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人質から始まった凡庸で優しい王子の英雄譚  作者: 咲良喜玖
最終章 大将軍戦アルストラ戦役

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第339話 アルストラ戦役 絆

 第一戦終了後。

 ジュードは本営で。


 「強いわ」

 

 ため息と共に賞賛が出る。

 親友の強さを知ってはいたものの。

 今まで本気の勝負をしたことがない。

 あれが実戦でのレックス。

 改めて親友の力強さを感じるジュードだった。


 「姫。すまねえ。やっぱり活かせなかったわ」

 「いいえ。私も銃弾の嵐で、前に進めなかったです。申し訳ない」

 「いや、あれで無事でいてくれることが助かるよ。君がいれば、レックスの注意はどうしても右に傾くからさ」

 「そうですか。それならよいのですけど」


 お役に立てず申し訳ないと、レベッカにしては殊勝な態度だった。

 

 「ああ。気にしないでくれ。俺が悪いんだ」


 実際にレックスは正面でジュードを捉えていても、左翼軍が負けないように注意をしていた。

 やはりレベッカ・ウインドを警戒しないと、まずいのだ。

 左翼が負けてしまえば、中央軍も挟撃に遭い、敗北してしまうからだ。


 「ジュー兄。俺も出ますか」

 「いいや、お前はまずいな。レオナのそばにいてもらわないといけない気がする」

 「アルストラにですか」

 「ああ。レオナの守りを強化したい」

 「わかりました」


 ジュードは保険をかけていた。

 自分が死んでも、弟がいればまだ戦えるからだ。

 レックスとの勝負は生死を分ける事は確実。

 死の保険をするほどに、好敵手(親友)の強さを信用していた。

 

 「どうすれば勝てるか・・・悩みどころだ」


 この後、三度戦い。全てが互角であった。


 ◇


 11月6日。第二戦。

 11月14日。第三戦。

 11月19日。第四戦。


 全てが互角で、一進一退を繰り返した。

 互いの力をぶつけ合う戦で、武人同士の激突と言える戦いだった。


 そして第五戦。

 11月23日。


 この日の戦いは、最初の第一戦と同じ展開で、正面突破をするためのレベッカとダンの左右翼の攻撃を強めてのジュードの進撃がメインだった。

 しかしそれが上手く捌かれていくことで、前のめりになっているジュードが狙い撃ちにあう。 

 レックスの大反撃を食らい、中央軍が崩壊に近い形で崩れ去る。


 「くそっ。やられた。レックスの方が強いか!?」


 本部隊と本部隊がかち合っていく。

 がっつり組み合う事で、泥沼の戦いになる寸前で、右翼から救援が来た。

 ここで右翼の面子が、本体と合流したことで、厚みを増す。

 だが、レベッカを失った右翼はだいぶ削られていった。

 二万の消失と引き換えにしても、大将の救援に入っている。



 レックスとレベッカが激突する。


 「レベッカ姫。ここで来ますか!」

 「ええ、レックス将軍。あなたは素晴らしい将だ」

 「いえ。それはあなたの方だ。これで私が、ジュードには手を出せない」

 「ええ。そうはさせませんからね」


 レベッカの剣戟に付いていくレックスは、化け物である。

 実戦で戦えるだけでも十分にすごいのに、反撃まで加える事が出来る。

 レベッカでも右からの攻撃を捌き切れなかった。


 「速い!?」


 身を捻じって、直撃を避けた。

 左の肩が斬られる。


 「斬られても、ここでだ。風陽流 山茶花」


 渾身の三連の攻撃を繰り出した。

 しかし、レックスはそれすらも防ぐ。


 「な!?」

 「あなたの剣が遅くなっているのが、わかりますよ。ここまで来るのに体力を使いましたね。ここで斬ります。すみません」


 一刀両断。縦の一撃がレベッカの頭上に降り注いだ。

 

 「反撃も速い。ま、まずい」


 レベッカは攻撃に転じていたために、防御に若干出遅れる。

 刀の戻りが遅かった。


 「させん。姫。下がってくれ」


 レベッカを突き飛ばしたのはジュードだった。


 「きゃ・・・あ、ジュード皇子??」


 転んだレベッカが顔を上げると同時にジュードが、レックスの剣を受け止めた。

 鍔迫り合いは互角。単純な腕力は互角であった。


 「ふぅ。あぶねえわ。姫に死なれたら、あの人に顔向けできねえ!」

 「私の剣を止めたか。さすがだジュード」

 「おう。何遍も受けて来てるからな。当然、太刀筋も知ってるわ」

 「そうだな。私もだ」

 

 レベッカがすぐに立ち上がると。


 「君は下がれ。ここは俺が戦う。親友を止めるのは俺の役目さ」

 「いいえ。私もです。あなたを守ります」

 「いいや。ここは俺も男だ! 君に守られてばかりじゃな。恥ずかしいってことで、軍を頼むわ。俺は、ここで、レックスを止める!」 

 「わかりました」


 ジュードの目線から、レベッカは彼の考えを理解した。

 軍を率いることで、窮地を救う動きに変えた。

 ジュードとレックスが互角の打ち合いを続ける間に、レベッカはレックスの部隊を狙った。

 そこで、レックスも彼女の動きに気付く。


 「な、なるほど。くっ。ここは下がるか」


 レベッカの目的が、突出してきたレックスの孤立である事に気付くのが早い。

 もう少し孤立させられたら、レックスに勝てる所まで追い込めた。


 「おいおい。親友。今、下がらんでもいいぜ。これでお前を捕まえて、こっちの味方にするからよ」

 「駄目だ・・・すまないジュード。ここではその願いは無理だ。ミーニャがここに来ている」

 「な!? なんだと。ミーニャが!?」

 「ああ。軍の本営にいる。ここで勝たねば殺される」

 「くそ。あの兄貴め。そこまで外道か。あの子は病院で安静に・・・」

 「・・そして・・・俺はお前を殺さないといけないんだ・・・」


 悲しい顔で、レックスが昔の口調で言った。


 「おい。レックス」

 「じゃあ。また会おう。親友。その時は・・・殺し合いだ。頼む。手は抜かないでくれ。じゃないと殺せない・・・お前を・・・」

 「待て。レックス。俺は!」

 

 泣きそうな顔をした親友を久しぶりに見た。

 ジュードは、手を伸ばして親友を掴もうとしたが、彼は退却をしていった。



 ◇


 本営の会議を終えて、ジュードは一人。

 アルストラ平原を眺めていた。

 小高い丘に立ち、あの奥にいるだろう親友を思う。


 「レックス・・・」


 子供の時からの大親友。

 レックス・バーナード。

 彼がいなければ自分はいない。

 そう豪語できるくらいの大親友。

 その彼が、悩んでいるのが、心苦しい。

 それも自分の兄のせいでだ。


 「俺たちは友達だぞ・・・お前を殺せるわけがねえじゃねえか。それにミーニャはどうすんだよ」


 親友を殺す?

 そんなこと出来るわけがない。

 たとえ、自分が死んだとしてもだ。


 ◇


 二十二年前。

 ジュードが10歳の頃。

 城下町には、孤児が多くいた。

 戦乱の世の時代では、戦災孤児が多く出る。

 だから、城下町にはいくつかの孤児院があった。

 その中で、ジュードはたまたまレックスという少年と出会う。


 「おい。お前。ここらをうろつくな。危ないぞ。そんな身なりじゃ、危険だ」

 「ん? なんだお前。偉そうに」


 最初の出会いは、両者ともに喧嘩腰だった。

 でも、レックスの方が注意をしてくれているようなので、素直なジュードはその言葉だけを受け取る。

 

 「そうか。なんでだ?」

 「お前の身なりが良過ぎる。ここらは盗賊みたいなのがうろついているからさ。危険だぞ」

 「そうなのか。お前は危険じゃないのか」

 「俺も危険だけど。返り討ちにしている。妹を連れ去ろうとするやつが多いからさ。俺は大人よりも強いんだ」


 当時、人の売り買いが多発していた。

 これもまた戦争時代の名残だった。

 この頃だと、ルヴァン大陸内の戦は落ち着いているが、それでも名残の影響が大きい。

 人を攫い、特に女の子は高く売れるから、危険だった。

 それでレックスは妹を守るために強く成長していた。

 あらゆる手で相手を圧倒しているレックスは、知が大人よりも良く、武もとても強かった。


 「そうか。お前、妹想いか。おもしれえ」


 同年代で兄弟を大切にする人間を初めて見た。

 自分の兄妹は関係が薄い。

 それに、貴族たちの兄弟間も関係が薄く感じていた。

 晩餐会などで出会う兄弟も皆、敵同士みたいな反応だった。


 「当り前だろ。親がいないんだ。俺と妹は、二人だけの家族。大切なんだ」

 「そうか。じゃあ、お前さ。また遊びに来ていいか」

 「は? だからお前みたいな奴は来たら危ない。それこそ人さらいに遭ったら、お前の親。身代金とか要求されるぞ」

 「わかった。また来るわ」

 「お。おい。話を聞け。話を」


 そこから、数日後。

 泥だらけの姿のジュードがレックスの前に現れた。


 「どうよ。これで、ここにいてもいいだろ」

 「ふっ。馬鹿かお前!」

 「え? なんで、いいんだろ。この格好ならさ」

 「まあな・・・いいんじゃないのか。馬鹿だな。お前」


 レックスとジュードはすぐに打ち解けた。

 真っ直ぐなジュードが眩しい。

 レックスはそう感じていた。


 それからレックスの妹ともジュードはすぐに仲良くなった。

 根っから明るく、誰にでも分け隔てなく、そして真っ直ぐな言葉だけを投げかける。

 だからジュードは、幼い頃から人と仲良くなりやすい人間だった。


 「ミーニャ。お前。その腕輪最近着けているな・・・おいそれってさ。結構高級じゃねえのか。中央の部分の奴も綺麗な石じゃないか。高そうだ。それ」


 ジュードが彼女の右腕にある腕輪を指差した。


 「うん。これ、お母さんの形見・・・他は全部なくなっちゃった。家も焼かれてないから・・・」

 「そうか。大切なんだな。それ」

 「うん」

 「残ってて良かったな。大事にしろよ」

 「うん。そうする」


 ジュードは悲しい事を言及せずに、嬉しい事を褒めた。

 だから優しい男だと、レックスはこの時に思ったのだ。


 この時はまだミーニャは元気だった。

 しかし、ここから五年後。

 

 ジュードがいつものように孤児院近くの公園に行くと、レックスがいなかった。

 いつもならいる時間にいないので、探しに出かけると、孤児院の外で呆然とするレックスがいた。


 「おい。レックスどうした」

 「・・・ジュードか・・・ああ、妹が・・・」


 こんな悲しい顔をするなんて。

 泣きそうな顔をするレックスをジュードは初めて見た。

 

 「どうした。落ち着けよ。ミーニャになんかあったのか」

 「病・・・倒れた・・・原因不明だってさ。わ、訳が分からない。どうしたらいいんだ。俺は・・・ミーニャは・・どうすれば助かる・・・」

 「なに!? ミーニャが病だと!?」


 レックスの苦難は、15歳から始まっている。

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