第338話 アルストラ戦役 二人の大将軍
「ハハハハ」
自慢げな高笑いが本陣に響く。
「ジュー兄。何を笑っているのですか。いい加減にしてください!」
「いやいやいや。これを笑わずにいられるか。天才だぜ。俺の親友!! やっぱすげえぞ。尊敬した!」
豪快に褒めるジュードは、満面の笑みで言っていた。
「そうですね。私もそう思いますよ」
副将のレベッカが答える。
「だよな。姫も思うか」
「はい。それに私もこの戦術が好きですね。相手と正面で戦うための戦術です」
真っ向勝負で、相手の急所を抉る。
レベッカも強大な敵に満足していた。
「姫。俺と気が合うな」
「ええ。そうですね」
ジュードがレベッカの肩を抱いて笑っていると、レベッカも嫌がらずに笑顔でいた。
この人たち、なぜ仲が良くなっているんだ。
他国同士で、姫と皇子なのに、まるで親友みたいだと、皆が思っていた。
「姫。君の力の使い方を間違えてスマンわ。さっきの俺の至らなかった部分だ。本当にスマン。ここからは頑張るぜ。君を無駄にしない!」
ジュードは、こういう時に正直に話してくれる。
だから、レベッカは、同年代よりもやや歳上だが、ジュードとは群を抜いて付き合いやすいと思っていた。
「いえ。ジュード皇子。お気になさらずに」
ジュードを尊敬しているので、素直に言葉が出て来る。
「いやいや、もったいねえことをした。俺があの時の判断を正確にしていたらな・・・君みたいな強い人を腐らせなかった。だから悪い! ここは君を大事にするからさ。俺に頑張らせてくれ」
「そんな事は気にしないでください。一緒に戦うのみです」
「ありがとう。これが終わったら飲もうぜ。俺は君が気に入ったからさ」
「ええ。そうしましょう」
息の合う二人は素晴らしい相棒になっていた。
「兄上。ナンパですか。それは」
クラリスが冷静に意見を述べた。
「ナンパ? どこが???」
ジュードは天然である。
「お酒飲みませんか・・・って、女性に前触れもなく言ったら、それはナンパでしょう。そういうものだと、私はメイドたちから聞いてます」
「ええ。マジかよ。知らなかった。悪い。姫。俺にそんな気はなくてだな」
ジュードは本当にその気がなかった。
だから、普通に謝るのである。
「ええ、わかっていますよ。ふふ」
レベッカは面白い人だなと口元を右手で隠して笑った。
「本当だよ。俺は普通に飲みたいだけでな。ナンパだなんて、軽々しい事はしないよ。こいつみたいにさ」
ジュードは、センシーノの事を指差した。
「あの・・・俺と比較しないでもらえますか。ジュー兄。なんだかそれも、ナンパの手口みたいです。俺をダシに使ってるみたいです」
「マジかよ。げっ。もういいや、言い訳するのもだめだ。ここは俺が悪かったにしよう! スマン。レベッカ姫」
「は、はい」
豪快な人だ。
レベッカはまだ笑っていた。
クラリスが仕切り直す。
「さあ、ここからどうするか。決めましょうよ。レオナ姉さん。どうしましょうか」
クラリスは隣にいるレオナに聞いた。
「はい。私がレックス大将軍ならば、戦うしかないと考える。それも、この平原で!」
レオナの判断は野戦勝負。
それ以外ないと思っていた。
「馬鹿な。レオナ姉さん。それは無理が」
「いいえ。こちらとしては、アルストラを守れない。都市に籠っているだけじゃ、負け続けます。ここを封鎖されると、川を利用できない事が確定して、帝都を脅すことが出来ずになります・・・それに・・」
「ん?」
「ここで相手を倒しておかないと、こちらに来てくれた敵20万の兵も、帝都で籠城に入られたら勝ち目がありません。帝都にはまだ兵があります。なので、出来る限り野戦で減らさねばなりません」
戦争はまだ次もある。
ここで終わりじゃないから、レオナは野戦勝負をしないといけないと考えた。
「つまり、姉さん・・・ここがピンチだけど、チャンスであると」
「そうです。ここで、倒さねば。ロビンを倒せません」
最終決戦の地の様な場所。
それが、アルストラ平原だった。
「全滅にすることが出来るのはこの地のみ。もし、相手を減らせずに、帝都を攻撃すると判断したら・・・向こうの莫大な人数に対して特攻となります。兵数がない私たちが、敵を倒すにはどうしてもこの地での勝利が必須です」
しかし難しい。
平原での戦いで、レックス大将軍に勝つ。
至難の業だった。
「俺がやるか・・・レックスに勝つ」
ジュードが右拳を左手の中に突き合わせた。
「兄上。勝てますか」
「ああ。勝つしかねえ。親友にな」
「わかりました。兄上に任せます。私はアルストラにいましょう。クラリスとギャロルと共にです」
「わかった。レオナは後方だ! 頼むぜ」
「はい」
こうして戦いは、二人の戦いになる。
◇
アーリア歴7年11月2日
アルストラ平原の西にて。レックス将軍率いる帝国軍が布陣。
アルストラ平原の東にて。ジュード将軍率いる革命軍が布陣。
「レックス!」
「ジュードか・・・そこにいたんですね・・・やはり」
親友の声の違いに気付くジュードは、それでもいつものように話しかけた。
「負けねえ。それで伝わるだろ」
「当然」
「ああ。やっぱな」
お前が親友だって事がよく分かる。
ジュードはレックスと友達で良かったと思った。
「私も負けられん」
「当然だな」
「勝負だ。ジュード」
「おうよ。レックス。気の済むまでいこうか。殴り合うぜ」
アルストラ平原の戦い第一戦が開幕となった。
◇
指示の先手は、レックス。
「軍を全体的に押し上げる。それでジュードは止められるはずです。それ以外はない」
単純な男のシンプルな攻撃。
でもそれが強烈である事をよく知っている。
長い付き合いの親友なのだから。
後手はジュード。
「いくぜ。野郎ども。前進全力の正面攻撃だ。圧力でいく」
結局はレックスの言う通りに動く。
けど、それを知ってジュードも動いている。
だって、レックスならば自分を分かってくれるからだ。
親友だからこそ、受け止めてくれると。
だから、右翼にとっておきを組み込んでいる。
「ぶつかってから、右上がりで攻めるぞ。もうすぐだ」
◇
銃と剣の時代が重なるルヴァン大陸。
銃撃と剣戟が入り乱れる戦場で、帝国軍の左翼に異変が起きた。
「なんだ!? まさか・・・」
レックスだからすぐに気づく。
「レベッカ姫!? そこにいらっしゃるのか」
戦場の女神。
彼女のことをそう呼んでいたのが親であるアーリア王。
最初はただの親馬鹿かと思ったものだが。
それは大きな間違いだった。
むしろアーリア王の評価は、過小評価じゃないのか。
勝利の女神のような言い方じゃなくて、戦神そのものだ。
動きが異常。直線も曲線も、手も足も。全てが異次元である。
自分よりも強き戦士を見た事が無かったレックスにとって、傲慢になるなとお告げをもらったような気がしたのが、レベッカとの出会いだった。
彼女との出会いのおかげでまた一つ成長したと思っていた。
「くっ。銃だ。銃撃部隊をあそこに増やそう。彼女と正面で戦ってはいけない。彼女に近接で触れるな。殺されるぞ!」
外から攻撃を加えよ。
触れたら最後、命が無いと思え。
それほどの武力なのだ。
◇
「くっ。銃撃が増えた・・・私狙いか」
銃声がやけに多い気がする。
レベッカは、異常な進軍を止めざるを得なかった。
「オランジュウォーカー頼みになるか。気に食わんが仕方ない」
赤い専用の籠手を上手く使って、銃撃を防ぐ。
成長した彼女の目には銃弾が止まって見えるらしい。
だから、化け物だった。
普通は軌道を読めずに死ぬだけなのに、彼女は攻撃位置を予測して籠手を出すことも出来るし、刀で銃弾を斬る事も出来る。
「ダンの方が楽になるはずだが・・・どうだろうか。左翼・・・」
ダンは革命軍左翼を担当していた。
◇
「押せない。強いな。これがレックス将軍の部隊か。ここはさすがに団長がいないと厳しい。または、リティ様。ランディさん。ルカさん。誰かがいないとな・・・苦しいな」
ダンは他の団長と連携できれば押せる。
でも今は仲間がいないから無理だった。
目の前の敵の防御陣が硬いのだ。
「破れない・・・素晴らしい人だな。もしかしたら、戦術面が、フュン様にも。ネアル様にも匹敵するのか」
ここまでの戦術の上手さから言って、二人の英雄に近い人物ではないか。
ダンは戦いながらそう思った。
◇
ここからは二人の想いが重なる。
親友同士やりたい事を理解していた。
「くそ。さすがだぜ。レックス。でもいくぜ」
ジュードが、中央軍を押し上げて前進した。
「ふっ。やはり、姫だけじゃない。彼女の力だけを頼りにしないんだな。お前は」
昔に戻ったような口調のレックスは、親友の意図を理解して、自分の中央軍も押し上げていった。
「「勝負だ!」」
初戦から大激突。
両軍大将も前に出て行く決戦が、初日であった。
アルストラ平原の戦い第一戦は、互角の殴り合いで終了した。
両軍ともに、一万を減らす大激戦であった。
第二戦以降も、激戦は続く。




