 この三家が、熾烈な争いをした時代が、五百年前にある。


 のちに細かく分裂した大戦乱時代には、この三つの国は、ルヴァン大陸の主要国家として戦っていた。

 その後に、ミューズスターとブライルドル家が共闘したためにオスロ帝国が誕生した。

 なので、時代が変わっていく時に、ビルドスタン家は消滅していったのだが。

 実際は姿を変えて、生き残っていたらしい。

 フーラー家はその生き残りの中の一家であった。


 「つまり、アーリア王。復讐ですか?」

 「んん。どうなんでしょうかね。レオナ姫はどう思いますか」

 「私だったら、今を大切にしたい。だから、そんな過去はどうでもいいんですが。あちらは別なのでしょう・・・」

 

 今の人々が平和に暮らせるのならそれでいい。

 公平な女性は、平等を愛している。


 「ええ。あなたならそう考えるでしょうね。しかし、ここは当の本人を引っ張らないと、気持ちは分からない。なので、僕が引きずり出します。ここから彼に登場してもらいましょう」

 「本人?」

 「ええ。フーラーのご当主ゲイン・フーラー。そしてその剣ウォルフ・バーベン。この両者に聞いてみないと分からないです」

 「ウォルフ!?」


 レックスが驚いた。


 「あの不動のウォルフですか?」

 「そうです。大将軍にまでいっていませんが、軍部でも有名な方ですね。将来を期待されていた方です」

 「はい。そうです。リカルド様からお聞きしています。昔。とても強い武人がいたと」

 

 レックスも師匠のリカルドから聞いていた。


 「ええ。その方が、ゲイン・フーラーの配下となっています」

 「なるほど。そちらに・・・」


 レックスはその人物を知っていた。だが、こちらは知らずである。


 「は? 誰だそれ??」

 「ジュード。授業を聞いていなかったのか」

 「爺さんの授業はな・・・入りは良くてもよ。途中から自慢話か。過去話になるからさ。聞いてねえ」

 「はぁ。こういう男だったわ。申し訳ないです。リカルド様・・・」


 レックスはジュードの代わりに謝った。


 「いやいや、レックス将軍。それは仕方ない。爺様は、やかましいので、話を真剣には聞けませんよ」


 センシーノが笑って答えた。ジュードの援軍である。


 「だよな。セン!」

 「ええ。爺様が悪い!」


 意気投合の兄弟である。


 「二人とも駄目ですよ。彼はお話し好きなだけです。リカルド様はね」

 「ん? その言い方。もしや、アーリア王は爺様の所に? 俺の実家に行ったのですか」

 「はい。そうです。リカルド様に会いに行きましたよ」


 フュンは誰にでも会いに行ける人見知りをしない人間である。


 ◇


 数カ月前。

 秘境トルストイの村長の家に侵入したフュンは、リカルドの前に現れた。


 「お? どなたかな」

 「はい。僕はフュンです」

 「フュン殿ですな」


 腰の曲がった爺さんは、知り合いでもない男をそのまま迎えた。

 その理由は、敵意を感じないから。

 多くの敵と戦ってきた男は、一瞬でその判断ができる。

 

 「リカルド様」

 「ん? おいどんを、様?」

 「ええ。ジャックス皇帝陛下の片腕の方ですよ。当然、ここは様とお呼びしますでしょう」

 「おお。おんし。ジャックスを知っているのか・・・ん? フュン???」


 爺さんは、ジャックスからの手紙にそんな名前が書いてあったと、思い出した。

 こんな若そうな男と友になったのかと、驚く。

 

 「ああ。たしか、どこぞかの大陸の王様の名じゃし。あやつもそんな事を言っていたような気がするぞい・・・」

 「ええ。そうです。アーリアと言う場所の王です」

 「そうか。にしても、王の雰囲気ないな。おんし」

 「ええ。ありません」

 「なぬ。ナハハハ。面白い人じゃし」

 「そうですか。ハハハハ」


 一瞬で爺さんと仲良しになったフュンであった。


 「んで、おいどんに何の用じゃ?」

 「それが、ウォルフと言う方を調べていて。リカルド様。ご存じで?」

 「ウォルフ? あやつか」

 「ご存じでした?」

 「うむ。奴はこの大陸の最強の戦士だった男だな。当時奴が本格的に反乱すれば、覇者になる可能性があった将だ。にしても、まだ生きていたのか。リンバー陛下が流刑にしたはず」


 ジャックスの父リンバーが、ウォルフの危険性を見抜き、退位寸前で彼を流刑にしたのだ。


 「流刑ですか。なるほどね」


 その情報がなかったので、フュンが助かると頷いていた。


 「奴は、危なかったからな。力が化け物での。それに有り余ったとったからな。リンバー陛下も処遇をどうするかで悩んだのだろうな」

 「そうですか」

 「奴を気にするなんて、何かあったのか」


 リカルドが指摘した。


 「それが今ですね。その人、フーラーの家にいるんですよ」

 「なぬ。あれがか・・・それはまずいな。フーラーか。じゃあ今のロビンの反乱の裏に奴がいるのじゃな」


 リカルドが、ロビンの反乱と言った理由は、この訪問の少し前に、センシーノからの連絡を受けたからだ。

 

 「ええ。います。でもまだ表に出て来ません。ですが。ロビンが苦境になれば、出てくると思いますので、ここは僕がカウンターで一気に攻めて、直接対決をしようかと思いますね」


 フュンの計画は幾重にも重なっている。

 まだまだ作戦があるのだ。


 「そうか・・・ならおいどんも戦わないといけないか。やり残しはいかんよな。年寄りのやり残しは、生きている間にせんとな・・」


 リカルドは、重い腰をあげようかと思った。


 「いえいえ。ここは僕が出ます。リカルド様は、ジャックス陛下とお茶飲みでも楽しんでくださいよ」

 「ぬ?」

 「いいんです。陛下とあなたはもう十分。この国の為に、未来である今を作った。この時の為に戦ってきたんですよ。だからここから先は、僕らに任せてください」


 リカルドやジャックスは、この今を作るために頑張ってきたのだ。

 だから休んでいて欲しい。

 ここからは、自分たちの番。

 フュンは、決着は自分たちの世代で決着を着けるべきだと思っていた。


 「あなたたちの次の世代である。僕らと、そしてですね。あなたの孫の世代である。レオナ姫やセンシーノ皇子。次世代たちが、この問題を解決しますよ。だから、リカルド様はここで踏ん反り返って、待ってください。お孫さんが久しぶりに帰ってきたら、再会を楽しむ。その生活でいいでしょ。ね!」

 「・・・ふっ。おんし・・・優しいな。久しぶりに優しい御仁に会ったわ・・・今度、酒飲もう」


 話に繋がりがないが、フュンはリカルドの話を断らない。


 「ええ。いいですよ。飲みましょうね」

 「いい酒になるぞ」

 「はい。僕もですよ。あ、それでですね。その人の性格とか戦術を・・・」


 と、フュンと会えたことで、元から元気な爺さんは、更に元気になったのであった。


 ◇


 「ということで、リカルド様にも、色々と情報をもらいましたね。有意義な会話でした。うんうん」

 「・・・・まずいな」


 珍しくセンシーノが真剣な表情で言った。


 「何がです?」

 「アーリア王。あなたのせいで、俺・・・」

 「なんです?」

 「帰ったら、しこたま自慢話を受ける羽目になります。責任を取ってくださいよ。飯時もうるさいんですから。どうしよう・・・」

 「それは・・・まあ、頑張って!」


 上機嫌になるような出来事があると、最低十回は同じ話をされる。

 センシーノは今度帰郷をするかどうかを悩んだのであった。

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