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人質から始まった凡庸で優しい王子の英雄譚  作者: 咲良喜玖
最終章 大将軍戦アルストラ戦役

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第345話 ハイローグ海戦

 ルスバニアから見て北西ハイローグ海域にて。

 今朝方。

 なぜここで出会う?

 と誰もが思う場所で、艦隊が出会っていた。

 ロビンの帝国軍の艦隊から始まる。


 「止まれ。どこの者だ。我々の邪魔をするな」

 「こちら、イスカル・ルスバニア連合艦隊です。そちらの所属は?」

 「なに、連合艦隊だと」


 聞いたこともない艦隊。

 では敵だ。

 でも、こんなところにまで出て来るとは。

 どうやって、こちら側からの攻撃を読んだのだ。

 始めから知っていなければ、ここで会う事などない。

 帝国軍の海軍長は、連合艦隊の動きを怪しんだ。

 

 「そちらの所属はどなたの艦隊でしょうか。こちら、ライス・キーブスの艦隊です」

 「・・・ライス!? あのライスか。不滅のライス!!」

 「それは知りません。そちらが勝手に言っている名称ですね」


 不滅のライス。

 戦いの際、ボロボロの艦隊でも生き残ったことから、そう呼ばれている。

 ライスが死なない事で有名であって、さらに戦いの際にボロボロになる事でも有名であり、整備長泣かせでも有名なのだ。

 名前が良い割には、付けられた理由が面白い理由である。


 「それで、そちらはどなたでしょうか」

 「私は、ルバドルだ」

 「・・・・」


 『誰だ』と、ライスは自分なりの人物図鑑を広げた。

 かなり探したが、どこのページにも載っていない。

 記憶力がいい方なのに、思い出せないわけじゃなさそうだ。


 「所属は? どこです」

 「私は、ない。ジョルベスタだからな」

 「ああ・・・そういうことですか」


 ジョルベスタ家は、帝国でも有名な貴族の家。

 艦隊を作成する海の工場を保有している家だ。

 

 「だからロビンについたと」

 「ついたんじゃない。最初からロビン様に・・・」

 「なるほど。いいです。わかりました」


 話を聞かずにぶった切った。

 ライスは、敵のどうでもいい自慢を聞くためにここに来たわけじゃないからだ。


 「貴様。ロビン様を愚弄する気か」

 「いえ、愚弄も何も、私はロビン如き、興味がありません。ゆえに戦闘に入ります」


 ライスは口が辛い。

 信頼している人には甘い。普通の人には普通。信用ならざる者には辛辣。

 知将な雰囲気を持っていても、中身はかなりの我儘である。


 「あなたたちは帝国軍ですので、防衛行動に移ります。この海域は、今は我々の海域。それ以上、こちらに来るのであれば、全滅させますので、その定時連絡でありました。では、失礼しました。あ、ついでにですが・・ご覚悟をしておいてください」


 一方的な連絡で、相手の反論すらも遮断。

 ライスの挑発に怒り狂ったルバドルから、戦いが始まる。



 ◇


 軍艦7隻で、帝国軍がグロスベルの南西の港から出陣していた。

 順調に航行して、正午にはルスバニアの後方の港を攻撃する予定であった。

 

 しかし、途中のハイローグと呼ばれる沖で、軍艦たちが出会う。

 数は7隻同士で、差はない。

 だが、船の動きに差があった。

 方向や、推進速度に違いがあったのだ。


 その艦隊を操るのは、イスカルの名将ライスである。


 「全艦隊。目の前の艦隊を攻撃せよ」


 真正面の撃ち合い。

 だから性能が物言う勝負になる。

 船乗りの腕自慢大会のようにはならない。

 

 ここで、船の性能は互角である事が分かる。

 相手が出す砲弾数と、こちらが放出できる砲弾数がほぼ同じ。

 進軍速度も、正面であれば同じだ。

 撃ち合いを続ければ共倒れになるのは間違いなし。


 だから、ライスは方向を決める。


 「取舵だ。相手の右側面を狙うようにいく」

 

 移動を決めた反乱軍の艦隊は、速やかに移動をする。

 前の二隻が異常に速い方向転換を決めると続く船もそれに引っ張られる形で移動が出来た。

 敵よりも移動がスムーズな理由。

 それは、先頭二隻に乗っている人物が普通の人物じゃないからだ。


 ◇


 先頭左の船。


 「おっしゃあ。いけいけ。横から突っ込むぞ」

 「ララ様。そんなこと出来ませんよ。ライス殿の指令が、そんなんじゃありませんから」

 「ちっ。しょうがねえな」


 鬼の貴婦人ララが、ライスとは違う突撃指令を出そうとしていた。

 ここにいる誰よりも勇ましい彼女は、船が高性能になろうが敵の船に乗り込みたくてしょうがない。

 元海賊だから仕方ない事だった。

 

 先頭右の船。


 「いいですね。楽ですね。他の大陸の船は、移動させるのにもね。アーリアの船もこういう風になれたらいいですね」


 マルンが冷静に船を褒めていた。

 自分たちの船よりも早く動かせることに感動していた。

 ライスの配下に入っているために、全体の指揮を考えなくて済んで、自由に海を移動している感覚で、マルンは艦隊行動をしていた。


 「これだと、私たちの大将殿は、大丈夫ですかね・・・まあ、大丈夫でしょう」


 マルンは下を見ていた。

 

 ◇


 「よし。海中から狙い撃つぞ。ライス殿が指定した場所・・・・誘い込まれているか。敵さんはよ」


 指令室で、ヴァンの声の後に、ユーナリアの声が聞こえる。


 「大丈夫です。真上に来るまで、二十三秒後です」

 「わかった」


 ヴァンとユーナリアがいるのは、潜水艦の中。

 それも完成形の魚雷を配備した特殊型だ。

 これを、ウーゴとジェシカの二人が用意してくれた。

 対オスロ帝国の為の切り札の一つとして、こちらに贈呈してくれたのだ。


 アーリアの海の覇者ヴァン。 

 英雄フュンの海における片腕である。

 彼の実力であれば、エンジンを切っても、潮の流れで行動を起こすことが出来て、今も流れを見極めて移動している。

 静かな移動で敵に察知されない。


 ライスの艦隊運動のおかげで、敵がある目的地点に誘導されている。

 だから実際は、この艦隊は、アーリアとイスカルの連合艦隊であったのだ。

 最強無敵の海の将軍コンビである。


 「ユーナ。残りは!」

 「はい。三秒後です。真上です」

 「よし。いけ。放て。魚雷発射だ!」


 魚雷を真上に発射。

 敵艦隊の船底を狙った。


 当時のルヴァン大陸は、潜水艦を知らなかった。

 彼らは、航行能力で普通にイスカル大陸を突破したために、潜水艦を作る事をしなかった。

 なので、存在を知らない。

 海の中に船がいるという考えを持たないので、彼らは当然・・・。



 ◇


 艦隊の長がいる船だけが大きく揺れた。

 船底から揺れているような、大きな揺れは波に揺れる船よりも気持ちが悪い物だった。


 「ぐおっ。なんだ。揺れが・・・」

 『ビービービー』

 

 鳴り響く音に不快感がある。

 緊急連絡の音だった。


 「閣下」

 「なんだ」


 整備長の声が、内部無線で届く。


 「船底に穴が!?」

 「なに? 穴だと。整備不良か?」

 「ありえません。出発前に点検をし・・・」


 また一つ大きな揺れが来ると。

 

 「・・・・・・・」

 「おい。どうした。連絡は!?」


 無線から連絡が来なくなると。


 「閣下。もう駄目みたいです。航行不能と出ています」

 「なに!?」

 「脱出しますか」

 「に、逃げるしかないのか・・・」


 艦隊の長が行動不能になると、必然として起こる現象は・・・。



 ◇


 「撃て。撃て。まだまだだ。降伏を宣言するまで、放ち続けろ。ここで容赦をしてはいけない」


 ライスの攻撃が、敵に的確に当たり始める。

 

 「ありがたい。アーリア王のおかげで、私はこの時を迎えられた・・・・ということですね。感謝します。フュン殿」


 ライスは、敵を見てフュンに感謝していた。

 イスカル時代よりも長く、帝国に仕えた形となっているが、元はイスカルの人間だ。

 帝国に何も思わないわけじゃない。

 やはり自分の国を破壊した国なのだ。

 恨まないとは言えない。

 その雪辱を果たす機会を与えてくれたことに、感謝するのみである。

 

 それも帝国が敵として正しくある事が嬉しい。

 自分たちが悪で、帝国が善。

 ではなく。

 帝国が悪で、自分たちがそれに抵抗している形だから。

 心置きなく、敵を撃つことが出来る。


 この舞台設定に、ライスは感謝をしていた。


 「勝ちますよ。フュン殿。あなたの将たちは、素晴らしい人たちだ。特にヴァン殿・・・なぜ、知らぬ土地の海で、自分の海かのように移動が出来るのでしょうか。ここを長く知っているみたいに進めるのは・・・ええ。そうですよね。まさに、海の天才なんでしょうね」


 潮の流れが、アーリアと違うので、別な感覚を得るはず。

 なのに、いつもと変わらずに航行できるのは、船乗りとしての才能があるからだ。

 ライスは、ヴァンの方が自分よりも確実に強い船乗りだと思っていた。


 ◇


 海の中で勝利を確信した二人。


 「ユーナ! どんな感じだ」

 「大丈夫だと思います。敵は倒したかと」

 「わかった。じゃあ、陸に近づいて、浮上する。連絡するんだろ」

 「はい」

 「じゃあ、全速前進だ。面舵でいけ」

 「「「了解。艦長」」」


 潜水艦はルヴァン大陸に近づいてから浮上した。

 ユーナリアが無線連絡を試みる。

 帝都への秘密回線だ。


 「こちら、ユーナリア。連携をお願いします」

 「はい。こちらライドウ。ユーナの姉御、聞こえてます!」

 「・・・・あの・・・姉御やめてくれません」

 「いや、無理っす! 姉御は姉御っす」

 「・・・えええ」


 ユーナリアの無線相手はライドウ。

 シゲノリの片腕となる男だ。

 ユーナリアを自分の姉貴だと思っているちょっと困った男の子だ。


 「はぁ。もうそれでいいです。それで、そちらの状況は」

 「ええ。大丈夫っす。でも姉御。そっちの状況は、リュークさんが聞きたいと思うので」

 「ああ。そうですね。勝ちです。ハイローグで敵を沈めました」

 「さすがっす。これでリュークさんにも良い報告できるっすね」

 「はい。リュークさんには、こちらの感謝をたくさん伝えてください。ライドウ」

 「うっす!」


 リューク・ジョンドのおかげで、敵がどこにどれだけの規模で、攻撃をしてくるかが分かる。

 彼が淡々と仕事をこなしているおかげで、ライドウが情報を盗んでいるのだ。

 ライドウ。

 目と耳の才能も持つ男で、静かに情報を聞き出している。


 「ライドウ。ここからは危険となりますので、第一に命を! 何よりも優先してください。特にリュークさんは守ってください」

 「了解っす。任してくだせえ。姉御!」

 「・・・は、はい」


 ちょっと困った男の子だなと思いながら、ユーナリアは無線を止めた。


 ハイローグ海戦勝利の要因。

 それは、ライス将軍の艦隊運用の上手さ。

 ヴァンの潜水艦航行の上手さ。

 この両方の上手さも勝敗を左右したが、それよりも、敵の規模と行動を知った事が大きいのだ。

 つまり、リューク・ジョンドが諜報員として、帝都に残ったからの勝利であるのだ。

 

 リュークがロビンのそばにいた理由。

 それは、自分の地位の維持でもなく、ロビンの仲間になるためじゃなく、命が尽きる最後の時までジャックス・ブライルドルの為に動くからだった。

 皇帝に全てを捧げる気持ちを持つ家臣。

 名君には、素晴らしい家臣がいる・・・。

 いや、素晴らしい家臣がいるから、ジャックスが名君となれるのだ。

 

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