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人質から始まった凡庸で優しい王子の英雄譚  作者: 咲良喜玖
最終章 大将軍戦アルストラ戦役

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第344話 ルスバニア攻防戦

 あれからルスバニアは、両軍ともに過酷な戦いを続けていた。

 攻撃側の不利が確定している戦場で、互角の兵数五万と五万の決戦。

 しかし、ジャンの戦いぶりが良くて、無理をしない戦法のおかげで、ゼファーたちが苦戦を強いられた。

 

 有効なジャンの戦法に対して、ゼファー側はというと。

 塹壕の深い位置に敵が侵入すると、ゼファー自身が前に出て撃退するという形が続いて、彼自身が敵の前に出ないと拮抗状態にならないあたりに、苦しさが出ているのが分かる戦いであった。


 ジャンの戦いがゆっくりと出来る理由。

 それは、補給物資が定期的に届いてくれるからだ。

 帝都からここまでで、領土で邪魔する敵がいないので、ここまでの間は、スムーズに銃弾や兵糧などを戦地送れていた。

 しかも、この苛烈になってからの三カ月後には、援軍として三万の兵も追加されて、八万と増えたので、更に有利な展開となり、ジャンは焦らずに攻められた。

 ここでのロビンとクロは、本部として十分な役割を果たしていた。


 ◇


 そして、重要な日の前日には、ジャンは事前に情報を伝達されていたのだ。


 「ロビン様?」


 直接ロビンから命令が来る。

 かなり珍しい事態だ。

 ジャンは受け答えの中に驚きがあった。


 「ああ、ルスバニアを消してくれ」

 「え? いや、まだ敵が四万はいます。急いで、削っても。あと半月で一万くらいかと」


 見積もりが正確なジャンは、敵を弱らせるのが、ここでの定石だと考えていた。


 「いいや。出来る。私が戦艦を7隻送った。だから裏から崩すぞ」

 「7も?」

 「ああ。用意が出来たから、まずはルスバニアを消す。いいな」

 「わ、わかりました・・・こちらの物資は? 攻勢に出るなら、今の量だと厳しいかと」

 「送っている。明日には届くはずだ」

 「わかりました」

 「明日の正午。敵の裏を突くから、お前は攻撃に出よ」

 「はい」


 時間指定での攻撃を予定として組み込んだのである。

 しかし・・・。



 ◇


 物資が来なかった。

 無線連絡までされたのに、ロビンが物資を送って来ないのも珍しい。

 ジャンは首を傾げていても、予定された時間には攻撃しなければならない。

 主の命令であれば、実行せねばならない。

 

 「開始時間が近い。なにかあったのか・・・でもここを崩すしかないか。海からの攻撃もあるようだし。両方が主攻とならねば、作戦の意味がない」


 ジャンも大規模挟撃に理解を示していた。

 陸と海での攻撃。 

 それは以前のユーナリアがした事の強化版だ。


 ◇


 アーリア歴11月27日の午前2時。

 

 ジャンの元に来ていない物資は、途中まで運びこまれていた。

 列車運搬での運びだしで、アイショルダに移動をしようと動いていた所。

 その手前の線路が無くなっていたのだ。

 

 運搬が不可能となっていたことで、急遽荷馬車による移動をさせようと。 

 物資を移し替えていた所に、襲撃に遭う。

 少数の人間が突如として闇と共に出現。

 あっという間に兵士らは全滅して、食糧と列車が爆破されて、物資は消滅した。


 これが、人の援軍ではなかったために、人の被害は出なかったが、ここで物資が届かないのが痛い。

 継続戦闘で、攻め手側に物資が来ない事が大きいのだ。

 これがどんな結果になるかは、今までの戦いで気付く事だろう。


 ◇


 正午。


 「時間・・ですね・・」


 ジャンは攻める事を決断。

 攻勢に出ようと、塹壕付近に進軍を開始。 

 入口手前で異変に気付く。


 「ん?」


 声が聞こえて、後ろを振りむくと、敵が来ていた。

 

 「なに!? 敵?」


 後ろから来たのが敵。

 それが信じられない。

 背後は自分たちの領土なのに、敵が来るはずがないのだ。

 

 自分たちの左翼後方から、斜めに進軍してくる敵は、勢いと破壊力が今までと違う。

 中央軍すらも抉られる恐れがあった。


 「これは退却をしながら・・・なに?!」


 目の前の塹壕から兵が出てきた。

 一転しての攻勢。 

 ここに来てルスバニアの兵たちが勢いを増す。

 ゼファーが先頭に立ち、襲い掛かってくる。


 「挟撃。それも、この強さは・・・今までの比じゃない!?」

 

 ジャンは戦法を一つも間違っていない。

 なのに、絶体絶命にまでなる。

 その理由は・・・。


 ◇


 この少し前、タロイス山脈にて。


 「ようやく、私が出る番か。イスカルでの待機は、退屈でしたな」

 「あの!」 

 「ん?」

 「拙者は?」

 「当然。私と共に先陣だ。あなたの力も借りたい」

 「やっただよ」

 「ふっ・・・あの時のあなたと。今も変わらないのですな」

 「あの時???」 

 「私はあなたとも戦いました。あのギリダートでの戦いで、私と最初に互角に戦ったのはあなただ」

 「?・・ネアル殿と・・・ああそうだよ。王様の時だよ!」

 「ええ。その時の力。今度も見せてもらいましょうか」

 「うん。まかせてだよ」


 二人の話し合いの後、山を下り、敵軍後方を抉ったのが、シャーロットとネアルである。

 英雄の快刀『斜撃のシャーロット』

 その進軍スピードは、斜めであればアーリア最速の彼女が先頭に出てその隣にネアルがいる形での強襲攻撃だった。

 二人の勢いはとてつもなかった。

 触れたら死ぬ。そんな勢いであった。


 「速い。これが彼女の速度か。それも斜めに走るのもまた・・・・変わらないわ」

 

 ネアルは、味方であれば頼もしい存在だと思った。


 「それにしても、この一撃の速さ。この抉り込み・・・それにあちらの」


 ゼファー方面の進軍も速い。

 フュンの半身と、秘密兵器。

 その双方との共闘をしてネアルは気付く。


 「フハハ。これが、アーリアの英雄フュン・メイダルフィアの部下の力か・・・私にも、この力があれば勝てたか・・・いや、私にもいたのだ。ブルー。パールマン。アスターネ。ギルバーン。お前たちがいながら勝てなかった・・・つまりは、私が強さの高みにいなかっただけ・・・すまないな。それにさすがだ。永遠の宿敵よ」


 結局は自分が弱かっただけ。

 またネアルは、フュンの素晴らしさを痛感していた。

 隣にいるシャーロットを見て、反省をしていた。


 「ほい。ほい。ほほいだよ」


 軍の指揮はネアルがやるだろうと、割り切って考えているシャーロットは、とにかく敵を斬る事に集中していた。

 動きは一将じゃなく、一兵士。

 特攻隊長と化していた。


 自分もゼファーがやっている敵の弾を斬ってみる。

 実践でも出来るかどうかの試し切りもしていたくらいに余裕があるのがシャーロットだ。


 「ん! たしかにだよ。難しいだよね。腕が震える人が相手だと」

 

 相手の狙いが分かれば、こちらも狙いが出来る。

 相手次第になっちゃうのがこの防御の弱点だと、シャーロットは思った。


 「シャーロット殿。ゼファー殿と合流する。ここは止まるぞ」

 「ん?」

 「斜めに進み過ぎなくていい。ここから膨らんでも良いし、ここに立ち止まっていいだろう。ゼファー殿が本陣にいけるからな」


 ネアルは自分たちとゼファーたちの位置関係を見極めて、足を止めた。

 イーナミアの英雄ネアル。

 この戦場で、彼の戦術に勝てる人間はいない。


 『貴様らが私に勝ちたいのなら、ここにフュン・メイダルフィアを連れてこい。

  いや、ぜひ連れて来てほしいものだ。

  また戦いたい!!!

  この大陸でも、そんな敵が現れて欲しいものだ』


 っとネアル自身はそんなよからぬことを考えている。


 ◇


 タロイス山脈にいるのは、望遠鏡で戦況を確認している親子だった。


 「これは勝ちでしょうか?」

 「母上。もちろんですよ。父上の戦略が盤石です。あとは殲滅をするだけになっていますが。父上は、その気がなさそうですよ」

 「え?」

 「あれは、わざと敵を逃がす動きをしています。特に敵右翼後方。あれを逃がす気ですね」

 「そ、そうなんですか」


 ダンテが戦況を把握していた。

 ネアル軍は、敵の右翼後方を逃がす気である。

 それは斜めの進軍で割った後に、そこを無視しているからだ。


 「はい。たぶん。あの将・・・雑魚です」

 「え? 雑魚???」

 「はい。本来。あれがシャーロット殿の動きを止めるように圧力をかければよかったのに、何も出来ずにそのままでいるので、あそこが割られています。あの無能な将は何故あそこにいたのでしょうか。不可解・・・あの程度の実力で将? こちらのアーリア大陸では全く出世できないでしょう。こちらのみなさんは優秀ですからね。一兵卒にもなれるかどうか。戦う勇気もないのなら、邪魔ですしね」


 ダンテの戦術眼は鋭い。

 帝国軍の後方右翼にいた将こそが、スマルであった。

 彼が、ジャンを助けるように動けば、ここまでの形とはならなかったのだ。


 「はぁ・・・あなたの目は誰から受け継いだのでしょう・・・あまりにも、私の想像を超えていて・・・ネアル様よりも。もしかしたら」


 自分の息子の考えがよく分からない。

 まだ子供なのに。大人顔負けの思考能力は一体どこで身についたのかと心配になっていた。


 「あ!」 

 「ん? どうしましたジュナン」


 子供たちで忙しい。

 戦場に来ても、ブルーは子育てに忙しいのだ。


 「イスカルからお茶を持ってくるのを忘れましたぁ。今すぐには、飲めませんね! あぁ残念です。今が、一息タイムなのかと思いましたぁ」


 ジュナンが能天気に言っていた。


 「ど・・どうでもいい!」

 

 正直今はお茶が飲めなくても、どうでもいい。

 ブルーは、一風変わった二人を育てるのに苦労していたのである。 

 

 ◇


 挟撃となったことで、敵が慌てる。

 この瞬間を狙ったゼファーが真正面を突き破って、敵の大将まで到達していた。


 「ジャン殿。我と戦うのはやめておいた方がいい。我は勝負となれば殺してしまう。しかし、貴殿は惜しい。スネルとかいうのなら遠慮はしませんが・・・」


 ゼファーが言っているつもりなのは、スマルの事である。

 ユーナに調べてもらっていたのに、思いっきり人の名前を間違えていた。

 失礼な男である。


 「それでも私は引けない・・・ここは」


 ジャンも言いたい人物を理解しているので、訂正せずにスマルの事は無視をした。


 「駄目ですぞ。あなたが降伏を宣言してくれれば、残りの兵が助かります。それに我が追いかけなくて済みますからな」

 「ん? 追いかける」

 「あなたが敗北を宣言してくれれば、あそこの右翼後方にいた兵士らは、そのまま帰ってもらって結構。一万はいるでしょう」


 帝国軍のスマルは、負け始めるとすぐに逃げ出していた。

 離脱速度だけが速い。

 

 「こちらを助けて下さると」

 「ええ。ただ、助ける事になるとは限らないでしょうがね」


 ゼファーの考えは、この前のユーナリアと一緒だった。

 無能な敵は、敵として生きてもらえれば、最大の味方となる。

 だから再び我の前に姿を現して欲しいものだと、願っていた。


 「ジャン殿。こちらに投降しなさい」

 「・・・・わかりました。敗北です。このままでは、負けです。兵を全て失うわけにはいきません」


 全滅に近い。

 8万近くいた兵士も、離脱と敗北で、3万にまで減らしていた。

 これでは、援軍が来たルスバニアに勝てるわけがなかった。


 逆にルスバニアが、ここで8万の軍になっていたのだ。


 「しかしこれだけは聞きたい。海は! 海の攻撃があったはずです。なぜあなたたちは落ち着いているのですか。陸と海で挟撃されていたはず」


 ジャンの当然の疑問だ。

 それをゼファーが一蹴する。


 「ええ。ありましたぞ。今朝方にね」


 この時には、海の戦いはすでに終わっていたのだ。

 

 彼らの主の情報網を侮ってはいけない。

 アーリア王国の最も得意な事。

 それが情報戦なのだ。

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