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人質から始まった凡庸で優しい王子の英雄譚  作者: 咲良喜玖
最終章 大将軍戦アルストラ戦役

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第341話 アルストラ戦役 覚悟

 「くそ・・・くそ・・・くそくそくそくそ・・・助けられねえのかよ。俺は、無力なのか! 俺はここまでなのか。大将軍になっても、この程度なのか!!! 親友一人。ミーニャ一人。俺は助けられないのかよ!!!」


 地面を強く叩いて、手が真っ赤になるジュードは、無念の言葉も地面に叩きつけた。


 「二人でここまでミーニャを支えたのに・・・まだ解明できてねえのに・・・俺の兄貴のせいで・・・死んじまうって言うのか。ふざけんじゃねえ」


 泣きそうになるのを我慢していた。

 全部を任せとけとレックスに言っておいて、ここで何も出来ずにいるのが悔しい。

 それに、次は殺し合いだと言った時の親友の顔。

 あれは、ミーニャが病になった時と同じ顔だった。

 絶望していた表情をしていた。

 あんな顔二度と見たくないと思って、ここまで頑張って来たのに。

 

 ジュードは怒り。悲しみ。苦しみ。三つの感情に支配されていた。

 それ以外、何も考えられずにいると、しばらくして吐き気も出て来る。


 「うおおお。俺が死ねばいいのか。俺が死ねば許されるのか。レックスが許されるには!!! どうしたらいいんだ」

 「ど、どうかされたんですか」


 人の気配なんてなかったのに、声が聞こえた。

 後ろを振り向く。

 すると眉の下がったレベッカがいた。


 「ん!? ひ、姫??」


 すぐにいつもの自分に戻ろうとするも若干無理があった。 

 顔の表情が戻らない。


 「何故ここに!?」

 「あなたの声が聞こえたから」

 「馬鹿な。距離が離れている」


 本営から少し離れた場所に一人でいたから、声が聞こえないと思った。

 でもレベッカは五感が良い。

 だから彼女には聞こえていた。


 「ちゃんと聞こえましたよ。どうかされたんですか」

 「いや、なんでもない。気にしないでくれ」


 漢だから、そう簡単に人前では嘆かない。

 悩みは、誰にも見せまいとするのがジュードである。

 ましてや別な国の王女であるレベッカには言えないのだ。

 

 「駄目ですよ。そんなにつらそうな顔をしたら・・あなたは、この軍の柱。大将ですよ。皆の士気に・・」


 と言っているが、本当は本人が一番心配している。

 他の兵士の士気なんて都合の良い言い訳だった。


 「・・・ああ、そうだな。明日になったら何とかするよ。大丈夫だよ」


 苦しい状態でも、他人には見せない。

 精一杯の強がりで答えた。


 「でも・・・」

 「でもじゃない!」

 「!?」


 レベッカの肩がビクっと動いた。


 「あ・・・ごめん」


 強い語気にしてしまったことをジュードは詫びた。

 素直な性格で、真っ直ぐ。

 だから苦しむ。

 兄の罠の下劣さにだ。

 兄弟のせいで、家族の同然の親友が苦しんでいる。

 これが、重い十字架になっていた。背負うには重すぎる。


 「何かあったんですね」

 「ああ。まあね。でも大丈夫だ。少し楽になった。話し相手がいたからかな。ありがとう」

 「私は何も、あなたから悩みを聞いていませんが?」

 「ああ。それでもだよ。ありがとう。一人でいたら、たぶん崩壊してたわ。ちょっと意志が出てきたよ。ハハハ」


 自分の意思が少し出てきた。

 ジュードは話せてよかったと思った。 

 苦しくて嘆きたくても、人の優しさに素直に答えられるジュードは、本当に気持ちの良い漢だった。


 「そうだ。次の戦い。君は逃げる事も考えてくれ」

 「え?」

 「もしかしたら俺は死ぬかもしれない」

 「は? 皇子。な、何を言って?」

 「ああ。君がその時。俺たちの軍を持ってくれたら、レオナがまだ戦えることになる。君さえいればまだ大丈夫なはずだ。この先を戦えるはずだ」

 「そんな事できませんよ。私では、彼女を支えられない。ジュード皇子がいて初めて彼女は皇帝になれるはずです」

 「いいや、大丈夫だ。あれは強い。俺なんかよりもさ・・・ウジウジ考えないで前を進めるはず・・・大丈夫だ」


 ジュードは悲しそうに笑った。

 その辛さが伝わり、胸が張り裂けそうになって苦しくなる。

 レベッカは言葉が詰まりそうだった。


 「駄目ですよ。あなたも生きていかなきゃ。父はそう願っています」

 「アーリア王か・・・あの人がいればな。どうにかなんのかな・・・どうにか出来るのかな。助けてくれるのかな」


 あの人の計略があれば、レックスを救えるのか。

 自分では出来ないけど、彼なら何かが出来る。

 そんな気がしたジュードは、夜空を見上げた。

 星が見えない。曇り空だった。

 今日にも雨が降るだろう。

 自分の心模様と同じだ。


 「ジュード皇子。私は、あなたを守って、彼女も守ります。この二つを約束して、頑張りますから。お願いですから。生きてくださいね」

  

 そばに来てくれた彼女に、ジュードは優しく言う。


 「ああ。そうだね。わかった。約束しよう。俺も頑張るよ。でもだ。君だけは、絶対に生きてくれ。戦場の切り札として、君が必要なんだ。それに、俺なんかよりも妹を頼みたい。センシーノと、クラリス。ギャロルもだ」

 「・・・はい・・・・でもあなたもです」

 「ああ」


 二人はそう言ってこの日別れた。

 そして、この直後。

 天幕に戻ったジュードは、椅子に座って手紙を書こうとしていた。

 最後の手紙を書く気だった。

 しかし、その瞬間、首に冷たい物が置いてあった。

 ひんやりするものを横目で見るとナイフである。


 「なに? 誰だ!?」

 「黙って聞いてほしい。これから・・・・場合は・・・・」


 彼に何らかの闇が迫っていたのだ。

 この日の深夜、天幕にはジュードがいなかった。



 ◇


 アーリア歴7年11月27日。

 アルストラ平原の第六戦。

 この戦場最後の戦い。


 運命の決戦前の話し合いが行われた。

 ジュードから話し出す。


 「レオナ。俺に任せろ。勝ってみせるから、安心して下がっていろ。いいな。絶対にアルストラから出てくるなよ」

 「わ、わかりました。兄上・・・ん?」

 

 なんだかいつもと違う気がする。

 気合いが入るにも、もう少し力強さがある気がした。

 レオナは了承したが、納得していなかった。


 「センシーノ。お前は今回下がっていろ。俺と姫とダンで戦える」

 「え? センシーノ?・・いや、ジュー兄。それは無理が。すでに戦力差がありますぞ」


 この時、レックスが率いている帝国軍が13万。ジュードが率いていた革命軍が9万。

 差が4万となっていた。


 「ああ。まかせろ。大丈夫だ。俺に任せとけ」

 「それは本当ですか。本心からですか」

 「ん。どうした姫?」


 レベッカは、昨夜に話した時とジュードの表情が違うので、もしかしたら覚悟が決まりすぎて、この戦いで死ぬつもりなのかと不安に思ったのだ。

 

 「私との約束覚えていますか」

 「約束? ああ、そうだな。覚えているよ」 

 「ん?」

 「いや、本当に覚えているよ。約束守るからさ。心配しないで」

 「・・・え・・・んん?」


 なんだか歯切れの悪い答えだなとレベッカは思った。


 「それじゃあ、俺に全部任せろ。とにかく俺の指示で動いてくれ。レベッカ姫。ダン。ただ、君たちはとっておきの時だけだ。合図まで、戦闘に出ないでくれ」

 「え? それは・・・どうやって勝つつもりで」

 

 ダンが聞いた。


 「大丈夫。指示を出すから言う通りにしてくれ」

 「わかりました」


 今までのジュードとは違う。何やら秘策があるようだった。



 ◇


 その頃。レックスは苦悶の表情で話を聞いていた。


 「レックスよ。今日だ。今日中にあそこを落とせ。そして、ジュードだけでも殺せ。出来ねば、お前の妹の命はないぞ」

 

 本営に到着していたのは、ロビン。

 しびれを切らしてここまで来ていた。

 クロも到着して、ここから一気に攻め込むための補給をする気だった。

 この後に、船で銃弾がやって来る。


 「はい」

 「いいか。ジュードを殺したら、とりあえず妹を病院に返そう」

 「薬はどうなっていますか。投与は?」

 「している。でも、あと二日分しか持っていないぞ。与えねば、死ぬだけだろ。だからここで勝て」

 「・・・はい」


 レックスは唇を噛み締めて答えた。

 

 「じゃあいけ。私はここで待機していよう。必ず持ってこい。ジュードの死体を必ずだ!」


 レックスに唯一対抗できるのはジュード。

 自分の国が成立したら一番邪魔で、個人としても一番目障りな兄弟。

 なにせ、ジュードは兄弟を真の意味で一つにまとめる事が出来る太陽のように明るい漢だ。  

 

 だからロビンは、厄介な弟を始末しようと決めた。


 「わかりました」


 大将軍レックスは、苦渋の決断をしてこの戦いに臨んでいた。


 運命の第六戦。

 大将軍二人が、全力でぶつかり合う事となる戦い。

 いずれが勝者となるのか。

 それはこの世界の神のみぞ知る。

 アルストラ平原の戦いが始まる。



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