表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
人質から始まった凡庸で優しい王子の英雄譚  作者: 咲良喜玖
最終章 大将軍戦アルストラ戦役

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

662/741

第337話 アルストラ戦役 シャロン川攻防戦

 この戦い全体の行方を左右する出陣が、レックスの出撃だ。

 でも、本人としては、不本意だろう。

 彼は、妹を人質に取られたことで、大親友との戦いをする羽目になっていたからだ。

 

 帝国軍は20万。

 ロビンも現地入りする。

 が少々遅れていく事が決まっている。

 戦いの現場の一つ手前の都市で待機して、レックスが勝つのを悠々と見守るつもりだった。

 彼を完全支配下に置くために、妹をロビンの軍営の中に入れこんで、病弱なのにここまで連れてきている。

 

 勝てねば、この場で殺す。

 脅しの材料としていたのだ。


 レックスとしては、この難しい設定の戦場で、戦うのがありえないと思っている。

 天候の悪い決戦場。

 しかも、川を挟んで進軍していかねばならないのが辛い。

 橋の上にいける人数も制限が掛かるからだ。

 一度で、大体五千人くらいが渡れることになるだろう。

 両軍が端の上にいれば、一万が限度であるからだ。


 そんな状況下で、勝つ戦略を練らなくてはいけなかった。

 レックスは負ける事が怖いのではない。

 妹を失うのが怖いのだ。


 アルストラの西が、シャロン川。

 スティブールから進軍すると、このシャロン川を越えて、アルストラにいかねばならない。

 帝都からだと、ちょうど南西からの進軍になるので、方向的には北東に向かっていくのが最速だ。

 だが、このルートは取れない。

 単純すぎて、必ず対応をされるに決まっている。

 

 現に、シャロン川を挟んだ向こうにも軍が様子を見に来ていた。

 攻めて来ることを予測している。

 レオナの頭の良さを実感した。


 

 

 ◇


 レックスは次の展開を考えた。

 川の向こうに行く方法は、二つ。

 一つはシャロン川の上流にある橋を利用して、向こうに渡る事。

 これが簡単で最速だが、そこにセンシーノがいる事を昼に確認したので、使えない。

 橋の人数制限もある。


 ではもう一つとなるわけだが、それがシャロン川を形成するリク山を迂回する事だ。

 これが、遠回りになるが、大軍を動かすのに一番良い。

 しかし、これもレオナならば、こちらの行動を読んでいると、レックスが考えた。

 

 レックスは、自分たちが八方ふさがりの状態にあると思っていた。


 敵の元にいかねば、妹が殺され、勝率の悪い戦場に行かないといけない。

 でもそれでも勝たねば妹が殺され、どうあがいても戦って勝つ以外の道がない。


 だから、レックスはここで強引な手段を選択した。

 彼は橋を選択。


 その戦いが、シャロン川攻防戦である。



 ◇


 アーリア歴7年11月1日。

 シャロン川の上流。

 橋を挟んで大軍が睨みを利かせる。

 両軍が動きを止めていた理由は、橋に乗った瞬間に、人数制限の壁との戦いになるからだ。

 だから、レオナの方の革命軍は、橋の出口で待機していた。

 なぜなら、彼らは攻める必要がない。

 帝国軍の方が攻めてくるのが目に見えているからだ。


 本来、レオナの方が攻めに転じないといけない。

 なのに、ここで攻めに転じているのはロビン側だ。

 レオナの存在が許せず、癪に障るという観点から攻撃に出ていた。

 それと、帝都に水攻めをされたら困るという曖昧な理由だ。

 彼女は、そんな事はしないはずだと、レックスが懸命に訴えても、無意味だった。

 ロビンという男は、クロ以外の意見を聞いた試しがない。

 レックスは、他の将軍や大臣たちとの意見交換の場面を見た事がなかった。


 

 ここで攻めに行くのはレックスの軍。

 橋に乗れるギリギリの人数で進軍を開始。

 巨大な橋の上に、大体1万弱くらいの兵が出撃した。

 でも、相手は10万だ。この差は激しい。

 しかし、レックスはいかねばならないのだ。


 ◇


 視野が取りにくい。

 本日も雨だったから視界が悪くて大変だが、しかしこれはまだマシな方。

 雨季の季節であるこの時期では、雨が降った後の霧が非常に厳しい。

 普段であれば霧か。

 くらいの軽い受け止めでいいが、戦争をするとなると、厄介だ。

 だから、まだ雨の内だと、戦争がかろうじて出来ると思った方が良い。


 「慎重だ。慎重に行け」


 レックスの無線連絡で、先鋒隊は盾を構えて進んでいく。

 雨の視界では、狙いにくいし、手も滑りやすい。

 センシーノ軍の銃撃はうまく当たらずであった。

 ここは環境を上手く利用したレックスが一枚上手だった。


 「まだだ。まだ中盤で良い」


 進軍速度がやや遅い。 


 「ゆっくりでいい。時間が掛かるはず」


 レックスは、川下を見て、何かに期待していた。


 ◇


 戦いに入る前から、レックスの作戦を、レオナやジュードたちは考えていた。

 彼の考える事は恐らく自分が囮になる事。

 本体がリク山を迂回してこちらに回ってくるはず。

 だからこちらは、ジュードに5万の兵を預けて、アルストラの北に防衛陣を引いていた。

 大きく移動してからの、こちらへの急襲攻撃をするのだろうと思っていたのだ。

 

 「俺の所を攻めるよりも、ジュー兄の所を攻めればいいんじゃないのか。ここは上手くいかないはずだぞ。レックス大将軍・・・」

 

 センシーノの疑問に答えるかのように。


 「緊急です」


 主要人物たちの元に無線が来た。

 レオナの声である。


 「船です。船が来ています。連絡が来ました。マサムネさんの部下からの連絡です。センシーノ。あなたの所に強襲攻撃が来ます。耐える事が出来ますか」

 「え!? 俺の所だって・・・」


 センシーノは、確認をしようとして顔を上げる。

 敵が目の前の橋じゃなく、下流域から来るので、南を見た。


 「敵が来る? 雨で分からないな」

 

 雨のせいで敵を視認できない。

 晴れていてくれたのなら、遠くまで見えるが、今は何も見えず。

 本当に来るのかも確信できなかった。


 「音か。音で判断するしかないか」


 橋での銃撃戦の音を消して、雨音も消して、音を感じる。

 センシーノの五感は研ぎ澄まされていた。


 「これは……小型船?」


 まさかの強襲攻撃が南側から来る。

 センシーノの判断は早かった。

 

 「姉上。無理ですね。前線維持からの後退に入っても良いですか。時間を稼ぎます」

 「わかりました。ジュード兄上の退却時間が一時間分欲しい。退却速度を計算しても、それくらいが必須です」 

 「わかりました。やってみます。徐々に後方に下がりながらで戦います」

 「はい。お願いします」


 レオナの判断も早かった。

 とにかく今は、15万の兵を無駄にしてはいけない。

 この数を維持して初めて戦えるのだ。


 ◇


 センシーノの戦況は苦しいものとは言えない。

 なぜなら、船から来た兵士が、1万弱。橋から来る兵が1万。

 これだとほぼ2万なので、五倍差がある。

 でも、厳しい状況なのは挟撃状態だからだ。

 こちらは一兵も失いたくない。


 それに対してレックスの指揮は、兵を失ってもいいから陣を奪いたいという戦い方だった。

 良き立地を手に入れて、相手を押し込んでいく戦略展開だった。


 「強い。これがレックス大将軍か。まったく、ジュー兄も迷惑な親友を得た者ですな」

 「ハハハ。その通りだ。あっぱれだ」


 ジュードの声が聞こえる。

 無線同士のやり取りで、話が進んでいく。


 「どうですか。戻れそうですか」

 「全速力で戻ってる。こっちにも一応兵がいたみたいでな。牽制だけど厄介だわ」

 「なに。ジュー兄の所にも」

 「ああ。さすがだ。レックス。俺たちの考えを越えて、行動を起こしてきやがって。こっちも囮。自分も囮。に見せかけた全方面からの攻撃だわ。これはな」

 「・・・んんん。まずは兵を維持しましょう。下がりますよ」

 「ああ。わかってる。なんとかしてみる」


 ここにいる革命軍の面子は、レックス・バーナードの戦略を超える事が出来なかった。

 考えられる戦術を封じていたつもりだったが、ここで抑えられずで、苦境に立たされることとなった。


 ジュードが急ぎ逃げて、センシーノが時間を稼ぐ。

 しかし、センシーノの方は、レックスの圧力が強まって、かなりの苦戦状態に陥った。

 それは橋から、次々と人が渡って来るからだった。

 一万が、こちら側に到達すると、また一万が橋を渡る。

 そうなれば徐々に数の違いは縮まり、むしろ相手方の方が数が多いので、全部に渡られてしまうと不利となる。


 同数になりそうな時にもう一度連絡をした。


 「どうですか。ジュー兄」

 「ああ。セン。すまんわ。なんとか戻れる。逃げてくれ」

 「わかりました。逃げます」


 脱兎のごとく。

 センシーノは戦場から離脱。

 都市アルストラの西のアルストラ平原に陣を構えた。

 雨が降り続ける中で、今後の戦いは続く。


 覇者戦争の中のアルストラ戦役。

 それは大将軍レックスと、大将軍ジュードの親友同士が戦った。

 帝国の歴史史上初の大将軍決戦である。


 その初戦のシャロン川攻防戦は、オスロ帝国軍のレックスの勝利であった。


 大将軍の中の大将軍。

 不死鳥レックス・バーナードは、皇帝の子よりも強かったのである。

 オスロ帝国の皇帝ジャックスが手放しで褒める大将軍。

 『帝国最強』の異名を持つ男がレックスである。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ